著者
二瓶 亙 亀村 朋子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.52-75, 2018

近年、視聴率が高い作品が多い連続テレビ小説(通称、朝ドラ)について、NHK放送文化研究所朝ドラ研究プロジェクトでは、作品ごとに視聴者調査を行って朝ドラの視聴実態と好調要因を探る研究を行っている。今回の『ひよっこ』調査は『まれ』『あさが来た』『とと姉ちゃん』『べっぴんさん』に続く5作品目の調査である。作品に対する満足度の平均は85%で、『とと姉ちゃん』と同レベル。「丁寧な登場人物の描写」に多くの視聴者が共感し、「善人しか出てこないこと」で安心してドラマを楽しんだという人が多かった。また、登場人物それぞれが幸せな結末を迎えるハッピーエンドだったことが、終盤の高評価につながった。一方で、4作ぶりのモデルのいない作品であり結末が予想できないこと、あるいは会話劇主体で話の進行が遅かったことから、視聴者が、全体のストーリー展開を楽しむ長期的視点ではなく、日々のエピソードや登場人物を楽しむ短期的視点で見るほうが『ひよっこ』をより楽しむことができたと推察された。本来は長期的視点でドラマを見る人も、『ひよっこ』の作風に合わせて見方を変え、時には短期的視点でドラマを楽しんでいたことも分かった。
著者
二瓶 亙 亀村 朋子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.68, no.9, pp.2-21, 2018

近年高視聴率が続く連続テレビ小説(通称、朝ドラ)について、NHK放送文化研究所朝ドラ研究プロジェクトでは、作品ごとの視聴者調査から朝ドラの視聴実態と好調要因を探る研究を継続している。今回の『わろてんか』は6作品目。大阪で寄席を経営する主人公を中心とした群像劇で、人生には「笑い」が必要であるという作品テーマに共感した視聴者が多い。作品に対する満足度では、過半数の56%の人が[まあ満足]という評価を選択したため、この多数の[まあ満足]派が、結果的に今作の評価を支えたと考えて、その人たちの評価に注目して分析した。明るさに代表される[作品の雰囲気]や[ヒロインの周囲の人物]への評価が高く、実在の人物をモチーフとしていることから「困難な場面も乗り切れるだろう」という期待や安心感を持って最後まで見た人が多かった。また「気楽に見られる作品であったこと」も、最後まで視聴を離脱させない大きな力となった。朝ドラを比較的よく見た人では、朝ドラの戦時描写を見たくない気持ちはあるが、描写の主旨への理解度は高く、史実に沿って戦争を描くことはやむを得ないという人が9割と多かった。長期視点派50%、中間派23%、短期視点派27%。長期視点派は『わろてんか』を長期視点的作品として楽しみ、短期視点派は短期視点的作品として楽しんだ。
著者
宇治橋 祐之 大野 敏明
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.2-25, 2018

2017年、『きょうの料理』が放送60周年、『きょうの健康』、『趣味の園芸』が放送50周年を迎えた。暮らしに身近なテーマを扱ってきたこの3番組は、タイトルやテーマソングとともに、多くの人に親しまれ続けている。共通するのは、豊かな生活を送るために役立つジャンルで、時代に合ったテーマを扱いつつ、少し先んじた内容も取り上げてきたことである。さらにテキストが発行されてきたこともあり、ウェブへの展開も先進的に進められてきた。『きょうの料理』で紹介されたレシピは約4万点。基本の料理を紹介しつつ、時短料理など時代にも対応しながら役に立つレシピにこだわり続け、番組から、レシピ検索サイト、ショート動画、SNSなどにも展開してきた。『きょうの健康』の放送回数は50年間で約1万回程度。伝染病の防疫から、近年の生活習慣病やがん対策まで、健康維持と予防に努めてきた。その積み重ねがウェブサイト「NHK健康ch」に繋がっている。『趣味の園芸』は、時代に合わせて盆栽、ガーデニング、野菜づくりなどをとりあげつつ、育てるだけでなく、飾ったり撮ったりなどの楽しみ方を提案、視聴者のコミュニティ作りも進めている。ソーシャルネットワーク時代を迎え、メディアが多様化する中、現在Eテレで放送中の3番組は、老舗番組のブランド、シンプルな演出を守りつつ、新たなメディアへの展開を続けている。
著者
村上 圭子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.70, no.6, pp.2-28, 2020

