著者
菊岡 由夏 篠原 亜紀
出版者
国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.13, pp.71-85, 2017

本稿では、ノンネイティブ日本語教師を対象とした教師研修における教授法科目のコースデザインの概要とその成果について報告する。海外日本語教師長期研修では、教授法科目のシラバスを改訂し、2015年度の研修において新たなシラバスによる教授法コースを実施した。新たなシラバスは、JF 日本語教育スタンダードの考えに基づいて、「課題遂行を重視した教え方」を中心に作成した。コースの実施にあたり、研修参加者が、これまでの日本語の教え方と研修で学ぶ新たな教え方とのギャップに混乱することがないよう、「内省」の機会を取り入れることとした。コース終了時のアンケートの結果から、「課題遂行を重視した教え方」が研修参加者に肯定的に捉えられたこと、また、「課題遂行を重視した教え方」を学ぶことを通して研修参加者が自身の教え方をふり返り、自身の教え方の変化の必要性を気づくに至ったことがわかった。
著者
プーリク イリーナ ミロノワ リュドミラ 山口 紀子 Vladimirovna PURIK Irina Olegovna MIRONOVA Lyudmila Noriko YAMAGUCHI
出版者
国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.9, pp.135-150, 2013

本稿では、ロシア・ノボシビルスク市立「シベリア・北海道文化センター」(以下SHC)における初級日本語コースのシラバス開発及びコースブック『どうぞよろしくI』開発について報告する。近年のロシアにおける日本語学習の目的はよりコミュニケーション重視の方向へと変化しており、対応する教材の開発が急がれている。SHCではコース受講生のニーズ調査を行い、ロシアで初めて日本語コースに言語活動能力を育てるCan-doシラバスを取り入れた。1年間のコース実施を経てシラバスの改善を行い、2011年にコースブックの開発に着手。ガニェの9教授事象モデルを参照し、言語運用能力・自律学習能力が身につく構成に配慮した。また各課に日本事情をふんだんに取り入れ、日本語を学ぶと同時に日本についても学べる内容となっている。教材開発と並行してロシア各地で教師セミナー・模擬授業を行い、その反応と評価を反映し、現在出版に向けて準備を進めている。
著者
松本 剛次/ハシブアン アドレアナ Adriana Hashibuan
出版者
独立行政法人国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.2, pp.1-14, 2006-03-15

インドネシア語には、日本語の「受身」と同じものだと理解されることが多い「di-構文」というものがある。田中(1991)は両者の違いを整理し、「di-構文を自然な日本語に移すときの規則」を提示しているが、本調査はその「規則」が明示的に指導されていない状況で、インドネシア人日本語学習者はどの程度それを習得しているのか、また、規則を明示的に指導することには効果があるか、という点について予備調査的に調べたものである。その結果、学習者は単純に「インドネシア語のdi-構文」=「日本語の受身構文」というわけではない、ということは自然に分かってくるものの、「規則」の習得までがスムーズに進むというものではない、ということ、また、明示的に規則を指導した場合には、その場での効果はあるが定着はむずかしく、一方、暗示的な指導が繰り返される場合には少しずつではあるが、徐々に習得が進む可能性がある、ということが見えてきた。
著者
佐藤 五郎
出版者
国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.13, pp.23-38, 2017

筆者は、"日本語パートナーズ"(以下、NP)教務支援担当として、2014年度より継続的に、NP の学校訪問や、E メール等を通じたコンサルティングなどを行ってきた。日本語教師ではないNP に対し、どのような支援をすべきか試行錯誤を続ける中で、「任期中一度もコンタクトのないNP とのつながりをいかに確保するか」「NP のニーズに合った情報を適切なタイミングでいかに提供するか」という二つの課題が明らかになった。そこで、2016年度は4期に対して、筆者の個人ブログによる情報提供を開始した。ブログへのアクセス数、NP からのコメント、ブログ利用状況に関するアンケート調査の結果から、当ブログの有用性が認められ、そこで紹介した活動が授業でも実践されていることがわかった。同時に、「NP のニーズに合った情報の提供」「カウンターパート(タイ人日本語教師)との対話を促す手立て」という課題も浮き彫りになった。
著者
千馬 智子 中島 豊 Tomoko SEMBA Yutaka NAKAJIMA
出版者
国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.12, pp.73-88, 2016

国際交流基金シドニー日本文化センターでは、従来教師研修や学習者奨励活動などの事業を行ってきた。しかし近年は全豪日本語教育シンポジウムの実施などを契機としアドボカシーの重要性にも目を向けており、そのパイロット事業として、タスマニア州においてアドボカシー活動を試みた。本稿では、従来当センターが個別に行ってきた教師研修、学習者奨励活動などの事業をアドボカシーの観点から複合型事業として発展統合した、タスマニア州におけるNihongo Roadshowの概要を報告する。また、参加した教師から得られたフィードバックの分析を通じて、本企画がもたらした効果について考察する。さらに事業全体から得られた示唆や今回の試みによって見えてきた課題について述べる。
著者
来嶋 洋美 村田 春文
出版者
独立行政法人国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.4, pp.103-114, 2008-03-17
被引用文献数
1

