著者
芳賀 繁
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.32, no.7, pp.954-960, 2012 (Released:2013-02-12)
参考文献数
7
被引用文献数
1

事故が起き,被害が生じた場合,わが国では警察が捜査して責任者を特定し,刑事裁判で裁くということが行われている.本稿では,ヒューマンエラーと刑事罰の現状を紹介し,ミスを結果論で裁くことが安全性向上に寄与しないどころか,マイナスの作用をすることを解説する.東日本大震災などで,マニュアルを超えた臨機応変な対応の重要性が再認識されるに至った.安全文化の一要素に「柔軟な文化」があり,それは近年ヒューマンファクターズの分野で注目される「レジリエンス工学」の概念に通じる.組織や個人の柔軟性,レジリエンスを支えるためにも,ヒューマンエラーを結果論で処罰しない「公正な文化」が必要なことを論じる.
著者
廣川 佳子 芳賀 繁
出版者
産業・組織心理学会
雑誌
産業・組織心理学研究 (ISSN:09170391)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.173-187, 2023 (Released:2023-05-24)

The purpose of this study was to develop a scale to measure the permeation of a management philosophy among organizational members. For this scale, we assumed a three-factor structure of “cognition,” “empathic understanding,” and “behavior”, referring to previous studies. As a preliminary survey, 35 scale items were developed based on previous studies and interview surveys. Questionnaire surveys were conducted at three locations of two companies. Based on the analysis of this questionnaire, 17 items were selected for a pilot version of the Management Philosophy Scale. We commissioned a research company to conduct a web-based survey of regular employees (from general employees to managers) working in companies with management philosophies (n=521) . As a result of the exploratory factor analysis, three factors (12 items) were extracted:“cognition,” “empathic understanding,” and “behavior”. Reliability showed high internal consistency with α=.80−.89. A model assuming the superordinate concept of “permeation of management philosophy” commonly affecting “cognition,” “empathic understanding,” and “behavior” (second-order factor structure model) was adopted, and its structural validity was verified. The relationships between the scale and affective commitment and intrinsic motivation were examined. The Criterion-related validity of the scale was verified.
著者
重森 雅嘉 齋藤 友恵 館林 美月 水谷 文 増田 貴之 芳賀 繁
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第7回大会
巻号頁・発行日
pp.134, 2009 (Released:2009-12-18)

作業時に対象を指差し確認内容を呼称すると、ヒューマンエラーが低減できる。これは指差呼称がいくつかのエラー防止機能を持つためといわれている。本研究では、指差の反応遅延による焦燥反応防止機能、呼称による記憶保持機能、指差による注意の焦点化機能を、ストループ様の数値比較課題(指差あり、なし、反応保留条件)、n-back課題(呼称あり、なし、構音抑制条件)、数値探索課題(指差あり、なし条件)を用いて検証した。その結果、数値とフォントの大小が拮抗するストループ様課題では、指差なし条件のエラー率が他より高く焦燥防止機能が確かめられた。n-back課題では、n=1とn=2において呼称あり条件のエラー率が他より低く記憶保持機能が確認されたが、n=3において呼称ありとなし条件のエラー率が逆転し、課題の難易度による効果の違いが示唆された。数値探索課題の条件によるエラー率の差は明確ではなく検討の余地を残した。
著者
芳賀 繁 水上 直樹
出版者
一般社団法人 日本人間工学会
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.71-79, 1996-04-15 (Released:2010-03-12)
参考文献数
10
被引用文献数
19 83 12

日本語版NASA-TLXを用いて3種類の室内実験課題のワークロード測定を行ったところ, いずれの課題においても, 困難度の変化に感度よく対応したTLX得点が得られた. また, 尺度の重要度に関する一対比較から算出される尺度の重みが課題ごとに異なるパターンを示すことから, 3つの実験課題は作業負荷の面で相互に性質の異なるものであったことが検証され, TLX得点が性質の異なる種々の作業に適用可能であることが確認された. さらに, 相関分析や重回帰分析を行って, その結果をオリジナル版のNASA-TLXに関する報告と比較した. 最後に, 一対比較を省略した簡便法から得られる各種指標を推定したところ, 被験者間の変動は正規のNASA-TLX得点であるWWLと同様またはむしろやや小さく, WWLや“全体的負荷”との相関も高いことが明らかになった.
著者
芳賀 繁
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. SSS, 安全性 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.109, no.151, pp.9-11, 2009-07-17
被引用文献数
2