本稿は、通信・放送融合時代の放送業界と放送政策の動向を中心に、メディア環境の変化を俯瞰して今後の論点を提示するシリーズの第5回である。本稿は2019年8月から2020年4月までを対象とする。本稿ではまず、新型コロナウイルスに関する放送事業者の取り組みや課題に触れたい。日々刻々と変化する状況を冷静かつ客観的にどう伝えていくか。一斉休校によって教育を受ける機会が奪われている小中学校の生徒たち向けにどのような役割が担えるか。置かれた状況が大きく異なる人々に対して、どのようなメッセージを発信していけるか。現在も状況が変化し続けているため、分析や認識は不十分であるが、状況が深刻化した4月に入ってからの動向を記録しておきたい。本稿のメインはNHKを巡る動向である。4月17日、「放送を巡る諸課題に関する検討会」の下に「公共放送の在り方に関する検討分科会」が立ち上がった。今後は、「業務」「受信料」「ガバナンス」の「三位一体改革」と共に、受信料制度の議論が本格的に行われることになるという。本稿では、4月1日にNHKの放送同時配信及び見逃し配信サービス「NHKプラス」が本格開始したのを機に、常時同時同時配信を巡る議論を、議論が開始された2015年にさかのぼって検証した。またこの半年のNHKを巡る動向を、"三位"の3点に分けて振り返った。以上の作業を通じて、今後NHKに関して重要だと思われる論点を筆者なりに提示した。
著者
荒牧 央 村田 ひろ子 吉澤 千和子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.62-82, 2019 (Released:2019-07-20)

NHKが1973 年から5 年ごとに行っている「日本人の意識」調査の最新の調査結果から、政治、ナショナリズム、日常生活、基本的価値観などを紹介する。主な結果は次のとおりである。・選挙やデモ、世論などの国民の行動・意見が、国の政治に影響を及ぼしていると感じる人が、調査開始以降、長期的に減少している。・天皇に対して「尊敬の念をもっている」という人は2008年以降増加しており、今回は41%で「好感をもっている」や「特に何とも感じていない」を上回り、45年間で最多となった。・在留外国人の増加を背景に、外国人との接触も増加傾向にある。ただ、外国との交流意欲は低下している。・仕事と余暇のどちらを優先するかについては、70年代には《仕事優先》が最も多かったが、80年代から90年代前半にかけ《仕事・余暇両立》が増加し最多になった。・職場、親せき、近隣の3つの人間関係において、密着した関係を望む人が長期的に減少している。・生活全体の満足度は長期的に増加している。今回は「満足している」が39%で、「どちらかといえば、満足している」を含めると92%の人が満足している。全体を通してみると、この45年間で、どの質問領域でも意識が変化しているが、特に家庭・男女関係で変化が大きい。一方、「年上の人には敬語を使うのは当然だ」「日本に生まれてよかった」などは多くの人に共有されている意識であり、割合もほとんど変化していない。
著者
山田 潔 大野 敏明
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.68, no.11, pp.58-82, 2018 (Released:2018-12-20)
被引用文献数
1

共生社会実現の起爆剤として期待されるパラリンピック。その放送は、障害者にどう視聴され、受け止められているのであろうか。NHK放送文化研究所では2018年3月~6月にかけ、障害者を対象にしたWEB調査を実施。パラリンピック放送の視聴実態、放送から受けた影響、字幕放送・解説放送・手話放送といった「ユニバーサル放送」の評価などを聞いた。調査は、知的障害、精神障害等を含む障害者全般に対して行ったが、本論考ではパラリンピックの主たる参加対象である肢体不自由、ユニバーサル放送の主たるサービス対象である視覚障害、聴覚障害の3障害に該当する「身体障害者」の調査結果を抜粋。自由回答やインタビューから得られた“生の声”と合わせ、東京パラリンピックのコンテンツ制作や、共生社会実現に向けた、メディアのあり方への示唆を探った。調査結果は、回答者がWEBでの調査に回答できる人に限られるなど、代表性があるものとは言えない。しかし、パラリンピックの放送を巡る同様の調査に先行事例がないことから、放送事業者である我々にとっては有意義なものとなった。特に、障害者のメディアおよびユニバーサル放送の利用や評価は、デジタルメディアの活用も含め、障害者の情報アクセシビリティ向上に向けての参考となり、パラリンピック放送に対する賛否両論の多様な意見は、メディアが共生社会実現に寄与していく上で、示唆に富んだものであった。
著者
宇治橋 祐之 小平 さち子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.68, no.6, pp.48-77, 2018 (Released:2018-07-20)

