著者
天下井 清 木村 暢夫 甫喜本 司 岩森 利弘
出版者
日本水産工学会
雑誌
水産工学 (ISSN:09167617)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.155-161, 1997-12-12
被引用文献数
5

小型漁船は、船長に比べ船幅が広く、平坦な船底勾配、ハードチャインや張り出し甲板等形状的特徴を有し、波浪中の横揺れ運動において非線形性が強い応答をすることが良く知られている。最近、非線形性の強い船体の横揺れ運動の解析にニューラルネットワークモデルを用いた報告がいくつかなされその有効性が指摘されているが、本報告では上記モデルを船体の横揺れ運動の中でも特に非線形性の強いとされる小型漁船の運動の解析へ適用し、その長期予測の有効性について検討する。具体的には、従来から利用されてきた自己回帰モデル(autoregressive (AR) model)を用いた代表的な線形予測法との間で予測精度を評価し、これらの比較を通して、非線形性の強い運動の解析に対するニューラルネットワークモデル利用の有効性を検討する。
著者
東海 正
出版者
日本水産工学会
雑誌
水産工学 (ISSN:09167617)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.69-80, 2009-07-15
被引用文献数
6

曳網のサイズ選択性は、漁具の選択性の中でもっとも基礎となるもので、袋状の網に入った魚が網目を抜けるかどうか、その現象を魚体の大きさを変数にとり、ロジスティック式などを利用して確率的に表現している。前報では、この選択性を表すロジスティック式のパラメータ推定をMS-Excelのソルバーで行えることを紹介した。このソルバーのシートは、漁具選択性のSELECT解析法で著名なMillar博士のWebサイトでも紹介されたためか、海外でも大いに利用され、いまだにメールの問い合わせや改良の提案が海外から送られてくる。また、国内でも、沿岸の資源管理や資源回復計画で小型魚の保護のための網目の拡大が組み込まれ、その調査データの解析にも利用してもらっているようである。そこで、本稿ではあらためて、ロジスティック式パラメータの最尤推定とともに、推定誤差と適合性を調べる尤度比検定について、MS-Excelのワークシートを示しながら紹介する。この適合度を説明するには、最尤推定をあらためて最初から説明したほうが分かりやすいと考えて、ここでは、前報と重複する部分があることをお許しいただきながら、稿を進めたい。
著者
慶野 英生 杉山 清泉 西沢 正 鈴木 輝明
出版者
日本水産工学会
雑誌
水産工学 (ISSN:09167617)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.1-7, 2005-07-15
被引用文献数
4

1)冬季波浪によるアサリへの影響を検討するため、個体識別したアサリを用いて、砂上への露出頻度と潜砂行動、肥満度および体内グリコーゲン含量との関係について調べた。2)殻長25mm程度の大型アサリは、水温8℃以下の冬季に露出を受けると、露出頻度およびその累積回数に対応して潜砂行動に影響が現れ、その影響は回復せず、その後も持続する。3)冬季波浪により露出や砂中での上下移動を繰り返したアサリは、冬季の低いグリコーゲン含量がさらに低下し、潜砂不能となったり砂中から這い出す場合がある。4)冬季の露出により、砂上に這い出した個体のグリコーゲン含量は、約10mg/gと他の個体に比べて顕著に低かった。5)冬季の露出1回当たりの体内グリコーゲンの減少量は0.05mg/gと試算され、アサリが這い出しを起こす限界値を約10mg/gと仮定すると、這い出し個体が出現する限界累積露出回数は約50回であった。6)冬季波浪によるアサリの死亡過程には、波浪による露出や砂中での上下移動の繰り返しによって活力を低下させ、潜砂できなくなった結果、岸側などへ運ばれ、へい死するシナリオに加えて、同じく波浪による露出や砂中での上下移動の繰り返しによって衰弱し、砂中にいた個体が自ら砂上へ這い出すことにより、結果的に岸側などへ運ばれ、へい死するシナリオが想定される。
著者
鈴木 達雄
出版者
日本水産工学会
雑誌
水産工学 (ISSN:09167617)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.61-69, 1999-07-15
被引用文献数
2

