著者
星 暁子 行木 麻衣
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.68, no.10, pp.64-77, 2018 (Released:2018-11-20)

2018年6月に実施した「幼児視聴率調査」の結果から、幼児のテレビ視聴と録画番組・DVDの利用状況を報告する。調査は、東京30キロ圏に住む2~6歳の幼児1,000人を調査相手として、6月4日(月)~10日(日)の1週間実施した。幼児が1日にテレビを見る時間は1時間39分(週平均)。テレビ視聴時間は、2007年以降2時間程度で推移していたが、2012年に減少して初めて2時間を下回り、以降緩やかに減少傾向にある。また、幼児が録画番組やDVDを再生利用している時間は57分(週平均)で、2011年から2013年にかけて増加し、それ以降は同程度で推移しており、両者の差が縮まっている。さらに付帯質問の結果をみると、録画・DVD再生を利用する幼児は横ばいで推移する中、インターネット動画を見る幼児の増加が続いている。インターネット動画の再生時間は、「ほとんど、まったく見ない」が前々年から減少した一方で、1時間を超える長時間利用が増加した。調査期間中によく見られたテレビ番組は、「おかあさんといっしょ」「みいつけた!」などEテレの幼児向け番組や、「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」など民放のアニメ番組であった。
著者
小平 さち子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.18-37, 2019 (Released:2019-03-20)

“子どもとメディア”はいつの時代にも関心の高いテーマといえるが、本稿ではインターネットの本格的な普及が子どもたちの生活に様々な変化を及ぼしてきた2000年以降に注目して、国内で実施された調査研究動向の整理・分析を試みた。日常生活におけるメディア接触実態に関する調査、メディアの影響を明らかにするパネル調査や実験研究、子どもの学習とメディア利用をめぐる調査研究について、小学生以上対象と乳幼児対象に分けて、多様な調査研究について、具体的に取り上げた。その結果①スマートフォンやタブレット端末等新しく登場したメディアへの関心が高いこと、②乳幼児を対象とする研究への関心が高まってきたこと、③パネル調査が重視されるようになったこと、④メディア接触の影響を検討する際に、量的側面だけでなく番組やコンテンツの内容・描写といった質的側面への注目が高まったこと、⑤研究成果を授業・保育・保護者の啓蒙等の教育プログラムに反映させる枠組みが意識されるようになってきたこと等を、この時期の“子どもとメディア研究”の特徴として挙げることができた。1990年代までの課題に応える形で調査研究が進められてきたといえるが、今後のさらなる発展に向けて、研究の枠組みの検討や研究手法の開発、長期にわたる調査研究環境の確保・充実に向けた工夫が必要であり、研究を深めるにあたっては常に“子ども”を捉える視点に考えをめぐらし、多様な分野の研究者との交流と議論の中で自らの研究を高めていくことが重要と考えられる。
著者
大墻 敦 田中 孝宜
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.68, no.6, pp.2-23, 2018

放送と通信がすでに融合した欧米では、放送局が主体的にインターネット上の様々なプラットフォームを用いてニュースや映像コンテンツ配信に取組んでいる。CNNデジタルワールドワイド上席副社長兼編集長メレディス・アートリー氏とアメリカ公共放送(PBS)テクノロジー戦略担当副社長エリック・ウォルフ氏を招きシンポジウムを開催した。アートリー氏は「あらゆるデジタルサービスに対応できるモダン・ジャーナリストが必要。」と述べ、さらに「コントロール出来ることと出来ないことを意識すること」などの5つの教訓などについて報告があった。ウォルフ氏からは、公共メディアへの進化を目指すPBSがデジタルサービスだけでなく、全米放送サービスの充実も改めて目指していることについて、子ども向けサービスPBSKIDSを例に報告があった。また、BBCの戦略と2016年に放送サービスを停止しインターネットのみで配信を始めた若者向けチャンネルBBCThreeの成果と課題について、筆者(田中)から、報告を行った。
著者
吉田 功 広谷 鏡子 広谷 鏡子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.68, no.12, pp.2-19, 2019

「放送のオーラル・ヒストリー」では、オーラル・ヒストリーの研究方法を用いて、放送関係者の証言から放送史をひもとくことを目的にインタビューを実施してきた。今回は、戦後沖縄放送史を取り上げる。戦後、沖縄は、米軍の直接統治下におかれ、日本本土から政治、経済、法制度において完全に切り離され、それは、社会、文化の面にも及んだ。放送史も同様で、成立経緯、様相ともに全く異なっている。放送機能も失われた廃墟の中、米軍によるラジオ放送がゼロから立ち上がり、日米政府や社会の情勢に翻弄されながら確立されていく過程で、その重要な局面に深く関わってきた人がいる。元沖縄放送協会会長・川平朝清(91)である。彼は戦後の沖縄において、放送の立ち上げから本土復帰まで、一貫して放送に関わった稀有の存在である。各局面において放送の当事者のひとりである川平朝清がどう考え、どう行動したのか、そして、行動の背景になにがあったのか、に焦点をあて、沖縄の放送史が立体的に浮かび上がることを目指す。
著者
村田 ひろ子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.68, no.6, pp.78-94, 2018

