著者
永田 治樹
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.44, no.7, pp.352-361, 1994-07-01
参考文献数
40
被引用文献数
1

学術情報は急激に増大している。しかし大学図書館などの財政がそれに合わせて拡大するわけではないから,外部情報を入手するサービスの必要性が高まっている。他方,技術革新により情報システムは大きく進展しつつあり,最近雑誌目次情報データベース(TOC)や画像伝送システムの充実により,エレクトロニック・ドキュメント・デリバリーの展望も開けてきた。そこでILLを含むドキュメント・デリバリー・サービスの実態(用語の吟味や調査結果による把握,TOCの動向,及び大学図書館でのILL実績)を確認し,大学図書館における今後のエレクトロニック・ドキュメント・デリバリー・システムについて考えた。新たな情報ネットワーク環境において展開されるドキュメント・テリバリー・システムは,大学図書館にとって,情報の収集並びに提供の両面で不可欠な役割を果たすものとなるだろう。また,今や多様化する情報を迅速,簡便,かつ統合的に提供できるサービスが求められている。
著者
松井 くにお 難波 功 井形 伸之
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.9-13, 2000
参考文献数
13
被引用文献数
1

全文検索技術は,統制語によるキーワード付けを行う方式と比較して,全処理を自動化できることによる低コスト性,検索量の増加による再現率の向上,という特徴を持つ。全文検索を実現するアルゴリズムには,文字列検索,シグネチャファイル,転置ファイルなどがある。日本語の全文検索システムでは特徴素の取り方として,形態素解析(単語)とN-gram(文字)があり,それぞれ得失がある。転置ファイルを用いた全文検索技術では,ランキング検索が用いられることが多いが,これには通常tf-idf法(文書中の単語頻度×文書DB中での単語の重要度)により関連度が計算される。
著者
野村 紀匡
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.10, pp.485, 2020-10-01 (Released:2020-10-01)

今月号の特集は,「カスタマーハラスメントと情報」と題してお届けします。昨今,カスタマーハラスメントが社会問題化しつつあり,対応が急務となっています。2018年3月に厚生労働省が発表した「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」報告書は,顧客や取引先からの著しい迷惑行為について「カスタマーハラスメント」という用語を紹介しました。同報告書はパワーハラスメントとカスタマーハラスメントとでは対応策が異なるとしながらも,労働者の安全への配慮という観点からは類似性があり,事業主のみならず社会全体でカスタマーハラスメントに対応する機運の醸成が必要である,との意見を示しています。図書館など情報に関わる業界においても,利用者と接する場面でカスタマーハラスメントにあたる事案が起こり,無視できない問題となっています。本特集では,カスタマーハラスメントが発生する背景やその事例と対策を「情報」という切り口から紹介します。はじめに池内裕美氏(関西大学)に,カスタマーハラスメントとそれをめぐる諸問題について,心理学の知見や関連分野の先行研究を踏まえて概説いただきました。田代光輝氏(慶應義塾大学)には,インターネットの普及とカスタマーハラスメントとの関連という観点から,これまで発生した問題の構造を分析いただくとともに,悪意ある攻撃への対応方法を,事例を交えて説明いただきました。梅谷智弘氏(甲南大学)には,情報技術をいかしたカスタマーハラスメント対策の一例として,大学図書館における遠隔対応ロボットの事例を,その開発や運用実験の経緯も含めて紹介いただきました。加藤俊徳氏(株式会社脳の学校)には,脳科学の観点からカスタマーハラスメントを起こしやすいカスタマーの脳とその仕組みを解説いただきました。本特集が,カスタマーハラスメントについての理解を深め,その現状や今後の対応について考える契機となれば幸いです。(会誌編集担当委員:野村紀匡(主査),青野正太,大橋拓真,寺島久美子,南雲修司)
著者
梅谷 智弘
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.10, pp.499-504, 2020-10-01 (Released:2020-10-01)

情報技術を生かしたカスタマーハラスメント対策として,大学図書館遠隔対応ロボットを例にして紹介する。レファレンスカウンター,ヘルプデスクなど専門知識を有する図書館職員が対応する場面においては,利用者への対応が重要な課題となっている。ヘルプデスク対応が行える職員は専門性が高く,書架,書庫や事務所など,受付から離れて業務を遂行することが多くある。そのため,受付は無人になることもあり利用者からの観点では機会損失につながり利便性を損なう。本稿では,現在大学図書館で稼働しているアンドロイド・ロボットを用いた遠隔対応システムを紹介する。長期間の運用実験による評価を通して本システムの有用性,本システム導入にあたっての受容性について述べる。
著者
田代 光輝
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.10, pp.493-498, 2020-10-01 (Released:2020-10-01)