人類は急増する人口を支える食糧を得るため、農地を拡大し、家畜を飼うために森林を伐採し続けてきた。地球上の大型動物の多くは、人類が改良した家畜で占められ、陸上の生態系は、人類の都合のいいように作られてきた。しかし、世界の食糧供給は、需要の急激な増加に追い付けない状態になっている。その一方で、科学技術の発展に伴い、膨大な化石エネルギーと資源を消費して、大量の製品と廃棄物を生産し、その廃棄物で生物生産にとって重要な浅海域を埋め立て、有害物で地球環境を汚染してきた。そして、現在の科学技術でも達成不可能な高効率で、太陽エネルギーを光合成に利用する植物や植物プランクトンの働きを阻害することが、自殺行為であることに気付き始めた。我々が資源の利用方法、排出する廃棄物の利用、および処理方法を、正しく管理するように意識を変えないと、人類を含めた生物の存続が、脅かされることになる。可能な限り我々が生産する製品や廃棄物が、生物の行う物質循環を損なわないようにするのは勿論、智恵を働かせて、この物質循環を人類を含む生物にとって、持続可能な方向に変えてゆく努力が必要である。産業副産物と自然の力を巧みに利用して物質循環を円滑化し、食糧を増産する試みが行われている。
著者
俵佑方人
出版者
日本水産工学会
雑誌
水産工学 (ISSN:09167617)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.113-118, 1992-12
被引用文献数
2

愛知県におけるアサリ関係の調査研究は、明治27〜35年にかけての産卵期調査、大正4〜5年の養殖適地調査、大正6〜10年のアサリ養殖試験、および昭和26〜28年のアサリ資源調査等が報告されている。これらの知見を基にして昭和27年から沿岸漁業振興事業の一環としてブルドーザー等を使用して浅海内湾開発事業が行われ、また昭和28年からは主にアサリを対象とする貝類保護水面も設置されたが、これが本県におけるアサリ増殖場造成の嚆矢であった。その後福江湾槍ヶ崎根部堀削水路造成、吉田地区作澪耕転整地事業、ダイナマイトによる深部耕転2)、腐泥域における人工砂場造成、ハチの巣状人工干潟造成等の各種事業や試験が行われたが、これらの経験や知見を基にして昭和57-63年にかけて福江湾大規模増殖場造成事業が実施された。以下、愛知県におけるアサリ増殖場造成事例及び福江湾開発について報告する。
著者
高橋 秀行 佐伯 公康 渡辺 一俊
出版者
日本水産工学会
雑誌
水産工学 (ISSN:09167617)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.133-140, 2012-11-15

我が国の漁業就業者数は長期的な減少傾向にあり,またその年齢構成の高齢化,後継者不足は深刻である。このまま漁業者が減少し続ければ,我が国の漁業は労働力不足に陥り,産業としての存立が危ぶまれる。漁業は従来から身体への負担が大きく危険がともなう職業と言われる上に,近年の漁獲量の減少や魚価安が重なり,職業としての魅力が失われつつある。これらのことが,漁業就業者数の減少の主要な原因として考えられる。したがって,高齢の漁業者でも無理なく働け,かつ新規就業者が参入しやすい,安全で快適な労働環境を確立することは,漁業就業者数の減少に歯止めをかける有効な方策のーつと考えられる。しかし,漁業の労働実態について明らかにした事例は少なく,小型機船底曳網漁業,船曳網漁業,ワカメ養殖業,刺網漁業についての知見があるにすぎない。漁業の労働実態の全国的な様相を把握するには,事例調査の蓄積が必要である。著者は,小型機船底曳網漁業を主な対象として,労働実態の調査を行っている。小型機船底曳網漁業は我が国を代表する沿岸漁業種の一つであり,同漁業を営む漁船は日本各地に1万隻あまり遍在している。多くは個人経営で,乗組員は1~数名程度であるため,労働環境は個々人の裁量によって構築され,系統的な改善を図りにくいことが予想される。したがって,小型機船底曳網漁業の労働実態を定量的に把握し,系統的な改善方策を検討する必要がある。本報では,愛知県南知多郡の小型機船底曳網漁業を対象として,生産管理工学や人間工学の手法を用いて船上作業の状況を調査した結果について報告する。
著者
井上 悟 田川 英生 永松 公明 梶川 和武
出版者
日本水産工学会
雑誌
水産工学 (ISSN:09167617)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.39-46, 2004-06-07

前の3報に続いて,海中に設置した電極に微弱電流を流すことにより,海洋生物の付着を防止する試みを行った。水産大学校桟橋下と近くの海面に測定板を沈め,測定板への生物付着状況を調べた。2000年5月30日から10月2日までの4ケ月間(第1期)と,同年10月11日から翌年1月12日までの3ケ月間(第2期)に分けて実験を行った。電極には白金メッキされたチタン細線を使用した。あらかじめ,電極間隔および電極長と電流との関係を調べ,電極間隔50cm・電極長3mmの粂件のもとで,8V・数十mAの電流を常時印加した。海中に設置された電極に流れる電流は,電極間隔にはほとんど依存せず,電極長に大きく依存することが確認できた。8V・数十mAの電流を常時印加することにより,第1期と第2期を通じて,付着性の動物,特にフジツボに対しての周年の付着防止効果が確認された。ただ,第2期では,海藻類に対しての付着防止効果は認められなかった。しかし,海藻以外の付着生物(特に動物)は明らかに対照区に多く,8V・数十mAの電流による付着防止効果が認められた。
著者
濱口 正人 木村 暢夫 天下井 清
出版者
日本水産工学会
雑誌
水産工学 (ISSN:09167617)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.79-87, 1995-11-30
参考文献数
9
被引用文献数
3