NHK放送文化研究所では、全国の学校現場におけるメディア環境の現状を把握するとともに、放送・ウェブ・イベントなどNHK教育サービス利用の全体像を調べるために、「教師のメディア利用と意識に関する調査」を2013年度から実施している。2017年度は全日制、定時制、通信制課程の高校と中等教育学校を対象として、教師個人の調査を実施した。本稿では全日制(理科、地歴科、国語科、外国語科)の結果を中心に、中等教育学校後期課程(理科、地歴科)で特徴的な結果も紹介する。調査結果から、インターネットに接続したパソコンをプロジェクターなどの提示機器に投影できる教室のメディア環境は、課程・教科に関わらず整いつつあることがわかった。メディア教材の利用は、外国語、理科、社会、国語の順に多く、理科と社会では放送番組などの動画教材の利用が多く、外国語と国語ではラジオやCDなどの音声教材の利用が多い傾向がみられた。『NHK高校講座』またはNHK for Schoolの、放送番組あるいはウェブサイトの動画などのコンテンツを利用した「NHK高校講座・NHK for School教師利用率」は全日制理科で25%、全日制社会で12%であった。また、いわゆるアクティブ・ラーニング「主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善」をよく実施していると回答した教師のほうが、メディアの機器やメディア教材の利用が活発であることも明らかになった。
著者
田中 孝宜
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.68, no.8, pp.74-81, 2018 (Released:2018-09-20)

イギリスの公共放送BBC存続の基本法規に当たる特許状が2017年更新され、BBCの統治システムが大きく変更された。BBC内部のBBCトラストが廃止され、BBCの監督機能が初めて外部の独立規制機関Ofcom(Office of Communications:放送通信庁)に移された。従来の商業放送に加えて、新たに公共放送BBCも監督することになったOfcomでは、放送制度・コンテンツを監督する責任者として、元BBC Newsチャンネルの責任者でアイルランドの公共放送RTEの副会長ケビン・バッカ―スト氏をヘッドハントした。バッカ―スト氏は、BBCの夜のメインニュース“News at 10”の編集長や、BBC Newsチャンネルのコントローラー(総責任者)を歴任するなど、BBC職員として長いキャリアを持つ。バッカ―スト氏のもとで、Ofcomは、BBCをどう規制・監督しようとしているのか。BBCトラスト時代と何を変えようとしているのか。2018年2月、ロンドンでバッカースト氏に話しを聞いた。
著者
桜井 均
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.69, no.9, pp.16-34, 2019 (Released:2019-10-20)

ユネスコの定義によれば、「調査報道が意味しているのは、権力の地位についている者によって意図的に隠 された問題や、混乱した大量の事実と状況を背景にして偶然に埋もれた問題を世の中に明らかにすること、そしてすべての関連した事実を分析し、公衆に公開することである」1)。本論では、こうした調査報道の一ジャンルとして、映像と音声を用いるテレビの「調査ドキュメンタリー」を考察の対象とする。むろん、社会的な事象の背後に隠された真実を公共圏に持ち出す役割という点では、活字媒体と変わらないが、メディアの特性から、対象範囲やアプローチの仕方に基本的な違いがある。1970年代以降、カメラ(映像)とマイク(音声)の有機的な結合により、現実世界を自在に解剖しつつ記録することが可能になり、「調査ドキュメンタリー」がテレビの重要な機能として、時代を画する表現を獲得するようになった。それと同時に、つくり手はたえず再帰的(reflexive)な視線を保ちながら、“支配なき”と形容しうる公共性の実現をめざしてきたとも言える2)。しかし、こうして確立したテレビの「調査ドキュメンタリー」が、ソフトとハードの両面から、もはや「流行らない」と言われ、実作はたしかに減少している。それを「はやり・すたり」の問題として処理してしまっていいものか。そこで、「調査ドキュメンタリー」がどのように確立し、なにをなしえたかをあらためて「調査する」ことを試みる。
著者
荒牧 央
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.2-37, 2019

NHKは1973年から5年ごとに「日本人の意識」調査を行い、同じ質問・同じ方法で調査を繰り返すことによって、社会や経済、政治、生活など、人びとの幅広い意識を長期的に追跡している。その最新の調査結果から、結婚観、婚前交渉、女性の職業、女の子の教育など、家庭・男女関係についての結果を紹介する。家庭・男女関係は、「日本人の意識」調査の中で最も変化の大きい領域である。その変化の特徴として以下のようなことがあげられる。①全体として、男女の平等や個人の自由を認める方向へ意識が変化している。②増えるものは増え続け、減るものは減り続けるというように、同じ方向に変化している項目が多い。③世代交代によって変化している質問もあれば、時代の影響を大きく受けている質問もある。家庭・男女関係についての考え方は45年間で大きく変わったが、2000年頃からは変化が小さくなった質問も見られる。
著者
入江 さやか 西 久美子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.38-47, 2019 (Released:2019-03-20)

