著者
友寄 長重
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.151-155, 1967-10-01

毛細管現象により液肥を砂床に地下自動供給する方法により山東菜に対する液肥の濃度試験を行なった。対象区として砂床と土床に地上灌水(液肥)する区を設けた。液肥は尿素, 過燐酸石灰, 塩化加里を窒素, 燐酸, 加里が12-5-7になるように配合したものを稀しやくして用いた。地下自動給水区は4区設け, 液肥の濃度は200倍, 400倍, 800倍, 1600倍区にした。地上灌水区は砂区, 土区とも200倍液を月, 水, 金曜日に1平方米当たり1lの割合いで灌注し, 火, 木, 土曜日には同量の水をかけた。1966年11月26日に播種し, 1967年1月20日に測定した。地下自動給水区の液肥がなくなった12月10日と21日に50lづつ液肥を入れた。土区では生育の途中で害虫が多く発生し測定できなかった。砂床地上灌水区は, 試験期間中降雨が多かったため, 地下自動給水の200,400,800倍区に劣っていた。地下自動給水区では生育の中途までは400倍区がよかったが, 結果は200倍区が成績は最もよかった。200倍区のT/R率が極めて高く, 十分の水と肥料が供給されれば, 根長, 根重は小さくても, 地上部に十分の養分を供給するものと考えられる。地下自動給水により液肥を砂床に供給し, そ菜, 花卉を栽培することは筆者が1966年9月から始めたものであり, 満足のゆくような施設と研究はできなかった。液肥を貯めるのに内径10∿15cmのビニールパイプを用い, その他いろいろ改良を加えれば, 多額を要さない施設費で栽培の省力化と増収にかなり設立つものと考えられる。
著者
鹿内 健志
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.53-107, 1998-12-01

本論文は軟弱地盤において作業を行なう農用車両の走行性に関して, 車輪と土の力学的相互作用の面から究明し, さらに, 耕盤を有する圃場の車両に対する支持力特性について解明し, 農用車両走行部の力学的設計に不可欠な基礎的知見を提示したものである。まず, 車輪と土の力学的作用を把握するため走行車輪下の土の変形計測システムの開発を行なった。本システムにより気乾豊浦標準砂を対象に車輪走行実験を行い, 走行車輪下の土の変形およびけん引力, 接地応力など走行性に関する力学的諸量の計測を行なった。また, 車両の支持力特性について, すべり線法による理論解析を行なった。耕盤を有する圃場の車両に対する支持力問題を, 剛盤上の摩擦性塑性体の二つの近接する荷重に対する支持力問題と理想化した。荷重間隔, 荷重幅および耕盤深さに応じて五つのすべり線場を設定し, これらに基づき支持力の計算を行なった。以下, 各章ごとの総括と結論を述べる。第1章において, 新たに開発した走行車輪下の土の変形計測システムの構造と特徴について論じた。厚さ25μm, 直径5mmのポリエステル製の円形マーカを土槽側壁の内側に設置し, マーカの土に伴う動きを透明な土槽側壁を通し連続写真撮影した。2軸X-Yテーブルと拡大CCDカメラからなる平面位置検出装置により写真からマーカ座標を読取った。これにより土中の変位分布を計測し, さらに有限要素解析における方法を用いて土中ひずみ分布を算定した。計測の不確かさ解析により, 従来の土の変形測定法に比較し, 簡易な方法で, 微小変形から大変形にわたり高精度で計測が可能であることが確認された。また, 新たに開発したマーカは薄いポリエステル製で周辺土壌へ影響を与えることなく, また, 含水比が比較的高い一般の圃場の土に対して使用可能である。第2章では, 土の変形解析システムにより計測した走行車輪下の土の変形解析結果について述べた。車輪は剛性車輪を対象とし, 車輪表面材の摩擦係数による違いを比較するため, 鋼鉄製車輪と鋼鉄製車輪の表面に加硫したクロロプレンゴムを5mm厚さでコーティングしたゴム被覆車輪の2種類を供試した。静的沈下時の土粒子の動きの変位ベクトルは, ゴム被覆車輪および鉄製車輪とも車輪中心を通る鉛直線を中心軸として対称に分布する。車輪が回転すると, 変位ベクトルは車輪前方部で, 前向きの水平成分を持つものと後向きの水平成分を持つものの二つの領域に分けられることがわかった。