情報社会となり顧客の情報発信が容易となった。顧客の意見をあつめ商品開発やサービス改善につなげる企業が多くなる一方で,90年代後半の通称:東芝クレーマー事件を転機として,顧客と企業の関係が変化し,ネットは企業にとってリスクの1つとなっている。本稿では,デマの公式を利用して,関心の高さと曖昧さの観点から,過去のネットトラブルの構造を分析する。最近では新型コロナウイルス感染症に関連したトイレットペーパー不足のデマが蔓延したが,「不足はデマである」というニュースが社会全体の関心を高め,デマを余計に流布したという事例がある。また,悪意ある顧客の攻撃があった場合の対応方法などを紹介する。
著者
堀田 弥生
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.9, pp.452-457, 2020-09-01 (Released:2020-09-01)

災害において情報の入手は我が身を守ることに直結する。本稿では事前の備えが有効な洪水災害を中心に,有用な情報の入手や活用例について取り上げる。ハザードマップや,災害リスクを読み取ることができる地理院地図,今昔マップon the webなどを紹介し,水害リスクの高い土地の実例として東京東部を挙げ,災害リスク,広域ハザードマップ,積極的なリスク情報の公開,過去の大水害と認知度の低さなど,水害リスクと共生する自治体の姿を示す。また,令和元年東日本台風を例に防災情報の課題に言及し,事前の備えとして有益なタイムラインや防災教育サイトを紹介する。
著者
小豆川 裕子
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.9, pp.447-451, 2020-09-01 (Released:2020-09-01)

本稿は,非常時に業務を継続させるためのテレワークの有効性に着目し,導入にあたっての留意点について,概説を行う。コロナ禍前では,テレワークの導入・普及のスピードは緩やかで,政府が設定したKPIにはかなり隔たりがあったが,新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて,一気に導入・普及が進んだ。テレワークの導入・普及にはICT環境とICT以外の環境整備が必要で,総合的に検討することが求められる。今後は,メリット・デメリット,課題解決策を相互に共有して学習し,さらなる改善・革新を行っていくことが求められる。
著者
林 秀弥
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.9, pp.440-446, 2020-09-01 (Released:2020-09-01)

2011年の東日本大震災や2016年の熊本地震,2019年の台風19号等では,従来の行政主導・中央集権型のトップダウンの公助による災害対策の限界が強く指摘されている。また,戦後の災害対策は,ダムや堤防といったハードの整備に重点が置かれてきたが,公助の限界を踏まえ,住民自身による自助やコミュニティ内の助け合いである共助を組み合わせた災害対策が求められている。そこで,災害対策基本法で規定された地区防災計画制度によるICTを活用した住民主体の自助・共助によるコミュニティ防災の強化策について,法律学の観点から社会実装のための考察を行う。具体的には,過去の先行研究を踏まえつつ,ICTを活用した防災・減災の強化の在り方について提言を行う。
著者
光森 奈美子
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.9, pp.439, 2020-09-01 (Released:2020-09-01)

2020年9月号の特集は「災害に備える」です。近年,豪雨や地震など大規模な災害が立て続けに発生しました。2018年の西日本豪雨,大阪北部地震,北海道胆振東部地震,2019年の台風15号と台風19号による被害は記憶に新しいかと思います。2020年7月にも各地で豪雨災害が起こりました。また「コロナ禍」と称されるように,新型コロナウィルスの感染拡大を受けた一連の状況も災害ととらえることができます。こうした災害時・非常時であっても,あるいは災害時・非常時にこそ情報は必要とされています。利用者の情報要求に応えるためには,資料を守るだけではなく,資料へのアクセスを確保しつつ,可能な範囲で業務を続けることも必要です。そこで今回の特集では,事業継続も含めた災害への事前の備えに焦点を当てました。まず,名古屋大学 林秀弥氏には,防災・減災のための地区防災計画や事業継続計画(BCP)について,ICTの活用を交えつつ論じていただきました。常葉大学 小豆川裕子氏には,業務を続けるためのテレワーク環境整備についてご紹介いただきました。これらを合わせてお読みいただくことで,平時から備えるべきポイントや環境整備について知ることができます。次に,防災専門図書館 堀田弥生氏には,災害情報の入手方法や活用例をご紹介いただきました。東北大学 柴山明寛氏には,様々な自然災害デジタルアーカイブとその活用方法についてご紹介いただきました。自然災害に備えるために必要な情報を,どこから入手し,どのように活用できるのかという点について,2つの記事を参考にしていただければと思います。最後に,今般のコロナ禍においては図書館の休館・利用制限が相次ぎました。資料へのアクセスに困難が生じる一方,様々な形で有料コンテンツの無償公開も行われました。北海道大学附属図書館 山形知実氏には,非常時であっても資料へのアクセスを確保するという側面から,オープンアクセスについて論じていただきました。9月は防災月間です。災害への備えに,本特集を役立てていただければ幸いです。(会誌編集担当委員:光森奈美子(主査),海老澤直美,當舎夕希子,南山泰之)