著者
濵田 直人 原田 真二 本田 ゆかり 河﨑 靖範 槌田 義美 田中 智香 山鹿 眞紀夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B0244, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】 当院では早期の移動能力獲得を目的に脳卒中患者に対して積極的に下肢装具を使用しており、患者や理学療法士にとっての即時性や利便性を考え、テスト用装具として各種の長下肢装具(以下KAFO)、短下肢装具(以下AFO)15種類を常備している。理学療法士は、患者の病態に適した装具が処方されるように各種特色のあるテスト用装具を試す事ができるが、多種類の下肢装具の中から最適な装具を選定するのに迷う場合も少なくない。そこで今回、院内の装具使用の標準化を図り、装具選定を行う際の指標となるような脳卒中下肢装具アルゴリズム表(以下アルゴリズム表)を試作し、その有用性を検証したので報告する。【対象】 平成19年4月1日~10月31日の間に、当院回復期病棟入院中の脳卒中患者125名のうち下肢装具が処方された延べ75名を対象とした。【方法】 1)アルゴリズム表の作成にあたり、過去の文献を参考として各種テスト用装具の機能的特徴、適応病態等をまとめた。脳卒中患者では病態による個人差が大きいので、アルゴリズム表の選択項目に身体状況や生活環境等を加えた。更に、過去に当院に入院していた脳卒中患者の装具処方時の情報を参考にした。 2)アルゴリズム表の有用性をみるため、選択された装具と実際に処方された装具の合致率を調査した。また、非合致例はその原因を自由記載した。【当院に常備するテスト用装具の種類】 1)KAFO type(計2種類); Ring lock継手・SPEX継手 2)AFO type(4分類、計13種類); 1.金属支柱付(1種類) 2.プラスチック前方支柱型(3種類) 3.プラスチック後方支柱型(3種類) 4.継手付(6種類) 【結果】 1)アルゴリズム表の選択項目を身体機能(Brunnstrom stage、筋緊張の程度、関節可動域、感覚障害等)、歩容、装具の使用環境、高次脳機能障害等とし、患者の病態を照らし合わせることで装具選定できるようにアルゴリズム表を試作し、通常の訓練、装具回診時に活用した。 2)合致率は79%{KAFO;81%、AFO4分類(1.金属支柱付 2.プラスチック前方支柱型 3.プラスチック後方支柱型 4.継手付);76%}であった。【考察】 試作したアルゴリズム表は、KAFOやAFO4分類の合致率は比較的高値を示しており、当院における装具選定の標準化が図れたと考えられる。また、簡易的ではあるが装具の特徴を理解する事ができ、装具選定の際の指標となり業務改善につながると期待される。しかし、非合致例の原因として装具への工夫、病態の予後予測、退院後の生活環境等の考慮が不十分であった事が挙げられた。アルゴリズム表の選択項目を追加修正し、より信頼性の高いものに改訂することが今後の課題と考えている。
著者
藤井 岬 宮本 重範 村木 孝行 内山 英一 鈴木 大輔 青木 光広 辰巳 治之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0580, 2008 (Released:2008-05-13)

【はじめに】足関節の背屈可動域制限は足関節骨折や捻挫後に多く見られる障害の1つであり、理学療法が適応となる。足関節背屈可動域制限因子としては下腿三頭筋の伸張性低下の他に、距腿関節や脛腓関節の関節包内運動の低下が考えられている。関節包内運動に関する過去の研究では、主に距腿関節に焦点を当てたものが多く、遠位脛腓関節へのアプローチについての見解は少ない。関節モビライゼーションによる腓骨遠位端(外果)の後上方滑り運動の増大は内・外果間の距離の拡大につながり、足関節背屈の可動域を拡大させると考えられている。しかし、この運動が効果的となる徒手負荷と回数はいまだ明らかにされていない。本研究の目的は腓骨外果の後上方滑りの振幅運動を想定した張力を繰り返し腓骨外果に加えた時の脛骨と腓骨の変位量と足関節可動域の変化量を測定し、これらの変化量と後上方滑りの反復回数の関係を明らかにすることである。【方法】実験には生前同意を得られた未固定遺体7肢(男性5名,女性2名,平均79.9歳)を用いた。実験は大腿遠位から1/3を切断した下肢標本を足底接地させ、中足骨と踵骨で木製ジグに固定し、足関節底屈10°で行った。反復張力は万能試験機(Shimazu社製、AG-1)を用い,MaitlandによるGridingの分類GradeIIIの張力を想定した15N~30Nの振幅で1000回、0.5Hzで後上方へ加えられた。骨運動と足関節背屈可動域に計測には三次元電磁気動作解析装置(Polhemus社製、3Space Fastrack)を用いた。【結果】腓骨外果の実験開始時(1回目)に対する相対的な位置は振幅100回目、1000回目でそれぞれ0.4±0.3mm、0.9±0.4mm後上方の方向へ変位した。脛骨は振幅100回目、1000回目でそれぞれ0.3±0.2°、0.7±0.8°、腓骨では0.2±0.2°、0.6±0.5°開始時より外旋した。実験前の足関節背屈可動域は実験開始前の14.4±7.5°に対して、1000回の反復実験終了後では16.5±7.1°であり、有意差がみられた。【考察】本実験では、腓骨外果の後方滑り反復張力は脛骨と腓骨の両骨を外旋させ、腓骨外果を後上方へ変位させた。また、1000回で十分と考えられた振幅後でも腓骨外果の変位は1mmに満たなかった。しかし、腓骨に反復張力を加えることによって足関節背屈可動域は有意に拡大した。すなわち、非常にわずかな腓骨の後上方への移動と脛骨・腓骨の外旋運動が明らかに背屈角度の拡大に影響していることが示された。したがって、腓骨外果に後上方への振幅をGradeIIIで加える遠位脛腓関節モビライゼーションは背屈可動域制限の治療に効果的であると考えられる。さらに、1000回以内であれば振幅回数が多いほど効果的である可能性が示唆された。
著者
加藤 彩奈 宮城 健次 千葉 慎一 大野 範夫 入谷 誠
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0078, 2008 (Released:2008-05-13)

【はじめに】変形性膝関節症(以下膝OA)は立位時内反膝や歩行時立脚相に出現するlateral thrust(以下LT)が特徴である。臨床では膝OA症例の足部変形や扁平足障害などを多く経験し、このLTと足部機能は密接に関係していると思われる。本研究では、健常者を対象に、静止立位時の前額面上のアライメント評価として、下腿傾斜角(以下LA)、踵骨傾斜角(以下HA)、足関節機能軸の傾斜として内外果傾斜角(以下MLA)を計測し、下腿傾斜が足部アライメントへ与える影響を調査し、若干の傾向を得たので報告する。【対象と方法】対象は健常成人23名46肢(男性11名、女性12名、平均年齢29.3±6.1歳)であった。自然立位における下腿と後足部アライメントを、デジタルビデオカメラにて後方より撮影した。角度の計測は、ビデオ動作分析ソフト、ダートフィッシュ・ソフトウェア(ダートフィッシュ社)を用い、計測項目はLA(床への垂直線と下腿長軸がなす角)、HA(床への垂直線と踵骨がなす角)、LHA(下腿長軸と踵骨がなす角)、MLA(床面と内外果頂点を結ぶ線がなす角)、下腿長軸と内外果傾斜の相対的角度としてLMLA(下腿長軸への垂直線と内外果頂点を結ぶ線がなす角)とした。