著者
住吉 啓伸 吉岡 賢二 三島 修治 廣木 次郎 竜 彰 黒田 俊介 岩塚 良太 植島 大輔 水上 暁 林 達哉 木村 茂樹 松村 昭彦
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.344-350, 2020-03-15 (Released:2021-04-23)
参考文献数
14

Paget-Schroetter症候群は特発性鎖骨下静脈血栓症および付随する静脈性胸郭出口症候群を特徴とした疾患である.当院で異なる治療方針を選択した2例のPaget-Schroetter症候群を経験した.2例ともに右鎖骨下静脈の血栓閉塞に伴う右上腕の浮腫および肺血栓塞栓症を認め,1例は患者の意思から直接経口抗凝固薬による保存加療を選択し,もう1例は右第一肋骨部分切除術,右鎖骨下静脈内血栓摘除術,右鎖骨下静脈形成術を施行した.両症例とも治療後経過は良好である.本疾患はワルファリンによる抗凝固療法では再発が多いことが報告されており,根治的な手術療法が第一選択と考えられるが,本保存加療例は抗凝固薬に直接経口抗凝固薬を用い,再発なく経過している.Paget-Schroetter症候群に対する直接経口抗凝固薬による保存加療に関する報告は乏しく,その有効性を今後検証してゆく必要があると考えられる.
著者
河田 正仁 岡田 敏男 清水 雅俊 高田 幸浩 下川 泰史 五十嵐 宣明 岡嶋 克則 宮武 博明 水谷 哲郎 中村 哲也
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.337-343, 1999-05-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
9

くも膜下出血や手術後などのストレス状態におかれると急性心筋梗塞類似の病態となり,冠動脈に器質的狭窄がなくても広範な左室壁運動障害を引き起こすことが知られている.症例は81歳の女性で,当初は右下肺野の陰影で入院した.次第に陰影が広がり,呼吸困難を呈した.第10病日に突然呼吸困難が増悪し,心電図上胸部誘導で高度のST上昇をきたし,ショック状態となった.挿管の上,緊急冠動脈造影を施行した.冠動脈の器質的狭窄はなかったが,左室造影上前壁,心尖部,下壁にわたり広範な無収縮を認め,心基部のみ正常収縮をしていた.患者はその2日後に肺炎陰影が両肺に広がり呼吸不全で死亡したが,血清の最大CKは296U/lであった.病理解剖における心筋組織には壊死,炎症細胞浸潤などを認めなかった.本症例は重症肺炎を契機にstunned myocardiumが疑われる病態が引き起こされ,原因として冠攣縮やカテコールアミン心筋障害などが推定された.まれではあるが,ストレスを伴った低酸素血症がstunned myocardium様の心機能低下の誘因となった重要な病態であると考えられ報告する.
著者
馬渡 耕史
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.1185-1192, 2021-11-15 (Released:2022-11-22)
参考文献数
14

これまで心房細動の急性期心拍数調節薬として,ジギタリス製剤,Caチャネル遮断薬,β遮断薬が使用されてきた.最新の不整脈ガイドライン(2020年改訂版)では,心機能低下例では第1選択にβ遮断薬,第2選択にジゴキシンと記載されている.この点についてこれまでのガイドラインを概括し実際の使用法を検討した. 2004年の不整脈薬物治療ガイドラインでは,心機能低下例にジゴキシンの使用が推奨されているが,2009年改訂版でも同様である.心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版)において,はじめて心不全例へのクラスⅠの扱いで,静脈内投与のβ遮断薬としてランジオロールが登場している. ランジオロールとジゴキシンを比較したJ-Land Studyの結果では,治療開始2時間以内の心拍数抑制効果はランジオロールが勝っているとされているが,この研究でのプロトコールのジゴキシン投与量が,通常の臨床の現場と比べて少ないと感じる. 2017年の急性・慢性心不全診療ガイドラインでは両者ともⅡaの扱いとなり,2020年の不整脈薬物治療ガイドラインでもそれを踏襲している.ただ本文中でも治療指針の図でもジゴキシンは追加使用となっているが,血行動態への影響や外来での使用も考えて,症例毎に病態と薬理作用を考慮し適切に使用することが重要と考える.
著者
圷 宏一
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.45, no.9, pp.1078-1084, 2014 (Released:2014-09-17)
参考文献数
34
著者
木村 彰方
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.438-449, 2018-04-15 (Released:2019-05-09)
参考文献数
10
著者
岡田 薫 草間 芳樹 小谷 英太郎 石井 健輔 宮地 秀樹 時田 祐吉 田寺 長 中込 明裕 新 博次
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.373-378, 2008-04-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
10