安全技術の導入によりリスクが低下したと認知すると,人間の行動はリスクを高める方向に変化する可能性がある.このリスク補償行動の発生メカニズムをモデル化したものがWildeのリスクホメオスタシス理論である.Wildeによると,ドライバーは自らが持つリスクの目標水準と知覚された交通状況のリスクを比較して両者が等しくなるように行動を調節する.リスクホメオスタシス理論には賛否両論あるが,自動車の安全技術にはおそらくリスク補償行動が伴うであろう.したがって,自動車安全技術の開発と導入にあたっては,行動と技術のインタラクションを通した「ネットとしての」安全性を追求しなければならない.
著者
芳賀 繁
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.63, no.10, pp.708-712, 2021 (Released:2021-10-10)
参考文献数
8

レジリエンスエンジニアリングに基づく安全マネジメントとして,はじめにレジリエンスの基本的4能力とされる対処,監視,学習,予見を高めるための施策を解説する。次に,安全マネジメントの現状がマニュアル主義に陥り,ヒューマンエラー対策の悪循環を生んでいることを指摘した上で,システムのレジリエンスを高めるためにはセーフティIIを目指す安全マネジメントが必要であることを説明する。その実践例として,「うまくいっていることから学ぶ」取り組み,チームで対処する力を高める取り組み,現場第一線が自律的に動く能力を高める研修などを紹介する。
著者
芳賀 繁子
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.14-23, 1990-05-10 (Released:2017-08-01)

『竹取物語』の最終段にかかわる羽衣説話の話型の超克について考察した。具体的には作品内における、《不死の薬》とくかぐや姫の昇天》という二つの素材の表現のされ方を検討した。またその一方で、物語に関わりがあるとされる白楽天の詩句を、『竹取』周辺の作品にも手を拡げて検討することによってその受容を想定し、物語において最終的に嫦娥伝説の話型とその白詩が、どのように投影し、関係し合ったのかということを考察してみたのである。
著者
重森 雅嘉 齋藤 友恵 館林 美月 水谷 文 増田 貴之 芳賀 繁
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.134-134, 2009

作業時に対象を指差し確認内容を呼称すると、ヒューマンエラーが低減できる。これは指差呼称がいくつかのエラー防止機能を持つためといわれている。本研究では、指差の反応遅延による焦燥反応防止機能、呼称による記憶保持機能、指差による注意の焦点化機能を、ストループ様の数値比較課題(指差あり、なし、反応保留条件)、n-back課題(呼称あり、なし、構音抑制条件)、数値探索課題(指差あり、なし条件)を用いて検証した。その結果、数値とフォントの大小が拮抗するストループ様課題では、指差なし条件のエラー率が他より高く焦燥防止機能が確かめられた。n-back課題では、n=1とn=2において呼称あり条件のエラー率が他より低く記憶保持機能が確認されたが、n=3において呼称ありとなし条件のエラー率が逆転し、課題の難易度による効果の違いが示唆された。数値探索課題の条件によるエラー率の差は明確ではなく検討の余地を残した。
著者
澤 貢 宇賀神 博 大久保 堯夫 芳賀 繁
出版者
社団法人日本経営工学会
雑誌
日本経営工学会論文誌 (ISSN:13422618)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.202-210, 2001-10-15
被引用文献数
5

本研究の目的は運転時間の長さが運転士に及ぼす影響について, 妥当さと簡便さを併せもつ新たな質問票を開発することである.研究方法は一継続作業時間が100分, 200分並びに400分のシミュレータによる列車運転作業実験に適合した主観データを用い, 負担評価に表れた因子を分析するとともに, 抽出した各因子とパフォーマンスおよび生理・心理反応との関連性を検討した.実験課題は運転時刻表にしたがい最高速度140km/hの運転を行うことであり, 1区間23分の周回路線を5周, 9周または17周することにより, 運転時間が約100分, 200分, 400分となるように設定した.被験者は20歳から24歳の男子大学生計19名とした.研究の結果, 作業経過に伴う自覚感として, (1)眠気・疲労, (2)負担に抗する努力, (3)あき・集中困難の3因子の重要性を指摘した.「眠気・疲労」と「あき・集中困難」は作業継続に伴う蓄積された負担の抽出に, 「負担に抗する努力」は注意や努力の心的エネルギーの抽出に有効である.現場への適用を容易にするために, 前記3因子を代表する項目を各々2個, 計6項目からなる質問票を作成し, 提案した.
著者
増田 貴之 芳賀 繁
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 : 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.223-228, 2009-05-01

本稿では,運転行動の認知モデルである,「リスクホメオスタシス理論(risk homeostasis theory)」,「ゼロ-リスク理論(zero-risk theory)」,そして,両モデルの統合を試みた「TCIモデル(task-capability interface model)」を解説する.また,近年の自動車技術の高度化に伴う負の適応(Negative Adaptation)の問題についても解説する.最後に,有効な安全対策を行うにはどうすればよいかを議論する.本稿では,自動車ドライバの研究について解説するが,特に,負の適応の問題については,自動化が進む自動車以外の分野においても示唆をもつものと考える.