わが国のまき網漁業はいわし漁業を主体としたあぐり網を改良したものに、アメリカ式巾着網漁法を取り入れ普及した漁法である。その中でも特に大中型まき網漁業は船団操業形態をとっており、一船団は網船、魚探船、灯船(集魚灯の使用が禁止されている海域もある)、運搬船(2~3隻)からなっている。このことから、他の漁法に比べ操業形態も特殊で、投網時に網船は旋回しながら40トン前後の漁具を海中に投下、揚網時には魚探船による裏漕ぎにより網なりを良くすると同時に、網船に大きな傾斜モーメントを与える鐶締め時の片舷への大傾斜を抑制している。さらに、漁獲物を運搬船に積載する場合は、係留索で網船と運搬船を張り合わせると同時に、両船が接近しないように魚探船と灯船でそれぞれを裏漕ぎする必要がある。このため、操業中には波浪や風だけではなく、さまざまな外力によるモーメントが網船に作用している。そこで本研究では、135GT型まき網漁船(網船)の投網から揚船までの一操業中における動揺特性に関し、実船実験を実施し基礎的な解析を行い、さらに、前報の魚群探索中の動揺特性と比較検討を行ったのでその結果について報告する。
著者
Landin Mary C.
出版者
日本水産工学会
雑誌
水産工学 (ISSN:09167617)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.24-30, 1996-07

これまでの経験では、港の環境の修復、あるいは洪水管理を沼や沢で行うなかで、さまざまな共通点があるということが分かりました。また共通な関心というと、ナビゲーションなどから出てくる浚渫物質の取扱いについても共通点があるようです。私のプレゼンテーションで不足な点がありましたら、最後に皆さんから補足していただければと思います。それから一般の方に入手可能な印刷物があります。こちらのメンバーの方もそうですが、ウェットランドの修復および造成について、あるいはこの浚渫物質の利用に関して、あるいは環境技術等に関して、島、あるいはウェットランドの棲息地に関するさまざまな印刷物があるということです。ご興味がおありの方は配布できますので、どうぞおっしゃってください。私は米軍の工兵団に属しております。工兵団は、航路の確保ですとか国防の仕事をしております。そのなかにウェットランドに対する管理がありますが、もちろんミティゲーションも含まれております。ミティゲーション、そしてウェットランドの造成、修復について話をしたいと思います。これは通常の修復プロジェクトをやると同時に、ミティゲーションも行っていますので、技術的な側面では他のものと変わらないわけです。何が違うかというと、ミティゲーションはアメリカにおいては法的な制度の下で行われる事業です。非常に厳しい補償がなされており、その規則があります。したがって、さまざまな角度から失われた機能を修復していくということが法律で定義されております。
著者
不破 茂 熊沢 泰生 工藤 嵩 平山 完 木下 弘実
出版者
日本水産工学会
雑誌
水産工学 (ISSN:09167617)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.119-128, 2010-11-15
被引用文献数
4

底びき網の性能を多面的かつ定量的に評価するために、拡網装置に一般的に使用されているビームを使用した小型トロール漁具と、海底環境保全を目的として網口水平方向の拡網装置として開発されたキャンパス製のカイト(12-14)(以下、ウイングカイトと呼ぶ)を使用した小型トロール漁具の操業実験を行い、漁具特性、漁獲性能並びに、操作性と作業者への身体負荷を定量的に評価し、トロール漁具の性能を多面的に比較する
著者
松下 博 横田 源弘 田中 辰彦 小松 和也 渡辺 敏晃 平野 尊之
出版者
日本水産工学会
雑誌
水産工学 (ISSN:09167617)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.29-35, 1998-07 (Released:2011-07-07)

船舶の効率的運航、いわゆる省エネルギー対策の観点から、船底およびプロペラ汚損を防止する手法の確立が切望されている。特にプロペラ汚損が船底の汚損と同程度に燃料消費量に影響することが判明してから、プロペラ汚損防止対策は緊急の課題である。プロペラ汚損の主たる要因である海洋生物の付着は、主に船舶の停泊中に起こると考えられる。そのため比較的停泊期間の長い漁船、内航タンカーおよび公官庁船等は特にその被害が著しく、なかでもプロペラは、船底の様に防汚法が確立されていないため、海洋生物が付着しやすい。海洋生物の付着は、物体表面が海水中に浸った初期に付着するスライムが誘因となる。そこでスライムの着生防止と除去対策として水噴流用ノズル内の低圧部に対し自然または強制的に通気した水中混気水噴流の利用を考えた。この構想は通気により水中噴流の掘削特性が向上し得るとの知見によって効果が期待できる。