著者
今田 高俊
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.27-48, 1998

本稿の目的は,ラグビー日本選手権で7連覇を遂げた神戸製鋼ラグビーチームを事例にして,非管理型の自己組織化がどのような条件の下になされるかを分析することにある。現代的自己組織性論から導かれる組織原理は,ゆらぎと自己言及性に依拠した脱管理・反制御のシステム形成であるが,それが具体的にどのようになされるかは開かれた課題である。本稿では,自己組織化の条件として,1)個の発想を優先すること,2)ゆらぎを秩序の源泉とみなすこと,3)不均衡ないし混沌を排除しないこと,4)コントロール・センターを認めないこと,の4つを設定する。これらの条件にかんし,既存の資料を用いて,神戸製鋼チームがどのように取り組んできたかを明らかし,非管理型の自己組織化を実証的にあとづけることで,スポーツ界だけでなく一般の組織ひいては社会システムにおける自己変革過程の具体像を探求する。
著者
岩間 暁子
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.100-122, 1994-04-15 (Released:2009-11-16)
参考文献数
18

本稿は、人がどのように社会現象の中に不公平を見出していくのか、という認知メカニズムの解明を目的とする。ここでは学歴と職業についての不公平認知を取り上げ、両者が共に社会階層とパーソナリティ要因の双方によって規定されることを明らかにする。パーソナリティ要因として特に権威主義と無力感に注目し、これらと不公平認知との関係を明らかにする。女性データを用いて構造方程式による分析を行った結果、以下の三つの知見が得られた。(1)社会階層が低いことは、学歴や職業に関する不公平認知を形成する(2)権威主義的であることは社会にある不公平を認知しにくくさせる(3)無力感を持つことは権威主義的性格を形成する
著者
小内 透
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.1-22, 1997

戦後の北海道における地域社会は,国家の農業政策,地域開発政策,人々の都会志向の高まりなどによって,大きな変貌をとげた。<BR>戦後の農業政策が推進した「選択的拡大」,農産物の輸入自由化,米の減反は,数多くの農家の離農をもたらし,多くの農村社会を解体させた。しかも,それらの地域の多くは,国家の地域開発政策が農業に代わる産業を生み出しえなかったため,地域社会の経済的基盤を弱体化させざるをえなかった。また,若者を中心にした人々の都会志向の高まりは,大都市地域への人口移動のパターンを作り上げた。<BR>その結果,経済的な基礎構造の再編を基底にして,数多くの市町村で人口が減少する一方,高学歴者や相対的な若年層にシフトした形で札幌市や札幌圏へ人口が集中した。現在,42.9%に及ぶ市町村が国勢調査開始以来最小の人口規模となり,道内人口の30.9%,高等教育修了者の45.4%が札幌市に集中するようになっている。しかも,その過程で,札幌市を含む全般的な生産力(所得)水準の低下も進んだ。そのため,過密地域,過疎地域とも大きな課題を抱えるようになっている。<BR>そこでは,従来の国家の諸政策のあり方を転換し,地域社会を再建する担い手を育て,支えることが必要となる。
著者
妹尾 克利
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.19-37, 2013 (Released:2016-07-02)
参考文献数
28

我が国でもパブリック・アクセスの活動が盛んになってきたが,全国各地の 市民メディア活動団体が抱える主な課題として,財政面のほかに人材育成が挙 げられる。今,学校現場においても,メディアを活用して地域でのコミュニケー ションをデザインできる人材の育成に力を注ぐことが求められている。メディ アを通して主体的に情報発信する能力を育むための教育方法として映像制作が 注目され,多くの実践が報告されている。しかし,地域情報活性化の視点で行 われている実践はまだ少ない。 学校放送部では,40年以上も前から部活動の一環として,地域をテーマとし た映像制作活動が行われている。そこで,本研究では,研究者が顧問を務める 高校放送部において映像制作活動の参与観察を行なった。次に,北海道全域の 高校放送部で映像作品を制作に関わったことのある放送部員にアンケート調査 を行った。その結果,制作に関わった高校生は,メディア・リテラシー能力の みならず,地域への関心が高まっていることがわかった。さらに,学校放送部 の活動が,地域の情報活性化に貢献することができないか,その可能性を探る べく,地域住民を対象とした作品の上映を行い,視聴者へのアンケート調査を 行なった。その結果,高校生の取材活動に対する「期待」や「話し合いの重要 性」などが読み取れた。
著者
原 俊彦
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.99-117, 1997-06-30 (Released:2009-11-16)
参考文献数
28