統計処理は、偏相関係数を用いて、LAと踵骨の関係としてLAとHA、LAとLHAの、LAと内外果傾斜の関係としてLAとMLA、LAとLMLAの関係性を検討した。【結果】各計測の平均値は、LA7.1±2.4度、HA3.0±3.9度、LHA10.5±5.5度、MLA15.3±3.9度、LMLA8.1±4.0度であった。LAとLHAでは正の相関関係(r=0.439、p<0.01)、LAとLMLAでは負の相関関係(r=-0.431、p<0.01)が認められた。LAとHA、LAとMLAは有意な相関関係は認められなかった。【考察】LHAは距骨下関節に反映され、LAが増加するほど距骨下関節が回内する傾向にあった。したがって、LA増加はHAではなく距骨下関節に影響するものと考えられる。LA増加はMLA ではなくLMLA減少を示した。これらの関係から下腿傾斜に対する後足部アライメントの評価は、床面に対する位置関係ではなく下腿長軸に対する位置関係を評価する必要性を示している。LA増加に伴うLMLA減少は距腿関節機能軸に影響を与えると考えられる。足関節・足部は1つの機能ユニットとして作用し、下腿傾斜に伴う距腿関節機能軸変化は距骨下関節を介し前足部へも波及する。今回の結果から膝OA症例のLTと足部機能障害に対し、距腿関節機能軸変化の影響が示唆された。今回は健常者を対象とした静的アライメント評価である。今後、症例との比較も含め運動制御の観点から動的現象であるLTと足部機能障害の解明につなげていきたい。
著者
板倉 尚子 渡部 真由美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0930, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】我々はA大学女子バレーボール部(以下AVT)において、誘因が明らかでない近位脛腓関節部の疼痛を数例経験している.疼痛の誘因を探していたところ、ウォーミングアップおよびクーリングダウンの際に日常的に行われている腓骨筋に対するエクササイズ方法(以下PEx)に誤操作を確認した.AVTが行っているPExは、2人組にて股関節・膝関節屈曲位および足関節背屈位とし、両下肢内側を密着し、踵部を床面に接地させて固定させ、パートナーが両足部外側に徒手抵抗を加え腓骨筋を等尺性収縮させたのち、急激に徒手抵抗を解除する方法で行われていた.抵抗を解除した瞬間に足関節外返し運動と著明な下腿外旋が生じているのを観察した.今回、誤操作によるPExが近位脛腓関節と下腿外旋に与える影響を測定した.【対象および方法】AVT所属選手18名36肢とした.方法1についてはB大学女子バレーボール部所属選手(以下BVT)で膝関節に外傷の既往のない選手8名16肢に同意を得て実施した.方法1は触診により近位脛腓関節部の圧痛を確認した.方法2は肢位を端座位とし股関節および膝関節、足関節は90度屈曲位とした.大腿骨内側上顆および外側上顆を結ぶ線の中間点と上前腸骨棘を通る線を大腿骨長軸とし、大腿骨長軸と交わる垂直線をラインAとした.ラインAと膝蓋骨下端を通る水平線との交点をマーキングし、交点と脛骨粗面部と結ぶ線をラインBとした.ラインAとラインBをなす角度を測定した.測定は中間位および他動的に下腿を最終域まで外旋する操作をさせた肢位で行った.【結果】方法1によりBVTでは全例において近位脛腓関節部に圧痛および違和感は認められなかったが、AVTでは36肢のうち11肢(30.6%)に認められた.方法2にて得られた測定値の平均は中間位18.2±7.9°、外旋位36.2±8.9°、外旋位と中間位の差の平均は18.1±7.3であった.測定値と圧痛出現の関係においては明らかな傾向は認められなかった.【考察】方法1ではBVTでは全例に圧痛を認めなかったが、AVTでは11肢(30.6%)に圧痛を確認した.足関節外返しにより腓骨頭は上方へ引き上げられ、また膝関節屈曲位での膝関節外旋運動は大腿二頭筋の筋活動が優位となり腓骨頭を後方へ牽引させる.BVTでは誤操作によるPExは行われておらず、方法1の結果から、誤操作によるPExの繰り返しは近位脛腓関節部に負荷をかけ疼痛の誘因となることが予想された.しかし下腿外旋と圧痛出現に関しては明らかな傾向は認められず、下腿外旋が大きいほど疼痛が出現するとは限らないことが示された.【まとめ】我々はAVTとBVTに対して外傷管理を行っているが、AVTにのみ誘因が明らかでない近位脛腓関節部の疼痛を経験していた.疼痛発生の誘因は日常的に行われていた誤操作によるPExである可能性があると思われた.今後は正しいPExを指導し経過観察する予定である.
著者
松原 永吏子 山崎 孝 伊藤 直之 堀 秀昭 山門 浩太郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0110, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】肩関節疾患における理学療法において結帯動作の改善に難渋することは多い.一般的に結帯動作は肩甲上腕関節での伸展-水平伸展-内旋の複合運動とされているが,結帯動作の獲得には肩甲上腕関節の可動域だけではなく肩甲胸郭関節の運動が不可欠である.そこで肩甲胸郭関節に着目し,結帯動作に必要な運動について検討した.【方法】肩関節に異常のない健常成人40名,利き肩40肩を対象とした(男性20名,女性20名,平均年齢24.4歳).端坐位での安静時・L5レベル・Th7レベルでの結帯動作における脊柱と肩甲骨棘三角間距離(以下,棘三角距離),脊柱と肩甲骨下角間距離(以下,下角距離),spino-trunk angle(以下,S-T角),肩甲骨下角の挙上距離(以下,下角挙上)を体表より測定した.検討項目は,安静時からL5と安静時からTh7での肩甲骨の移動距離を男女別と男女間で比較検討した.統計処理は対応のないt検定を用い危険率5%で検定した.【結果】1.男性の肩甲骨の位置安静時・L5・Th7のそれぞれの肩甲骨の位置は,棘三角距離8.6±1.0 → 8.9±1.0 → 8.9±1.0 cm,下角距離10.2±1.1 → 9.6±1.5 → 9.5±1.4 cm,S-T角97.7±4.2 → 93.7±3.3 → 90.7±2.4°であった.安静時からL5と安静時からTh7のそれぞれの下角挙上は2.5±1.1 → 3.8±1.5 cmであった.L5とTh7での肩甲骨の移動距離の比較では,有意なS-T角の減少(p=0.005)と下角挙上(p=0.002)が認められた.2.女性の肩甲骨の位置肩甲骨の位置は,棘三角距離7.9±0.9 → 7.9±0.9 → 7.8±0.8 cm,下角距離9.2±1.2 → 8.6±1.2 → 8.4±1.2 cm,S-T角94.3±2.9 → 93.7±3.3 → 92.4±3.5 °であった.安静時からL5と安静時からTh7のそれぞれの下角挙上は1.4±1.0 → 2.4±1.3 cmであった. L5とTh7での肩甲骨の移動距離の比較では,有意な下角挙上が認められた(p=0.007).3.男女間によるL5とTh7間の移動距離の比較移動距離の比較では男性にS-T角の有意な減少が認められた(p = 0.004).【考察】結帯動作は通常L5レベルとされるが,女性の更衣動作等においてはTh7レベルで行われることもあり様々な高さでの動きが日常生活に必要である.肩甲胸郭関節の運動を男女別に検討したところ,結帯動作における肩甲骨の運動は男女で異なっていた.男性においては肩甲骨の下方回旋と挙上が,女性は挙上が特に重要と考えられた.より高位への動作を行うためには,肩甲胸郭関節の大きな運動が必要であることが示唆されたことから,肩関節疾患における結帯動作の改善のためには,肩甲胸郭関節の可動性も含めた治療が必要と考える.
