著者
永井 聖剛 Carl Gaspar
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第7回大会
巻号頁・発行日
pp.24, 2009 (Released:2009-12-18)

自人種の顔と比較し,異なる人種の顔に対する弁別成績等が低下する(他人種効果).本効果は自人種顔への日常的な接触によって説明されるが,その生起因については不明な部分が多い.本研究では個々の顔特徴(左目,右目,左眉毛,右眉毛,左目+左眉毛,右目+右眉毛,鼻,口)で他人種効果が生じるかを調べ,この効果の生起に重要な役割を果たす顔特徴を同定した.日本人被験者18名が参加し,顔全体,あるいは個々の顔特徴のみが提示され,個人弁別課題(10AFC)を自人種顔/他人種顔セットに対して行った.実験の結果,顔全体を提示した場合に加えて,左目,右眉,鼻の3つの特徴を個別に提示した場合にも,他人種効果が生じることが示された.これまで他人種効果は布置的な(configural)処理が関していると示唆されていたが,局所的な特徴の貢献に関しては報告されたことが無く,本結果は他人種効果の生起メカニズムに理解に重要な知見を提供するものといえよう.
著者
井関 龍太 川崎 惠里子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第7回大会
巻号頁・発行日
pp.105, 2009 (Released:2009-12-18)

過去の出来事を思い出すときには,自分自身がその場にいて実際に周囲の状況を見ているかのように思い出す場合と(一人称の視点),第三者の立場に立って外部から自分を見つめているかのように思い出す場合(三人称の視点)がある。このような想起の視点は,現在の自己との整合性が低い記憶を想起する場合には三人称になりやすいことが報告されている。このことから考えると,現在からより離れた時点の記憶を想起するときほど,三人称の視点で想起されやすいと思われる。そこで,本研究では,手がかり語のイメージ性を操作して自伝的記憶の想起を求めた。一般に,イメージ性の高い語は,より過去の出来事を想起させることが知られている。実験の結果,高イメージ語は,低イメージ語よりも,より過去の出来事を想起させた。しかし,想起の視点は,手がかり語の違いによって有意には異ならなかった。想起の鮮明性は,高イメージ語の場合に高い傾向が見られた。
著者
川村 智 小森 政嗣
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第7回大会
巻号頁・発行日
pp.111, 2009 (Released:2009-12-18)

顔の魅力評定については、集団の平均的な顔に近いものが魅力的であると評価されるとする平均仮説と、左右が対称に近いものが魅力的であると評価されるとする対称性仮説がある。本研究では、男女それぞれ48枚の顔写真について80の形態的特徴点座標を、顔の形態分析のためのデータとするとともに、この座標データから魅力評定実験のための線画を作成した。座標データは、Moophometricsの手法を用いて標準化した。この方法によって変換されたデータでは、特徴点の分布が多次元正規分布になり、従来のような特定の部位関係、例えば両眼の間隔など、を基準とする標準化において基準点から遠い特徴点の寄与が大きくなるという問題を削減できる利点がある。また、魅力の評定実験では、精度を高めるため、実験協力者に一対比較を行ってもらった。測定された平均性と左右対称性を独立変数とし、評定された魅力を従属変数とする順位回帰分析を行った。
著者
北神 慎司 菅 さやか KIM Heejung 米田 英嗣 宮本 百合
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第7回大会
巻号頁・発行日
pp.19, 2009 (Released:2009-12-18)

日本では,特に,トイレを表すマークにおいて,男女の区別は「形(男女それぞれのシルエット)」によって表されるだけでなく,男性用には青などの寒色系,女性用には赤などの暖色系の色を用いることが多い.このように,色によって,トイレの男女を区別するというデザインは日本特有のものであり,欧米ではあまり見られない.そこで,本研究では,日本人の大学生を対象として,トイレマークの認知に,色や形がどのような影響を及ぼすかについて,ストループ様課題を用いて検討した.その結果,ピクトグラム(トイレマーク)条件では,赤,ピンク,青,黒の各彩色条件において,男女の意味判断に要する反応時間に差が見られた(暖色系は「男>女」,寒色系は「男<女」).これらの結果は,日本人にとって,トイレマークの男女を識別する際の情報として,色が非常に重要であることを示唆するものと考えられる.
著者
重森 雅嘉 齋藤 友恵 館林 美月 水谷 文 増田 貴之 芳賀 繁
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第7回大会
巻号頁・発行日
pp.134, 2009 (Released:2009-12-18)

