著者
下川 和夫
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.171-188, 1980-03-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
59
被引用文献数
10 9

只見川上流域に分布するアバランシュ・シュートの形態を記載し,その分布を規定する諸要因を考察した.アバランシュ・シュートは全層雪崩の面的な侵食作用によって形成され,浅いU字型の横断面形と,直線ないし僅かに凹型の縦断面形を呈する.調査地域におけるその規模は,横幅10~80m,走路長150~700m,比高100~500mの範囲内である.傾斜は35~50°であり,雪崩の発生しうる傾斜より傾斜の範囲が狭い.雪崩の発生要因をふまえて考察したアバランシュ・シュートの分布を規定する要因は,一面においては地質,他方では斜面傾斜である.つまり,新第三系や流紋岩地域で分布密度が高く,古生界や花闘岩地域で低い.一方,傾斜35°以上の斜面の分布頻度との対応関係が顕著である.しかし,アバランシュ・シュートの分布と積雪深,斜面長,斜面の標高などの雪崩の発生要因との相関はみられない.その方位分布についてみると,雪庇や吹き溜りが形成される冬の季節風の風下側で,やや発現頻度が高い.
著者
宮木 貞夫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.37, no.9, pp.507-520, 1964
被引用文献数
7

軍事経済を支柱として発展した日本の資本主義体制では,土地利用の面でも軍事優先の原則は貫ぬかれ,工場用地に適した土地が軍用地として民間から隔離されていた.<br> 第2次大戦が終り,広大な軍事施設が解放され,これらは工場などに利用されつつある.日本では旧軍用地は国有財産として,大戦後の経済発展に寄与するように転換が行なわれた.関東地方における旧軍用地は約1,100口座, 430km<sup>2</sup>で,現在農地に44%, 公共施設に30%, 米軍に14%, 防衛庁に8%, 工場には4%が利用されている.<br> 首都防衛のため東京を中心に20~60kmの範囲内に軍用飛行場は38個所あり,これに演習場を加え,広範囲にわたり平担な地は大規模な工場の用地として最適で, 1950年以降転用が著しい.農地に転用された旧軍用地も工場化の傾向にあり,現在農地の33%が工場適地に指定されている.
著者
滝波 章弘
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.9, pp.621-644, 2003-08-01
参考文献数
52
被引用文献数
1 2

本稿は,都市のホテルにおける雰囲気について,空間的な議論を試みたものである.従来の研究は雰囲気を商品や情感として実態的に扱ってきたが,本稿では雰囲気を空間的かつ社会的に構成されるものと考え,その意味を考察した.すなわち事例として,ホテル産業が大きな位置を占めるジュネーブ市街地の著名なホテルを取り上げ,雰囲気を提示することがホテルの当事者にとってどのような意味を持つかを,ホテル関係者のコメントを中心に,ホテルのパンフレット,ホテル編集の雑誌,ホテルの空間構造などを参照しながら分析した.その結果,ホテルにおける雰囲気は,単なる場所の状態ではなく,ホテル側の戦略に基づき,ホテルという場所を,フランス語圏地理学でいうような領域とする役割を持つものとして意識されていることが明らかになった.
著者
当麻 成志
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.31, no.8, pp.477-486, 1958-08-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

Maruyama-kyo was one of the biggest new religious groups which sprang up in Japan around 1880. The writer intends to explain how it grew strong in so short a time and what process it passed through in its growth and decline. I. The rapid development of the religion can be attributed to the facts: (1) There occurred a sudden revolutionary change in social economy; (2) and then the cultures of the districts, where Mt. Fuji is in sight, were intermingled with each other, and with it Maruyama-kyo made a wide-spread though it was limited to those areas. II. The community structures of those villages, where this religion took root, can be classified into three types in accordance with each social geographic situation of city-environs, plains and mountainous regions. III. As soon as peace came to society and social economy recovered its normal state, Maruyama-kyo ceased developing and began to be naturalized as was the case with the old religion-Buddhism. It was found that there were two types in its naturalizing process according to the courses along which Maruyama-kyo developed.
著者
榧根 勇
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.143-158, 1963-03-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
18

