著者
関 悠一郎 青木 啓成 児玉 雄二 唐澤 俊一 村上 成道
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0933, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】古府らによりアキレス腱保存療法を奨励する報告はされているが、保存療法のリハビリテーションに関する報告は少ない。当院におけるアキレス腱保存療法の治療成績について報告する。足関節可動域に着目し、装具除去(通常9.5週にて除去)時に関節可動域(以下ROM)が平均以下の症例について、原因を紹介し装具固定期間のROM訓練施行上の課題を検討したので報告する。【対象・方法】対象は平成18年12月から平成19年11月の間に受傷、保存療法を行った23例、平均年齢41.1歳(25~72歳)、男性15名、女性10名。装具療法は受傷・ギプス固定1週の後、装具装着。直後から装具装着下での足関節自動底屈運動と部分荷重を開始。Thompson testの陰性化を認めた3週前後から自動背屈運動を開始。9.5週以降で装具除去、荷重下での底屈運動を開始する。足関節背屈のROMを受傷3週・6.5週・装具除去時・3ヶ月で測定し平均値を算出した。また受傷から復職までの期間、杖なし歩行獲得までの期間、つま先立ち・走行(軽いジョギング)が可能となるまでの期間について調査、平均値を算出した。【結果】受傷から3週の足関節背屈ROMは-9.5°(-20°~0°)受傷から6.5週-4.2°(-30°~10°)装具除去時5.0°(-5°~15°)3ヶ月9.6°(0°~15°)。復職は3.4週(0週~9週)杖なし歩行獲得3.9週(2週~8週)つま先立ち14.7週(13週~16週)、ランニング17.2週(14週~20週)。装具除去時のROMが平均以下の症例は、距腿関節のモビリティー低下2例、腓骨神経麻痺と麻痺の疑い2例、足趾・足関節底屈筋群の短縮と筋硬結の残存2例、edemaの残存2例、背屈に再断裂への恐怖心伴う1例を呈していた。【考察】古府らの研究では受傷後6.5週の足関節背屈ROMは平均-11°、3ヶ月で平均6.3°とし、つま先立ち4.1ヶ月、走行4.8ヶ月で獲得したと述べている。当院の結果は、ROMについては概ね報告を上回る結果となった。つま先立ちと走行開始の期間も概ね同様の結果であった。ROM制限を来した原因のなかで、特に距腿関節の可動性低下と、程度の差はあるが下腿三頭筋以外に足関節底屈に関与する筋の短縮と筋硬結を有する症例が多くみられた。断裂による侵襲に加え長期の底屈位固定と荷重を行なうことから、周囲筋が代償して疲労が蓄積した結果であると考えている。早期から距腿関節の可動性と下腿周囲筋・腱の柔軟性と腱鞘部の癒着の改善を図ることで装具除去後の機能改善や再断裂予防に役立つものと考えている。今後の課題として、装具除去後の抗重力運動をスムーズに獲得するため、腱の修復過程・代償作用を考慮し、効果的な装具療法中の運動プログラムを作成する必要性が示唆された。
著者
岩永 竜也 亀山 顕太郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C1439, 2008 (Released:2008-05-13)

【はじめに】我々は多くのスポーツ障害に対して、入谷式足底板を処方してきた。その多くはスポーツシューズに処方したものである。今回、裸足のスポーツである剣道競技者に対し、入谷式足底板の処方と足底板に対する補助手段を用いて疼痛が改善し、競技復帰したので報告する。【症例紹介】19歳女性。高校剣道部に在籍していた平成18年9月頃から足背部痛が出現する。多くの医療機関で治療を受けたが疼痛が改善せず、強い痛みが残存していた。同年12月当院初診、X線所見では、舟状骨に骨棘がみられた。左ショパール関節症と診断され理学療法を開始した。初診時の強い疼痛は裸足の競技のためテーピングを用いた足部誘導を行い改善された。僅かな疼痛が持続していたが、競技復帰可能であった。平成19年4月大学に入学後、剣道部に入部し競技を継続していた。同年9月に疼痛が増強したため当院を受診。X線所見では、舟状骨の変形が増悪していた。剣道以外の歩行時も疼痛が出現し、跛行がみられた。【方法】歩行時の疼痛に対して、通学などの日常の靴に入谷式足底板を処方した。競技用には剣道用足袋を用い、入谷式足底板を作製した。剣道用足袋の上からミズノ社製登山用足首サポーターにて、内果挙上誘導を追加した。