著者
石井 慎一郎 山本 澄子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0515, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】膝関節は屈曲位から伸展する際にスクリューホームムーブメント(以下SHM)と呼ばれる外旋運動が受動的に起こる.SHMの詳細な運動動態については個人差や加齢による変化,靭帯の弛緩性による影響など,依然として不明な部分が多い.そこで本研究では生体膝の自動運動下におけるSHMの動態特性を明らかにするため,三次元運動計測により,SHMの加齢変化を調べた.【方法】対象は本研究に同意した下肢に既往の無い20~79歳までの成人男性26名,女性 33名の計59名とした.計測課題は,股関節と膝関節が90度屈曲位となる端座位からの膝屈伸自動運動とした.開始肢位より膝関節のみを自動的に完全伸展位まで伸展させ,再び開始肢位まで戻す動作を連続して10回行わせた.膝関節の三次元運動計測には,Andriacchiらが考案したPoint Cluster法(以下PC法)を用いた.被験者の体表面上のPC法で定められた所定の位置に,赤外線反射標点を貼り付け,課題動作中の標点位置を三次元動作解析装置VICON612(VICON-PEAK社製)により計測した.得られた各標点の座標データをPC法演算プログラムで演算処理を行い,膝関節の屈伸角度,回旋角度,ならびに大腿骨に対する脛骨の前後方向移動量を算出した.各被験者の10試行のデータから, Tokuyamaの報告した最小二乗法に基づいた位相あわせによる平均化手法を用い各被験者の平均波形を抽出した。得られたデータから,各被験者の膝最終伸展位における脛骨の回旋角度ならびに脛骨の前後移動距離を調べ,年齢との関係をSpeamanの相関係数を算出して調べた.統計学的有意水準は危険率p<0.05とした.【結果】膝最終伸展位における脛骨の外旋角度は,年齢が高くなるにつれ小さくなる傾向にあった(p>0.05).60歳以上の被験者では27名中14名の被験者が内旋位になっていた.また,脛骨の前後移動距離と年齢との間には統計学的有意差は認められなかったが,60歳以上の被験者を対象に,脛骨の回旋角度と前後移動距離との関係を調べたところ,脛骨が内旋する被験者では脛骨の前方移動距離が大きくなる傾向にあった(p>0.05).【考察】60歳以上の被験者で,SHMが逆転し脛骨の内旋運動が起きる被験者が多く観察されたのは,加齢変化に伴う靭帯の緊張状態の変化の影響によるものと考えた.ま,SHMが内旋する被験者では,脛骨の前方移動が大きいという結果からも,何らかの原因で脛骨が前方へ変位し,それが原因となって伸展に伴い脛骨が内旋すると考察した.SHMの逆回旋は,関節の伸展運動を制限し,関節の安定化にも重大な問題を引き起こす.変形性膝関節症の有病率が60歳以上で急激に多くなること,SHMの逆回旋が60歳以上で多く見られるようになることに因果関係が存在する可能性が考えられた.
著者
坂田 裕美 徳田 良英
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0471, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】運動負荷後の血圧変動,疲労感を生じやすい症状などへのリスク管理が問題となる例が多い.ところで近年芳香を持つ植物から抽出した精油を使って、心身の自然治癒を高めるアロマセラピーの応用が多分野で活用されるようになった。リハ現場における匂い環境を整備することによる臨床応用の可能性を模索することを念頭に、香りのリラックス効果について運動負荷後の血圧回復の観点から検討することを目的とした。【方法】対象は既往歴の無い成人男女6 名(男性3 名,女性3 名,平均年齢:22.3±1.03 歳)とした.運動前に血圧,脈を計測し,その後運動負荷を行った.血圧・脈の測定には自動血圧計(OMRONデジタル自動血圧計:HEM-6011)を使用した.運動負荷についてはトレッドミル(CYBEX 900T)を使用した.5 分間,10km/h前後の速度で,Borg 指数13~15 程度となるよう調整した.終了後,血圧,脈を1 分間隔で5 回計測し,アンケート調査も行った.この実験をグレープフルーツの香りを与えた群(以下GF 群),ラベンダーの香りを与えた群(以下LV 群),および対照群として芳香刺激を与えない群(以下NG 群)と分け,各群日を変えて実験した.統計解析はWilcoxon 検定を用い,有意水準を5%未満とした.解析にはSPSS for Windows を用いた.【結果】1)生理的変化についての比較:収縮期血圧において,1 分後,2 分後,3 分後,4 分後についてGF 群はNG 群と比較し有意に回復速度が速かった.拡張期血圧においても,1 分後,2 分後,3 分後,5 分後について同様であった.LV 群にも低下傾向が見られ,脈の変動についても,NG 群と比較し若干低下傾向にあった.2)精神的変化についての比較:アンケート調査結果では,実験後の疲労度において調査したところ,NG 群と比較しGF 群,LV 群において有意差は見られないが(p>0.05),疲労度,気分がリラックスしている傾向が見られた(GF群<LV 群).また,アロマテラピーに肯定的な考えを持っている方が6 名中5 名であった【考察・まとめ】アロマテラピーは運動後のリラックス効果について有用であるといえる.特にLVについては精神面でのリラックス効果が得られた.GF についても,運動後の血圧を有意に低下させるなど,身体面においてのリラックス効果が得られた.リハの場面においても芳香刺激を利用することで,患者のリラックス促進効果など期待できると思われる
著者
川端 哲弥
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0587, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】入谷式足底板は、種々のテーピングやパッドを用いて評価し、足底板の形状を決定することが大きな特徴である。その中で入谷式後足部回外・回内誘導テーピングは、伸縮性テープを用いて、ほとんど伸張をかけずに誘導することが通常のスポーツテーピング等とは異なる点である。この関節の可動性を制限しない方法でのテーピングによって、片脚立位の安定性が変化するかを、重心動揺計を用いて検討した。【方法】対象は健常成人20名(男性7名、女性13名)、平均年齢28.5±4.5歳とし、全員について右足に回外誘導テーピング(回外)、回内誘導テーピング(回内) を行い、右片脚立位時の重心動揺を測定した。テープは伸縮性のあるニトリート社製EB-50を使用した。測定肢位は非支持側膝を90度屈曲位、上肢はかるく体側につけ、5m前方の1.5mの高さの目印を注視させた。重心動揺はZebris社製のWinPDMを使用し、裸足、回外、回内の3条件で片脚立位になった5秒後からの30秒間を計測した。計測パラメータは総軌跡長、外周面積、前後方向動揺の標準偏差(前後動揺)、左右方向動揺の標準偏差(左右動揺)とした。計測パラメータごとに、裸足と回外、裸足と回内の平均値の差についてt-検定を用いて比較した。