NHK放送文化研究所が加盟する国際比較調査グループISSPが、2017年に実施した調査「社会的ネットワークと社会的資源」の日本の結果から、他者との接触や友人づきあい、人間関係と生活満足度との関連について報告する。SNSの利用頻度と他者との接触の関係をみると、SNSを頻繁に利用している人のほうが、親しい友人との接触も多い。高齢層についても、SNSの利用者で18歳以上の子との接触が多い。50代以上の中高年男性では、友人づきあいが希薄な傾向がみられる。例えば、「悩みごとを相談できるような友人がいない」という人は、全体で2割なのに対し、男性50・60代でいずれも3割台、70歳以上では半数を超える。また、「落ち込んだときの話し相手」や「家庭の問題についてアドバイスをもらう相手」として「親しい友人」を挙げるのは、全体で4割なのに対し、男性50代以上の各年層で2割から3割程度にとどまる。生活満足度との関連では、他者との接触や友人数が多いほど、生活に満足している割合が高い。特に40、50代の中年男性では、悩みごとの相談相手の人数によって、生活満足度が大きく異なる。
著者
村上 圭子 黛 岳郎 平田 明裕 星 暁子 有江 幸司
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.68, no.7, pp.2-27, 2018

NHK放送文化研究所では2016年に引き続き,2017年11月から12月にかけて「メディア利用動向調査」を配付回収法で実施し,2,340人から有効回答を得た。今回は主に次の4つのテーマで結果をまとめた。①4K・8K・・・4Kの認知率は全体で前年から増加(72%→76%)し,8Kの認知率も全体で前年から増加(47%→55%)した。4Kへの興味は「とても興味がある」が前年から増加(4%→5%)し、「まあ興味がある」も前年から増加(24%→31%)した。②放送のインターネット同時配信・・・認知率は35%にとどまるものの,利用意向は41%だった。利用意向を男女年層別にみると,男16~29歳・女30代では5割を超えるなど,若・中年層で一定の需要がある。③有料動画配信サービス・・・加入者は全体で前年から増加(4%→7%)した一方で,加入意向がある人は前年から減少(20%→13%)し,今後,新たな関心層をどうやって増やしていくかという課題が浮き彫りになった。④ニュースのサイトやアプリ・・・全体でもっとも利用されているのは「Yahoo!ニュース」(44%)だった。次いで多いのが「LINE NEWS」(22%)で,男女年層別にみると,女16~29歳では「LINE NEWS」(60%)が「Yahoo!ニュース」(50%)を上回った。使う理由としては「使いやすいから」が多く挙げられた。
著者
小林 利行
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.44-56, 2018

本稿では、1930年前後に大人気となった松内則三アナウンサーの「講談調」の野球実況について、これまでにないアプローチでその人気の背景の再分析を試みた。本稿ではまず、「報道」「教養」「娯楽」などの放送番組の種目割合の時系列変化に注目した。そして、「娯楽」の割合が減少している時期とこの実況の全盛期が重なることを示したうえで、これをベースとして以下の3つの視点から人気の背景を探った。【①聴取者】聴取者は「娯楽」を求めていたが、実際の放送では十分に供給されておらず、「娯楽」の少なさに不満を持っていた。【②松内則三】アナウンスのあり方において常に聴取者の意向を重視していた松内が、野球実況を「講談調」にした理由の一つに①が関係した可能性が高い。【③日本放送協会】聴取者加入が外国に比べて進まない要因の一つは「娯楽」の少なさだと認識していたと思われるが、「社会の公器」という建前上、いたずらに「娯楽」を増やすわけにもいかなかった。そこに登場したのがこの実況であり、客観性に疑問符がつくアナウンスながらも容認する姿勢をとったと推察される。先行研究で指摘されているように、この実況の人気の背景には、「講談調」という日本人になじみのある口調が広く受け入れられたことがあるのは間違いない。これに上記の3つの視点を加えることで、この実況の誕生と継続の解釈に厚みが増し、従来の野球ファン以外を取り込んで大人気となった背景をより明確にできるのではないだろうか。