著者
亀井 克之
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2008, no.602, pp.602_69-602_88, 2008-09-30 (Released:2010-10-15)
参考文献数
6

フランス保険市場では,1960年代に直販相互保険会社(MSI)がリスク細分型自動車保険を開発して以来,さまざまなマーケティング上のイノベーションが導入されてきた。既存サービスとの差異化に基づくイノベーションはやがて業界標準となり,結果として市場における顧客の利便性を大きく向上してきた。これを「マーケティング・イノベーションの市場貢献モデル」と呼ぶ。2006年から2007年のフランス保険企業の動きからも引き続き同様の傾向が確認された。一方,フランス版の内部統制規範に準拠して,フランス保険企業はリスクマネジメント体制を構築している。英米独とは異なる独自性を発揮するフランス保険企業の動きは,我が国に示唆を与えうる。
著者
竹内 正子
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.651, pp.651_81-651_110, 2020-12-31 (Released:2021-09-04)
参考文献数
7

ドイツ保険監督法は,生命保険と損害保険の兼営を禁止している。しかしドイツの保険会社は,損害保険と生命保険を統合させた経営や販売の体制を組んでいる。本稿では,ドイツの保険会社が現実に,どのような体制で運営されているのかを,大手保険グループの年次報告書などの公開情報を基に掘り下げ,日本の保険業界の参考になる部分はないかを検討していく。同時に,その前提となっている保険市場や規制,保険のルーツについて,監督当局やドイツ保険協会などの資料を基に確認する。
著者
羽原 敬二
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2010, no.610, pp.610_75-610_92, 2010

現在,新型インフルエンザ対策は,国際機関,国,地方自治体,企業,医療機関,個人などによって各々計画・準備されている。その目的は,(1)パンデミック発生の予防・阻止,遅延,(2)健康被害の抑止と最小限化,(3)社会活動・社会機能の維持,(4)パンデミック終息後の被害からの早期回復,である。新型インフルエンザウイルスの脅威と実態を正しく認識し,適切な対策をいかに有効に実施するかが課題となる。感染症が海外で発生・流行した場合,国内への侵入を阻止する水際対策には盲点があり,検疫をいかに強化しても,それだけで国内発生を完全に阻止することはできない。パンデミック時には,不要不急な業務は極力休止し,重要な業務に絞って,感染予防対策を徹底した上で事業を継続することが必要となる。地球的規模での国家危機管理の認識に立って,国際的な協働・協力態勢に基づき,状況に応じた柔軟な感染症対策をより戦略的に実行する方策について考察した。
著者
饗庭 靖之
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2018, no.641, pp.641_117-641_142, 2018

社会保険料の強制徴収の法的根拠について,最高裁は,国民の生活保障という社会保障の目的に沿って保険原理が修正され,「保険料は,被保険者が保険給付を受け得ることに対する反対給付として徴収される」ことにあるとする。年金の賦課方式は,下の世代が自分の年金給付のために保険料の負担をしないときは,強制徴収の根拠が喪われる。年金制度が老後に必要な生活費を賄うことを目的としていることから,年金二階部分は所得比例の給付に代えて,年金給付額は一律とすべきであり,一律給付としても給付反対給付の関係を満たす。AIJ事件で,多数の厚生年金基金が詐欺被害にあったのは,厚生年金基金は,ガバナンスが弱く,金融知識が不十分な体制で資産運用を行っていたためと考えられ,独立した小規模な年金を設ける制度は適当でなく,3階部分の企業年金を民間の年金保険に代替させていくことを検討していくべきである。
著者
深見 泰孝
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2010, no.610, pp.610_17-610_36, 2010-09-30 (Released:2013-04-17)
参考文献数
34

わが国では,明治20年代後半から30年代にかけて,世界の保険業史上でも珍しい,宗教教団が関与した生命保険会社が設立された。しかし,そのほとんどは明治期に破綻や解散,合併によって,その歴史に幕を閉じている。これらの中には,教団が設立や経営に関与したものと,僧侶個人が関与した会社がある。本稿では,このうち前者の破綻理由に,教団が関係しているが故の破綻要因があったのではないかと仮説を立て,日宗生命を中心に六条生命,真宗信徒生命と比較し分析した。その結果,経営者の教団内での地位の高さが,彼らの規律づけを困難にし,一般の事業会社とは異なり,出資比率の多寡だけでなく,宗教的な地位や教団内での地位が発言力に影響していたことも破綻の一因であると結論づけた。
著者
植村 信保
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2018, no.643, pp.643_139-643_154, 2018-12-31 (Released:2020-03-26)
参考文献数
5

