著者
新開 瑞希 中川 悠 馬場 政典 松田 有加子 佐藤 理加子 高野 日南子 鈴木 拓 真柄 仁 井上 誠
出版者
日本顎口腔機能学会
雑誌
日本顎口腔機能学会雑誌 (ISSN:13409085)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.128-129, 2023 (Released:2023-11-22)

I.目的加齢に伴う口腔内の生理学的変化の一つとして,唾液分泌量の減少が挙げられる.我々は,本学会第66回,67回学術大会において,唾液分泌量の減少が摂食嚥下動態に及ぼす影響について報告した.今回,健常成人を対象に,塩酸ピロカルピン誘発性の唾液分泌量の増加が咀嚼嚥下に及ぼす影響を検証した.
著者
川田 里美 TiTi Chotirungsan 筒井 雄平 真柄 仁 辻村 恭憲 井上 誠
出版者
日本顎口腔機能学会
雑誌
日本顎口腔機能学会雑誌 (ISSN:13409085)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.106-107, 2023 (Released:2023-11-22)
参考文献数
2

I.目的摂食嚥下障害において,嚥下惹起遅延は主たる病態のひとつである.過去の報告では,麻酔下ラットにおける塩化カリウム(KCl)の喉頭滴下による嚥下反射誘発効果は塩化ナトリウム(NaCl)に比して効果的である1),ヒトではKClを適用した時の随意嚥下間隔時間はNaClよりも短かった2)と報告している.しかし,カリウムイオンがどのように嚥下開始に関与しているかは明らかではない.本研究では,生理学的手法を用いてカリウムイオンが嚥下開始に及ぼす影響について,ラットを対象として評価した.
著者
村本 和世
出版者
日本顎口腔機能学会
雑誌
日本顎口腔機能学会雑誌 (ISSN:13409085)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.1-9, 2016 (Released:2017-03-17)
参考文献数
38

我々は食物を摂取するとき,多くの感覚を駆使して,食べ物の情報として統合している.この情報取得は,本来食物を識別し,摂取の可否を判断するために進化してきたと考えられるが,ヒトにおいて単なる摂食可否の分析から,美味しさを楽しむという別の情報処理が加わってきた.美味しさの基本となる情報,“風味”は食物の味だけでなくにおいや舌触りのような食感をも加えた総合感覚であり,特に味覚と嗅覚との感覚間相互作用が風味形成では重要となる.しかし,風味形成の脳内情報処理機構や感覚間相互作用が行われている脳領域については未だはっきりとはしていない.本稿では,風味の構成要素として重要な味覚と嗅覚の役割,受容機構,伝導経路,脳内情報処理機構などについて簡単に解説する.さらに,風味形成における“島皮質”の役割についての我々の研究の一端を紹介し,食に関する感覚・風味について考察してみたい.
著者
大川 穣 松本 大慶 大川 周治
出版者
日本顎口腔機能学会
雑誌
日本顎口腔機能学会雑誌 (ISSN:13409085)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.87-101, 2019 (Released:2021-01-30)
参考文献数
66