英国はヨーロッパの中でも、中等教育の学習者の割合がひじょうに高い国である。各校ではGCSEと呼ばれる中等教育修了資格試験を目標に日本語教育を行っている。しかし、GCSE日本語コースの教科書はなく、カリキュラムや教材は学校や教師によって異なり、多様である。そのため、国際交流基金ロンドン日本文化センターにとっては当地の日本語教育の典型が把握しにくく、支援内容の策定に苦慮してきた。このような現状を改善するために、ロンドン日本文化センターでは日本語リソース「力-CHIKARA-」開発プロジェクトを立ち上げた。GCSEの試験シラバスをカリキュラム・教材作成用のシラバスに再構成し、それをもとに300ファイル以上からなる教材群を開発、ウェブサイト上で公開、無料配信している。また、このリソースと関連させた内容での教師研修を企画しているところである。
著者
谷口 美穗
出版者
独立行政法人国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.12, pp.7-23, 2016-03

本研究では、予備教育課程で学ぶマレーシア人日本語学習者100名に、漢字学習ストラテジーに関する質問紙調査を入学後4ヶ月と1年の2回実施し、学習期間が長くなることによるストラテジーの使用状況の変化と成績上位者の使用するストラテジーの特徴について分析した。その結果、1)学習期間が長くなるにつれて、漢字の知識を整理するためのストラテジーの使用頻度が高くなるが、その傾向が成績上位群において強いこと、2)学習期間が長くなるにつれて、「覚えるまで何度も書く」というストラテジーの使用頻度が下がり、その他の記憶ストラテジーや補償ストラテジーの使用頻度が上がること、3)成績上位群は「できるだけ漢字を使用する」というストラテジーを継続的に高頻度で使用していることが明らかになった。また、授業で扱われる漢字を整理するための知識が、学習者の漢字学習ストラテジーの選択に影響を与えている可能性が示唆された。
著者
松本 剛次
出版者
独立行政法人国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.1, pp.103-113, 2005-03-15

本報告は国際交流基金派遣日本語教育専門家である筆者のインドネシア・スマトラ地区における日本語教育ネットワーク支援活動の基本的な考え方とその実践例について報告したものである。筆者はネウストプニー(1997: 181)による「ネットワーク」の考え方に倣い日本語教育ネットワーク支援活動を「日本語教育という活動に参加する者の配置と係わり合いをより活性化するための支援」と捉えて実践している。現在のところその支援の舞台は既に存在している各種の「教師会」であるが、筆者が観察した結果、これらの教師会には「形骸化」、「固定化」、「階層化」が見られ、ネットワークがネットワークであるためには不可欠である参加者の「配置と関わり合い」が停滞している、という問題が確認できた。そこで筆者は春原(1992)による「ネットワーキング・ストラテジー」という考え方を参考に、いくつかの「戦略」を立て、その改善に取り組んでいる。
著者
高崎 三千代
出版者
独立行政法人国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.10, pp.23-38, 2014-03

本研究は、メキシコの初級日本語学習者が上達させたいと考える言語能力・技能と、彼らの言語観・言語学習観(以下、ビリーフ)について、その特徴を考察したものである。上達させたい言語能力では、会話が最も高いことは想定範囲内だったが、その強さの程度や会話以外の言語・技能への希望は地域や学校種別によって異なった。ビリーフ調査で見いだされた特徴は、教室内外を問わず日本語での会話や交流を楽しみにしていること、聴解や話す活動は好むが、語彙や読解等の文字を行動対象とする学習指向は低いこと等である。加えて、言語学習について楽観的で教師の直接指導に対して期待が高いことも窺えた。近年メキシコで需要が高まっている通訳、翻訳、日本語教師など日本語での就業可能な能力に達するには効果的・効率的なコースへの改定が必要だが、教師が学習者の希望を把握し特性を生かす教授活動を行うことが並んで重要であると考えられる。
著者
登里 民子/亀井 元子 亀井 元子
出版者
独立行政法人国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.1, pp.161-174, 2005-03-15

本稿では、平成2年に日本語国際センターで始まった司書日本語研修の13年間の歩みを振り返ると同時に、平成15年度に新規開講した専門プログラムについて紹介する。15年度には図書館関連の専門科目として、「図書館語彙」「図書館会話」「図書館読解」「日本事情概論」の4科目を開設し、それぞれの基礎的なテキストを開発した。図書館関連科目の拡充を図った結果、専門プログラムの総時間数は30時間(平成14年度)から87時間(15年度)へ約3倍に増加し、研修参加者の時間的負担は増したが、研修終了時のアンケート調査では、専門日本語科目に対する評価が高まったことが確認された。これは、(1)科目の細分化と体系化(2)テキスト作成による内容の充実(3)前期と後期のワークロード是正、の結果であると考えられる。 今後の課題としては、(1)専門科目の評価指標の確立 (2)専門聴解科目の開発 (3)図書館事情のテキスト作成、の3点を挙げたい。
著者
亀井 元子/浜口 美由紀 浜口 美由紀
出版者
独立行政法人国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.3, pp.169-182, 2007-03-15

国際交流基金関西国際センター司書日本語研修では、司書として職務上必要とされる日本語能力の向上だけでなく、日本の図書館事情の理解も研修目標の一つとしている。平成15年度以降、専門日本語科目として「図書館語彙」「図書館会話」「図書館聴解」などが開講されたことにより、それまで図書館実習や見学に必要な専門日本語教育を行ってきた「図書館事情」が日本の図書館事情を理解する上で必要となる知識の習得へ重点を移すことになった。その結果、専門知識を有する司書との協働による授業の実施や教材作成の割合が増加し、専門知識の習得に成果が認められるようになった。本稿では、平成17年度に実施した司書と日本語教育専門員の協働による「図書館事情」の実践報告を行うとともに、図書館実習受入機関や研修参加者に対して行ったアンケート調査をもとに、「図書館事情」の今後の方策について述べる。