作業時に対象を指差し確認内容を呼称すると、ヒューマンエラーが低減できる。これは指差呼称がいくつかのエラー防止機能を持つためといわれている。本研究では、指差の反応遅延による焦燥反応防止機能、呼称による記憶保持機能、指差による注意の焦点化機能を、ストループ様の数値比較課題(指差あり、なし、反応保留条件)、n-back課題(呼称あり、なし、構音抑制条件)、数値探索課題(指差あり、なし条件)を用いて検証した。その結果、数値とフォントの大小が拮抗するストループ様課題では、指差なし条件のエラー率が他より高く焦燥防止機能が確かめられた。n-back課題では、n=1とn=2において呼称あり条件のエラー率が他より低く記憶保持機能が確認されたが、n=3において呼称ありとなし条件のエラー率が逆転し、課題の難易度による効果の違いが示唆された。数値探索課題の条件によるエラー率の差は明確ではなく検討の余地を残した。
著者
大庭 真人 岡本 雅史 飯田 仁
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第7回大会
巻号頁・発行日
pp.74, 2009 (Released:2009-12-18)

会話において,話し手の発話の分節に合わせ聞き手が動作を行う結果として話し手と聞き手との動作の間に同調が観られる事例が報告されている(Kendon, 1990).本研究では,コンテンツユーザとしての観客が漫才においてどのように笑いを享受するのかを分析するため,漫才師による公演を漫才師・観客ともに撮影収録した.漫才師2組に2本ずつの漫才を行ってもらい,230秒と298秒,357秒と262秒の映像音声データを収録した.このデータから,観客の同調現象に着目し,分析した.観客の漫才師に対する反応は「笑う」「拍手」をするといった非常に制限されたチャネルを通じて行われているようだが,実際には笑うという観客が同時に起こす反応に加え,漫才師が笑わせる合間の姿勢を変える動作においても,複数の観客間に同調現象が観察された.これは会場の離れた位置の観客間でも観察されており,漫才師に起因して生じることが分かった.
著者
佐藤 智明
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第7回大会
巻号頁・発行日
pp.29, 2009 (Released:2009-12-18)

エントロピーの概念は分かりにくい概念のひとつである.そのため,熱力学の教育においてその概念をどのように表現するかということは非常に重要である.本報では,抽象的なエントロピー概念を説明する際に最も重要である言語表現に着目した.ここでは,これまで一般的に用いられてきたエントロピー概念を表す言語表現について調査し,特に熱力学的エントロピー概念を表現する場合の言語表現の問題点について検討した.更に,実際の分子運動を表現した粒子のアニメーションを制作し,運動範囲(体積)や粒子速度(温度)の異なる8種類の映像を被験者に見せ,それぞれ粒子の運動から計算によって得られるエントロピー値による順位と代表的な数種類の言語表現によって順位づけされた映像の順位との相関性について検討した.その結果,「拡散の度合い」と「捕まえにくさの度合い」という言語表現がエントロピー値と相関が高いことが分かった.
著者
光藤 宏行 中溝 幸夫
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第7回大会
巻号頁・発行日
pp.122, 2009 (Released:2009-12-18)

跳躍眼球運動(サッカード)による網膜像の移動によって,外界が動いて見えることはない。このことは,サッカード時に視野の安定を保持する機構が働くことを示唆している。近年,この視野安定が失われる新しい現象が報告された(光藤,2008,日本視覚学会夏季大会)。両眼で輝度差のある静止刺激をダイコプティックに呈示し,それを見ながらサッカードを行うと,一方の眼の像は静止して見えるがもう一方の眼の像はサッカードに伴って動いて知覚される。本研究では,この運動錯視がサッカードによる見えの抑制で説明できるかを検討するために,刺激呈示中に刺激の一部を短時間変化させ,その検出率を測定した。その結果,さまざまな刺激条件で類似したサッカード抑制がみられた。したがって,光藤(2008)が報告した運動錯視は従来から知られているサッカード抑制では説明できず,視野の安定にはいまだ知られていない視覚過程が寄与していることを示唆する。
著者
楠見 孝
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第7回大会
巻号頁・発行日
pp.12, 2009 (Released:2009-12-18)

本研究の目的は,ホワイトカラーの実践知と批判的思考の関係を明らかにするために29人のホワイトカラーに対して,質問紙調査をおこなった.評定結果に基づいて,仕事に関する実践知の構造を,テクニカルスキル,ヒューマンスキル,コンセプチュアルスキルに分けた.そして,それらのスキルの獲得は,省察と知識変換といった思考活動,批判的思考態度と柔軟性といった学習の態度が支えていることを明らかにした.さらに知識のリソースとして,自己経験,上司同僚の役割が大きいことを明らかにした.あわせて,対照群である教員と比較検討した.