著者
尾間 由佳子 原田 昌彦
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.262-268, 2012-04-01 (Released:2013-04-01)
参考文献数
28

細胞が環境に対応して生命活動を維持するため,また個体が発生分化するためには,DNAに刻まれた遺伝情報を時間的・空間的に適切に選択して発現させることや,ゲノムを安定に維持することが必須である.このようなゲノム機能に中心的な役割を果たすエピジェネティック制御に,細胞核の構造形成や,核構造とクロマチンとの相互作用が関与することが明らかになってきた.細胞核の構造に基づいたエピジェネティック制御機構の理解は,遺伝子発現やDNA修復の制御機構の解明にとどまらず,発生・老化などの高次生命機能や,がんなどの疾病や再生医療においても新規かつ重要な知見をもたらすことが期待される.
著者
林 謙一郎 野崎 浩
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.12, pp.876-882, 2012-12-01 (Released:2013-12-01)
参考文献数
29

植物ホルモンの一種であるオーキシンはSCFTIR1ユビキチンリガーゼ複合体に結合し,Aux/IAAリプレッサーのユビキチン化およびプロテアソームによる分解を介してさまざまな遺伝子の発現を調節する.このときオーキシンは,Aux/IAAリプレッサーとTIR1受容体の結合を促進する「分子接着剤」として機能する.本稿では,オーキシン受容とシグナル伝達の分子機構について概説し,新しいオーキシン受容体拮抗剤を紹介する.
著者
井上 徹志
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.326-332, 2001-05-25 (Released:2009-05-25)
参考文献数
19
被引用文献数
1
著者
岸野 重信 小川 順
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.11, pp.738-744, 2013-11-01 (Released:2014-11-01)
参考文献数
19
被引用文献数
1

乳酸菌は,プロバイオティクスとして様々な機能が報告されている馴染みの深い腸内細菌の一種である.しかし,腸内細菌に特異な様々な代謝についてはあまり研究がなされていない.筆者らは,乳酸菌の脂肪酸代謝を活用した共役脂肪酸生産について詳細に解析していく過程で,乳酸菌の不飽和脂肪酸飽和化代謝の解明に至った.本代謝は,複数の酵素が関与する複雑な代謝であり,特異な構造を有する希少脂肪酸を中間体としていることを明らかにした.また,これらの中間体の効率的な生産法を検討し,新たな希少脂肪酸ライブラリーの構築に成功した.
著者
栗田 大輔 武藤 昱 姫野 俵太
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.7, pp.465-471, 2008-07-01 (Released:2011-04-14)
参考文献数
41

タンパク質合成の場であるリボソームは,3種類のRNAと50種類以上のタンパク質からなる分子量250万もの巨大な複合体であることから,構造解析は困難と考えられてきたが,今世紀に入り相次いで高分解能の結晶構造が報告された.最近では,tRNAをはじめ各種翻訳因子とリボソームとの複合体の構造も報告されるようになり,その中から“タンパク質がtRNAを分子擬態する”という新しい概念が生まれた.ここでは,トランス・トランスレーションと呼ばれる変則的な翻訳システムとその主役であるtmRNAに焦点を当て,これまでにない新しい“分子擬態”について紹介する.
著者
喜田 聡
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.81-89, 2013-02-01 (Released:2014-02-01)
参考文献数
41

記憶のメカニズムと表現されると,最先端の研究とイメージされるかもしれない.しかし,記憶研究の歴史は古い.長期記憶を形成するための「固定化」の概念が提唱されてから,すでに100年以上が経過している.すなわち,セントラルドグマが登場するはるか昔から研究が進められていたわけである.そのため,記憶研究の用語は,もともと心理学領域のものであり,生物学の言葉で説明しきれず,いまだ抽象的にしか表現できないものも数多い.したがって,記憶メカニズムの生物学的研究では,文学的に描写された現象をいかに現代生物学の言葉に置き換えるかが課題である.この挑戦は手強いものの,魅力的でもある.この観点に立って,本稿をご覧いただきたい.