著者
滝島 雅子 山下 洋子 塩田 雄大
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.69, no.11, pp.54-72, 2019

2019年3月に行った「日本語のゆれに関する調査」について報告する。▶第1章では、「やる」のかわりに「あげる」を使う用法について取り上げる。「植木に水をあげる」「子どもにお小遣いをあげる」「ペットの犬にえさをあげる」に関しては、「おかしくない・使う」という人が7割を超え、誤用とは言えない状況になっている。▶第2章では、気象情報で使うことばについて調査報告を行う。気温の言い方を「〇ド〇ブ」と言うか、「〇テン〇ド」と言うかを聞いたところ、「○テン○ド」を選んだ人のほうが多いという結果となった。また、「0度より低い気温」を言う場合、「氷点下」と「マイナス」のどちらを使うかを聞いたところ、「マイナス」が多い結果となったが、放送で使うことばとしては、自分で言う場合に比べ「氷点下」が多かった。▶第3章の外国語・日本語をめぐる意識については、日本人の大多数は、「(一部の人を対象にした教育ではなく)日本人全体への英語教育」、「(外国人向けの日本語教育よりも)日本人自身の外国語運用能力を高める教育の重視」を望ましいものととらえており、「(英会話には)まったく自信がない」、「小学校での英語教育には賛成」、「日本語を話す外国人が多くなった」と思っていることが明らかになった。外来語が増えることに対しては、「日本語をあいまいにすることにつながる」という意見が5割程度、「日本語を豊かにすることにつながる」という考えが4割程度になった。若い年代ほど英語(および外来語)への親和性が高く、高年層ではその反対に日本語をより重視するような傾向が見て取れる。
著者
塩﨑 隆敏
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.71, no.9, pp.42-52, 2021 (Released:2021-10-20)

旧来のマスメディアに対する信頼が低下しつつある。各報道機関は、記者の取材活動にあたって、行動規範やガイドラインを設けている。しかし、検察幹部と新聞記者らによる「賭けマージャン問題」が明らかになり、その規範が守られていなかったことが表面化した。問題発覚後、朝日新聞社は「朝日新聞記者行動基準」を改定した。 取材源の秘匿は、情報源との信頼性を確保する上で最も重要な理念の1つである。だが、日本においては必ずしも法的な保障がなく、倫理規定の中で、その重要性が唱えられているにすぎない。その一方で、倫理規定において定めた取材対象者との関係性や利益相反について、逸脱するケースがあるというのは、報道機関として自己矛盾と言える。 本稿では、国内の報道機関、海外の報道機関が取材対象との関係性や利益相反について行動規範やガイドラインにどのような基準を設けているかを概観することで、低下しているメディアの信頼をいかに取り戻すかを考える一助になることを目指した。
著者
村上 聖一 東山 一郎
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.70, no.5, pp.56-72, 2020 (Released:2021-04-16)

大河ドラマの「太閤記」や『未来への遺産』など20世紀後半のNHKを代表する番組を生み出した吉田直哉(1931~2008)。自宅などに保管されていた多数の番組関連資料が遺族からNHK放送文化研究所に寄贈された。資料は、番組の台本や企画書、取材・制作過程で撮影された写真、セット図面、番組で使われた楽曲の楽譜など、段ボール箱で54箱分、数千点規模に上る。 本稿では、今後の研究活用に向け、寄贈された資料を、吉田が制作した番組の性格に応じて時期ごとに区分し、紹介を行った。区分は、①1950年代のラジオ番組、②初期のテレビドキュメンタリー、③番組試作課時代の試作番組と実験的番組、④『大河ドラマ』『銀河テレビ小説』、⑤『NHK特集』などの大型番組、の5つである。本稿では、資料を活用した研究の可能性や、今後の資料の整理・保存の方向性についても考察を行った。
著者
村上 聖一
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.70-87, 2021 (Released:2021-05-20)