土の経時的な動きを明らかにするため, 深さ毎の土粒子の変位の軌跡を求めた。また, 土粒子の軌跡を指数関数を用いて表現した。土粒子は車輪中心線が真上にくると, 大略, 最大深さまで動く。ゴム被覆車輪下の土粒子の描く曲線は鉄製車輪のものより土中深くまで移動し, 後方への変化も大きい。車輪と土の接触面では土は車輪表面に固着して動くのではなく, 車輪と土との間にすべりが生じる。鉄製車輪では摩擦係数が小さく, 接触面での車輪と土とのすべりが大きくなり土粒子の変位が小さいと考えられる。ゴム被覆車輪および鉄製車輪下の土中ひずみ分布を等値線図により詳細に示した。各すべり率における鉛直方向・水平方向の垂直ひずみおよびせん断ひずみの特徴について述べ, ゴム被覆車輪と鉄製車輪のひずみ分布の比較を行なった。第3章では, ゴム被覆車輪および鉄製車輪の接地面法線・接線応力分布とけん引力の変動現象について述べた。法線および接線応力の分布はいずれの車輪においても車輪前方部で最大値を示す凸型の曲線を描く。また, 法線および接線応力の最大値はすべり率の変化に伴い変化する。すなわち, 最大法線応力はすべり率の増大とともに減少する。最大接線応力はゴム被覆車輪ではすべり率40%付近まですべり率とともに増加し, その後一定値を示すが, 鉄製車輪ではすべり率40%付近で極大値を示す。接線応力の法線応力に対する比(接地応力比)は, ゴム被覆車輪および鉄製車輪とも車輪と土の接触が始まる部分と接触が終わる部分で高い値を示し, 最小値はその間に現れる。最小値が現れる位置はすべり率が大きくなると車輪前方部に移動する。けん引力の経時的な変動現象を究明するため, その波形を車輪回転角を変数とする正弦関数で近似した。ゴム被覆車輪のけん引力の変動はすべり率によらず, 短周期の振幅の小さい微小振動を示し, 鉄製車輪の場合, 長周期で, すべり率が増大するほど振幅の大きくなる波形を示す。ゴム被覆車輪と鉄製車輪のけん引力の変動の周期と振幅について車輪下の土の破壊態様と照応して論じた。第4章では, 耕盤を有する圃場の車両に対する支持力問題について論じた。すなわち, 本支持力問題を, 二つの近接する荷重が剛盤上の摩擦性剛塑性体に作用するものとしすべり線法により解析を行なった。2荷重によるすべり線場が干渉し, 一般にPrandtl場は成立しないが, 荷重幅, 荷重間隔および耕盤深さに応じて5種
著者
菊地 香 中村 哲也 魏 台錫 仲間 勇栄
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.93-99, 2003-12-01

本稿では,本来ならば経営を引退して地域に埋没してしまう高齢者自らがその知識と経験を活用することで農産加工の起業することが地域にとってどのような効果をもつのかについて沖縄県具志川市の事例をもとに明らかにする。その方法として最初に農村における農産加工での起業化が一般にどのような位置付けがなされるのか,その枠組みを設定する。次いで起業的な経営を行っている生産者グループを対象にして,どのような経緯で起業化を行ったのかを明らかにする。分析の結果は,次の3点にまとめられる。第1に大手メーカーに原料を供給するだけの組織は,ドメインを構築するまでもなく原料を生産するだけの組織であり,起業的な取り組みは全くなされていない。第2に原料の生産はせず製造から販売を行う組織は,安定した原料確保ができず,またそれにより製品の生産量が常に一定とならないことからドメインの構築に至っていない。第3に原料の生産から販売まで行う組織では毎年一定の原料確保ができることから,製品の生産量も安定し,販売戦略もとることができることから,ドメインの構築を行うことにより起業段階から集合化段階に移行しつつある形態が沖縄県でもみられることである。特にこうした起業的な取り組みの担い手が事例のような高齢者を中心とした組織でも可能であり,新たにそこに若い担い手が参加させようとする形態をとっていることである。このことは若い担い手の流出が避けられない農村部において,若者を呼び戻す契機につながることから,こうした起業化は地域の活性化につながる利点があげられる。
著者
川満 芳信 重久 利枝子 福澤 康典 村山 盛一
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.1-14, 2002-12-01

