著者
塚谷 裕一 池田 博
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.127-135, 2005-08-31 (Released:2017-03-25)
被引用文献数
1

植物分類学における分子系統学的解析が疑いなく重要となっている現在,すべての分類群を対象とした網羅的なDNAの収集がなされれば,系統分類学者にとって非常に有用なものになると考えられる.従来,遠隔地での植物DNAサンプルの採集法は,生の組織をシリカゲルで乾燥して持ち帰るというものであった.しかし,そのためには十分な量のシリカゲルを用意せねばならず,大量のサンプルを処理することは困難であった.最近,私たちはフィールド調査で植物のDNAを収集する際に, Whatman社製のFTA[○!R]カードを採用している. FTAカードにより収集されたDNAはPCR解析に向いており, DNA収集が容易で,しかもコンパクトであるという利点がある.ヒマラヤ植物研究会ではFTAカードを用いた植物DNAの収集を進めており,将来的にはこのDNAリソースを世界の研究者に提供することを目指している.具体的事例として,ロシアで行った収集について紹介する.
著者
倉園 知広 角野 康郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.141-151, 2012-08-28 (Released:2017-03-25)
参考文献数
22

モウコガマが日本にも分布することは既に指摘されていたが,その実態については情報がなかった.本稿では,今まで「モウコガマ」とされてきた兵庫県産植物の再検討を通じて,日本産モウコガマについて考察した.兵庫県小野市産「モウコガマ」1集団とヒメガマ16集団,最近,秋田県から報告されたモウコガマ1集団について5形質を比較した結果,兵庫県産「モウコガマ」はヒメガマの変異に含まれた.一方,秋田県産モウコガマは葉身の長さと幅で「モウコガマ」とヒメガマから明瞭に識別された.モウコガマとヒメガマの識別形質とされる雌花の小苞片の有無を確認した結果,秋田県産モウコガマの雌花に小苞片は無く,「モウコガマ」とヒメガマには小苞片があった.花粉サイズを比較した結果,秋田県産モウコガマの花粉は「モウコガマ」とヒメガマの花粉よりも有意に大きく,「モウコガマ」とヒメガマの花粉サイズには差がなかった.これらの観察結果より,兵庫県産「モウコガマ」はヒメガマの変異形であり,秋田県産モウコガマは真のモウコガマであると結論した.近年,モウコガマを外来植物とする文献があるが,本種は在来種であり,絶滅危惧種として検討すべきことを指摘した.
著者
藤井 伸二
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.103-107, 2013-08-26 (Released:2017-03-25)

Cuscuta chinensis is often confused with the related naturalized species as C. pentagona. The specimens kept in the herbaria were examined and the distribution of C. chinensis in Japan was shown.
著者
平原 友紀 矢野 興一 星野 卓二
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.23-30, 2007-02-20 (Released:2017-03-25)
参考文献数
21

ビャッコイ(Isolepis crassiuscula Hook, f.)は日本とインドネシア,パプアニューギニア,オーストラリア,ニュージーランドに分布することが報告されている.日本では福島県白河市のみに生育しており,絶滅危惧種(IB)に指定されている.本研究では日本産ビャッコイの染色体と葉緑体遺伝子の解析を行った.その結果,ビャッコイの染色体数は2n=96であり,今までに報告されたビャッコイ属の他種よりも高次の染色体数を持つことが明らかになった.また,ビャッコイ属10種について葉緑体rbcL遺伝子とtrnL intron傾城の比較を行なった結果,日本産ビャッコイは同属9種よりも,オーストラリア産ビャッコイと相同性が高いことが明らかになった.
著者
直海 俊一郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.25-40, 2006-02-20 (Released:2017-03-25)
参考文献数
35

村上・芹沢の「種の数だけ種のあり方がある」という研究プログラムは,独創的でかつ自然理解に役に立つ優れものである,と高く評価する.この研究プログラムは種の概念論的構造の明示化に役に立つ.また,種の実際の状況の研究・探索に啓発をもたらすばかりでなく,生物多様性の研究にとって意義深いものである.本稿では, Templeton (1989)の「凝集的種概念」を簡単に紹介し,その問題点([1]概念的構造における誤謬,および[2]生物学的実体と分類学的種の混同)を指摘した.村上・芹沢の研究プログラムの概念的枠組みを積極的に頑健なものにするために,彼らの理論内部にある2つの論理的誤謬([1]「種のあり方」と「種の認識]の混同,および, [2]種のあり方は,彼らの主張とは逆に,彼らの理論の文脈のなかにおいて特定されている点)をそのつぎに指摘した.最後に,「種の数だけ種のあり方(実際?)がある」という学問的枠組みの方向性にも簡単に触れた.
著者
福原 達人
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.35-46, 2011-02-21 (Released:2017-03-25)
参考文献数
55
著者
角野 康郎 福岡 豪
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.203-206, 2016 (Released:2017-01-16)