関東地方の区内観測所約170地点の値をもとにして作成したP1957年12月から1958年11月までの毎日の日最高および日最低気温分布図を比較検討した結果,平均分布図だけからでは知ることのできない特徴が判つたので,今回はすでに1961年に報告し却暖候期の日最高気温分布以外の場合について報告する.最低気温分布については冬の季節風吹走時・寒冷前線停滞時・春秋の快晴静穏時・夏の晴天時の4つの場合について,代表的な日の分布図の解析結果とともに各型の平均状態を図的に表現し,地形や水陸配置との関係を考察して該地域の気温分布の中気候的特徴を明らかにした. 寒候期の最高気温分布については,全般的に該地域が高温の場合に,東京湾沿岸に局地的低温が現われること,それが東京湾特有の海風(湾風)の影響であること,また,曇天で日中気温が上昇しない時は東京湾の影響は現われず,外洋沿岸に高温域が生じることなどを明らかにした.後者については平均状態の図を示し,最低気温分布と比較できるようにした。
著者
渡邊 光
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.1-15_1, 1929
被引用文献数
1
著者
渡邊 光 今泉 政吉
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.3, no.10, pp.951-966, 1927

以下二三の感想とでも云ふ可きものを記して此小篇を終ることにする。<br>一、火山分布圖を一見しても明な通り、在來稱せられて居た所謂火山脈又は火山帶中のあるものにはその存在の意義の極めて不明瞭のものがある。それは相當距離の距つた所の火山を結んで作つた火山脈又は帶なるものは、各人の主觀に依り、癖に依つて如何様にも引き得るものであるからである。故に地理的位置の接近して居て、しかも類似の性質を具有する火山を纒めた方が寧ろ要當と思はれる。<br>二、我國に於ける火山は、シュナイダー氏の分類に從へば多くコニーデ状であつて、トロイデは寄生的のものか又は小規模のものに過ぎない。標式的のアスピーテはなく、本分布圖中にアスピーテの記號を以て表しカものは比較的偏平な火山と云ふ程度のものである。ホマーテ、マール、ベロニーテは稀に見ることが出來るのみである。三、火山が地壘上に生ずる傾向があるか、又は陷没地に生ずる傾向があるかに就いては、未だ我國の地形調査が全般に亙つて行はれて居ないので不明瞭な點も多いが、陷没地内に噴出したものが大多數を占めて居るしとば事實である。<br>四、辻村助教授は日本の海岸地形の調査に於て、多くの火山地方はその海岸地帶が沈降の形式を具.へて居ることを認めちれた。例へば北海道は殆ど全島を通じて降起海岸であるが、蝦夷富士火山群附近に於ては室蘭、小樽附近の溺れ谷があり、其他知床半島、増毛附近も亦沈降性であると云ふ。又同様の之とは八甲田山麓の青森灣、伊豆半島、九州の火山地方等に就ても云ふことが出來るのである。期くの如ぐ、海岸附近の火山地方は一般に沈降區域と一致するのであるから、内陸に存在する火山地方も亦直接の證據こそ得られないが、沈降區域に屬するのではなからうかとの想像を抱かせるのである。<br>五、西南日本外帶及び東北日本の阿武隈、北上の地帶に全然火山を缺き、その内側にのみ多く之を認め得ることは決して偶然の結果とは思はれない。<br>六、地形的斷層網と火山噴出との間には明な對比關係は認められないが、斷層網の極度に發達せりと稱せらるる西南日本内帶には火山は少く、これらとて多くは小規模のトロイデであるのに對して、これの適度に發達して居る北海道、東北日本西部、九州地方には多くの火山が密集して噴出して居るのを見るのである。又斷層網發達の極めて惡い西南日本外帶、阿武隈、北上の地帶に火山を全く缺くことも何等かの意味がある様に思はれる。<br>七、我國に於て地形的に火山體と認められるものゝ多くが、第三紀最新層と稱せられる地層上に然も不整合的にのつて居るのを見るのであるが、第三紀層に被はれて居る様なものは絶えて之を見ないのである。荒船火山體の如き、地形上火山體として認められない迄に侵蝕、破壊の進んだものが尚第三紀最新層上にのる受とは既に佐川理學士の認められた所である。即ち換言すれば、我國に於ては地形的に火山體として認めらるゝものは、その火山體建設の最後の活動を修了したのは第三紀以後であると云ふことが出來る様である。而して第三紀時代の地形は、火山地形のみに就て云へば、既に侵蝕しつくきれて殘つて居ないのではなからうかとの疑を抱かせるのである。
著者
安藤 万寿男
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.31, no.9, pp.536-547, 1958

