著者
奥谷 浩一
出版者
札幌学院大学総合研究所
雑誌
札幌学院大学人文学会紀要 = Journal of the Society of Humanities (ISSN:09163166)
巻号頁・発行日
no.99, pp.77-110, 2016-02-01

ハイデガーが第二次世界大戦後に公刊した『ヒューマニズム書簡』は,小著でありながらきわめて重要な意味をもつ著作である。この書のなかで初めて彼自身の前期から後期への思想の「転回」が語られ,その後の後期思想のアウトラインが示されているからである。そして,これまでの西洋の伝統的な思想とその基調であったヒューマニズムを批判して,反ヒューマニズムの立場を公言する彼の議論は,彼がナチに所属していた時代との関わりにおいてもさまざまな議論を呼んでいるからである。本稿では,この小著が内包するさまざまな問題群のうちから,彼のヒューマニズム論に焦点を絞り,ハイデガーのヒューマニズム批判が意図するところを解明すると共に,1930年代からこの小著に至るまでの過程で彼の反ヒューマニズム的な立場がどのように進展してきたかを解明する。その結論として,彼の思想の展開過程のなかでは,存在,存在と人間との関わり,存在への接近の仕方などの点で思想の「転回」を示しているにも拘わらず,反ヒューマニズム論的な立場にはほとんど変化がないこと,彼が第二次世界大戦の結果としてのナチズムに対する歴史的審判の後にも強固に反ヒューマニズムの立場を維持し続けたこと,そしてこれらのことと彼のナチズムへの関与とが内的に深く,また強く通底していることが示されるであろう。
著者
小出 良幸
出版者
札幌学院大学総合研究所
雑誌
札幌学院大学人文学会紀要 = Journal of the Society of Humanities (ISSN:09163166)
巻号頁・発行日
no.97, pp.43-73, 2015-02-01

地球史において多数の種の絶滅事件は,稀なものではなく,たびたび起こる出来事である。層状チャートは,珪質物質からなる本体部と,境界にhiatus(無堆積期間)として粘土物質が少量挟在する。層状チャートの地質学的位置づけや特徴と現世の堆積環境を比較し,層状チャートの形成過程を復元していく。層状チャートの珪質部や粘土部に記録されている時間が,どのような特性を持っているかを検討していく。
著者
新田 雅子
出版者
札幌学院大学総合研究所
雑誌
札幌学院大学人文学会紀要 = Journal of the Society of Humanities (ISSN:09163166)
巻号頁・発行日
no.93, pp.105-125, 2013-02-01

本稿は、ここ数年の「孤独死」をめぐる言説的飽和状況がかならずしもその現象特性を踏まえた対策につながっていないという問題意識を動機とする、実践のためのレビューである。「孤独死」は高度経済成長を経た1970年代の日本において「都市の孤独」あるいは「老人問題」として注目され始めた現象である。1990年代以降は貧困との結びつきが問題となる一方で、単身世帯の急増にともなって「人生の閉じ方の一様態」という捉え方も社会的に受容されつつあり、「孤独死」の意味合いはさらに多層化し、「孤立死」という用語も用いられるようになってきた。2000年代後半には社会的排除の結果としての孤独な死が相次いで報道され社会問題化するなか、「孤独死(孤立死)」対策が講じられてきた。現在の「孤独死(孤立死)」対策は、その概念の多義性や現象としての捉えにくさゆえに、コミュニティの活性化による「孤立」の予防に主眼が置かれている。しかしながら現に社会的孤立状態にある人びとが抱える「死に至るほどの困難」に対して、それは有効に作用しえない可能性を指摘した。
著者
北爪 真佐夫 Masao KITAZUME
雑誌
札幌学院大学人文学会紀要 = Journal of the Society of Humanities (ISSN:09163166)
巻号頁・発行日
no.67, pp.41-72, 2000-03-25

本稿は「鎌倉御家人-とくに文士について-(1)」の続編である。鎌倉御家人を大別すれば「武士」と「文士」に分けられる。文士は員数が少ないため一括して扱われる場合が多いが, 彼等は王朝国家体制下で下級官人として職務を担当するかそうした職掌を担当する家柄に出自をもつものなのである。彼等は鎌倉幕府の成立にあたり, その傘下に加わって政所, 問注所, 侍所などの職員に就任し, 中期以降ではその子孫は評定衆, 引付衆, あるいは法曹官僚として裁判などにたずさわっているのである。このような仕事は「武士」ではよく果たし得ないものであって, 彼等によって王朝国家体制下の遺産が「武士の世界」に持ちこまれ, ひいては幕府の性格をも規定するような役割を果たしたのである。本稿では「文士」につづけて「雑色」にも注目して, そうした視座から幕府の性格を検討しようとしたものである。
著者
牧野 誠一
出版者
札幌学院大学総合研究所
雑誌
札幌学院大学人文学会紀要 = Journal of the Society of Humanities (ISSN:09163166)
巻号頁・発行日
no.99, pp.111-129, 2016-02

わが国において,知的障害のある人が高等支援学校を卒業した後に,学べる機関は極めて少ない。知的障害者を公式に受け入れる公認の大学はない。しかし,知的障害者の中には学ぶ機会を求めている人たちは大勢存在する。その人たちの希望をかなえるべく,細々とではあるが学ぶ場を工夫して生み出し,運営を続けてきた学校や組織などがある。本論では,そうした工夫によって生み出された後期中等教育卒業後の学びの場である「オープンカレッジ」「特別支援学校専攻科」「学びの作業所」についての現状を分析し,これから知的障害のある人にとって豊かに学ぶ場がどのように準備されることが望ましいのかを展望した。論文
著者
中村 裕子
出版者
札幌学院大学総合研究所 = Research Institute of Sapporo Gakuin University
雑誌
札幌学院大学人文学会紀要 = Journal of the Society of Humanities
巻号頁・発行日
no.105, pp.73-83, 2019-02-25