【結果】歩行時の疼痛と跛行は、靴に作製した入谷式足底板にて改善した。しかし、剣道への競技復帰では、疼痛が残存していたため、入谷式足底板を作製した剣道用足袋と足首サポーターを用いることで、競技中の疼痛は消失した。【考察】本症例は疼痛を僅かながらも残存したまま競技を継続し、左足背部の疼痛が増強した。スポーツシューズを用いた競技であれば、足背部の疼痛コントロールは容易であったと推測されたが、裸足の競技であることと僅かな疼痛であったために、テーピングのみで競技可能と判断し、増悪させた反省すべき症例である。今回、左足背部の疼痛を残存させることは、より舟状骨の変形を進行させる可能性が高いと考え、剣道用足袋に入谷式足底板を作製した。剣道の左足は、裸足で踵を挙上して前足部のみで移動や床を蹴る動作を繰り返す特有のスポーツである。剣道用足袋に足底板のみでは、中足部と後足部の足底部が足底板と密着せず、足部誘導が不十分であったため、足首サポーターを用いて密着させ足部誘導を補った。また、足底板をより効果的するために、このサポーターの特徴である果部誘導を用い、内果挙上誘導を追加し良好な結果が得られたと考えられる。今回の剣道競技者の僅かな疼痛でさえ患部を増悪した経験から、外傷などの急性期を除くスポーツ障害において、テーピングのみでメカニカルストレスを十分に減じることが難しい場合は、足底板などで十分に足部誘導を行う必要があると考える。
著者
廣瀬 美幸 森山 紋由美 鈴木 孝夫 李 相潤
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0231, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】最近、患者一人ひとりの栄養状態が極めて重要視され、栄養状態の管理・改善を院内栄養サポートチーム(Nutrition Support Team)で取り組んでいる病院もある。そこで、ラットを用いて運動と食餌・カロリー摂取量の違いが骨格筋にどのような影響を及ぼすかを比較・検討した。【方法】実験動物は生後8週齢の雄性Wistar系ラット15匹を用い、普通食自由摂取+運動負荷(CT)群、普通食制限摂取+運動負荷(LT)群、高カロリー食自由摂取+運動負荷(HT)群の3群各5匹に分けた。実験期間を通して、CT群には普通食、LT群にはCT群の餌摂取量の60%、HT群には普通食比カロリー120%、脂肪含有率332.6%の高カロリー食を与えた。その間、1日1回45分同時間帯に、最高速度25m/minのトレッドミル走行を5回/週、2週間実施した。実験終了後、対象筋である左右のヒラメ筋、足底筋、腓腹筋外側頭を摘出し、通常の方法、手順により筋線維横断面積を測定し、統計処理を行った。なお、運動負荷のない通常飼育の対照(C)群は先行研究の同週齢ラットの値を参考とした。【結果】体重:実験開始時には群間有意差は見られなかったが、実験終了時にはLT群はCT群に比較し78.1%の低値と有意差を示した。一方、CT群とHT群間には有意差は認められなかった。平均餌摂取量:HT群はCT群の摂取量の83.5%であった。筋線維横断面積:3種の筋においてCT群はC群と比較し有意の高値を示した。LT群はCT群と比較し有意の低値を示したが、C群と比較すると有意の高値を示した。HT群はヒラメ筋においてCT群と有意差が認められた。【考察】3筋の筋線維横断面積において、LT群はCT群、HT群と比較し有意の低値を示した。従って、栄養不良状態では筋萎縮が進行することが示唆された。これは、1)低栄養状態で筋内蛋白質の合成不良によること、2)筋線維横断面積は収縮の強度に関係するので、LT群は各筋の収縮の強さが飢餓の影響を受け低下したことが考えられる。一方、LT群はC群と比較すると有意の高値を示した。これはLT群は週5回の運動を実施したため、低栄養状態であっても運動負荷により筋萎縮予防、筋肥大が得られたと考えられる。 今回、足底筋と腓腹筋においてはHT群とCT群間に有意差が認められなかった。これは筋肉の主要構成成分は蛋白質であり、運動時には蛋白質の必要量が増加するが、今回与えた高カロリー食は蛋白質含有量が普通食とほぼ同じであったためと考えられる。蛋白質を多く摂取することで、より効果的に筋力増強が得られると考えられる。【まとめ】低栄養状態であっても運動負荷により筋萎縮予防、筋肥大が得られ、また蛋白質を多く摂取することにより、より効果的に筋力増強が得られると考えられる。
著者
名越 央樹 糸澤 季余美 川窪 美緒 見供 翔 竹井 仁