2018年9月6日に発生した「平成30年北海道胆振(いぶり)東部地震」では、北海道のほぼ全域の電力供給が止まり、最大で約295万世帯が停電した。テレビの視聴が困難な状況になったほか、電話の通話やインターネット接続などにも影響が出た。NHKでは、地震発生当日のメディア利用動向を把握するため、北海道全域でインターネット調査を実施した。 ■地震発生当日に利用できた端末・機器は「ラジオ」が多く、「テレビ」は68%が利用できなかった。スマートフォン・タブレット端末によるインターネット通信は、発生直後から未明(午前6時ごろまで)は40%が利用できたが、その後20%台まで下がった。 ■地震に関する情報を得るのに利用したメディアは、発生直後から未明(午前6時ごろまで)は、「ラジオ(NHK)」が多かったが、午前中から夜間にかけて徐々に下がり、その一方で「家族・友人から聞いて」が多くなった。 ■利用者が多かった「ラジオ」については、NHK・民放ともに「情報が信頼できるから」「欲しい情報が得られると思ったから」などコンテンツへの評価も高いが、「他になかったから」「電力やバッテリーの消費を節約するため」という回答も目立った。 ■知りたい情報の種類によって、ラジオやポータルサイトやアプリ、ソーシャルメディアなどを使い分けている様子がうかがえた。 ■今後の大規模災害に備え、災害時のメディアの機能確保と被災者の情報ニーズに応える情報発信の強化が求められる。
著者
村田 ひろ子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.90-101, 2019

NHK放送文化研究所が加盟する国際比較調査グループ、ISSPが2016年に実施した調査「政府の役割」の結果から、35の国・地域を比較し、日本人の政府への期待が、世界各国との比較においてどのように位置づけられるのかを報告する。「政府の責任」だと考えられている施策については、「失業者がそれなりの生活水準を維持できるようにすること」と回答した日本人が53%、「収入の少ない家庭の大学生に経済的な援助を与えること」と回答した日本人が67%で、いずれも各国の中で低い水準である。一方、「物価の安定」については9割近くに上り、各国の中では上位3分の1くらいに位置している。日本では各国と比べて、政府に対して経済面での期待が他の分野よりも大きい傾向がある。政府の支出に対する意識については、高齢者の年金を「今より増やすべき」と答えた日本人は46%となっていて、各国と比べて少ない。「防衛・軍事」については、日本を含む多くの国で「今より増やすべき」が増加していた。社会の安全を揺るがすテロ事件が世界各国で頻発するなか、テロ行為が起こる可能性がある場合に、警察が電話の会話を盗聴することの許容度についても尋ねた。日本で盗聴が「許される」という人は、2006年調査の47%から59%へ増えたほか、イスラム過激派によるテロが相次いだフランスでは77%から91%に増えていた。
著者
村田 ひろ子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.90-101, 2019 (Released:2019-08-20)

NHK放送文化研究所が加盟する国際比較調査グループ、ISSPが2016年に実施した調査「政府の役割」の結果から、35の国・地域を比較し、日本人の政府への期待が、世界各国との比較においてどのように位置づけられるのかを報告する。「政府の責任」だと考えられている施策については、「失業者がそれなりの生活水準を維持できるようにすること」と回答した日本人が53%、「収入の少ない家庭の大学生に経済的な援助を与えること」と回答した日本人が67%で、いずれも各国の中で低い水準である。一方、「物価の安定」については9割近くに上り、各国の中では上位3分の1くらいに位置している。日本では各国と比べて、政府に対して経済面での期待が他の分野よりも大きい傾向がある。 政府の支出に対する意識については、高齢者の年金を「今より増やすべき」と答えた日本人は46%となっていて、各国と比べて少ない。「防衛・軍事」については、日本を含む多くの国で「今より増やすべき」が増加していた。社会の安全を揺るがすテロ事件が世界各国で頻発するなか、テロ行為が起こる可能性がある場合に、警察が電話の会話を盗聴することの許容度についても尋ねた。日本で盗聴が「許される」という人は、2006年調査の47%から59%へ増えたほか、イスラム過激派によるテロが相次いだフランスでは77%から91%に増えていた。
著者
村上 圭子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.2-25, 2018