「テクノロジーが申し分のない発達をとげれば,それは魔法と見分けが付かなくなる」というアーサー・C・クラークの言葉が示すように,西暦2001年を目前にして,我々は,マルチメディアパソコンやインターネットの普及,シミュレーションをべースとしたバーチャルリアリティ技術の登場など,急速な情報技術革新の波に呑み込まれようとしており,このような変化が最終的にどのような社会を生み出して行くのか,あるいは,どのような社会を生み出しうるのかという問題は,極めて今日的な社会学的テーマとなりつつある。そこで本稿では,まず,近年の情報技術革新の発展方向を(1)デジタル化(2)メディアの融合(3)ネットワーク化(4)データベース化(5)仮想現実化という5つの側面から分析し,それらがメディアをどのように変貌させうるかについて検討する。次に,エンタテインメント,商取り引き,行政,教育の4分野を例に,これらの情報技術の背景に想定されている潜在的社会需要を探り,いわゆる「マルチメディア・ブーム」の社会的モチーフについて考察する。最後に,仮に現在進行しつつあるメディアの変貌が全面的に実現するとすれば,それが,どのような生活環境の変化を産み出すことになるのかについて,メディア接触時間の拡張や現実感覚の変化,情報メディアの環境化などの問題を取り上げ,「仮想現実社会の到来」の可能性を提示する。
著者
竹中 健
出版者
Hokkaido Sociological Association
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.39-59, 2010

ボランティア組織を政策的な意図をもって立ちあげ,そのなかへ人びとを動員しようとする様ざまな行政によるしかけと,その網に乗って真に他者のために活動したいと望む人びとの諸行為の連関を明らかにすることは重要である。それにより日本における相互扶助の社会関係が,制度的・非制度的な両面において今後どのような展開をもって進んでいくのかを予測し,より好ましい福祉社会のありかたを検討できるからである。<br> 多くの病院ではボランティア組織が導入されて 10年以上が経過している。それにもかかわらず,日本においては必ずしも十分に定着や拡大をしていない状況があるとするならば,その実態をていねいに把握し,分析する必要がある。<br> 本稿においては,行政主導によって 90年代後半以降に設立された病院ボランティアの典型として長野県にあるひとつの市立病院に存在する2つのボランティア組織と1つのボランティアグループの定着過程をみる。それにより,病院におけるボランティア組織導入後の展開可能性および病院内にボランティア組織が存在することの意義をもう一度実証的な見地から捉え直し,考えていく。行政による誘導後の病院ボランティアに展開の可能性はあるのか。そしてどのようなかたちで,定着または衰退していくと予想されるかを論じる。
著者
竹中 健
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.41-60, 2006-06-10

ボランティアの理念と現実に存在しているボランティア組織の実体は異なる。ボランティア行為には,新たな人間関係や社会関係を創出していく力があるのか?もしあるとすれば,それはどのようなかたちで創り出されているのか?積極的に新たな関係を創り出そうとしているのは,行政なのか,それとも行為者本人たちなのか?ボランティア組織の構造を明らかにし,それがより上位の組織にたいしてどれだけ独立したものであり,どれだけ自律的な組織かを判断することには意義がある。本研究は現実のボランティア組織の自律性と独立性を,実証的にとらえようとする試みである。
著者
メルビン L コーン
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.27-46, 1990-05-10 (Released:2010-03-03)
参考文献数
31
被引用文献数
1 4

This paper is a critical review of the research literature on work and personality: the presuppositions that underlie such research; the principal findings of such research; the principal unresolved issues in this field of research; and the possibilities for modifying job conditions in ways that might have beneficial effects for the personalities of the workers.
著者
塩谷 治彦
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.60-83, 1995-04-15 (Released:2009-11-16)
参考文献数
33
被引用文献数
1