【結果】裸足と比較し回外では総軌跡長(p<0.01)および左右動揺(p<0.05)が減少した。回内では総軌跡長(p<0.01)が減少した。その他では差は認められなかった。【考察】回外と回内で異なった結果となったのは、回外で左右動揺が減少したことである。後足部回外が、横足根関節での距舟関節と踵立方関節の関節軸を交差した位置関係にし、強固な足部にするとの報告から、その作用により重心動揺が減少したと考えられた。しかし、前後動揺では差がないことから、前後の安定は前足部や距腿関節等の他の要素が関与しているのかもしれない。一方、総軌跡長は回外、回内ともに減少していたことから、関節肢位の影響とは考えにくい。キネシオテープは入谷式同様、伸張をかけないで使用するが、皮膚及び腱等の皮下組織への感覚入力を増加させ、神経筋を促通させるとの報告がある。入谷式は、皮膚および足アーチ保持に重要な腓骨筋腱、後脛骨筋腱に沿った走行であり、テープが前記の作用を起こさせ、神経筋を促通し総軌跡長を短縮させたと考えられる。また関節の可動性を制限しないことから、単一の筋ではなく複数の筋の共同した反応が起こりやすいのではないかと考えられた。しかし、皮下組織との関連等、推察の域を超えないことから今後、検討が必要だと考えられた。
著者
新井 保久 山田 邦子 藤井 幸太郎 渡辺 健太郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1346, 2008 (Released:2008-05-13)

【はじめに】リハビリ訓練室の訓練用具や機器には,患者が直接手で触れる物が多い。そのため患者の手から細菌がついてしまうことが予想され,2つの調査を行った。調査1は「患者の手にどれだけ細菌が付着しているか」,調査2は「手の細菌数が消毒剤で減少するか」である。【調査1の対象】動作能力によって手に付着している細菌が違うかどうか,理学療法実施中の患者で「A=外来の独歩移動3例,B=入院中の独歩移動3例,C=入院中の歩行器移動3例,D=入院中の車椅子移動3例,E=入院中の車椅子移動の片マヒ3例」を調査した。【調査1の方法】リハビリ訓練室の入室時に,効き手または健側の手掌を「ハンドぺたんチェック」に押しつけ,48時間培養後に各菌のコロニー数(目で数えられるものは数え,それ以上で数えきれないものは大まかな数)を調べた。細菌として「1. CNS(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌群),2.コリネバクテリウム,3.バチルス,4.ミクロコッカス,5.MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌),6.MSSA(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌),7.グラム陰性桿菌」を調べた。【調査1の結果】1~7を合わせた全体のコロニー数は,各々の平均数「A=219,B=262,C=377,D=1158,E= 317」である。その中で病原性の高いとされる,MRSAは1例も検出されなかったが,MSSAは「Bに1例,Eに2例」,またグラム陰性桿菌は「Cに1例,Dに2例,Eに2例」検出された。【調査2の対象】動作能力の低い患者に細菌数が多い傾向であったため,前述と同様に「C=3例,D=3例,E=3例」について調査した。【調査2の方法】「リハビリ入室時(消毒前)」及び「速乾性擦式アルコール消毒剤(商品名ゴージョーMHS )による消毒後」の2回,手の細菌を検出し比較した。【調査2の結果】1~7の細菌を合わせた全体のコロニー数は,各々の平均数でリハ入室時(消毒前)は「C= 557,D= 720,E= 953」が,消毒後は「C=16,D=59,E=31」へと減少した。その中でも「1. CNS,2.コリネバクテリウム,4.ミクロコッカス」が著明に減少した。しかし「3.バチルス」については芽胞を有するためか「C・D・Eの総数が 266から 195へ」と減少しにくい傾向であった。またMRSA・MSSAは1例も検出されなかった。グラム陰性桿菌は「C・D・Eに1例ずつの3例検出され,平均数8から1へ」と減少したが,「他2例は消毒後」に検出された。【調査1・2の考察】リハビリの用具・機器を患者毎に清拭することが望ましいが,現状では困難なことも多い。今後は,職員の手指の洗浄・消毒はもちろん,患者自身にも積極的に手洗いやアルコールによる消毒を心掛けてもらう必要がある。また自力で手洗い等が困難な歩行器・車椅子使用例や片マヒの症例には,職員が介助して擦式アルコール等による手指消毒を行うことが望ましいと考えられる。

1 0 0 0 OA 腰痛とBMI

著者
岡村 秀人 小鳥川 彰浩 林 伸幸 大西 雅之 岩越 優 四戸 隆基 佐藤 正夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C1002, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】腰痛は、その発生により、時には日常生活に支障を来たし、更には仕事面においても長期欠勤等を引き起こす症状である。その原因は多岐にわたり、骨関節・軟部組織や心因性等様々である。医療従事者が患者教育の面で、肥満は腰痛の原因となり体重増加は症状を悪化させるとの説明をする機会も少なくない。直感的な認識として、肥満が一般的な腰痛疾患の重要な原因ではないかと考えられているが、今回、アンケート調査を基にどの程度関連性があるか検討してみた。【対象】岐阜県厚生連に所属する職員で、書面にて研究の趣旨を説明し、同意を得た1,168名(男性279名、女性889名、職種別内訳は医師81名、看護部665名、コメディカル部門157名、事務・その他265名、勤続年数11.4年±9.94年)とした。(有効回答率81.8%)【方法】アンケート調査にて、職種、勤続年数、年代、性別、身長、体重、腰痛の有無の各項目を記載し、腰痛有り(有訴)の人はRolland-Morris Disability Scaleに記入とした。肥満度の判定はBody Mass Index(以下BMI)を用い、18.5未満をやせ、18.5~25.0未満を標準、25.0以上を肥満とした。【結果】職員全体の腰痛有訴率は58.0%であった。性差でみると、男性48.0%、女性61.1%であった。職種別では医師48.1%、看護部65.9%、コメディカル部門43.9%、事務部門・その他は49.1%であった。年齢別にみると、10歳代は0.0%、20歳代56.1%、30歳代は52.7%、40歳代は65.2%、50歳代は58.7%、60歳代は60.9%であった。経験年代別では10年未満が55.6%、10年以上20年未満が56.6%、20年以上30年未満が64.0%、30年以上が65.5%であった。肥満度別の全体の割合は、やせが13.8%、標準が75.1%、肥満が11.1%であった。肥満度における有訴の割合は、やせが53.5%、標準が57.0%、肥満が66.4%であった。【結語】肥満が腰痛患者によくみられる併存所見であるという説得力のあるエビデンスは確かに存在する。しかし、体重増加が腰痛治療アウトカムの強力な予測因子であることは証明されていない。肥満と腰痛に関する多数の研究が行われており、横断的研究と縦断的研究の両面から検討がなされている。総合的にみてエビデンスは相反している。つまり、肥満と腰痛との明らかな因果関係は実証されていない。腰痛に関しては、発生原因が多様であり、肥満という危険因子のみを除外しても解決はされない。今回の結果では傾向は見られるものの、今後さらなる検討が必要である。