睡眠時ブラキシズム(Sleep Bruxism:SB)は睡眠障害の一病態とされている.また,SBは睡眠障害に関連して発症する顎運動異常であることから,睡眠障害を改善することによりSBは改善されるのではないかと考えた.睡眠障害に対する治療には,一般的に薬物療法(睡眠薬や抗うつ薬など)が実施されている.しかし,薬物療法は副作用が強いことから,補完療法である香りによる嗅覚刺激に注目した.本研究の目的は,香りを応用した嗅覚刺激がSBに及ぼす影響を明らかにすることである.健常有歯顎者26名(男性21名,女性5名,平均年齢24.8±3.2歳)を被験者として選択し,実験開始前に夜間睡眠時ポリソムノグラフ(PSG)を用いて26名全員がSBを発現することを確認した.嗅覚刺激にはラベンダー(LA),およびコントロール(CO)として脱イオン水を用いた.被験者26名をLA群とCO群にランダムに振り分け,嗅覚刺激を交互に付与するクロスオーバー試験を行った.初夜効果の影響を排除するとともに,Baselineのデータを採取する目的で,3夜連続によるPSGおよび携帯型高精度筋電計を用いた咬筋EMG測定を行った。クロスオーバーする際に各条件の持ち越し効果を消去するため,1週間のWashout期間ののち,嗅覚刺激の種類を入れ替えて2夜連続で,同様にPSGとEMGの測定を行った.PSGの分析により睡眠変数を算出し,咬筋EMGの分析からSB event数を算出した.PSQIを用いたアンケート調査により,被験者をFeel good sleep group,Feel bad sleep groupにグループ分けし,各群のSB event数を比較,検討した.その結果,以下の結論を得た.1.ラベンダーを応用した嗅覚刺激は6項目中5項目の睡眠変数において,睡眠状態の有意な改善を示した.2.BaselineおよびCO群と比較して,LA群のSB event数は有意に減少した.以上のことから,ラベンダーを応用した嗅覚刺激により睡眠状態が改善し,その結果として,睡眠時ブラキシズムの抑制効果が示された.3.PSQIによる主観的な睡眠の良,不良感とは関係なく,ラベンダーを用いた嗅覚刺激によりSB event数は減少する傾向が示された.
著者
石亀 勝 三浦 廣行 佐藤 和朗 古町 瑞郎 益田 勉 石川 富士郎
出版者
日本顎口腔機能学会
雑誌
日本顎口腔機能学会雑誌 (ISSN:13409085)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.133-143, 1998-03-31 (Released:2010-10-13)
参考文献数
32
被引用文献数
6 1

静的な咬合と全身状態との関係についての報告は多数見受けられるが, 動的な咬合の中の等尺性収縮である噛みしめ行動が, 全身に影響を及ぼすのかについて, 明確な見解は得られていない.そこで本研究では, 特に下顎安静時, 咬合時と, 随意性努力で噛みしめを行った場合について, 体調節機構, 特に平衡調節に影響を与えるか否かについて重心動揺を測定し, 検討した後, 以下の結論を得た.1.閉眼時における下顎安静時と100%噛みしめ時と比較して, 咬合時, 10%噛みしめ時, 50%噛みしめ時の方が, 重心の移動距離および移動速度が小さくなる傾向が認められた.2.重心移動から求められた各種面積に関しては, 1名を除いて咬合時, 10%噛みしめ時, 50%噛みしめ時のいずれかが小さな値を示す傾向がうかがわれた.3.重心は, 全体的に後方へ偏位する傾向が認められた.4.下顎安静時と咬合時におけるわずかな顎位の変化量では, 重心動揺の各測定値には有意な差が認められなかった.
著者
草野 寿之 松井 藍有美 大川 周治 奥津 史子 松川 高明 豊田 有美子 根来 理沙 頼近 繁 濵坂 弘毅 眞木 信太郎 遠藤 舞
出版者
日本顎口腔機能学会
雑誌
日本顎口腔機能学会雑誌 (ISSN:13409085)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.145-156, 2013
被引用文献数
2

本研究の目的は,純音ないし音楽による聴覚刺激が味覚機能,特に甘味と塩味に対する味覚の感受性に及ぼす影響を明らかにすることである.<br> 実験1では,被験者として健常有歯顎者22名を選択し,純音が甘味および塩味に対する味覚閾値に及ぼす影響について検討を行った.聴覚刺激に用いた被検音は10Hz,4,000Hz,20,000Hzの3種類の純音とし,音の大きさは50dBに設定した.味覚閾値の検査に用いる味質は甘味(スクロース)と塩味(塩化ナトリウム)の2種類とし,各味質の濃度は0.005M,0.010M,0.050M,0.100Mとした.聴覚刺激の負荷は15分間とし,味覚閾値の検査は全口腔法を用いた.<br> 実験2では,被験者として健常有歯顎者22名を選択し,音楽が甘味および塩味の味覚に及ぼす影響についてVASを応用して検討を行った.聴覚刺激に用いた被検音には,3種類の音楽(1)癒しのモーツァルトBEST,(2)refine 身近にできる音楽療法,(3)究極の眠れるCD を用いた.味覚閾値の検査は実験1と同様に行い,さらに自覚した味の強さをVASによりスコア化し,味覚の感受性として評価した.また,今回用いた音楽の嗜好に関するアンケート調査を同一被験者に行い,音楽刺激前と後との間における味覚VAS値の差を嗜好別に算出し,音楽の嗜好が味覚の感受性に及ぼす影響についても検討した.<br> その結果,純音による聴覚刺激では味覚機能への影響は認められなかったが,音楽による聴覚刺激では味覚機能,特に甘味における味覚の感受性に影響を及ぼすことが示唆された.さらにその音楽に対する嗜好は甘味における味覚の感受性に影響を及ぼすことが示唆された.
著者
真柄 仁 林 宏和 神田 知佳 堀 一浩 谷口 裕重 小野 和宏 井上 誠
出版者
日本顎口腔機能学会
雑誌
日本顎口腔機能学会雑誌 (ISSN:13409085)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.22-32, 2013 (Released:2015-04-01)
参考文献数
23
被引用文献数
4 6