症例は66歳,女性.既往に胆石症あり.呼吸困難を主訴に当科を受診.低酸素血症(PaO2 61mmHg),血清Dダイマー高値(10.35μg/mL),心臓超音波検査で右心室の拡大,胸部造影CTにて両側肺動脈に血栓を認め,肺血栓塞栓症と診断.ウロキナーゼ240,000単位/日,ヘパリン12,000単位/日の持続静注を開始.翌日の肺動脈造影検査にて両側肺動脈に血栓を認め,血栓溶解療法,血栓破砕,吸引術を施行し,右下肢深部静脈血栓に対して一時的下大静脈フィルターを挿入した.ヘパリン持続静注により第12病日に血小板数が11.9×104/μLに減少,Dダイマーが124.4μg/mLまで上昇し,下大静脈造影検査でフィルター遠位部が血栓により完全閉塞していた.ウロキナーゼを増量しても改善せず,ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)に伴う血栓症を疑い,第18病日にヘパリンを中止したところ,血小板数31.9×104/μL,Dダイマー1.54μg/mLに改善し,フィルター内の血栓は消失した.抗ヘパリン第4因子複合体抗体が陽性であり,血栓症を伴ったHITと診断した.ヘパリンは循環器疾患の診療において広く使われているが,重大な合供症であるHITに関してはいまだ十分に周知されていない.ヘパリンの使用中には,血小板数の推移を観察し,HITが疑われた場合,直ちに適切な対応を行うことが必要である.
著者
鈴木 淳子
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.28, no.10, pp.820-821, 1996-10-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
6
著者
新谷 冨士雄 渡辺 真司 稲木 一元 田中 政
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.14, no.12, pp.1466-1472, 1982-12-25 (Released:2013-05-24)
参考文献数
26

心係数(心拍出量/体表面積)の男女差有無を検討するために,正常な男女349例の安静時心拍出量(二色式虚血法によるイヤピース法)を測定し,次の結論を得た.1)体表面積と心拍出量の関係は女では直線性,男では体表面積の大きい領域を除いて直線性で,両直線は平行し,女の方が約0.4l上方に位置した.2)体表面積とヘマトクリットの関係は体表面積と心拍出量の関係と類似であったが,女の方が男より3-4,%低い位置にあった.3)体表面積と毎分赤血球容積(心拍出量とヘマトクリットの積)の関係は直線性で,男女が完全に重複し,このことから同一体表面積当たりの酸素供給能は男女とも変わらないことが示唆された.以上により女の心係数はヘマトクリットが少ない分だけ男のそれより多いと結論された.
著者
伊東 春樹
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.252-259, 2007-03-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
32
被引用文献数
1
著者
工野 俊樹
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.52, no.10, pp.1118-1121, 2020-10-15 (Released:2021-10-25)
参考文献数
23
著者
百村 伸一
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.78-83, 2007-01-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
4

日本人のための急性心不全治療ガイドラインとしては,日本循環器学会が2000年に発表した急性重症心不全治療ガイドラインがある.それから5年以上経過するなかで,新しい臨床成績を反映させるべく全面的な改訂作業が進められ,「急性心不全ガイドライン」がまとめられた.新たなガイドラインは,重症心不全に限定せず全ての急性心不全を対象に,各種診断・治療法を臨床成績のエビデンスに基づきクラス分類して,科学的根拠を明示した.最も大きな特徴は,治療戦略のなかに長期予後を考慮し,心臓および他の重要臓器の保護の概念を位置付けたことである.ナトリウム利尿ペプチドに関しては,ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド(hANP:カルペリチド)の血管拡張作用以外の臓器保護作用,交感神経抑制作用などが評価され,より積極的な位置付けがなされている.本ガイドラインが臨床の場で貢献することを期待する.
著者
林 潤 吉村 幸浩 内田 徹郎 前川 慶之 貞弘 光章
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.45, no.12, pp.1531-1537, 2013 (Released:2014-12-27)
参考文献数
11

小児に対する塩酸ランジオロールの使用報告は散見されるが, その有効性や投与量についてはいまだ明確ではない. 今回われわれは, 小児の心臓手術周術期に発生した頻脈性不整脈に対し, 塩酸ランジオロールを使用し良好な結果を得た 3症例を経験した. 各症例の背景や手術内容, また頻脈発作の出現時期やその種類などはいずれも異なっていたが, 血圧低下や徐脈などの有害事象をきたすことなく, 塩酸ランジオロールの持続投与により有効に頻脈性不整脈を抑制した. これまでの小児に対する使用報告からも, 塩酸ランジオロールは成人同様, 小児においても周術期の頻脈性不整脈に有効であることが示唆された.
著者
岡本 都 越智 友梨 久保 亨 杉浦 健太 宮川 和也 馬場 裕一 野口 達哉 弘田 隆省 濵田 知幸 山崎 直仁 北岡 裕章
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.386-392, 2021-04-15 (Released:2022-04-18)
参考文献数
15