著者
荒木 秀明 佐々木 祐二 猪田 健太郎 武田 雅史 赤川 精彦 太田 陽介 末次 康平
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0983, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】近年、MRIの普及により脱出型または遊離型ヘルニア症例の多くが数週間もしくは数カ月の内に、症状とヘルニアそのものが消失することが報告され、積極的保存療法が提唱されている。われわれは、難治性の椎間板ヘルニアに対して吉田らの提唱する椎間板加圧療法を用いて良好な結果を得ているが、今回は非観血的に椎間板の変性を目的として温熱効果を持たせた超音波療法の効果を理学検査とMRIを用いて検討したので報告する。【方法】対象は罹病期間が3ヶ月以上で、MRI画像にてT1、T2強調でともに低信号を呈する腰痛症例である。治療肢位は棘突起間を開くように両側股関節を屈曲位での側臥位とした。超音波治療はIto社製超音波治療器を用いて、周波数1MHz、100%の連続波、強度は1.0~1.5W、5分間行った。理学療法は超音波照射後、たんぱく質の変性により髄核の縮小が起こり、椎体間の不安定性が惹起されることが予測される。この不安定性に対する安定化を目的に、多裂筋、腹横筋それと骨盤底筋の共同収縮練習を背臥位、座位、立位へと段階的に進めた。その際、疼痛が出現しないように配慮した。治療効果を判断するため各種理学検査とMRIの変化を翌日、4、8、12週間後に測定した。【結果】MRI画像は超音波照射翌日、L5/S1レベル以外ではほとんどの症例でT2強調画像は炎症反応を示す高信号に変化した。ヘルニア塊の経時的変化は、4週後に軽度縮小傾向を認め、8週後にはさらに縮小し、12週後には顕著に縮小していた。加圧療法と比較すると縮小の程度は遅いものの縮小傾向が観察された。理学検査では、翌日ほとんど変化は認められなかったが、4週後には症状は軽減し、職場復帰が可能な程度であった。12週後においても症状の改善は維持されていた。【考察】過去約20年間、腰痛症例に対する治療法は積極的な手術療法から化学的酵素療法や経皮的椎間板切除術を経過し、積極的な保存療法へと移行してきている。しかし、臨床においてはこれらの治療法を駆使しても治療に抵抗する難治性の症例に遭遇する。今回、積極的保存療法に抵抗する難治性の椎間板ヘルニアに対して、椎間板の主たる構成要素であるたんぱく質を融解させることで、炎症を惹起させ、マクロファージによる吸収を促進することを目的に超音波照射を施行した。結果は仮説を肯定するように炎症を予測させるMRI画像の変化と、経時的なヘルニア塊の縮小、消失を確認できた。画像の変化に伴い理学検査においても改善が確認された。【まとめ】積極的保存療法に抵抗する難治性椎間板ヘルニア症例に対して、非観血的な中間療法として温熱効果を持たせた超音波療法を紹介した。画像所見、理学検査所見とも良好な結果を得ることができた。今後は、症例数を増やし、レベル毎の違い、照射後の副作用の有無、長期間の予後を含め検討していきたい。
著者
大西 広倫 美崎 定也 川崎 卓也 末永 達也 山本 尚史 木原 由希恵
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1552, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】 人は加齢により著しく平衡機能の低下が見られる。また,外乱刺激に対する反応の低下により高齢者は転倒しやすい傾向にある。臨床で腹腔内圧(腹圧)を高める事で,しばしばバランスの向上が見られる事がある。腹圧の維持・向上は体幹・腰部の安定性のみならず,四肢の運動機能に重要である。今回,高齢者を対象に簡便な方法として,腹圧へのアプローチが身体制御,平衡機能においてどのように影響を及ぼすのか,検討する事を目的とした。【方法】 対象は本研究に同意した当院関連施設デイサービスを利用している高齢者26名(年齢69.7±6.8歳)とした。今回,介護度としては要支援1から要介護2の方々を対象に男性19名,女性7名で脳血管障害20名,下肢整形外科疾患2名,その他4名であった。除外基準としては立位が著しく不安定、また10m以上の歩行が困難な者とした。検討項目としてはFunctional reach test(FRT),Timed up and go test(TUG)を用い,同一対象者で腹部ベルト装着あり・なしの条件下で測定しその差を検討した。腹部ベルト装着あり・なしの条件下で,Functional reach test(FRT),Timed up and go test(TUG)を測定しその差を検討した。FRTは,Duncanらの方法をもとに施行した。またTUGは,Podsiadloらの方法をもとに施行した。ベルトの装着位置においては,関らの方法を一部改定し,Jacob線直上の水平面上で,立位にて測定し,腹囲より5cm短い長さでベルトを装着した。ベルトは市販の4cm幅の物で,1cm間隔で目盛りを付けた。なお,測定はそれぞれ一回づつ,ランダムにて行った。統計解析はWilcoxonの符号付き順位検定を用い,有意水準5%とした。【結果】 両検査の測定値をベルト装着あり・なしの二条件間で比較した結果,FRTにおいては,ベルト装着ありで中央値(四分位範囲)22.1(17.3~30),装着なしで21.5(14~24.8)でありベルト装着の方が有意に大きかった(P<0.05)。TUGにおいては,ベルト装着ありで14.6(12.2~21.4),装着なしで16.3(12.1~25.7)であり,ベルト装着ありの方が,装着なしに比べ,有意に短かった(P<0.05)。【考察とまとめ】 今回,高齢者の腹部にベルトを装着する事で静的・動的バランス機能の向上が認められた。ベルトを使用する事で腹圧を高める,腹圧の上昇が腰椎を安定化させる事,また下部体幹の固定性が増す事が言われている。今回,静的・動的バランス機能の向上においては,腹腔内圧の上昇により,四肢の運動機能が高まった事が考えられる。腹圧を高め,バランス機能の向上を図る事は,ベルトを使う事で簡便にできる有用な手段の一つである。
著者