本稿はバルネラビリティの概念についてレビューし,ソーシャルワークに必要な視座について示唆を得ようとするものである。 福祉ニーズの多様化・複雑化,高齢化による人口減少が顕在化している近年の日本では,契約モデルによるケアの限界が指摘されている。それに代わるものとして,バルネラブル・モデルによるケアが必要であるとされている。バルネラビリティは身体的にも精神的にもすべての人にある性質であり,それを補うために社会が形成される。しかし,人が作る社会は不完全なものであるため,バルネラブルな立場に置かれる人が,必然的に存在してしまう。それ故に,バルネラブルな立場に置かれる人のケアは社会の責任であると言える。ソーシャルワーカーはこの視座に立つことが必要であり,そのような実践が人々のつながりを育むと思われる。論文Article
著者
大塚 宜明
出版者
札幌学院大学総合研究所 = Research Institute of Sapporo Gakuin University
雑誌
札幌学院大学人文学会紀要 = Journal of the Society of Humanities
巻号頁・発行日
no.107, pp.63-108, 2020-02-25

本論では,先史時代を特徴づける資源の一つである黒耀石のうち,置戸産黒耀石に注目し,道内全域の黒耀石原産地推定分析結果を集成し通時的に検討することで,北海道における当該黒耀石の利用の変遷およびその歴史的意義について考察する。 検討の結果,(1) 置戸産黒耀石は旧石器時代からアイヌ文化期(中世)まで通時的に利用されるものの,旧石器時代では利用範囲は限定的であり,縄文時代において道内全域で確認され広域化した後,続縄文時代では利用範囲が限定化され,擦文時代・オホーツク文化以降はその利用範囲が大きく縮小し点在化すること,(2) 旧石器時代・縄文時代・続縄文時代では狩猟具・加工具に用いられるのに対し,擦文時代・オホーツク文化においては利器としての利用方法の限定化,擦文時代とアイヌ文化期の間に黒耀石の非利器化という,黒耀石の利用方法の大きな画期が存在することを明らかにした。 これらの変化が生じた期間は,北海道における鉄器の流入と鉄器化の完了と対応することから,アイヌ文化期に特徴的にみとめられる黒耀石円礫の存在は,黒耀石が利器の原料としての役割を鉄器に譲っていく過程で,利器の原料から非実用的な儀器(副葬品)へと転化されていく,黒耀石を取りまく先史人類社会の変動を示していることが明らかになった。

1 0 0 0 OA 元号と武家

著者
北爪 真佐夫 Masao KITAZUME 札幌学院大学人文学部 Faculty of Humanities Sapporo Gakuin University
雑誌
札幌学院大学人文学会紀要 = Journal of the Society of Humanities (ISSN:09163166)
巻号頁・発行日
no.68, pp.1-32, 2000-09-30

わが国の元号は中国より移植したもので, 最初の元号は「大化」(645)といわれているが「大宝」とみた方が確度がたかいとみることができよう。いずれにしても249程の「元号」が今日まで使用されてきているのだが, 現在の「平成」を除けばその決定権は天皇にあったものとみてよいであろう。法制史家滝川政次郎氏は元号大権とは「天皇が元を建て, 元を改められる権利であって, この権利は臣下の者の干犯を許さない天皇に専属せる権利」(同氏著「元号考讃」)であるといっておられる。古代国家の確立期に整備導入された元号制は十二世紀末あたりから確立した武家権門としての鎌倉幕府ならびにそれ以降の「武家」とはどんな関係にあったのか, こうした検討を通じて平安末期以降の「国王」及び「王権」の特質はどの点にあったのかに接近しようとの試みが本稿の課題である。なお封建時代を通じて元号制度が存続し得た理由として考えられるのは三代将軍家光の言といわれる「年号ハ天下共二用フルコトナレバ」という一言に端的に示されているし, それ以前でいえば, 「公武」ならんで用いるものとの考え方が定着しているのである。つまり, 「元号」はある天皇の時代を意味するものでなく, ましてや天皇の独占物でなくなったことが, 封建制下でも, なお維持存続した理由とみてよいであろう。
著者
内田 司
出版者
札幌学院大学総合研究所 = Research Institute of Sapporo Gakuin University
雑誌
札幌学院大学人文学会紀要 = Journal of the Society of Humanities
巻号頁・発行日
no.105, pp.165-181, 2019-02-25

現在,経済のグローバル化にともなう経済的不均等発展によって,さまざまな社会問題が発生している。経済格差の拡大や雇用の不安定化などもそうした問題のひとつである。そうした状況は,生活者にとって極めて理不尽と感じられるようなこともあるのではないだろうか。それゆえ,生活者にとって,現代社会においてどのような生き方をしていけばよいのかという問いは,差し迫った問いとなっているように思われる。本稿は,現代社会における生き方に関する社会学的研究のための予備的考察を行うことを目的としている。その考察の手始めとして,現代社会と同じように極めて理不尽な状況があった戦前の日本社会に生きた,三人の作家の生き方を検討するとともに,その検討を踏まえ,生き方の社会学的研究の対象の明確化を試みたいと思う。本稿では,3人の作家のうち小林多喜二の生き方を検討するとともに,生き方の社会学的研究対象の明確化を行うことになる。研究ノートResearch Note