CAM植物であるパインアップルのCO_2収支量を増大させるためには明期の気孔を更に開孔させる必要があると考え,気孔開閉を制限している要因を検討した.1.暗期を短縮してCO_2固定を抑制してもリンゴ酸蓄積量は対照区とほぼ同じであった.暗期におけるリンゴ蓄積量とPhase-3の長さ,明期におけるリンゴ酸の消失と気孔開孔(ガス交換の開始)には関係は無く,Phase-4において葉内CO_2濃度が低下しても気孔は開かなかった.2.暗期短縮やCO_2-free air処理はリンゴ酸蓄積量を減少させたが,Phase-4の気孔開孔は著しく阻害された.3.葉のリンゴ酸含量が増加すると水ポテンシャルおよび浸透ポテンシャルは低下した.4.暗期を短縮した長日条件にすると明期のCO_2吸収は増加し,総CO_2収支量は僅かに増加した.更に明期が長くなると,C_3回路よりもリンゴ酸を精製するC,ジカルボン酸回路が活発に働き,総CO_2収支量の増加は期待できなかった.
著者
仲宗根 平男
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.192-202, 1970-12-01

亜熱帯地域に属する沖縄に300年前よりさし木法によって受け継がれたといわれる, いわゆる地スギが北部山奥へ小面積ながら残っている。その地スギ3本を採取し, その幹材の理学的性質を明らかにすることにより, 造林樹種として, 価値判定の資料に役立てる目的でこの実験を行なった。なお福岡産のスギ1本も実験に加えた。測定結果は下記の通りであった。1)年輪巾 : 地スギ材は未成熟材部で変動が大きく, 成熟材部で安定している。2)晩材率 : 晩材率が70%を示し, 本土産スギ材10∿25%と比較すると著しく高い値を示している。3)気乾比重 : 早材は地スギ材0.3∿0.5,福岡産スギ材0.2∿0.3で地スギ材が高く, 晩材は0.7∿0.9と産地による差がない。4)細胞膜厚 : 早材で6∿12μ, 晩材6∿14μと産地による差はない。5)細胞径 : 早材は地スギ材20∿40μ, 福岡産スギ材40∿50μと福岡産スギ材が大きい。6)細胞径に対する細胞膜厚割合 : 早材は地スギ材が20∿40%, 福岡産スギ材10∿20%と地スギ材が高く, 晩材は地スギ材50∿80%, 福岡産スギ材50∿70%で両者に差はない。この高い値は明らかに早材と区別される。7)仮道管長 : 地スギ材の未成熟材は髄から10番目年輪程度までで, 成熟期に達する期間は福岡産スギ材と大差ないが, 仮道管長は短かい傾向がある。8)地スギ材の特徴 : 晩材率が70%と著しく高く, 早材細胞径も小さく, したがって比重の高い緻密な材である。
著者
ホサイン モハヤド・アムザド 松浦 新吾郎 土井 光弘 仲村 一郎 石嶺 行男
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.145-149, 2004-12-01
被引用文献数
1

万田31号は,作物の収量と品質を高める発酵自然植物凝集物である.万田31号がウコンの生育および収量に効果的であるかを調べるために,1999年5月から2000年2月にかけて琉球大学の亜熱帯フィールド科学教育研究センターの実験圃場で試験した.試験区を葉,土壌,葉と上壌の3つに分け. 100ppmの万田31号を15日間隔で10回施用した.ところが,1999年9月22日に強い台風が発生し,すべての圃場のウコンが大きな被害を受けた.しかしながら,台風後のウコンの回復力に万田31号施用区と無施用区では大きな違いが見られ,興味深い結果を示した.万田31号施用区と無施用区における台風後のウコンの被害の回復,生育および収量について調査した.その結果,万田31号施用区では,新しい分けつの発生と新芽が台風後15日目に確認でき,約70%の植物体は,万田31号の施用を続けることでウコンは順調に回復し,台風後,12月まで生育は良好であった.一方,万田31号施用区に隣接している無施用区においては,施用区から4〜11m離れた畝のウコン収量は,11m以上離れたウコンの収量よりも有意に高く,18m以上離れた畝の植物体は,台風後40日以内に枯死した.総じてウコンの収量は,万田31号施用区が無施用区に比べて約3倍高かった.これらの結果は,万田31号は台風によるストレスに効果的で,しかも,万田施用区近隣の植物体にまで有利に働くと考えられる.万田31号の効用は,激しい降雨による流水によって隣接する圃場へ移動すると推察された.