大久保 美保 安東 大輔 鶴崎 俊哉 志谷 佳久 上野 尚子 永瀬 慎介 濱本 寿治 平田 恭子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0877, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】臨床において、中枢神経疾患による筋緊張の異常は姿勢や動作による影響を受けやすく、日常生活動作や随意運動を遂行する上での障害となることが多い。また、程度も多様で個人差も大きく、各個人の動作時の筋緊張を客観的に評価する必要がある。先行研究では、Wavelet変換を用いて1)関節トルクを筋電信号から推定することができること、2)関節トルクの推定式から屈筋のトルクと伸筋のトルクとに分けることができること、3)これらの推定が同時収縮の場合と漸増抵抗の場合のいずれでも成り立つことの3点が示唆されている。本研究では片麻痺患者に肘関節の屈曲、伸展方向への等尺性収縮を行わせ、前腕に生じる力を計測し表面筋電からの実際の関節トルク値と先行研究のトルクの推定式との値を比較・分析し、運動の効率性を定量的に評価できる可能性の有無や、臨床での有効性を検討することを目的とした。【対象と方法】対象は片麻痺患者5名(男性3名、女性2名、平均年齢62.8±3.4歳)で、上肢のBrunnstrom stage(以下stage)が3~4(stage3が3名、stage4が2名)であった。対象者を背臥位にて患側の肩関節内・外転0度、肘関節90度屈曲、前腕90度回外位にて前腕をロードセル(以下LC)に固定し、肘関節屈筋群と肘関節伸筋群から表面筋電信号(以下SEMG)を導出した。SEMGおよびLC信号は筋電信号計測装置を経由してPCに取り込んだ。導出条件は1:安静後、2:麻痺側上肢ストレッチ後、3:非麻痺側肘関節最大随意収縮後の3条件で、漸増屈曲を5秒間かけて行い、その後、漸増伸展を5秒間かけて行った。力の強さは任意とした。SEMGとLC信号において、各条件ごとに(1)漸増屈曲(2)漸増伸展のそれぞれ5秒間を任意に抽出して0.5秒ずつに区切り10箇所の信号を分析信号とした。このSEMGからwavelet変換を用いて0.5秒間のエネルギー密度の総和(以下TPw)を算出した。LC信号より求めた関節トルクと屈筋群および伸筋群のTPwから対象者毎に回帰式を求め、関節トルクの予測値を算出し、実測値との相関を求めた。【結果】stage3の人では3例とも安静後は相関が得られた(p<.0001)。抵抗運動後はトルクの屈曲相、伸展相の2相性がみられず相関も低かった。Stage4の人では2例とも各条件下で相関が得られた(p<.0001)。各条件下での屈筋と伸筋の最大値を比較すると、屈筋において一方は抵抗運動後、他方はストレッチ後に最大値をとっていた。伸筋においては、一方はストレッチ後、他方は安静後に最大値をとっていた。【考察】stage4では関節トルクの実測値と推定値に強い相関があり、運動の効率性を定量的に評価できる可能性が示唆された。Stage3では静止時の筋緊張の状態や、与えられた環境因子に左右されやすいことが伺え、今後、これらの情報を加味して再検討することが必要であると考えられた。
著者
須藤 沙弥香 高橋 俊章 神先 秀人 遠藤 優喜子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1037, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】「食べる」という動作は、栄養を摂取し生きていくために必要な動作であり、摂食姿勢は円滑な咀嚼・嚥下を行う上で重要な因子である。嚥下障害がある場合に、ギャッジアップ30度ないし45度程度での食事摂取を推奨するとの報告があり、座位が不安定な場合などにも、ギャッジアップの状態で食事摂取を行うことがある。しかし、通常われわれは頭部や体幹を自由な状態にして食事をしており、後方へ傾斜した状態は頭部や体幹の制限をするため必ずしも自然な姿勢とは言いがたい。そこで本研究の目的は、ギャッジアップ45度、65度の肢位並びに端座位の肢位の違いが咀嚼・嚥下に及ぼす影響を明らかにすることである。【方法】神経学的疾患ならびに顎形態異常を有さないベッド上長座位が可能な健常成人男性5名(平均年齢22.4歳±0.5)及び女性5名(平均年齢22歳±1.2)を対象とした。なお、対象者全員に文書にて十分な説明を行い、同意を得た。ギャッジアップ45度(枕使用・不使用)、65度(枕使用・不使用)、端座位の5つの肢位で、食物テスト、水飲みテスト、反復唾液嚥下テスト(以下RSST) の3つのテストを行った。食物テストはこんにゃくゼリー16gを完食するまでの咀嚼回数・嚥下回数・時間を測定した。水飲みテストは硬度20の冷水30mlの嚥下回数・飲み終えるまでの時間を測定した。また、これらのテストの間、表面筋電計を用いて舌骨上筋群、咬筋、側頭筋、胸鎖乳突筋、僧帽筋の筋活動を測定した。筋活動の比較では各テストにおいて、テストの開始から終了までの積分値を用いた。さらに主観的評価として、各テストにおいて最も楽な姿勢を問診にて調査した。統計処理は、多重比較検定を用い、有意水準は5%とした。【結果】筋活動量の比較においては、食物テストとRSSTを行った際の胸鎖乳突筋の活動量が、端座位と比較してギャッジアップ45度枕使用時において有意な増加が認められた。また、RSSTを行った際の僧帽筋の活動量は、端座位と比較して他の全ての姿勢において有意な増加が認められた。主観的評価においては、端座位がゼリーの咀嚼・嚥下、水の嚥下、唾液の嚥下いずれにおいても最も楽な姿勢であった。端座位の次に楽な姿勢は、ゼリーの咀嚼・嚥下、水の嚥下においてギャッジアップ65度枕使用であった。またゼリーの咀嚼回数、水の嚥下回数では明らかな差は認められなかった。【考察】結果より、端座位と比較して、ギャッジアップ45度、65度どちらも胸鎖乳突筋及び僧帽筋の筋活動量が増加した。これらは主観的評価から得られた、端座位がゼリーの咀嚼・嚥下、水の嚥下、唾液の嚥下いずれにおいても最も楽な姿勢であったという結果と一致しており、本研究の対象である健常成人においてはギャッジアップベッドの食事姿勢が咀嚼・嚥下に不利な影響を及ぼしている可能性が示唆された。
著者
米村 武男
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E1171, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】訪問理学療法では、在宅生活管理並びに心身の活動量の改善を目的に介入することもある。自主トレーニング(以下自主トレ)の指導はその一手段として用いられるが、定着が困難な場合が多い。今回、糖尿病(以下DM)患者に対し自主トレ指導方法に関する検討を行ったので報告する。【症例紹介】86歳 女性 疾患名:DM・廃用症候群 合併症:網膜症 末梢神経障害 現病歴:10年前にDMと診断。引きこもり傾向・廃用により転倒頻度が増える。【初期評価】▼身体面 TUGT:20秒 筋力:下肢体幹3/5 周計(大腿cm):34/34.2 Borg指数:16/20(20分程度の散歩後)▼DM Hba1c:8.3% BS:210mg/dl BMI:26▼歩行数:平均2000歩/日 LifeSpaceAssessment(以下LSA):74 「生活するのが疲れる」 【経過】第一期(6M):転倒頻度の減少と自主トレ未定着指導内容:下肢ストレッチや筋力トレーニング(主に大腿四頭筋を下腿の自重負荷・等尺性収縮にて20回/2setを訓練実施)の他、訓練内容同様及び30分/日散歩を自主トレ設定とし、口頭・紙面で指導した。結果:姿勢・ROM・TUGT・転倒頻度の改善を認めた。しかし自主トレが定着せず、訪問リハ終了による再度廃用の懸念が残り自主トレ定着が課題となった。またLSA・歩行数・Borg指数・筋力に変化を認めなかった。第二期(6M):行動分析学的指導による自主トレの定着指導内容:訓練頻度・内容は第一期と同様、自主トレ指導として行動分析学的指導を用いた。主な内容は自己効力感を高める為に▼目標行動の設定:TimeStudy法による実施時間の明確化▼セルフマネジメント行動の確立:DM管理や歩行数・自主トレ回数の自己記録評価▼他者強化:訪問時間中の自己記録評価のフィードバック を実施した。また自己効力感の評価としてSF36を指標にした。【結果】▼身体面 TUGT:15秒 筋力:下肢体幹5/5 周計:36.4/36.8 Borg指数11/20▼DM HbaIc6.3% BS130mg/dl▼生活面 歩行数:7000歩 BMI:18 LSA:110 SF36:身体75→100全身的健康40→62活力37.5→68.7社会生活75→100精神75→100「生きるのが楽しい」【考察】今回自主トレが定着できないために廃用予防が達成されなかった症例に対し行動分析学に基づく自主トレ指導を実施した結果、定着が可能になり心身の活動量が改善した。行動分析学は自己効力感を高めることを目的とする。指導実施後、自己効力感が向上したことで定着が可能になったと考える。自主トレ指導は丁寧なフォローが必要であり、定着に向けた指導方法として行動分析学を用いることは有用ではないかと考えた。
