著者
谷山 茂人 柴野 啓輔 ニー ライミトナ 篠原 充 高谷 智裕 荒川 修
出版者
長崎大学
雑誌
長崎大學水産學部研究報告 (ISSN:05471427)
巻号頁・発行日
vol.91, pp.1-3, 2010-03

これまでシロサバフグは一般に無毒種とみなされてきたが、萩市近海産同種の肝臓266個体の毒性を調査したところ、6.0%の個体に2.0MU/g以上のマウス毒性が認められた。毒力は総じて低く、いずれも10MU/g未満であった。日本近海産のシロサバフグは微量ながら肝臓に毒をもつことがあり、食品衛生上注意を要することが示された。
著者
矢田 修 槌本 六秀 槌本 六良
出版者
長崎大学
雑誌
長崎大學水産學部研究報告 (ISSN:05471427)
巻号頁・発行日
vol.83, pp.5-12, 2002-03

コイを用い、背部普通筋へのピンク筋の介在が、死後のK値変化に及ぼす影響を明らかにしようとした。深さ方向の筋タイプの構成は、血合筋部が赤筋のみ、中間筋部がピンク筋のみ、普通筋部が白筋(サブタイプIIa、或いはIIb)とピンク筋からなっていた。K値変化は、血合筋、中間筋、普通筋の順位で速く、ピンク筋が介在した普通筋の深さ方向の3部位では、K値変化に顕著な差は認められなかった。筋タイプの違いによるK値変化は、赤筋、ピンク筋、白筋の順位で速かったことから、背部普通筋へのピンク筋の介在はK値変化を速めるものと考えられた。
著者
片岡 千賀之 亀田 和彦
出版者
長崎大学
雑誌
長崎大學水産學部研究報告 (ISSN:05471427)
巻号頁・発行日
vol.94, pp.29-55, 2013-03

汽船トロールはその発祥から第二次大戦までの40年弱の期間を,社会経済情勢や許可隻数と漁獲高の推移から4期に分けることができる。(1)明治41年から第一次大戦まで 明治41年に汽船トロールが英国から導入されて確立する。それ以前の木造船はもとより,同時に国内で建造された鋼船もその性能において大きく劣っていた。漁獲成績が良かったことから漁船数が急増し,国産技術として確立するのも早かった。参入してきたのは,漁業と無縁な投機家や造船所,汽船捕鯨の関係者などであった。造船所は日露戦後の沈滞を打破する業種として,汽船捕鯨は隻数が制限されて新たな投資先として同じ汽船漁業のトロールに注目したのである。投資規模,漁業技術ともに在来漁業とは隔絶しており,経営方法も会社組織による資本制経営がとられた。トロール漁業者は大きく九州勢と阪神勢に分かれ,互いに反目し,統一行動が出来なかった。トロール経営は漁労中心主義で経営を考えない粗略なものが多かった。初期の汽船トロールは規制がなく,沿岸域で操業したことから沿岸漁民・団体の猛反対を受け,政府も該漁業を大臣許可漁業とし,沿岸域を禁止漁区にするとともに遠洋漁業奨励法による奨励を廃止した。禁止漁区の設定で,漁場は朝鮮近海に移るが,新漁場が次々発見されて漁獲量が増大し,魚価も維持されたので明治42・43年には早くも黄金期を迎えた。トロール漁業の根拠地は,漁場に近く,漁港施設,漁獲物の鉄道出荷に便利な下関港を中心に,長崎港,博多港に収斂した。トロール漁業誘致のため,漁港施設・魚市場の整備が進められ,魚問屋の中からトロール漁獲物を扱う業者が現れた。トロール船の急増で漁場が狭くなり,禁止漁区の侵犯が頻発すると,禁止区域が拡大され,漁場は東シナ海・黄海へ移った。漁場が遠くなって経費が嵩む一方,魚価が低下するようになってトロール経営は一転して不振となった。ただ,漁船は惰性で増加を続け,大正2年には最大となる139隻に達した。苦境を脱する方法として,多くの経営体は合同して経営刷新を目指した。その代表が阪神勢を中心とした共同漁業(株)である。これら業者は第一次大戦が勃発して船価が急騰すると欧州などへ売却してトロール漁業から退散する。一方,生産力を高めてトロール漁業に留まった田村市郎率いる田村汽船漁業部は第一次大戦中の魚価の暴騰による利益を独り享受しつつ共同漁業を掌中に収める。
著者
高谷 智裕
出版者
長崎大学
雑誌
長崎大學水産學部研究報告 (ISSN:05471427)
巻号頁・発行日
vol.84, pp.1-38, 2003-03