Eclipseとは天体現象である日蝕や月蝕の‘蝕’を意味する.近年,左室駆出率が保たれた患者に,明らかな誘因なく一過性にごく短時間生じる急性機能性僧帽弁逆流の報告がなされ,Eclipsed mitral regurgitation(MR)と称されている.症例は60歳代女性.突然の胸部不快感にて救急受診した.来院時,心電図にて広範な誘導でのST低下を認め,また高感度心筋トロポニンTが0.131 ng/mLと上昇していた.心エコー図では左室駆出率は保たれていたが,左室基部に限局した全周性の壁運動低下および新規の重症MRを認めた.冠動脈造影では有意狭窄病変は認めなかった.ニトログリセリン持続投与開始後,胸部症状は消失し,翌日には心電図変化,心エコー図での左室基部の壁運動異常およびMRともに消失していた.以後も胸部症状や心電図変化,MRの再燃なく経過し,2週間後の外来時には高感度心筋トロポニンTも正常値となっていた.本症例の病態として,たこつぼ症候群(Basal type)や冠攣縮性狭心症の可能性も考慮されるが,いずれも典型的とはいえず,その臨床像および経過はEclipsed MRの報告例と酷似していた.Eclipsed MRは稀な病態ではあるが,重症例や再発例の報告もあり,本疾患の存在を理解しておくことは重要と考え,ここに報告する.
著者
前濱 智子 林田 晃寛 久米 輝善 和田 希美 渡邉 望 根石 陽二 川元 隆弘 豊田 英嗣 大倉 宏之 吉田 清
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.40, no.Supplement3, pp.121-126, 2008-07-30 (Released:2013-05-24)
参考文献数
7

症例は61歳,男性.1997年から全身性強皮症と診断され,加療されていた.膠原病性肺高血圧症が急速に進行し,2006年から在宅酸素療法およびボセンタンを導入された.2007年6月,自宅で突然心肺停止となった.家人による心臓マッサージを受け,救急隊が装着した自動体外式除細動器(AED)にて心室細動が確認され,除細動2回目で心肺停止から約25分後に自己心拍の再開を認めた.来院時GCS:1-1-1で除脳姿勢を呈していたが,軽度低体温療法を行った結果,若干の記憶障害が残るものの,意識はほぼ清明となるまで回復した.原因検索の際の冠動脈造影検査にて虚血性心疾患は否定されたため,全身性強皮症の心病変による心室細動であったと診断し,植込み型除細動器を植え込み,約1カ月後に退院した.今回われわれは,強皮症による心筋障害が原因と思われる心室細動をきたし,AEDにて蘇生された貴重な症例を経験したので文献的考察を加え報告する.
著者
岡島 智志 竹内 省三 石川 宏靖 外畑 厳 岡田 了三
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.8, no.10, pp.1061-1066, 1976-10-01 (Released:2013-05-24)
参考文献数
30

心房解離は極めて稀とされる.我々は脳卒中発症後うっ血性心不全を来たし,死亡した64歳男子に.一過性心房解離を認めたので報告する.死亡14日前の心電図では,2種類の互いに独立した心房波がみられた.第1の心房波(P波)は頻度81/分一定PQ間隔(0 .22秒)でQRS波に先行,以前に記録した心電図の洞性P波形と類似し,洞起源と考えられた.第2の心房波(P波)は頻度100/分(P'-P'間隔0.58・0.61秒)で,その起源は左房褒上部と推測された.P'波を生じた刺激は心室へ伝導されず,また両心房調律間には相互干渉は認められなかった.このような所見より,この不整脈を心房解離と診断した.心臓病理所見では,Bachmann東およびcoronarysinus bundleに中等度ないし高度の線維化が認められた.これら心房間伝導路の線維性杜絶により,右房から左房への刺激伝導が杜絶したため,心房解離が生じたと考えられた.
著者
河村 剛史 柴田 仁太郎 和田 寿郎
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.16, no.10, pp.1001-1008, 1984-10-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
12

雑種成犬10頭を用いた左脚中隔枝群の後半分を含む左脚後枝群障害,次いで右脚本幹障害を作成し,心表面マッピング,ベクトル心電図にて検討を加えた.左脚後枝群障害にて左室心尖部から後面にかけて興奮伝播遅延がみられたが,同領域はコントロール時にすでに興奮伝播が遅延しており,QRSベクトルの終末部に軽度の遅延がみられる程度で,QRS軸の変化はなかった.右脚本幹プロックが加わると右室前面の最早期興奮部位は消失し,左室前面が最早期興奮部位となり,これを中心とした興奮伝播パターンとなった.最終興奮部位は右室房室間溝側心表面で,QRS軸は右上方に大きく偏位した.QRS軸の偏位には心臓全体の興奮伝播の方向性の変化が必要で,前提条件として障害領域が早期興奮部位である必要がある.イヌにおいて,左脚後枝群障害を加えても,もともと興奮伝播の遅れている左室後面がさらに遅れるだけで,QRS軸の変化はみられなかったと考えられる.