本研究は,嚥下障害のある患者と健常者の舌骨運動時間と距離,舌骨位,および食塊移送のタイミングを比較することにより,嚥下障害における病態の一つと考えられる舌骨位の下垂が嚥下機能にどのように影響しているかを検証することを目的とした. 対象は,嚥下障害を主訴として来院され嚥下造影検査を行った65名の患者(以下患者群),対照として健常被験者10名(以下健常群)とした.得られたデータから,舌尖の運動開始を基準に舌骨運動・食塊移送の時間経過を計測し,また,第四頸椎前下縁を基準として舌骨位を計測し,患者群と健常群で比較を行った. 患者群では食塊移送時間が口腔,咽頭ともに延長しており,更に食塊の咽頭流入は嚥下反射惹起を示す急速な舌骨挙上と比べ有意に先行していた.第四頸椎を基準とした場合,患者群と健常群に明らかな舌骨位の違いは認めなかった.疾患別の検索を行うと,嚥下反射以降は各疾患とも類似した舌骨の動きが認められたが,嚥下反射前は複雑な軌跡を示した.いくつかの疾患では,嚥下反射惹起前の舌骨の移動距離と移動時間に正の相関関係が認められたため,舌骨位が嚥下反射惹起遅延に影響を与えている可能性が考えられた.
著者
三浦 寛貴
出版者
日本顎口腔機能学会
雑誌
日本顎口腔機能学会雑誌 (ISSN:13409085)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.17-22, 2016 (Released:2017-03-17)
参考文献数
30
被引用文献数
1

【目的】本研究は咬合接触状態の変化が姿勢制御にどのような影響を及ぼすのかを検討するため,下顎安静位,15%噛みしめ,30%噛みしめの3条件における安定域面積,重心動揺面積,姿勢安定度評価指標を比較検討した.【対象と方法】対象は研究参加に同意を得た,顎口腔系を含む全身に異常のない健常若年男性26名とした.測定は足圧分布計を使用し各条件での安定域面積,重心動揺面積,姿勢安定度評価指標を計測した.【結果】安定域面積は各条件間において有意差を認めなかったが,噛みしめ強度が大きくなるにしたがい拡大する傾向がみられた.重心動揺面積は15%噛みしめが30%噛みしめに比べて有意な減少を認めた.姿勢安定度評価指標は15%噛みしめと30%噛みしめとの間に有意差が認められ,15%噛みしめにおいて姿勢が安定することが示された.【結語】咬合接触状態が姿勢制御に影響を与えることが示唆された.特に,噛みしめの強度によって与える影響が異なることから,動作や運動パターンによって噛みしめの役割が異なると考えられる.
著者
大川 周治 篠原 希和 橋原 真喜夫 足立 真悟 操田 利之 小村 育弘 吉田 光由 西中 寿夫 阿部 泰彦 津賀 一弘 赤川 安正 福場 良之
出版者
日本顎口腔機能学会
雑誌
日本顎口腔機能学会雑誌 (ISSN:13409085)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.165-173, 1994-12-21
被引用文献数
4

今回我々は, プロサッカーチーム・サンフレッチェ広島に所属する男性6名を対象として, キック時における咀嚼筋の活動様相をテレメータを用いて記録分析するとともに, 記録された咀嚼筋の活動様相とキック・フォームとの関連性について分析した.その結果, 個人差が存在するものの, キック時における明らかな咀嚼筋筋活動の発現が6名中2名に認められ, しかもキック動作の強弱に同調して咀嚼筋筋活動も変化した.このことから, 咀嚼筋機能とサッカーボールのキック動作との間には関連があることが示唆された.
著者
佐藤 扇 松本 敏彦
出版者
日本顎口腔機能学会
雑誌
日本顎口腔機能学会雑誌 (ISSN:13409085)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.103-114, 2007-02-28
参考文献数
65
被引用文献数
3