麻痺性貝毒(paralytic shellfish position、PSP)は、主としてAlexandrium属などの有毒渦鞭毛藻が産生する神経毒で、その毒力はフグ毒(Tetrodotoxin、TTX)に匹敵し、青酸ソーダの1000倍という猛毒である。PSPは、昔から北米やカナダの太平洋および大西洋沿岸ではよく知られており、これまでに多くの犠牲者を出している。Ha1stead(1965)は、1689~1965年の間に世界各地で900名以上の麻痺性貝中毒が発生し、うち200名以上が死亡したとしている。
著者
内田 淳 森井 康宏 山脇 信博
出版者
長崎大学
雑誌
長崎大學水産學部研究報告 (ISSN:05471427)
巻号頁・発行日
vol.89, pp.45-50, 2008-03

近年、海上を漂うゴミ及び海岸に打ち寄せるゴミについて陸上のゴミ問題の昂揚と相まって、その環境に与える影響の大きさが指摘され、注目されるようになってきた。それとともに、海底に堆積したゴミについても瀬戸内海や都市沿岸の海底のゴミがようやく問題視されるようになった。しかし、外洋である海底のゴミについては調査そのものが困難であるため、公表されたものは少ない。洋上における廃棄物の処理についての規定として、国際的にはマルポール条約が、また、国内では海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律によって規制されおり、規制内容は年ごとに厳しくなってきている。例えば、廃プラスチック類についてみると、2003年までは排出海域が領海の基線から3海里以遠で、灰の状態であれば排出可能であったが、2004年からは海洋での排出はいかなる海域においても、また、灰であっても一切禁止、すべて陸上廃棄となった。しかし、規制は厳しくなっても既存の船にとっては、処理設備を設置するための経済的な問題、スペースの問題がある。新造船では建造費は嵩み、スペースをとるには船体を大きくする必要があり、対応が難しい。特に漁船にとっては、到底ゴミの処理にまで手が回らないと考えられ、ゴミの処理に関しては従来通り海洋投棄に頼っているのではないかと推察される。加えて、海のゴミは陸上から流れ込むものもあり、ゴミ対策が進まない一因にもなっている。そこで著者らは、練習船によるトロール操業の際に引き上げられるゴミの実態調査を行い、海底ゴミの現状を把握し、今後の処理方法等について考察した。
著者
久米 元 山口 敦子 青木 一郎
出版者
長崎大学
雑誌
長崎大學水産學部研究報告 (ISSN:05471427)
巻号頁・発行日
vol.84, pp.39-46, 2003-03
被引用文献数
1 1