著者
田邉 紗織 渕 雅子 山本 澄子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B0271, 2008 (Released:2008-05-13)

【はじめに】脳卒中片麻痺患者の歩行において、麻痺側立脚期の短縮は揃型歩容を呈する原因の一つとなる。今回、脳卒中片麻痺患者1症例について、約1ヶ月間の経過の中で揃型から前型に至るまでの歩容を経時的に計測し、力学的側面から考察を加えたので報告する。【方法】対象は脳梗塞(右被殻)により左片麻痺を呈した69歳女性。発症後116日目以降2週毎に計3回、独歩での自由歩行を三次元動作解析装置(VICON MX13 カメラ14台)、床反力計(AMTI社製)6枚を用いて計測し、1歩行周期の重心、前後方向床反力(以下Fy)、下肢の各関節角度とモーメント(以下M)、パワー、及び歩行速度、cadence、step lengthを算出した。同時に初期時と4週目にFugel-Meyer-Assesment(以下FMA)を用いて身体機能を評価した。【結果】FMAは初期時162点、4週目は164点であった。歩容は2週目まで揃型を呈していたが、4週目以降前型へと変化し、歩行能力も杖歩行軽介助から杖歩行見守りへと漸次改善した。歩行速度とcadenceは初回0.46m/秒、111.43歩/分、4週目0.45m/秒、96.4歩/分であり、麻痺側下肢のstep lengthも経時的に増加を認めた。歩行時の身体重心は初期時に上下へ大きくばらついた動揺を認め、非麻痺側へ変位していたが、振幅は経時的に収束し、非麻痺側への過剰偏倚も消失した。麻痺側立脚期のFyは終始後方成分を呈していたが、4週目にはその最大値が減少しており、同時期の非麻痺側下肢において前方成分の減少も認められた。麻痺側足関節は初期接地(以下IC)で底屈位を呈し、荷重応答期(以下LR)にかけて底屈Mで遠心性の筋活動が認められたが,4週目にはICの底屈角度が減少していた。麻痺側膝関節ではICで屈曲位を呈し,屈曲Mで求心性の筋活動が認められたが,経時的に屈曲Mは減少していった。麻痺側股関節では、ICで屈曲位を呈し、LRにかけて屈曲Mで遠心性の筋活動が認められたが、4週目には屈曲Mが減少していた。麻痺側骨盤帯はLRにかけて後方回旋と前遊脚期から遊脚初期の挙上が減少した。【考察】本症例の初期時の歩行は、麻痺側ICの過剰な足関節底屈と股関節屈曲による前足部接地により、LRの股関節、膝関節屈曲Mの増大が生じ、代償的な骨盤帯の後方回旋によって身体重心の前方推進が阻害され、結果的に揃型歩容を呈していたものと考えられた。そのため、遊脚期において代償的な骨盤挙上による下肢の振り出しが要求され、非麻痺側下肢の過剰なFy前方成分と身体重心の上下動揺を生じていたと思われた。4週目においては、麻痺側ICにおける足関節底屈及び股関節屈曲角度の減少が認められたことにより、LRにおける股関節、膝関節、及び骨盤帯の過剰な後方回旋に改善が得られ、円滑な前方への推進が可能となったと考えられた。
著者
墨谷 由布子 尾崎 亮 内藤 勝行 中嶋 正明 小幡 太志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1331, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】運動学の概念では,日常生活動作における長時間の立位姿勢では,足を台上に上げることで通常よりも腰痛が軽減すると言われている.しかし,この台の高さに関する明確な記述はあまりなされていない.そこで今回は,高さをどの程度に設定すると最も腰部のストレスが軽減されるかを脊柱の彎曲,骨盤の後傾度,筋放電を測定して明確にすることを目的とし,検討した.【方法】対象は,腰痛の既往のない健常成人男性6名とした.年齢,身長,棘果長,転子果長の平均はそれぞれ21.3±0.5歳,167.0±4.8cm,87.1±4.2cm,78.8±4.1cmであった.測定肢位は,立位で5kgの重錘を体幹の前方に両肘関節90度屈曲位で水平に保持した状態での静的立位姿勢および10cm,15cm,20cm,25cm,30cmの各台に片足をのせて行った.この肢位で,スパイナルマウスを用いて脊柱の彎曲,上前腸骨棘と大転子に目印を貼付し,デジタルカメラで撮影しScion Imageにて骨盤の後傾度,筋電計で脊柱起立筋群の筋放電を測定した.【結果】静的立位と比較し10cm以上の踏み台では骨盤の後傾が有意に増加した.15,30cmでは腰仙角,腰椎の前彎が有意に減少した.足を台にのせた側の脊柱起立筋群の筋放電は,立位と比較して10cm~25cmで有意に増加し,15cmでは対側と比較して同側で有意に増加した.15cmにおいては,両側の脊柱起立筋群の筋放電と腰仙角に負の相関関係,同側の脊柱起立筋群の筋放電と腰椎の彎曲,対側の脊柱起立筋群の筋放電と胸椎の彎曲にはそれぞれ正の相関関係が認められた.【考察】今回の結果において,骨盤の後傾度では10cm以上の台に片足をのせた肢位で骨盤の前傾が有意に抑制でき,腰椎の前彎では15cm以上で有意に前彎が抑制することが明らかとなった.一方,筋放電では立位と比較して片足を台にのせた側の脊柱起立筋群の筋放電が,台の高さが高くなるにつれて有意に増加したのに対し,対側では有意な増加が認められなかった.これは,片足を台にのせる動作によって骨盤の対側への回旋が生じ,これを抑制するために同側の脊柱起立筋群の筋放電が各肢位で有意に増加したと考えられる.筋放電から考えると,10cm以上の台で行った肢位で同側の脊柱起立筋群の筋放電が有意に増加し,腰部の負担が増加することが明確となった.筋活動が少ない対象者に対しては,筋活動を促す目的で片足を台にのせることが有効ではないかと考えられる.また,筋緊張が高く腰痛を生じている対象者に対しては,腰痛を増悪させる可能性があると推測できる.【まとめ】以上のことから考えると,理学療法としては,15cmの台に片足をのせることによって腰部に負担をかけることなく,腰痛を軽減することができると推測される.今回の対象者では,台の高さが身長の9.0%,棘下長の17.2%,転子果長の19.0%であった.この割合に関しては,本研究では対象人数が少なく,今後さらなる研究が必要であると考えられる.