太平洋戦争下、南方の占領地で日本軍が行った放送について検証している本シリーズ、今回は、現在のインドネシアに当たる蘭印で行われた放送の実態を探った。 蘭印は、石油などの資源地帯として戦略上、重要だった地域で、日本軍は、占領後、20近くの放送局を開設し、一部を除き、終戦まで放送を続けた。この地域はジャワやスマトラといった島ごとにラジオ放送の発達状況が異なり、また、陸軍、海軍が担当地域を分けて放送を実施した。このため、本稿では、それらの条件に応じて、放送実施体制や番組内容、聴取状況にどのような違いが生じたのかといった点に着目しつつ、検討を進めた。 このうち、陸軍担当地区を見ると、戦前からラジオ放送が発達していたジャワでは占領後、速やかに放送が始まったのに対し、スマトラでは開局が遅れ、放送局数も少数にとどまった。また、海軍担当地域のセレベス・ボルネオは、戦前、まったく放送局がなく、軍が放送局を新設する必要があるなど、放送の実施体制は地域によって大きく異なった。 しかし、聴取状況を見ると、防諜のために軍が受信機の多くを接収したこともあって、いずれの地域でもラジオの普及はわずかにとどまった。そして、現地住民が放送を聴いたのは主に街頭ラジオを通じてだった。番組も、各地域とも、集団聴取に適した音楽演奏やレコード再生が中心となった。 各放送局の担当者は、具体的な宣伝方針が定まらない中、手探り状態で放送を継続する必要に迫られた。放送を通じて占領政策への理解を得るという目標が達成されたか検証できないまま、占領地での放送は終焉を迎えた。
著者
荒牧 央
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.22-29, 2020

2019年10月に行なわれた即位礼正殿の儀を前に、皇室に対する関心や皇位継承のあり方などについての意識を探るための電話調査を実施した。今の皇室について関心がある人、親しみを感じている人、皇室と国民の距離が近くなったと感じている人はいずれも7割程度で、国民の多くは皇室に対して関心や親しみを持っている。女性天皇、女系天皇を認めることについても、それぞれ7割の人が賛成している。一方で、女系天皇の意味を知っている人は4割で、皇室制度を改める必要があるという人も半数程度にとどまっている。
著者
斉藤 孝信 平田 明裕 内堀 諒太
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.71, no.9, pp.2-41, 2021

現在は人々の約7割が、テレビを所有し、かつ、ネット機器も使っている。テレビ(リアルタイム)は約8割の人が毎日のように利用している。YouTubeは「週に3~4日ぐらい」以下の頻度で利用する人が多いが、男若年層(16~29歳)では約7割が毎日のように使う。ニュース視聴時、30代以上はテレビや新聞などをよく利用する。若年層はテレビやLINEをよく使い、男若年層はYouTube、女若年層はTwitterもよく用いる。娯楽視聴時にも中・高年層は従来のメディアをよく利用し、若年層ではほとんどがYouTubeを使う。意識面では、「世の中の出来事を知る」点において、テレビの評価が他メディアを引き離している。「癒し・くつろぎ」などの点では評価が様々なメディアに分散し、男若年層はYouTubeを、女若年層はSNSを高く評価している。テレビやネット動画の視聴時の行動や意識について、「別のことをしながら視聴する」「内容を話題にする」といった行為は、テレビに関しては女性のほうが男性よりも行っているが、ネット動画に関しては男女差がない。視聴するために「時間をやりくり」したり、視聴によって「時間や曜日を意識」したりするのはテレビ視聴時に多いが、若年層ではネット動画視聴時でも約3割が行っている。特定のコンテンツを「待ち遠しく思う」「繰り返し見る」ことは、中・高年層ではテレビ番組に偏っているが、若年層ではテレビ番組でもネット動画でも半数以上が『ある』と答えた。若年層はジャンルによって視聴メディアを使い分け、「天気予報」「政治・経済・社会」などはテレビ(リアルタイム)で、「音楽」「ゲーム配信・実況」などはYouTubeで、「芸能人・アイドル」などはテレビ(リアルタイム)とYouTubeの2つでよく見る。
著者
関谷 道雄
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.68, no.5, pp.26-45, 2018

Yahoo!ニュースやスマートニュース、LINE NEWSなどのプラットフォームを活用する地域メディアが増えつつある。当初は地方紙の参入が目立ったが、近年は民放ローカル局の参入も活発化し、それぞれの地元に制約されていた各局発のニュース、番組が「越境」するようなった。その結果、地域の情報、問題が全国で可視化されつつある。また、ネットへの対応を文字情報、つまり"活字"を用いて積極的に進めたラジオ局がある一方で、新聞社が動画に取り組み、"テレビ化"するというメディア間の「交錯」も顕在化している。その結果、活字化を推進するラジオ局は、圏外からのアクセスが地元を上回り、テレビ化した新聞社のスクープ動画を放送局が購入するという新たな動きも出ている。その一方で、ローカル局発のニュースが全国に配信され、ネット上で誹謗中傷にさらされる実例も出ている。このように各社は試行錯誤を繰り返しながら、プラットフォームを通じた新たな情報発信のあり方を模索している。これらの取り組みは、これまでの東京中心の視点を変える萌芽となりうる可能性がある。一元的な視点を乗り越え、オルタナティブな視点を提示できるようになったとき、放送はこれまでよりもさらに民主主義に資する可能性を持っているのではないか。
著者
黛 岳郎
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.69, no.8, pp.2-19, 2019