2018年1月から、総務省の「放送を巡る諸課題に関する検討会」では新たな分科会が立ちあがった。これは、2017年11月末に提出された「規制改革推進に関する第2次答申」に示された電波制度改革を受けたもので、テーマは「放送サービスの未来像を見据えた周波数有効活用に関する検討」である。第2次答申をまとめた内閣府の規制改革推進会議の問題意識は、IoT活用や5Gの整備等によって、超高齢化、過疎化する日本の課題解決を図っていくために、通信サービスにも使い勝手の良い放送用帯域を別な用途でより有効活用できないか、というものである。議論の中では、放送事業者から周波数を開放したい推進会議の委員や有識者と、引き続き周波数を確保し放送サービスを維持発展させていきたい放送事業者と総務省の間で対立する場面もみられた。本稿ではまず、規制改革推進会議で"放送"がどのように扱われてきたのかを議事録を手がかりにつぶさに見ていく。その上で、放送サービスの未来像について、地上4K・8K、同時配信と共通プラットフォームという観点から考えていく。最後に、現在総務省が未来のビジョンを考える上で想定する2040年にも視野を広げて放送のあり方を考えていく。なお本稿は、2013年からシリーズ連載してきた「「これからのテレビ」を巡る動向を整理する」をリニューアルした新たなシリーズである。
著者
大森 淳郎
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.69, no.11, pp.2-25, 2019

『国民歌謡』『詩の朗読』『物語』等々、1920~30年代の大阪中央放送局を舞台に奥屋熊郎が開拓した番組は枚挙に暇がない。野球中継やラジオ体操を初めて実現させたのも奥屋だった。この稀代の放送人・奥屋熊郎の哲学の核心は、放送の「指導性」である。当時、ラジオで最も人気が高かったのは浪花節だったが、奥屋の考えでは大衆は浪花節が好きだから浪花節の放送を聴くのではない。ラジオが放送するから浪花節を好きになるのである。「ラジオがラジオ大衆を作り出す」のである。放送によって大衆文化の向上を実現しようとした奥屋は、「(放送は)時代文化の特質を容易に変質させる力でさえある」とまで言うのだ。 だが、奥屋の「指導性」の強調の仕方に私たちはある既視感を覚える。本シリーズ第3回で焦点を当てた逓信省の田村謙治郎は満州事変から日中戦争へと向かってゆく時代の中で「ラヂオは最早、世情の流れに引き摺られてプログラムを編成する時代ではない」のであり「民衆をして追随せしむる」ものでなければならないと主張していた。 大衆文化の向上を目指す奥屋の「指導性」と、国民を戦争協力に導こうとする田村の「指導性」は、やがて近接し重なりあってゆくことになる。 奥屋が全力を傾注した慰安放送(今で言う娯楽番組)は、戦争の時代、どう変質していったのか。前編では、奥屋熊郎の出発から見てゆく。
著者
滝島 雅子 山下 洋子 塩田 雄大
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.69, no.11, pp.54-72, 2019 (Released:2019-12-20)

2019年3月に行った「日本語のゆれに関する調査」について報告する。▶第1章では、「やる」のかわりに「あげる」を使う用法について取り上げる。「植木に水をあげる」「子どもにお小遣いをあげる」「ペットの犬にえさをあげる」に関しては、「おかしくない・使う」という人が7割を超え、誤用とは言えない状況になっている。▶第2章では、気象情報で使うことばについて調査報告を行う。気温の言い方を「〇ド〇ブ」と言うか、「〇テン〇ド」と言うかを聞いたところ、「○テン○ド」を選んだ人のほうが多いという結果となった。また、「0度より低い気温」を言う場合、「氷点下」と「マイナス」のどちらを使うかを聞いたところ、「マイナス」が多い結果となったが、放送で使うことばとしては、自分で言う場合に比べ「氷点下」が多かった。▶第3章の外国語・日本語をめぐる意識については、日本人の大多数は、「(一部の人を対象にした教育ではなく)日本人全体への英語教育」、「(外国人向けの日本語教育よりも)日本人自身の外国語運用能力を高める教育の重視」を望ましいものととらえており、「(英会話には)まったく自信がない」、「小学校での英語教育には賛成」、「日本語を話す外国人が多くなった」と思っていることが明らかになった。外来語が増えることに対しては、「日本語をあいまいにすることにつながる」という意見が5割程度、「日本語を豊かにすることにつながる」という考えが4割程度になった。若い年代ほど英語(および外来語)への親和性が高く、高年層ではその反対に日本語をより重視するような傾向が見て取れる。