東京湾、大阪湾、新潟県沿岸域、有明海の4海域で底曳網によって採集した1454個体の標本をもとに、テンジクダイの食性について調査を行った。有明海個体群については、サンプル数が十分ではなかったため、そのデータは胃内容物組成の解析にのみ用いた。空胃率は大阪湾個体群の24.9%から新潟県沿岸域個体群の43.4%、胃内容物重量指数は新潟県沿岸域個体群の0.66から東京湾個体群の1.6と、ともに個体群間で大きな違いがみとめられた。平均重量百分率、出現頻度、ランキングインデックスの3つの指標を用いた解析により、主要な餌生物は全ての個体群で甲殻類であり、なかでも東京湾、大阪湾、新潟県沿岸域の3個体群では小型長尾類が、有明海個体群ではアミ類が最も重要な餌生物となっていることが判明した。東京湾個体群では、小型長尾類のなかでもエビジャコに対する割合が極めて高かった。甲殻類以外では、有明海を除く全ての個体群で魚類がみとめられた。また、産卵期に多くの雄の胃内に未発達で消化の進んだ同種の卵塊がみられた。各個体群で、全長の大きいものほど高い割合で卵食を行っていることが明らかとなった。本種特有の口内保育様式から判断して、この結果は、雄が大型個体ほど高い頻度で口内保育を行っていることを間接的に示していると推察される。
著者
片岡 千賀之 亀田 和彦
出版者
長崎大学
雑誌
長崎大學水産學部研究報告 (ISSN:05471427)
巻号頁・発行日
vol.95, pp.1-27, 2014-03

かつて「あぐり王国」と称された長崎県のまき網漁業,とくに沿岸まき網漁業の展開過程を主産地の野母崎地区を事例に検証した。対象時期は,漁船動力化が本格化する昭和恐慌期から大きな盛衰を経て小康状態に至る昭和40年代・50年代までとした。(1) 動力化以前のまき網漁業 野母崎地区にイワシ揚繰網,巾着網が導入されたのは明治30年代で,縫切網に代わってイワシ漁業の中心漁法となった。明治末から大正初期にかけてカツオ漁業及びカツオ節製造が衰退すると,イワシ漁業は同地区の主幹漁業となり,大正期に煮干しが大衆に広まってイワシ加工も盛んとなった。同じ野母崎地区でも村によって対応が分かれ,野母村はカツオ漁業からイワシ漁業への転換があり,脇岬村はカツオ漁業がサンゴ採捕に転換してイワシ漁業の発達が遅れた。樺島村は外来船が水揚げするイワシを使った目刺し加工に特化し,製品は汽船で大阪方面に販売された。イワシ加工は家庭内副業から専業経営が台頭してきた。第一次大戦後にまき網経営が悪化すると,大正末に長崎県水産試験場が漁船の動力化,電気集魚灯の利用,網地のコールタール染めを試み,省力化,生産性の向上を図った。
著者
アラウジョ アドリアナ ベレン デ 萩原 篤志
出版者
長崎大学
雑誌
長崎大學水産學部研究報告 (ISSN:05471427)
巻号頁・発行日
vol.82, pp.85-92, 2001-03
被引用文献数
1

大量培養中のワムシのストレスを検出できれば,培養不良の事前の回避に役立つ。ここでは,酵素活性測定によるワムシ培養診断を試みた。ワムシの培養には1kl水槽を用い,培養水温を28℃とした。本研究では,まず,バッチ式で大量培養中のワムシを直接材料として酵素活性を測定したが,ワムシ個体群の増殖経過との間に明瞭な関係は認められなかった。これは個体群内のワムシの齢やサイズの組成が一定でないことに基づくものと推測された。そこで,耐久卵から孵化したばかりのワムシをあらかじめ用意し,これらをワムシ培養漕から採取した培養濾液に曝露して,耐久卵孵化ワムシが示す酵素活性を求めた。その結果,グルコシダーゼ活性(使用した基質はFDGlu)は,大量培養ワムシの個体群サイズと相関しながら変化することが分かったが,培養水温が高かったせいもあり(28℃),一日一回の測定によって,大量培養ワムシ増殖率の低下を事前に検知することはできなかった。一方,環境中のストレス因子の増大にともなってエステラーゼ活性(基質,cFDAam)が上昇し,大量培養ワムシの増殖率が低下するとエステラーゼ活性も下降した。耐久卵孵化ワムシを用いたエステラーゼ活性の測定はワムシ培養不良を事前に検出する一手段になると考えられた。