アメリカのNETFLIXとAmazonプライム・ビデオが日本でサービスを開始して3年が経過した。放送事業者は独自の有料動画配信を展開し対抗する一方で、連携も深めている。有料動画配信のユーザーはどれくらいいて、今後、サービスはどこまで拡大していくのかについて、NHK放送文化研究所が2016年から毎年行っている世論調査「メディア利用動向調査」の結果分析を中心に考察した。有料動画配信市場の今後について分析を進めていくうえでは、2つの観点を設定した。WOWOWやスカパー!といった有料多チャンネル放送の加入者と、YouTubeなどの無料動画配信のユーザー、それぞれの調査結果を掘り下げることで、有料動画配信に加入する可能性があるのかをみていった。有料多チャンネル放送加入者については、現状においても有料動画配信に加入する動きがみられ、今後もこうした動きが続きそうだ。ただ、アメリカで起きているような有料多チャンネル放送から有料動画配信への乗り換え、いわゆる"コードカッティング"が日本で起きる可能性はしばらくの間は低いと思われる。一方、無料動画配信ユーザーについては、有料動画配信に加入する動きが増えるかどうか、断定できる材料は見つけられず、むしろ無料動画配信のサービス内容の充実が有料動画配信への加入を遠ざけているのかもしれない、という傾向を感じ取った。
著者
保髙 隆之 山本 佳則
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.36-63, 2019

NHK放送文化研究所が2018年11月に実施した「メディア利用動向調査」(全国16歳以上の男女を対象,有効数2,264人)の調査結果を報告する。主なポイントは以下の通り。①4K・8K放送…認知率は、「4K」(76→83%),「8K」(55→70%)ともに前年から増加した。一方,新4K衛星放送に対応した機器の所有者は2%にとどまった。対応機器がない人の7割は購入意欲がなく、理由としてもっとも多かったのは「現在の地上放送、衛星放送で十分だから」だった。②放送のインターネット同時配信…認知,利用意向は,いずれも4割程度あり、特に男50代以下の各年層と女29歳以下では利用意向者が5割近い。59歳以下の利用意向者でみると、テレビの短時間視聴者の割合が高く、テレビの「ライトユーザー」に受け入れられる可能性がある。③動画配信サービス…「YouTube」の利用者が5割を超え、他を大きく引き離しているが、「Amazonプライム・ビデオ」(8%),「TVer」(5%)などが前年から利用者を増やした。また、有料動画配信サービスについて,加入者が前年から増加(7→14%)したのに加え、加入の可能性がある「加入検討中」「様子をみている」との合計も増加した。一方で、「加入意思なし」も5割程度おり、前年から変化がなかった。そのほか、「テレビのインターネット接続」「メディアの信頼度とニュースサイト・アプリの利用」についても報告する。
著者
税所 玲子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.71, no.8, pp.32-46, 2021 (Released:2021-09-20)

新型コロナウイルスの感染拡大の中で、偽情報・誤情報の広がりが喫緊の課題として認識される中、世界の公共放送の代表格といわれるイギリスBBCは、「信頼できる確かな情報の担い手」として、自らの役割と価値を改めて打ち出そうとしている。 本稿は、その取り組みの最優先策として挙げられた「不偏不党の徹底」に焦点をあて、その理念がどのように放送で実践されてきたのか、その変遷を概観した。スエズ危機やフォークランド紛争など、時として権力と激しく対立しながら模索してきたそのアプローチは、デジタル化と多民族化が進む中で、「シーソーのようにバランスをとる」ことから、「多種多様な価値を反映」させるべく、「正確性、バランス、文脈、公平・公正、客観性など」が合わさった多様なものであるべきだとの認識へと進化を遂げる。そして、戦後最大の外交政策の転換と言われるEU離脱によって政治社会が分断し、対立感情があらわになりやすい雰囲気が広がる中で、左右からの批判にさらされたBBCは、再び変革を迫られる。本稿では最後に、これまで視聴者とのエンゲージメントの手段としてきた取材者のSNS発信を制限するなど、新たな実践の形を模索する姿を紹介する。
著者
吉藤 昌代 渡辺 洋子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.26-45, 2020