この論文は、今日の暴走族や不良生徒集団など青少年の非行や逸脱行動を社会病理学的に理解しようとする試みである。エリクソンの自己同一性に関する発達理論は、青年期の非行や逸脱行動を理解するための枠組みとして貢献してきたが、それは概ね発達心理学的アプローチであって、非行を社会病理学的に理解しようとするものではなかった。そこで本論では諸価値の凋落による価値の主観化、またそれに伴う競争社会化という視点を青少年の病理を解明するために導入した。そして今日の大人になりたがらない青少年の心理の背景に世界の脱価値化に伴う競争社会の浸透という事態があることを示した。暴走族などの非行を理解するため、同一性危機や青年期危機による非行という概念が提示されてきたが、これらの理論は概ね非行を発達上の危機の現れと見ているため、青少年の病理の社会学的要因を十分に解明していない。現代的な非行現象には世界の非価値化と競争社会状況に対する反感が認められるのであり、それが彼らを暴走族や不良集団などへの参加と逸脱にかりたてる重要な動機であることを示した。
著者
西城戸 誠
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.70-86, 1998

本稿では,戦後日本における環境問題とそれに対応する環境運動を,運動目標と組織構造,運動戦略を中心に整理しながら,政策提言型環境運動の特質を考察した。産業公害や大規模開発に伴う環境問題に対しては,制度的変革志向的な運動目標を掲げる政治志向型環境運動が対応し,その組織形態にはフォーマル性が認められた。生活公害のような環境問題に対しては,自己変革的な運動目標を掲げる共助志向型環境運動が対応し,基本的にその組織形態はインフォーマルな運動組織であった。そして地球環境問題に関しては,この問題の特質が生活公害の延長上にありながらもその構造の重層性のため,フォーマルな運動組織を持つ政策提言型環境運動が対応していることを示した。また環境運動が持つ政策提言性の質の程度が組織構造や運動戦略にも影響を及ぼしていることも示した。<BR>以上のように,環境問題の類型ごとの運動展開と運動の持つ政策提言性の質の変化に注目することによって,1990年代の日本の環境運動において,運動組織のフォーマル性をめざし,高度な専門性を所持した上で行政などに対案提示を行うような志向性が認められる。最後に,政策提言性の高さと動員戦略とのジレンマという政策提言型環境運動が抱えている諸問題を提示した。
著者
西城戸 誠
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.81-98, 2000-07

社会運動の組織的基盤などの動員構造に関する従来の研究は,既存の組織やネットワークの有無やその形態の議論に留まっているように思われる。そもそも運動に参加した諸集団のネットワークといった動員構造がどのように形成され,維持し変容していったのかという分析は萌芽的段階である。その問題点として,分析視角が単一の動員過程を想定し,運動と運動の問の中断状況や,先行運動による後続運動への「溢れ出し効果」を考慮に入れていないためであると考える。本稿の目的は,北海道札幌市における都市近郊の自然環境・住環境をめぐる4つのイッシューの運動を事例として,運動組織などの集団間ネットワークの形成・維持・変容を記述し,先行運動が後続運動への動員,ネットワークにどのような影響を与えてきたのかという点を分析する。また,運動間ネットワークの様相と動員過程の関係を仮説的に提示することを試みた。知見として,第一に運動の中断中に組織間ネットワークが形成されたこと,第二に先行運動が後続運動に戦略や動員のための運動ネットワークが供給されることが確認され,本稿の分析視角が有用であることが示唆された。また運動間ネットワークの様相と動員過程の関係についての仮説的な見解として,運動間ネットワークは動員に寄与するが,そのネットワークは日常的に機能しているものと運動が生起した時だけに機能するものがあることを指摘した。
著者
西城戸 誠
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.119-136, 2003-06-20

最近の社会運動研究において,人々の不満などの運動にかかわる認知的な側面の議論には,「文化的フレーミング」という概念が広く使われている。運動がどのようにすれば拡大するのかという実践的な関心を伴い,運動体とその指導者側が提示する「フレーム」の戦略的優位性についての議論が多くなされてきた。しかしながらこれらの議論は,フレームの受け手側の分析を欠いた議論であり,結果として動員された事象を対象とし,運動体とその指導者側の「効果的なフレーミング」の結果,支持者の動員が可能になったという説明をしている。<BR>本稿では,このようなトートロジカルな議論を回避するために,運動体側から投企されるフレームと,そのフレームの受け手の「文化的基盤」との「提携」という図式を用いる。北海道札幌市・江別市における都市近郊の環境運動を事例にして,投企されたフレームと,受け手の集合的記憶,組織文化,集合的アイデンティティといった運動の「文化的基盤」との関係を実証的に検証することによって,なぜ複数の人々が抗議活動に参加したのかという問いに対して文化的な説明を試みる。