かつての保険行政は生命保険会社の健全性確保に際し,純保険料式責任準備金の積み立てと株式含み益に大きく依存し,銀行と同様の切り口で保険会社の監督に当たった結果,ロックイン方式の弱点を見過ごした。このことが後の生保危機を増幅してしまったと考えられる。リスクベースの新たな健全性指標として導入されたソルベンシー・マージン比率も生保危機の局面では十分機能しなかった。その後の健全性規制の動向を確認すると,ソルベンシー・マージン比率の見直しを段階的に進める方針を打ち出したものの,中期的に進めるとした経済価値ベースのソルベンシー規制の導入は未だ目途が立っていない。他方で自己規律の活用という新たな健全性確保の枠組みが台頭し,本来は自らの企業価値向上のために取り組む ERMを,監督当局が健全性規制の一環として活用するようになった。ただし,自己規律の活用には利点だけではなく,限界があることも見えてきた。
著者
山下 典孝
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2012, no.618, pp.618_1-618_15, 2012-09-30 (Released:2014-05-08)
参考文献数
6

本稿は,酒気帯び免責条項の適用を巡り異なった解釈をとった大阪地判平成21年5月18日判時2085号152頁と東京地判平成23年3月16日自保ジャーナル1851号110頁,金判1377号49頁とを素材として,酒気帯び免責条項に関する法的問題を検討するものである。酒気帯び免責条項を置き,飲酒運転を抑止するために,一律に免責を認めることは合理的根拠を持ち得ることである。様々な方向から,飲酒運転を撲滅することの一環として,酒気帯び免責条項が置かれているとする考え方も十分に妥当性を有するものと考え,私見の立場は,酒気帯び免責条項については,制限的解釈をすべきではないと考える。
著者
植村 信保
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2007, no.598, pp.598_35-598_52, 2007

本研究では1997年から2001年に経営破綻した中堅生保について,各種の資料に加え,当時の経営者など関係者への大規模なインタビューを行うことで,各社が破綻に至った要因を格付けアナリストの視点から考察した。さらに,同時期の韓国生保の破綻事例についても調査を行い,日本との比較を試みた。一連の生保破綻については,バブル崩壊などの外的要因に求める見方が一般的だ。しかし,調査の結果,破綻は必ずしも外的要因だけで発生したのではなく,内的要因が重要な役割を果たした可能性が浮き彫りになった。いくつかの内的要因が破綻リスクを高め,その後,経営環境にストレスが生じた局面で各社の経営が悪化。さらに,いくつかの内的要因が危機認識の遅れや不適切な対応をもたらし,最終的に各社が破綻に至ったことが伺える。
著者
明田 裕
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2013, no.620, pp.620_117-620_129, 2013-03-31 (Released:2014-09-17)
参考文献数
2

巨大災害による保険金支払自体が生保会社のソルベンシーに与える影響はさほど大きくないが,巨大災害は同時に生保の保有資産に大きな影響を与える。日本経済が大きな打撃を受けることから,トリプル安(株安,円安,債券安)を想定するのが自然だが,今回の東日本大震災後に円高が進んだように,すべてが生保にとってマイナス方向に動く可能性もある。巨大災害が発生した場合,生保各社には,何にもまして,早く間違いなく保険金を支払うことが求められ,そのためには,「マイナンバー」を利用できるようになることが有効である。加えて,(1)生保の災害関係特約と損保の傷害保険の免責条項等の相違,(2)被保険者と受取人の同時死亡の場合の新受取人についての各社の取扱の相違,(3)「震災関連死」認定と生保の災害死亡判定の相違の3点について,極力統一し被災者に分かりやすいものとすることも検討する余地がある。
著者
谷内 陽一
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.650, pp.650_1-650_22, 2020-09-30 (Released:2021-04-02)
参考文献数
23

わが国の企業年金は,年金に代えて一時金(選択一時金)を受給できるのが大きな特色だが,受給者の多くが一時金での受給を選択しているため,給付実態が制度趣旨に沿っていないと指摘されている。本稿では,わが国の企業年金において年金受給が選好されない理由について,終身年金パズル(annuity puzzle)における代表的な仮説に基づき分析した。この結果,予備的動機が一時金選択にプラスに作用していることを確認した。それ以外の仮説については,今後の社会経済情勢の変化により,一時金選択への影響がプラスからマイナスに変化する可能性が高い。併せて,終身年金パズル以外の要因(有期(確定)年金の過小評価,給付利率の低下等)が一時金選択にプラスに作用している可能性を指摘する。最後に,一時金受給が主体となっているわが国の私的年金の給付実態を踏まえつつ,公私の年金制度で老後所得を一定程度確保するための方策として,公的年金も私的年金も終身で対応する「完投型」から,就労延長・私的年金・公的年金の三者による「継投型(WPP)」への転換を提唱する。
著者
山本 哲生
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2006, no.595, pp.595_21-595_39, 2006-12-31 (Released:2011-10-15)
参考文献数
50