「メディア利用の生活時間調査」の2回目の報告である本稿では、特に若年層(16~29歳)のスマートフォン利用に焦点をあて、スマートフォン利用の詳細を描くとともに、具体的な利用内容と利用の際の意識との関連を探った。まず日記式調査の結果をみると、男16~29歳はスマートフォンでSNS、動画、ゲーム、音楽などを利用している。女16~29歳はSNSをメインに動画の利用も多いが、SNS・動画以外はそれほど多くなかった。 また付帯質問の結果をみると、従来パソコンなどで行っていたメールやWEB検索などの行動をそのままスマートフォンに置き換えて利用している中年層とは異なり、若年層は「SNS」や「動画」など比較的新しいサービスを活用し、複数のSNSを「検索・情報収集」「動画視聴」「ニュースをみる」などの多様な目的で使い分けていることが明らかになった。さらにスマートフォン利用時に「時間を忘れて、夢中になってしまった」り、「使ったあと、時間をむだにしてしまった」と思ったりする気持ちの有無別に利用の特徴をみると、そのような気持ちが「ある」と答える人の割合はスマートフォンを活発に利用する若年層で高く、中高年層で低い。スマートフォン利用の多寡が意識の有無に関連しているように思われる部分が多かったが、一概にそうとは言い切れない部分もあり、意識と利用状況を単純には関連付けられないことが示された。
著者
中村 美子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.68, no.9, pp.80-87, 2018

デンマークの公共放送DRは、テレビやラジオ、新聞など包括的なメディア政策協定によって、財源や任務が決められる。今年6月に「メディア政策協定2019年-2023年」が締結され、2019年からメディア受信料を段階的に廃止し税金化すること、DRの事業予算を5年間で20%削減すること、DRは情報、教育、子ども、文化等に集中することなどが決まった。メディア受信料の廃止理由は、学生など若者から不満が増して不払いが増大したことやメディア受信料は所得の大きさにかかわらず料金が一律なため、社会的に不公平だという認識が拡大したことがあげられる。ヨーロッパの公共放送の間では近年、受信料の公平負担を目的に制度改革が行われているが、デンマークにおける受信料の廃止/税金化は、メディア政策ではなく税制改革の議論で決められ、政治的交渉で決められた妥協の産物だと評される。今回のデンマークの事例は、各国に影響を与える可能性がある。
著者
税所 玲子 広塚 洋子 小笠原 晶子 塩﨑 隆敏 杉内 有介 吉村 寿郎 佐々木 英基 青木 紀美子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.22-39, 2021 (Released:2021-04-20)

2021年、世界各国で新型コロナウイルスの予防接種が始まったが、感染力が強い変異ウイルスの出現もあり、感染の拡大は止まっていない。WHOによると感染者の数は1月末までに1億人に近づき、死者は200万人を超えた。世界のメディアは新型コロナやその感染予防策についてどのような発信をしたのか。報道を継続するために組織としてどのような対応をとったのか。浮かび上がった課題は何か。 2月号に続き、コロナ禍に対する海外のメディアの対応を報告する。ヨーロッパ、中東、アフリカの国ごとの動きに加え、メディアが直面した問題をテーマ別にまとめる。
著者
福長 秀彦
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.70, no.7, pp.2-24, 2020

新型コロナウイルスの感染拡大が続く中で、トイレットペーパーをめぐる流言と買いだめが如何にして発生したのか、また、両者がどのように関わり合っているのかを検証した。そのうえで、流言と買いだめを的確に抑制する報道のあり方を考察した。検証と考察の結果は以下の通り。■「トイレットペーパーが不足する」という流言の発生には、マスク不足、オイルショック、海外の買い占め騒動が心理的要因として作用していた。日本とシンガポールなどで拡散した流言はほぼ同じ内容であり、感染症の流行による国際社会の不安から、流言は国境を越えて拡がった。■買いだめの動きは、流言がきっかけとなって各地で散発的に始まり、2月28日に急加速した。急加速を主に促したのは、品切れの様子を伝えたテレビだった。■流言を信じて買いだめをした人は少なかった。多くの人は流言を信じていなかったが、「他人は流言を信じて買いだめをしているので、このままでは品物が手に入らなくなる」と思い、買いだめをしていた。そうした心理は品切れとなる店舗が増えるにつれて増幅し、買いだめに拍車をかけた。■流言を否定する情報は、店頭から現実にモノが消えているので、説得力を欠いた。買いだめが加速すればするほど、品不足への不安が高じて、流言の打ち消しは効果が逓減した。■流言が社会に悪影響を及ぼす群衆行動へとエスカレートする前に、流言の拡散を抑え込まなければならない。
著者
佐々木 英基 柳澤 秀夫 太田 昌克 西土 彰一郎
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.71, no.6, pp.32-47, 2021