著者
松嶋 卯月
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.1-37, 2001-12-01

本研究は,無極性ガスを利用して切り花の鮮度保持を行うことを目的として行われた。緒論において述べたように,無極性ガスは切り花内に溶解すると,細胞内の水が構造化し,生体反応が抑制され鮮度保持効果が得られると考えられ,オレンジキャンドル種のカーネーション切り花で効果が確認されている。本論ではとくに,水の構造化によって水の動きが変化することに着目し,主として,切り花内の水移動の変化という観点から,無極性ガスによる水の構造化の鮮度保持効果を解明することを目的とした。以下に各章ごとの要約を述べる。1 切り花からの無極性ガスの脱離速度(第2章要約) 無極性ガスを利用した保存法のカーネーション切り花に対する適用性を明らかにするために,まず,切り花体内において無極性ガスによる水の構造化がどの程度持続するかを検討する必要がある。ここでは,無極性ガスの溶解の状態をその脱離過程から明らかにすることを目的とした。実験の結果以下のことが確認された。1) 切り花および水からの脱離過程は,いずれも2次の反応速度式で回帰された。以下,切り花からの脱離過程を水と同様の単純な界面からの脱離であると仮定し,両者の比較をおこなった。2) 水からの脱離速度は,脱離表面積に比例した。一方,切り花の脱離表面積と速度定数の比例関係は,比例定数が水とほぼ同じである例と,その約1/3程度低い値である例が見られた。両者の差は,切り花の生理的状態によって脱離する表面積が変化するためと考えられた。3) 切り花の脱離過程は2時間から3時間の間でほぼ終了した。よって,その後のキセノン処理の効果は,大気下において,水に飽和して溶解しているキセノン,および,生体高分子の疎水基近傍で会合しているキセノンによると考えられた。2 切り花内部における水の動的状態(第3章要約) 本章では,無極性ガスによる水の構造化が切り花内の水の動的状態に与える影響を明らかにするために,^1H-NMRによる縦緩和時間T_1の測定を行った。測定の結果以下のことが明らかになった。1) 切り花子房部の平均的T_1は,約0.4秒から0.8秒の間にあり,時間の経過に伴い長くなった。しかし,48時間にわたってキセノン処理区のT_1は対照区より小さな値を示し,無極性ガスによる水の構造化によって,組織内の水の束縛が強くなったと考えられた。2) 上記の平均的T_1を得た同一のデータについて2つの指数近似式を用い解析した結果,0.1秒から0.3秒の範囲および0.4秒から0.8秒の範囲にある2種類のT_1が得られた。短いT_1を持つ水成分(以下I成分と称す)は水の束縛が強い部分,また,長いT_1を持つ成分(以下II成分と称す)は水の束縛が弱い部分の水の動的状態を示すと考えられた。対照区ではII成分のT_1が長くなったが,キセノン処理区では顕著な変化が見られなかった。3) 試料中の全プロトンに対する成分IIの存在割合では,対照区において時間の経過に伴い増減が観察された。キセノン処理区では,成分IIの存在割合の変化は低く抑えられた。これは,細胞の老化および細胞内の液胞と原形質間の水移動の抑制を示すと推察された。3 無極性ガスによる水ストレスの抑制効果(第4章要約) 本章では,第3章の結果を受け,水の構造化によって切り花内部の水移動が低減すると仮定し,切り花の水ストレスの抑制効果として働く可能性について検討した。中性子イメージングによる結果を以下に示す。1) 中性子イメージングによって,カーネーション切り花の水分分布を解析可能である良好な画像を得ることができた。2) 0.5,0.6,0.7MPaのキセノン処理区では,水ストレス下においても階調値の最頻値は対応する対照区より明るい階調に存在し,切り花内の水分量が多いことが示された。