- 著者
-
久松 薫子
- 出版者
- 一般社団法人 情報科学技術協会
- 雑誌
- 情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
- 巻号頁・発行日
- vol.70, no.2, pp.51, 2020-02-01 (Released:2020-02-01)
資料を並べる書架,それらを見るための机や椅子,こうした家具がなければ図書館は成り立ちません。また,ゆったりと寛ぎながら資料を見る場,活発なコミュニケーションを行う場など,その場の機能を表現し構成するツールとしても家具は重要な役割を果たしています。図書館サービスや運営の向上を考えるとき,資料や利用者に注目し家具は「脇役」として考えがちですが,その重要性を改めて見つめ,本号ではこの脇役たちに焦点を当て,いわば「主役」にして特集を組みました。図書館施設の改装や新築の際に出てくる疑問,例えばどのような機能に特に配慮して家具を選ぶべきなのか,場の機能を表現する家具をどうやって探せば良いのかなど,建築分野の非専門家にとっては難しい課題であり,こうしたことに悩まれたご経験のある読者もおられるのではないでしょうか。この特集では,図書館員が建築分野の専門家とスムーズなコミュニケーションをとるのに必要な知識の紹介のほか,図書館の家具に持たせるべき機能,作り上げたいイメージや機能を家具として具現化させて行った事例を紹介して,新たに施設を作り上げる時の参考となるような内容を目指しました。また,企画段階で大きなテーマとして浮かび上がったのは「地震対策」です。利用者と資料の安全を守るために国内のあらゆる図書館で備えるべき課題であり,ここ数年だけでも大きな地震と被害を受けた図書館の事例をいくつも思い浮かべることができます。こうした経験から得た貴重な知見が数多くあり,今回掲載した原稿のうち多くがこの点に触れて解説をいただきました。植松貞夫氏(筑波大学)には冒頭で,性能・工事・備えるべき家具の種類など基本的知識の解説のほか,家具を選ぶ際に配慮すべき点を概括していただきました。施設について考えるとき図書館員が理解しておくべき内容であり,サイズなど細かな点にも触れていただいていますので,すぐに参考にできる内容です。そしてその原稿の中でも言及されている地震対策について,柳瀬寛夫氏(岡田新一設計事務所)に詳細にご紹介いただきました。この中で,家具そのものだけでなく建物の構造的な配慮といった大きな視点が必要であることを解説いただいています。続いて,図書館家具メーカーの視点から,地震対策その他の図書館の課題に応える家具の紹介と解説を日下有紀・三木すずか氏(金剛株式会社)にお願いしました。主に書架についての解説ですが,そのほかのユーザー目線から新規開発された家具についてもご紹介いただきました。次に事例紹介を二つお願いしました。一つは,複数のプロジェクトにおいて建築側と図書館の運用側の意見を調整するコーディネーターを務められた太田剛氏(図書館と地域をむすぶ協議会)に,もう一つは図書館家具として欠かせない椅子に着目し,「図書館で過ごす時間を豊かにする椅子」を学生・利用者と共に考え作成したプロジェクトを根来貴成氏(金沢美術工芸大学)にご報告いただきました。「図書館施設をより良いものにしたい」その思いを形にする際のご参考になりましたら幸いです。(会誌編集担当委員:久松薫子(主査),稲垣理美,大橋拓真,南山泰之)