メディアにとって、国家が指定する“機密”にどう向き合うかは重要なテーマである。なぜなら、国民が“知る権利”を行使する場合、その権利は、メディアの取材および発表行為によって充足されることが多いからである。本稿は、2021年3月に開催したNHK文研フォーラム「メディアは“機密の壁”にどう向き合うか~豪公共放送への家宅捜索を手がかりに~」と題したシンポジウムの抄録を基本に、議論の内容をより深く理解するための情報を加筆したものである。このシンポジウムには、ジャーナリストと学者が参加し、国内外のメディアが“機密の壁”に直面した事例を題材に議論を展開した。議論の中では、“知る権利”、“国益”、“公益”、そして“国民の利益”等がキーワードとなり、メディアが直面する課題や、進むべき方向性が提示された。
著者
広谷 鏡子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.26-44, 2021 (Released:2021-05-20)

「オーラル・ヒストリー」の方法論を用いて、関係者の証言をもとに「テレビ美術」についての論考を発表してきたが、今回は、1981年から2002年まで、連続ドラマとドラマスペシャルとして放送された『北の国から』(フジテレビ制作)の美術に着目した。ドラマの舞台である北海道にオープンセットを建設して撮影したこのドラマにおける「美術」の役割は、重要かつ多岐にわたった。本稿では、美術プロデューサー・梅田正則の証言を通じて、それを浮かび上がらせる。 主人公の家族が移り住んだオープンセットの「家」が、どのような発想のもとに生み出され、人が生活する場としてのリアリティーを増していくかを、ドラマの時系列に沿ってたどると、数多くの工夫や苦労が明らかになった。ドラマは「嘘」だが、それを「本物らしく」表現するのが美術の基本、と梅田は言う。元々は映画の小道具係を志し、黒澤明作品を美術の教科書と仰ぐ梅田は、映画に負けない美術をこのドラマで目指した。妥協しない美術のスタンスは、スタッフや出演者の本気度を高め、『北の国から』がテレビ史に残るドラマとなる一翼を担ったのではないか。
著者
広谷 鏡子 広谷 鏡子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.26-44, 2021

「オーラル・ヒストリー」の方法論を用いて、関係者の証言をもとに「テレビ美術」についての論考を発表してきたが、今回は、1981年から2002年まで、連続ドラマとドラマスペシャルとして放送された『北の国から』(フジテレビ制作)の美術に着目した。ドラマの舞台である北海道にオープンセットを建設して撮影したこのドラマにおける「美術」の役割は、重要かつ多岐にわたった。本稿では、美術プロデューサー・梅田正則の証言を通じて、それを浮かび上がらせる。主人公の家族が移り住んだオープンセットの「家」が、どのような発想のもとに生み出され、人が生活する場としてのリアリティーを増していくかを、ドラマの時系列に沿ってたどると、数多くの工夫や苦労が明らかになった。ドラマは「嘘」だが、それを「本物らしく」表現するのが美術の基本、と梅田は言う。元々は映画の小道具係を志し、黒澤明作品を美術の教科書と仰ぐ梅田は、映画に負けない美術をこのドラマで目指した。妥協しない美術のスタンスは、スタッフや出演者の本気度を高め、『北の国から』がテレビ史に残るドラマとなる一翼を担ったのではないか。
著者
入江 さやか
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.68, no.10, pp.48-63, 2018

平成最悪の豪雨災害となった「西日本豪雨(平成30年7月豪雨)」。気象庁は1府10県に大雨特別警報を発表し最大級の警戒を呼びかけたが、九州から東海にかけての広い範囲で河川の氾濫や土砂災害が同時多発的に発生、死者は200人を超えた。この広域かつ激甚な災害に、放送メディアはどう対応したか。近い将来発生が想定される「南海トラフ巨大地震」などへの対応を考える上でも、十分な調査・検証がなされなければならないと考える。本稿では、その検証の足がかりとしてNHKや在京民放キー局が実際に西日本豪雨をどう伝えたか、発災前から発災後の報道を時系列で示し、今後検討すべき課題を整理した。