その結果,無極性ガスによる処理は,対照区と比較して切り花内の水が保持されることが明らかになった。特に,子房部において水が保持される傾向が顕著であった。3) 水分分布の等高線図の経時変化,および階調値の累積相対度数分布曲線の経時変化では,キセノン処理区が対照区と比較してカーネーション切り花内部の水分量が増加する傾向が顕著であった。すなわち,無極性ガスによって初期の吸水能力が維持されたと考えられた。4 無極性ガスによる処理を行った切り花の生理的応答(第5章要約) 本保存法の効果を総合的に判断するために,無極性ガスによる水の構造化が切り花の生理的状態に与える影響を明らかにすることを目的とした。特に,水の構造化による水移動の変化と生理的状態変化との関係を明らかにするために,切り花の蒸散速度および吸水速度と,生理的状態と密接な関係にある呼吸速度を連続および非破壊で計測するシステムを構築し計測を行った。計測の結果以下のことが明らかになった。1) 本章で試料として使用したカーネーション切り花フランセスコ種はクライマクテリック上昇型の花卉であることが確認された。2) キセノン処
著者
篠原 武夫
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.567-574, 1975-12-01

(1)近年わが国の国産材供給危機の情勢により, 東南アジア森林開発に対する関心の高まりは, まことに著しくなってきている。東南アジア森林開発の問題はわが国の林業問題と密接不可分の関係にある。今日の東南アジアの森林は植民地時代の影響を強く受けているので歴史的認識に基づいた東南アジア森林開発の理論的研究は急務である。本論の中心的課題も, 戦前のイギリス帝国主義によって東南アジアの森林がいかに開発されたか, つまり帝国主義の資本の論理が東南アジア植民地の森林にいかに展開して行ったか, という過程を明らかにすることにある。(2)分析方法は植民地森林開発の理論に基づき, 「イギリス帝国主義経済と東南アジア植民地森林開発」の視点に立って接近して行くことにした。一般に帝国主義が植民地開発(資本輸出)を試みる究極の目的は, 超過利潤取得以外の何物でもないが, その目的を達成するために, 独占資本にとって最も要求される課題は植民地原料資源の独占的支配である。この課題を実現するために領土的支配を確立した植民地においては独占資本は国家権力と一体となって原料資源の独占的開発を進めていく。これに対して領土的支配の確立までに至っていない半植民地においては資本侵略によって原料資源の独占的開発を行なうのである。このことは植民地で森林開発が行なわれる場合にも同じように現われる。すなわち(1)領土的支配の確立した植民地の森林開発はなんらかの国家的規模における強権を背景として独占資本の手で開発され, そのために開発対象林は基本的には国有林であり, 資本活動が国家的林野所有を舞台として展開する。すなわち独占資本は森林の所有主体である国家権力と結合して森林資源の独占的開発を可能にするのである。(2)しかし, 同じ植民地で森林の国家的所有が成立しても森林開発が農業開発に重点が置かれて行なわれることがある。そこでの開発資本には農業開発資本のみが存する。この場合の森林資源の意義は農業開発資本の独占的利潤追求と不可分離の関係にある。(3)領土的支配の確立していない半植民地の森林開発では森林の所有主体が民族国家に属しているため, そこでの一資本による森林資源の独占的開発はもっぱら巨大資本力によって生産過程における民族資本および他の帝国主義国資本を圧倒して実現される。以上に述べた植民地森林開発理論の(1)に該当する植民地はビルマ, (2)はマレー, (3)はタイである。