著者
坂本 慎一 平尾 浩志 飯星 雅朗 国中 優治 壇 順司 高濱 照
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1315, 2008 (Released:2008-05-13)

【はじめに】近年、呼吸器疾患患者の運動療法において体幹機能や姿勢制御機構を基にした報告がなされている。また呼吸に深く関与している横隔膜や腹横筋が体幹の安定化と呼吸の維持を図る二重作用についても言及されている。今回、熊本大学形態構築学分野のご遺体にて、腸骨筋と腹横筋が広範にわたり連結しているのを確認した。また腹横筋と横隔膜の関係においても、横隔膜の後方部にて腹横筋筋膜より起始しているのを確認でき、横隔膜肋骨部は肋骨弓より起始しており、また腹横筋も肋骨弓より起始している。上記より、横隔膜の張力を効果的に発揮させるためには、腸骨筋と腹横筋における腹部の固定性が重要になると推察した。そこで、腸骨筋と腹横筋の連結に着目し、腸骨筋へのアプローチを行うことで呼吸機能への影響の有無を検討した。【解剖所見】腹直筋は起始、停止とも遊離、外腹斜筋、内腹斜筋も遊離し外方に翻してあった。腹横筋は、肋骨弓部を起始より遊離し、停止部は腹直筋鞘の正中部で左右に翻してあった。腹部内臓は摘出し、体壁筋のみが存在した状態で観察を行った。また、骨盤腔においても恥骨を除去し、ある程度骨盤壁を左右に翻せる状態であった。その状態で、腹横筋の起始部と腸骨筋の起始部を観察した。通常腸骨筋は腸骨窩とされているが、観察した遺体では、すべて腹横筋の腸骨稜内唇の起始部と同じ所より起始していた。腹横筋との連結は筋線維の連結はなく、筋膜および骨膜を介して行われていた。【対象】理学療法学科1年から3年までの健常学生17名(男性15名、女性2名、平均年齢23.1歳)を被検者とした。【方法】呼吸機能計測はMICROSPIRO HI-701(日本光電)を用い、腸骨筋へのアプローチの前後で計測した。計測項目は肺活量(VC)、呼気予備量(ERV)、吸気予備量(IRV)、努力肺活量(FVC)とした。腸骨筋へのアプローチは、端坐位を取り両上肢にて坐面を押さえることで上体を固定した姿勢にて、股関節の屈曲運動を行わせた。また、腹部内臓の影響を避けるため測定は全例、昼食より4時間空けて行った。上記の測定データをWilcoxonの符号付順位検定を用い、有意水準を5%として解析を行った。また、解析ソフトはStatViewを用いた。【結果および考察】VC値においてアプローチ前(4.69±0.16L)とアプローチ後(4.78±0.17L)で有意な増加が見られた(P<0.05)。VCの増加は17名中12名に認めた。その他の項目について有意差は認めなかった。遺体の解剖所見に基づき今回腸骨筋にアプローチを行い、呼吸機能の測定を行いVC値に変化が見られた。この結果より腸骨筋と腹横筋の関係が腹部体壁の固定性を高め、横隔膜の張力を高める可能性が示唆された。このことより、腸骨筋へのアプローチが呼吸機能へ影響すると考えられる。
著者
後藤 達志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B1118, 2008 (Released:2008-05-13)

【はじめに】HAM(HTLV-1 associated myelopathy)はHTLV-1無症候性感染者(鹿児島県では一般の抗HTLV-I抗体陽性率9.8%と高い)の一部に発症する慢性進行性の脊髄疾患である。主な症状の一つとして体幹から下肢にかけての運動障害(痙性対麻痺)や排尿・排便障害、自律神経障害などが挙げられる。これらの症状が進行するとしだいに足先が引っかかるようになり、杖歩行→押し車→車椅子移動へと進行していくケースが多数報告されている。このことを踏まえ今回、患者を移動能力別に分け各々の身体機能を評価し比較検討を行ったので報告する。 【対象と方法】当院へ入院または外来通院しているHAM患者10例(女性7名、男性3名;平均年齢62±25歳;平均罹病18±37年)を対象とし、杖なし歩行群(2例)・杖歩行群(5例)・車椅子群(3例)の3群に分け評価を行った。評価の内容として運動機能障害重症度(以下:OMDS)、筋肉CT、歩行距離、MMT、痙性スコア(MAS)、深部腱反射、排尿障害の重症度、圧迫骨折の有無、腰部の痛み(VAS)、BMI、FIMを行ない、これらをもとに次の項目について調べた。1)OMDSと他の評価との相関。2)3群のMMT(体幹・下肢)の比較。3)筋肉CTにて脊柱起立筋の比較。【結果】1)OMDSとFIM,歩行距離,痙性スコアに強い相関が得られた。また、圧迫骨折,腰痛に関しては有意差はなかったが強い相関は得られた。2)筋力(MMT)では傍脊柱筋群,腸腰筋,外転筋,ハムストリングス,下腿三頭筋が著明に低下しており、総体的な筋力では車椅子群が有意に低下していた。3)筋肉CTでは杖歩行群にて胸椎レベルの脊柱筋の萎縮、車椅子群にて胸椎・腰椎レベルの脊柱筋の萎縮が認められた。その他は腸腰筋なども萎縮していた。【考察】今回の結果から、HAMの進行と下肢痙性の程度と脊柱筋力低下の関係を考えると、(一期)痙性出現期・脊柱筋力減弱,(二期)痙性ピーク期・脊柱筋力低下,(三期)痙性減少期・脊柱筋・下肢筋力低下,(四期)弛緩期・脊柱筋・下肢筋力著名な低下の四期に分けられる。二期において筋肉CTでは胸椎レベルの脊柱筋が著明に萎縮していた。また三期では車椅子となるケースが多くみられた。この歩行困難となる主な理由として、腰から殿部・下腿三頭筋などの突っ張りや重み(鈍痛)などが挙げられる。これら痛みの原因として、荷重下での腰背筋や三頭筋などの痙性増強や体幹筋力低下(腰背部)による、椎間関節での神経根への影響などが考えられる。四期において両下肢は弛緩傾向にあり、体幹CTでは胸椎・腰椎レベルの脊柱筋に著明な萎縮が認められた。この時期になると患者は歩行不能となる場合が多く臥床傾向による廃用の影響なども考えられる。
著者
須藤 愛弓 三和 真人
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0484, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】 高齢者の問題として転倒が注目されているが、これに関連する心理的問題として転倒に対する恐怖心がある。恐怖心やそれに関連したバランス低下が転倒を招くとされており、両者の関連性について理解する必要があると考えられる。本研究では、異なる条件下で不意の外乱刺激を与えることにより、恐怖心が姿勢の安定性にどのような影響を及ぼしているか検討することを目的とした。【方法】 対象は本研究に同意の得られた健常成人14名(平均:年齢21.4歳、身長168cm、体重58.9kg、男性8名、女性6名)である。方法は、重心動揺計を可動式の床面上に設置し、高さと視覚条件を変えた4条件下(平地開眼、平地閉眼、高地開眼、高地閉眼:以下LO, LC, HO, HC)で立位姿勢をとらせ、予告なしに前方への外乱刺激を与えた。重心動揺計にて総軌跡長、動揺平均中心変位、動揺速度、三次元動作解析装置にて下肢の角度変化を同時に測定した。恐怖心はVASおよびSTAI(状態・特性不安検査)にて評価した。統計学的解析は、級内相関係数による再現性、恐怖心と各項目の関連性はPearsonの相関係数及びANOVAの多重比較検定を行った。なお、有意水準は5%とした。【結果】 恐怖心はLO、LC、HO、HCの順に増加した。恐怖心と重心動揺の各項目は有意な正の相関を示し、外乱刺激の前後ともLOやLCに比べHO、HCで有意に増加した(p<0.05)。外乱前の平均中心変位は恐怖心が増すにつれ徐々に前方へ変位し、HCの時では約2.4cm前方へ変位していた。一方股関節及び足関節の角速度は弱い負の相関を示し(r=-0.24, r=-0.27, p<0.05)、LOに対しHO、HCで有意に減少した(p<0.05)。4条件とも外乱刺激から約0.5秒後に股関節が先行して反応した。足関節の反応時間との差は0.1秒程度で、条件間で統計学的な有意差は認められなかった。【考察】 恐怖を感じることにより、支持基底面内における姿勢の安定性が低下するのに加え、基底面から重心が外れないようにするための下肢の姿勢調節機能が働きにくくなると考えられる。この時健常者では下肢関節の協調した働きや危険を予測した身体の準備反応により自身の安定性を確保している可能性が考えられる。しかし高齢者の場合、身体機能が低下し、外乱に対する反応が鈍くなっていることが予想される。そのため下肢の協調性や準備反応が不十分となり、更に姿勢の安定性が低下するかもしれない。【まとめ】 健常成人を対象に、恐怖心と姿勢の安定性との関連性を検討した。恐怖を感じることで姿勢の不安定性が増し、身体機能が低下している高齢者の場合には転倒に至る可能性があることが示唆された。