保険契約者等の故意によって生じた損害について保険者を免責するという故意免責規定に関して,故意の意義,故意の対象が論じられている。特に故意の対象の問題については,様々な議論がなされているが,基本的な対立点の源は故意免責において保険契約者等の主観的態様における悪性をいかに位置づけるかにあるものと思われる。本稿では,故意免責は主観的態様における悪性に対する否定的評価に基づくものではなく,保険者の保険引受上の問題であるとの見地から,これらの問題についての解釈論を検討する。
著者
上野 雄史
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2017, no.638, pp.638_107-638_124, 2017-09-30 (Released:2018-05-22)
参考文献数
10
被引用文献数
2

本稿では,2017年5月に公表されたIFRS17「保険契約」適用後の保険会社のディスクロージャーのあり方について論じる。IFRS17は保険負債に関する詳細な情報が提供される枠組みを提示し,投資家の意思決定に有用な情報を提供することが期待されている。一方で,IFRS17は,割引率の変動に関する損益計上などに選択肢が与えられ,かつ多くの測定要素において具体的な手法が示されていない。このため,IFRS17に基づく情報が投資家の意思決定に有用であるかどうかは未知数であろう。近年では,形式的な会計情報以外の重要性が高まっており,会計処理の複雑化や妥協的な基準設定は情報の有用性を喪失させることになる。一方で,保険会社(保険者)の法的責任に基づいて開示された情報は,利害関係者にファンダメンタル(基礎的な情報)を提供することに繋がり,保険契約者を含む利害関係者間の利害調整を円滑化することが期待される。
著者
亀井 克之
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2011, no.615, pp.615_147-615_166, 2011-12-31 (Released:2013-03-22)
参考文献数
10

フランス保険市場では,これまでMSI(直販相互保険会社)やバンカシュランスの台頭によって,マーケティング戦略上のイノヴェーション導入を契機とした激しい競争を通じて,商品とサービスが洗練されてきた。イノヴェーションは,既存の商品やサービスに欠けている点を補い,顧客満足を実現するが,それを支えるのがブランド戦略・コミュニケーション戦略であった。近年,フランス保険市場では,インターネット技術の進展に支えられて,クルティエ・グロシスト(卸売ブローカー),保険比較サイト,さらにはPay as you drive型保険のインターネット専売事業などが存在感を増した。独自性を発揮するフランス保険企業のマーケティング戦略の動向を分析した結果,(1)顧客のさまざまな購買パターンに対応するために複数のチャネルを充実し併存させる「マルチチャネル」「マルチアクセス」化の流れの中でのインターネットの重要性,(2)ブランド戦略・コミュニケーション戦略の展開によって,依然としてフランスの保険企業は,強固なブランド・アイデンティティを構築していること,(3)顧客に対する利便性向上を主眼としたマーケティング戦略の有用性が再確認できた。
著者
植村 信保
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2007, no.598, pp.598_35-598_52, 2007-09-30 (Released:2011-09-28)
参考文献数
8

本研究では1997年から2001年に経営破綻した中堅生保について,各種の資料に加え,当時の経営者など関係者への大規模なインタビューを行うことで,各社が破綻に至った要因を格付けアナリストの視点から考察した。さらに,同時期の韓国生保の破綻事例についても調査を行い,日本との比較を試みた。一連の生保破綻については,バブル崩壊などの外的要因に求める見方が一般的だ。しかし,調査の結果,破綻は必ずしも外的要因だけで発生したのではなく,内的要因が重要な役割を果たした可能性が浮き彫りになった。いくつかの内的要因が破綻リスクを高め,その後,経営環境にストレスが生じた局面で各社の経営が悪化。さらに,いくつかの内的要因が危機認識の遅れや不適切な対応をもたらし,最終的に各社が破綻に至ったことが伺える。
著者
家森 信善
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2015, no.630, pp.630_139-630_159, 2015-09-30 (Released:2016-07-27)
参考文献数
6

わが国の学校現場における金融・保険教育の実情について知るために,社会科や家庭科など金融教育を実際に担当している教員を対象に様々な調査がこれまで行われてきた。しかし,金融教育の重要性を学校現場全体に浸透させるには,他の教科を担当する教員の意識や能力を高めることも必要である。こうした問題意識から,筆者は,2015年3月に,全国の中学及び高校の教員に対する意識調査を実施した。その結果によると,金融関連科目以外の担当教員の間では,金融経済教育に対する認知度はまだ十分に高くなかった。金融・保険教育を学校現場全体に浸透させるためには,教員になる大学生に対して,金融や保険に関心を持ってもらえるような機会を提供することや,保険が教えられている主要科目である高校・家庭科の先生方は必ずしも金融知識が豊富ではないだけに,研修機会や補助教材の提供などの支援策の充実が望まれることなどが,明らかになった。
著者
應本 昌樹
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2018, no.640, pp.640_125-639_154, 2018-03-31 (Released:2018-11-21)
参考文献数
30