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1314, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】腹横筋は脊柱安定化等に重要とされており、多くの研究が報告されているが、腹横筋エクササイズ(以下Ex.)が四肢の関節運動の反応速度に及ぼす影響についての報告は少ない。そこで腹横筋収縮の有無による膝関節伸展運動時の大腿直筋(以下RF)・外側広筋(以下VL)・内側広筋(以下VM)の反応速度・角速度の相違について腹横筋Ex.の影響を検討した。【方法】対象は健常男性10名(平均年齢21歳、身長172.0cm、体重61.7kg)とした。運動課題は、腹横筋自主Ex.(3週間)前後での腹横筋収縮無しと有りでの膝伸展運動とした(以下、課題1:Ex前の収縮無し、課題2:Ex.前の収縮有り、課題3:Ex.後の収縮無し、課題4:Ex.後の収縮有りとした)。腹横筋収縮方法は、事前にstabilizer(chattanoga社製)を使用し練習させた。測定肢位は背臥位にて膝下を台からおろした膝屈曲90°とした。試行回数は15回とした。課題2と4では、腹横筋収縮後0.5~4.0秒内にブザーを鳴らし、膝を伸展するよう命じた。多用途筋電図モニター(Polygraph System:日本光電社製)を用いて表面筋電図を、等速性運動機器(Biodex System3)を用いて関節トルク、角速度を測定した。そして、ブザーの直前0.2秒間で筋電数値、トルク数値の最大値、最小値をとり、合図後にその値を上回った時、もしくは下回った時の値を目安に筋電数値から潜時(以下PMT)を、トルク数値から反応時間(以下RT)を求めた。角速度は最大値をとった。Ex.は事前練習と同様の方法にて腹横筋収縮を1日60回以上毎日行わせた。統計処理はSPSSを用いて対応のある一元配置分散分析・多重比較検定(LSD法)を行い、有意水準5%未満とした。【結果】Ex.前後でPMT、RT、角速度全てに有意差が見られた。PMTは課題1と3でRF、VL、VMそれぞれ30.8、34.5、39.9、課題2と4で34.5、35.4、35.0、課題1と2で27.7、29.3、35.9、課題3と4で31.4、30.1、31.1[msec]短縮した。RTは課題1と3で42.6、課題2と4で48.2 [msec] 短縮し、角速度は課題1と3で36.8、課題2と4で26.0[°/sec]速くなった。膝伸展100%MVCはEx.前で182.5、後で182.3 [N・m]で有意差はなかった。【考察】この結果は無意識下での反応速度、角速度が速くなったことが言える。これは腹横筋Ex.により腹横筋の運動単位の動員、筋力の向上がおこり、四肢の動作に対する腹横筋の先行的収縮の向上、腹圧増加による脊椎安定性向上、脊髄運動細胞興奮性の促通作用の増大等の影響を与えたと考えた。今回の結果は、無意識下でも腹横筋を収縮させることが可能となることで反応速度が向上したことを示唆している。よって腹横筋収縮Ex.をすることは立ち上がりや歩行、スポーツ等の実際の動作の中で重要な意味を持つと考える。
著者
吉村 晋 明﨑 禎輝 吉本 好延
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B1606, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】 麻痺側に重度の機能障害を有する脳血管障害患者は,非麻痺側上肢で杖を用いる場合が多いが,杖なし歩行が可能になれば,日常生活動作中で非麻痺側上肢の使用が可能になるため,身体活動量およびQuality of lifeの向上に繋がる.杖なし歩行の自立度は身体機能・能力因子との関連が深く,中でもバランス能力は歩行自立度を規定する最重要因子であるが,歩行自立度とバランス能力の関連性を数量的に検討した報告は数少ない.本研究は,脳血管障害患者の立位バランス評価として臨床汎用性が高い片脚立位時間に着目し,脳血管障害患者の杖なし歩行の判定に片脚立位時間の測定が有効かどうかについて検討を行った.【対象および方法】 対象は平成16年から19年度に当院リハビリテーション部に理学療法の依頼があった脳血管障害患者113名(男性66名,女性47名,平均年齢67.1歳,発症からの平均期間103.1±65.9日)であり,研究の趣旨を説明し同意を得た者のみを対象とした. 方法は,目的変数として,装具使用の有無に関わらず,杖を用いることなく屋内での歩行が自立している症例を杖なし群,それ以外の症例を杖あり群の2群に分類した.