ここでいう近郊農業とは近接する都市の市場に農産物を出荷するうえに距離的に有利な交通地位を占め,地代高く,かつ狭い耕地を集約的に利用して営む農業をいう.この近郊農業の一部門としての果樹作を一般的果樹であるりんご,みかんにつき主として名古屋市近郊で検討した結果,次のことがいえる.<br> (1) 都市近郊の果樹作は遠郊のそれに比し輸送費の点で有利である.しかし,現在の輸送技術では包装荷造費の占める割合が高く都市近郊にとくに著しいので,都市近郊がこの包装荷造費の点で節約できるとその有利性は格段と高くなる.包装荷造の完全さの要請は果実の性質とともに市場機構と大きな関連がある.<br> (2) 出荷組織の上では出荷に利用しうるオート三輪の個人農家への普及利用が著しく,このことと市場に関する知識の普及と相まつて共同の団結がくずれた場合は個入出荷に傾き易い.しかし,中間に商人が介在することはほとんどない.<br> (3) 日本は全体として果樹作の規模が零細であるが,都市近郊でも例外ではなく,むしろ著しい.部落の農業組織や果樹の出荷形態において,専業と兼業との間に分化の傾向が認められ,専業は果樹の種類・品種・生産資材などでより集約的である.<br> (4) 生産資材の上で都市の下肥と果樹との関係は認められないが,塵埃は有機質肥料の供給源に乏しい近郊では遠郊に比し豊富かつ安価に入手しうる.他の生産資材の購入場所は名古屋市よりはむしろ背後に町村との関連が濃い.<br> (5) 労働力雇傭の上では都市の雇傭力と競合する点で不利ではあるが,背後の農村や遠方の農村から供給される.その賃金の地域差は全国的視野からみた僻遠の地に比較すれば格段の差があるが,愛知県内相互程度の範囲では大きくない.<br> (6) 都市の膨張につれて,都市発展の前線では地価が高騰し果樹園の増加は遮げられる.この宅地化の具体的な進行は土地の地目・肥沃・度所有権が関興するが都市化がより進行すれば園の潰廃も起る.<br> (7) みかん・りんごのような一般的かつ代表的な果樹作を例にとつてみても,大都市近郊には果樹作を中心とした特色ある近郊農業の経営形態が展開することが認められる.果樹作が一般に高度の集約度をもつ関係もあつて,都市近郊の果樹作の生産上の集約度はとくに高くないが,流通部門の集約度は高く,総じて流通部門にその特色をもつ.この経営形態が展開する地域は疏菜の場合よりは広く,現在の交通輸送技術の段階では名古屋の場合に名古屋市を中心として30~40粁の範囲をその地域とみたしうる.
著者
服部 信彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.223-240, 1965

南九州すなわち鹿児島県の大部分と宮崎県の南部にかけて,その上部層の名によって「シラス」台地とよばれる広い台地がある.この台地においては住民は水の不足によって悩まされて来た。それは多分「白砂」を意味し,火山灰砂層である「シラス」は非常に透水性が大きく,その表面に降った雨はたちまち台地の下層に滲透するからである.このため住民は水を得るのに深い井戸から水を汲むか,または谷壁の湧水を用いるほかはない.水を得ることは住民にとって非常な労苦であった.<br> しかし最近において革命ともいえる変化が生じた。それは水道が台地一帯につくられるようになったからである.このため住民は以前には想像できない程容易に水を得ることができるようになった.そのような短期間に水道ができた理由は第一にそれらが甚だ安くつくられるようになったからである.水道建設技術が急速に進歩したのである.第二は政府が財政支出によって経費の補助をしたからである.最後に市町村の尽力が大きい。<br> 「シラス」台地は南九州の重要な特色をなす。従ってそれと住民との関係は地理学の興味ある対象である.しかしわれわれが忘れてならないのは自然は決定的要因ではなく,ただ一つの要因たるにすぎぬということである.即ち技術的,経済的,政治的要因も重要である.筆者はこの事実,ひいては南九州の特色を研究した.