著者
小林 廉
出版者
公益社団法人 日本数学教育学会
雑誌
日本数学教育学会誌 (ISSN:0021471X)
巻号頁・発行日
vol.104, no.5, pp.16-25, 2022-05-01 (Released:2023-05-01)
参考文献数
11

本研究の目的は,「仮説検定の考え方」の創出を図るための教材と手立てを提案し,それらに対する生徒の実態の一端を明らかにすることを通して,「仮説検定の考え方」の創出を図る学習指導について示唆を得ることである.そのために,高校生の課題研究を文脈とする教材を用いた授業実践と,そこで観測事象だけでなくそれ以上に極端な事象が起こる確率を自力で求めた生徒へのインタビュー調査を実施した.主な成果として,次の2 点の示唆を得た.第1に,課題研究を文脈とする教材は,研究結果に疑いをかける「指導教員の問い」によって必要性を伴った批判的な考察を生じさせ,主張の妥当性について批判的に考察していこうとする態度への変容を促すことである.第2 に,観測事象だけでなくそれ以上に極端な事象が起こる確率を用いることには困難が生じるが,それができるためには,何を主張したいのかという目的意識が明確であり,その主張にとっての「より良い結果」を想定でき,それが偶然に起きては主張できなくなるという認識が必要になるということである.
著者
長尾 篤志
出版者
公益社団法人日本数学教育学会
雑誌
日本数学教育学会誌 (ISSN:0021471X)
巻号頁・発行日
vol.91, no.3, pp.10-17, 2009-03-01
参考文献数
8
被引用文献数
2
著者
長崎 栄三 西村 圭一 二宮 裕之
出版者
日本数学教育学会
雑誌
日本数学教育学会誌 (ISSN:0021471X)
巻号頁・発行日
vol.97, no.5, pp.11-20, 2015

2014(平成26)年7月にイギリスで「算数・数学教科書の研究と開発に関する国際会議(ICMT2014)」が開催された.算数・数学教科書の研究と開発に焦点を当てた国際会議としては初めてのものである.本稿においては,このICMT2014を通して,国際的な視野から,算数・数学教科書のあり方,開発状況,ICT活用などについて考察する.この会議では,3日間に,全体講演・シンポジウムが4件,口頭発表が79件あった.口頭発表は,次の七つの分科会に分けられていた.1)教科書研究,2)教科書分析,3)教科書比較,歴史,4)教科書使用,5)教科書開発,6)教科書へのICTの統合,7)数学教科書における他学科,他学科の教科書における数学.これのうち,全体講演,教科書の開発,ICT活用などについて紹介するとともに,算数・数学教科書とその研究のあり方,すなわち,算数・数学教科書は知識だけではなく思考の材料としても構成されることがあり,デジタル教科書を考える視点は協働と相互作用にあるということ,そして教科書のグローバル化などについて論じた.
著者
田中 義久 上山 健太 山上 佳男
出版者
公益社団法人 日本数学教育学会
雑誌
日本数学教育学会誌 (ISSN:0021471X)
巻号頁・発行日
vol.103, no.1, pp.2-10, 2021-01-01 (Released:2022-01-01)
参考文献数
16

本研究の目的は,「17段目のなぞ」を原題とし,高等学校の数列単元における発展的な探究課題を開発することである.このために,「17段目のなぞ」の特徴である周期性や,この教材に内在する条件を考察した.その結果,隣接三項間漸化式の係数を一般化し,隣接三項間漸化式の係数変化による周期性の違いを探究する課題として「17段目のなぞの発展」が開発された. 開発された探究課題「17段目のなぞの発展」は隣接三項間漸化式の係数を変化させることで,漸化式毎に周期の長さや「型」が異なることや,そこに現れる規則性を考察できるものである.この探究課題には,漸化式や整数の性質といった高等学校で新たに習得した数学を活用して理解できるよさや,原題である「17段目のなぞ」を周期の観点からより深く理解できるよさがある.加えて,原題を発展的に探究する過程を通じて「集合による統合」や「拡張による統合」という統合の考えを学ぶことができる特徴をもつ.
著者
田中 英海
出版者
公益社団法人 日本数学教育学会
雑誌
日本数学教育学会誌 (ISSN:0021471X)
巻号頁・発行日
vol.104, no.4, pp.3-14, 2022-04-01 (Released:2023-04-25)
参考文献数
10
被引用文献数
1

本研究の目的は,倍の意味理解を促すために,基準量と比較量を入れ変えると二量の関係を表す数が互いに逆の関係になるという基準量交換の考えに焦点を当てた教材開発,授業実践を行い,児童の思考の様相を考察することである. 第4学年を対象に,基準量を求める比の第三用法の場面において白衣の帽子のゴムを取り変える文脈で授業を行った.その結果,元のゴムの長さを1とみて伸びたゴムの長さを3倍とみる見方と,伸びたゴムの長さを1とみて元のゴムの長さを1/3とみる見方が生まれた.1/3の解釈では,整数倍のテープ図,数直線との比較を通して,3等分した量から,1を3等分した1/3を1つ分として1/3,2/3,3/3とする割合の見方へ変わっていった.さらに1/3を3倍と同じように,割合の見方で比較する発言を経て,二量の関係を表す3倍と1/3が互いに逆の関係になることを捉えていった.基準量交換の考えを数直線で比較しながら説明することを通して,倍の意味を割合の見方で解釈している様子が捉えられた.