権利保護保険を巡る規範的問題の一つとして,弁護士選任の問題を採り上げ,わが国における現在の保険実務の適否につき,欧州,とりわけドイツを念頭に置いた比較法的アプローチを採り入れつつ,保険契約法,とりわけ保険約款の不当条項規制,さらには弁護士法,とりわけ弁護士法72条本文後段による有償斡旋の禁止の枠組みにおいて検討した。その結果,被保険者による弁護士選択に対し保険者の影響力を及ぼし得る約款条項は,文言どおりの効力を認めることはできず,限定的に解釈されなければならないことや,権利保護保険の引受保険会社による弁護士紹介実務は,査定担当者などが協力関係にある特定の弁護士などを被保険者に紹介しているものである限り,弁護士法72条本文後段の定める報酬目的に業として行う法律事務の取扱いの周旋にあたり,同法に抵触する可能性があることなどが確認された。
著者
酒井 泰弘
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2012, no.619, pp.619_261-619_280, 2012-12-31 (Released:2014-05-08)
参考文献数
47

「天災は忘れた頃に来る」(寺田寅彦の警告)。人間は災害を何度でも忘れ,愚行を何回でも繰り返す。従来において原発のリスク分析はおおむね低調であったが,フランク・ナイト(1885-1972)のように,「想定外」の事象を積極的に研究する学者も存在した。福島原発事故に関して言えば,ナイトなら地震大国・日本に多数の原発を建設することは,本来計量化できない「不確実性」であると思量したはずである。ところが現実には,「安全神話」に寄りかかり,それを計量可能な「リスク」であると即断してしまったようだ。思うに,今や「新しい総合リスク学」を樹立することが喫緊の課題である。そのためには第一に,社会心理学の成果を取り入れて,「怖いリスク」や「未知のリスク」など,リスクの「質」の違いを考慮しなければならない。第二に,経済物理学の展開に依拠して,(平均や分散などの統計数量が無意味なものとなる)「べき分布」の活用を図らなければならない。
著者
渡橋 健
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2012, no.619, pp.619_43-619_62, 2012

東日本大震災においては,津波等を原因とする多数の行方不明者が発生した。迅速・適切な被災者支援が急務となり,生命保険においては,行方不明者を被保険者とする死亡保険について,家族の心情への配慮を大前提としたうえで,迅速かつ適切に保険金を支払うことが課題となった。民法の危難失踪宣告や戸籍法の認定死亡等,行方不明と死亡に係る既存の法制度等に基づく対応は困難となっていたが,結局,東日本大震災の行方不明者については,戸籍法86条3項の死亡届の手続が簡易化されるに至り,これに基づいて,多くの保険金支払が実行されている。
著者
山本 信一
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2007, no.597, pp.597_103-597_118, 2007-06-30 (Released:2011-09-28)
参考文献数
9

日本は,少子高齢化が続く過程で,東京一極集中を強化しつつあり,地震・核テロ・鳥インフルエンザ等のリスクは,RMS社の調査等によれば,予想外に高まっているように思われる。日本の生保業界においては,核テロ等の可能性を考えた場合,昼間にビル単位でどれだけの付保がされているかを試算しておく必要もあろう。東京都の昼間人口調査(2000年)では,皇居も含めた千代田区の昼間人口密度は7万3千人/km2となっており,皇居を除いた人口密度は一層高く,丸の内再開発で,極度の集中化が一層進みつつある。これへの対応策としては,(1) ビル単位で,再保険への出再を検討する。(2) 約款の保険金支払免責条項に,テロ・地震を戦争その他の変乱と同様に,保険金削減の対象である旨,明記する。などが考えられるが,それ以外も含めた集積リスクの検討が必要であろう。
著者
肥塚 肇雄
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2018, no.641, pp.641_67-641_89, 2018-06-30 (Released:2019-03-28)
参考文献数
52
被引用文献数
1

近時国交省の自動運転の責任に係る研究会報告書が公表された。そこでは,保険会社等が事故被害者に人身損害に関する賠償金等の支払後,メーカー等に求償するスキームの構築が案として示され,記録媒体装置の装備等の事故原因究明体制の整備が検討課題とされている。しかし現行実務を前提にすれば,ハッキング等による事故では「運行供用者」該当性の段階でも争いが生じるおそれがあり,事故原因究明体制を敷いて民事責任を確定する方策は被害者救済が後退するおそれがある。そこで,メーカー等の製造物責任等免責制度を創設し,事故原因究明と民事責任の確定とを切り分けることによって求償関係の複雑さを回避する民間ベースの自動運転車事故に特化した新しい保険商品(自動運転傷害保険)が開発されれば,被害者(自損事故被害者=保有者も含まれる)救済は維持されるのではないかと考える。