Najas guadalupensis (Sprengel) Magnus subsp. floridana (R. R. Haynes et W. A. Wentz) R. R. Haynes et C. B. Hellquist (Hydrocharitaceae) was recorded from a brackish pond in Ehime Prefecture, Shikoku, as the second locality of the species in Japan. A specimens of the species was proved to have been collected in 1923 from the same area. The origin of the species in Japan was discussed.

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著者
柏谷 博之
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.91-95, 2016 (Released:2017-01-16)
著者
高倉 耕一 西田 佐知子 西田 隆義
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.151-162, 2010
参考文献数
26
被引用文献数
2

Reproductive interference (RI) refers to negative interspecific interactions in which the reproductive activities of one species directly reduce the reproductive success of another species. RI can be observed in various events in plant reproductive processes, such as stigma clogging and pollen allelopathy. The most conspicuous feature of RI is its positive frequency dependence and its self-reinforcing impact via positive feedback: when two species exert RI on one another, the more abundant species exerts a more intense adverse effect on the reproductive success of the other and then becomes more abundant. Therefore, two species that exert RI on each other essentially cannot co-exist, even if the interfering effect is subtle. Increasing numbers of studies have verified the effects of RI in plants, but the phenomenon is still misunderstood. Here, we present a theoretical outline of RI, discriminating it from hybridization or pollen competition, and address its pivotal importance in the relationships between invasive plants and native relatives, the exclusive distributions of closely related species, and character displacement between these species.
著者
藤井 紀行
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.5-14, 2008-02-20 (Released:2017-03-25)
参考文献数
34
被引用文献数
1

日本列島における高山帯は,本州中部以北の山岳に点々と隔離分布している.一般にこの高山帯に生育の中心を持つ植物のことを「高山植物」と呼んでいる.高山帯がハイマツ帯と呼ばれることもあるように,この植生帯ではハイマツ(マツ科)がマット状に広がったり,色とりどりのお花畑が広がったり,美しく雄大な景観を見ることができる.日本に分布する各高山植物の種レベルの分布を見ると,その多くが日本より北の高緯度地域にその分布の中心を持っており,日本の本州中部地域がその南限になっていることが多い.こうした分布パターンから,一般的に高山植物の起源は北方地域にあり,過去の寒冷な時期に北から日本列島へ侵入し,現在はそれらが遺存的に分布しているものと考えられている.しかしそうした仮説の検証を含め,いつ頃どのようにして侵入してきたのか,その分布変遷過程について具体的なことはまったく分かっていないのが現状である.そこで筆者はこれまで,こうした植物地理学的な課題を解明するために,主に葉緑体DNAをマーカーとした系統地理学的解析を進めてきた(Fujii et al. 1995, 1996, 1997, 1999, 2001, Fujii 2003, Senni et al. 2005,Fujii and Senni 2006).本稿ではそれらの解析を通して見えできた本州中部山岳の系統地理学的な重要性について言及する.過去に書いた総説的な和文諭文も参照していただきたい(藤井1997, 2000, 2001, 2002,植田・藤井2000).
著者
坪田 博美
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.15-27, 2008-02-20 (Released:2017-03-25)
参考文献数
81
被引用文献数
1

この総説は,日本植物分類学会奨励賞の受賞講演「コケ植物の分子系統学的研究の現状」(2007年3月16日,新潟大学)についてまとめたものである.受賞講演では,おもに私自身の研究の歴史と,予報的な内容ではあるが,現在のコケ植物の大きなレベルでの系統関係について触れた.また本稿では,時間の関係で講演の際に取り上げることのできなかったコケ植物の分子系統学的研究について,私がこれまで関わってきた研究を中心に,その概略を述べるとともに,コケ植物の分子系統学的研究の現状を紹介する.とくに,分子系統学的研究によって明らかになったことと,未だ明らかになっていないことを含めて紹介したい.