無難聴性耳鳴を伴う顎関節症(OMS群)と耳症状のない顎関節症(TMD群)の2群の(1)顎関節MR撮像による関節円板の動態,円板変形や関節液像の有無,(2)顎関節側方規格や頤-頭頂方向のX線写真上の下顎頭位,(3)顎関節側方X線規格写真上に転写した終末蝶番軸点の位置,(4)咬合分析による下顎頭偏位の三次元的分析などの運動論的検討に加え,(5)DPOAE(歪成分耳音響放射)による蝸牛外有毛細胞の活動様相,(6)SR(音響性耳小骨筋反射)による脳幹反射弓の遠心路の反応,(7)TM(ティンパノメトリー)によるIMP(鼓膜インピーダンス)とPRS(ピーク圧)などの他覚的耳科学検査を施行して,顎関節症に伴う耳鳴の機序を検討した.その結果,OMS群は,TMD群に比較して(1)変形円板が有意に多く,(2)顎関節側方X線規格写真上に転写した終末蝶番軸点は有意に後方位を示し,(3)咬合分析では,Lat(内外方向偏位量)をSag(前後方向偏位量)で除して算出されるベクトルLat/Sag(偏位方向)が有意な相違を示した.他方,耳科学検査ではOMS群は,TMD群に比較してSRの(4)反射閾値が患側耳で有意に高く,(5)潜時L_1が対側耳で有意に短く,(6)対側耳のPRS(ピーク圧)が有意な陰圧傾向を示した.しかし(7)DPOAEの差違はみられなかった.以上の結果から,無難聴性耳鳴を伴う顎関節症には患側下顎頭の回転半径の小さい捻れを示唆する運動論的特徴が窺われ,DPOAEに差違がみられないにも拘わらず,患側の一側耳でのみ示されたSR反射閾値の差違から,下顎頭の捻れによる関節包の侵害刺激が三叉神経節から上オリーブ核へと投射する可能性が示唆された.
著者
鈴木 善貴 大倉 一夫 重本 修伺
出版者
Japanese Society of Stomatognathic Function
雑誌
日本顎口腔機能学会雑誌 (ISSN:13409085)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.113-124, 2010
被引用文献数
1

睡眠時ブラキシズムの治療には,一般的にオクルーザルスプリントが用いられているが,その作用機序はもちろん,付与すべき咬合挙上量の明確な指標すら未だ不明である.この理由のひとつとして,夜間睡眠中の顎運動を観察,測定することが非常に困難であることが挙げられる.本研究では著者の所属分野で開発した睡眠時6自由度顎運動測定システム(口腔内センサ方式6自由度顎運動測定器-携帯型ポリソムノグラフ-AVモニタ)を用いて,睡眠中の顎運動測定を行い,仰臥位での睡眠中の咀嚼筋安静(低緊張)状態の切歯点における垂直的顎位について解析するとともに,睡眠時ブラキシズムの発現頻度との関係についても検討を行った.被験者は睡眠障害がなく,顎口腔系に異常のない個性正常咬合を有する成人12名(男性7名,女性5名,平均年齢25.5±5.7歳)を対象とし,二夜連続測定を行って,第二夜目のデータを解析対象とした.全被験者とも良好な睡眠状態であり,本測定システムによる睡眠への影響は最小限であった.平均垂直的顎位は2.9~ 6.0 mmであった.垂直的顎位は,睡眠段階の違いによる差はなかったが,Stage 1では2.5~5.0 mmのEpochが有意に多く(<i>P</i><0.05),Stage REM,2,3&4では2.5~5.0 mm,5.0 mm以上のEpochが1.0 mm未満,1.0~2.5 mmのEpochよりも有意に多く認められた(<i>P</i><0.05).垂直的顎位が2.5 mm以上を示すEpochは84.2±16.3%であった.また睡眠時ブラキシズムと平均垂直的顎位の間には負の相関が認められた(R<sup>2</sup>=0.705,<i>P</i><0.05).本研究結果よりヒトは終夜垂直的に開口状態にあり,垂直的顎位は,オクルーザルスプリントに付与すべき咬合挙上量の指標になることが示された.