調査項目は,年齢,Body Mass Index (BMI),下肢Brunnstrom stage(下肢Br.Stage),深部感覚障害の有無,両側の下肢筋力および片脚立位時間などの計8項目とし,群間比較の後,ロジスティック解析,Receiver Operating Characteristic曲線(ROC曲線)により解析した. 【結果および考察】 群間比較の結果,杖あり群は杖なし群と比較して,深部感覚障害を有する患者が多く,下肢Br.stage,麻痺側下肢筋力,非麻痺側・麻痺側片脚立位時間は低値を認めた(p<0.01). ロジスティック解析の結果, 杖なし歩行の自立に最も関連する因子として麻痺側片脚立位時間が抽出された(オッズ比1.353).ROC曲線によってカットオフ値を算出した結果, ROC曲線の曲線下面積は,0.934であり, 麻痺側片脚立位時間2.8秒を閾値とした場合,感度85.4%,偽陽性度9.2%,正診率は88.5%,陽性適中率は85.4%であった.本結果から,麻痺側片脚立位時間が2.8秒以上の場合,高率で杖なし歩行が可能であったことから,杖なし歩行自立度を判定する評価方法として片脚立位時間の測定が有効であると考えられた.脳血管障害患者における片脚立位時間の測定利用率は約8割以上と臨床汎用性が高く,共通した評価方法からデータを集積することで,他施設間での比較も可能となり,科学的根拠に基づいた歩行判定基準の一助になるものと考えられた.
著者
東條 友紀子 山田 深 門馬 博 前田 直 石田 幸平 松本 由美 栗田 浩樹 西山 和利 岡島 康友 山口 芳裕
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B1137, 2008 (Released:2008-05-13)

【はじめに】 当院は2006年5月に脳卒中センターを開設し、初期治療と平行して発症早期からのリハビリテーション(以下、リハビリ)を積極的に行う脳卒中ユニットケアの実践に取り組んでいる。診療チームにおける理学療法士の重要な役割の一つとして、患者のADLに関する予後を早い段階から見通し、介入方針を決定することが求められるが、急性期からの予後予測モデルに確立されたものはない。今回、入院時の重症度から群分けを行い、退院時のADLを予測する方法を検討したので報告する。【対象】 2006年5月から2007年6月までに当センターに入院しリハビリを行った脳卒中患者のうち、死亡退院および入院期間が1週間以内であったものを除く332名(平均年齢71.8±12.6歳、男性196名、女性136名、平均在院日数29.7±19.2日、リハビリ開始まで平均1.45±1.36日)。【方法】診療データベースを参照し、患者の年齢、入院時NIHSS、入退院時FIM、リハビリ開始までの日数、在院日数、転帰先を後方視的に調査した。対象を入院時NIHSSによって軽症例群(6点以下)、中等症群(7点以上14点未満)、重症例群(15点以上)の3群に分け,それぞれの調査項目を比較した。群間比較については一元配置分散分析を用い、有意水準を5%とした。【結果】 軽症例群、中等症、重症例群における平均在院日数はそれぞれ23.2±15.7、37.0±19.0、40.0±19.0日であり、軽症例群と中等症群間に有意差が認められた。FIM運動項目合計点はそれぞれ76.0±20.0、43.0±26.0、27.0±23.0点、認知項目合計点は31.6±6.0、22.0±11.0、13.0±9.4点で、いずれの得点も各群間で有意差が認められた。退院時FIM合計得点から入院時FIM合計得点を引いた差分(FIM利得)は各群で30.5±19.8、26.0±26.0、16.0±24.0点であり、重症例群は他の2群と比べ有意に低値であった。自宅退院率はそれぞれ61.5%、9.4%、10.1%であり、回復期リハビリ病院への転院は30.8%、54.7%、33.3%であった。【考察】 軽症例は入院期間においてほぼADLの自立が得られるが、リハビリの継続が必要となるものも少なからず存在することが示された。一方で重症例はリハビリ介入によるADLの改善が限られており、自宅への退院が困難であった。入院時NIHSSは退院時のADLや転帰先を予測する上で有用な指標になりうると考えられる。NIHSS得点とFIMの関係はこれまでにも報告がなされているが、大都市圏における急性期脳卒中ユニットとしての特性を踏まえた予後予測モデルとしての有用性が示唆された。