著者
相原 洋子
出版者
日本老年社会科学会
雑誌
老年社会科学 (ISSN:03882446)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.394-402, 2012-10-20 (Released:2020-01-30)
参考文献数
26

経済や教育といった社会要因と健康格差について,世界的な関心が高まっている.社会要因は食生活行動,栄養状態と強い関連を示し,その背景として食や栄養に関する情報量や知識との関連が示唆されている.高齢化が著しいわが国では,介護予防や医療費抑制のうえで,高齢者の栄養状態の改善を検討することは,重要な保健課題であるとし,本研究では社会要因と食と栄養の情報源,さらに多様な食品摂取との関連について分析した.分析対象者は地域の75歳以上高齢者645人であり,経済,教育年数によって情報源,食品摂取の多様性に違いがある結果が得られた.多変量解析の結果,本・雑誌,新聞から栄養情報を得ている人は,多様な食品を摂取する傾向にあった.活字を媒体とした情報源が,高齢者の食生活行動を促すうえで有用であることが示唆された.一方で社会経済状況の低い人に対して,アクセスならびに理解しやすい情報媒体の検討が重要であると考えた.
著者
加瀬 裕子 多賀 努 久松 信夫 横山 順一
出版者
日本老年社会科学会
雑誌
老年社会科学 (ISSN:03882446)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.29-38, 2012-04-20 (Released:2020-01-30)
参考文献数
16

本研究は,認知症の行動・心理症状(Behavioural and Psychological Symptoms of Dementia;BPSD)に対し効果的な介入行動の傾向を明らかにすることを目的としている.質問紙調査により収集したBPSD改善事例130を,多重コレスポンデンス分析を用いて分析した. 分析の結果,BPSDの内容と効果的な介入行動は,4群に分かれた.第一群は,行動性・攻撃性のあるBPSDであり,落ちつかせる介入が効果に関連していた.第二群は,混乱と失見当識への対応が主要課題であるBPSD群で,その改善には,社会性と能力活用を刺激する介入が関連していた.第三群は「幻視」等生理学的な原因に由来するBPSDであり,対立を避けつつメリハリのある生活をめざす介入が効果に結びついたことが明らかになった.第四群からは,被害妄想改善には聴覚の低下を補完する介入の効果が示唆された.
著者
宇都宮 すみ 小岡 亜希子 陶山 啓子
出版者
日本老年社会科学会
雑誌
老年社会科学 (ISSN:03882446)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.393-402, 2019-01-20 (Released:2020-01-20)
参考文献数
18

本研究の目的は,要支援高齢者の社会活動の実態を把握し,社会活動に影響を及ぼす要因を明らかにすることである.対象は,中核市にあるA地域包括支援センターが担当する地区に居住し,要支援の認定を受けた65歳以上の高齢者のうち,施設入所者を除く788人である.調査内容は,社会活動とそれに影響を及ぼすと考えられる個人的要因,身体的要因,社会的要因とし,無記名自記式質問紙にて調査した.有効回答は411人で,重回帰分析にて社会活動に関連する要因を確認した.その結果,要支援高齢者の社会活動は,地域・近所との交流が多く,関連する要因は,老研式活動能力指標,認定区分,ソーシャルサポートの提供,非家族支援ネットワーク,公共交通機関の利用の5項目であった.要支援高齢者の社会活動を促進するためには,身体機能を維持することに加えて,地域での友人・知人とのつながりやサポートを提供できる役割を支援する必要性が示唆された.
著者
金城 光 石井 国雄 齊藤 俊樹 野村 信威 濱田 明日也
出版者
日本老年社会科学会
雑誌
老年社会科学 (ISSN:03882446)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.7-20, 2017-04-20 (Released:2019-11-15)
参考文献数
16

高齢者の医療・健康情報入手状況(内容,程度,メディア)と課題を明らかにするために,東京都(A区)と長野県(B市)のシルバー人材センター会員650人に質問紙を郵送配布し,計521人から回答を得た.医療・健康情報の内容別入手程度と主観的健康評価の相関分析では,健康評価の高い人は複数の情報をより多く入手していた.入手メディアでは,TV,友人や家族,新聞が多く,インターネットは14%で,メディア利用には地域差がみられた.情報入手得点の関連要因を探る重回帰分析では,居住地域を含む基本属性は関連がなく,情報希求得点やeヘルス得点と関連がみられた.情報入手過程で多くの高齢者がさまざまな不満をもっており,情報入手得点の低い人ほど,どこから情報を得たらよいかわからないという不満が強かった.高齢者が医療・健康情報の入手で感じる不満は複数のプロセスで生じている可能性があり,さまざまな現実場面での情報入手についての調査が必要である.
著者
五十嵐 歩 松本 博成 鈴木 美穂 濵田 貴之 青木 伸吾 油山 敬子 村田 聡 鈴木 守 安井 英人 山本 則子
出版者
日本老年社会科学会
雑誌
老年社会科学 (ISSN:03882446)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.283-291, 2018-10-20 (Released:2019-11-15)
参考文献数
7

本研究は,訪問介護を利用する在宅高齢者におけるコンビニ利用の実態を把握することを目的とした.東京都A区において調査協力への同意が得られた訪問介護事業所および小規模多機能型居宅介護事業所の管理者(n = 28)を対象とし,コンビニが生活支援の役割を果たしている利用者の事例に関して,利用者特性やコンビニの利用状況を問う質問紙への回答を依頼した.対象事業所より64事例について回答があった.事例の利用者は,平均年齢77.8±11.4歳,男性30人(47%)であり,要介護1(31%)と要介護2(30%)が多かった.1人で来店する者が68%であり,徒歩での来店が75%を占め,購入品は弁当・パン・惣菜がもっとも多かった(91%).ADL障害のある者はない者と比較して,サービス提供者の同行が多く(p = 0.001),車いす等徒歩以外の来店割合が高かった(p = 0.018).サービス提供者は,日中1人で過ごす者(p = 0.064)とADL障害がある者(p = 0.013)に対して,コンビニの存在をより重要と評価していた.
著者
片桐 恵子
出版者
日本老年社会科学会
雑誌
老年社会科学 (ISSN:03882446)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.342-353, 2013

<p> 高齢者の社会参加率は居住地域や性別により異なる.本研究では,先行研究が少ない過去の経験に着目し,過去の社会参加活動の有無や特定時期の社会参加経験が現在の社会参加と関連しているのかを地域別に検討することを目的とした.</p><p> 練馬区と岡山市の50〜69歳の男女に二段階無作為抽出法により郵送留置き調査を2008年に実施した(回収率58.9%).</p><p> 子どものころ,学生のころ,学校後,現在の社会参加歴を検討したところ,練馬区の男性ではどの時期にも不参加な人が4分の1に上った.現在の社会参加の有無についてロジスティック回帰分析を行った結果,岡山市では学校卒業後の社会参加の有無が現在の社会参加ともっとも関連が強かった.練馬区では子どもや学生のころの社会参加や経済状況や学歴など基本的属性とも関連がみられた.退職後に社会参加経験のない人が参加をするのは困難であり,大都市の退職シニアの社会参加の阻害要因のひとつであることが推測された.</p>