著者
石川 裕子 米澤 大輔 葭原 明弘 齊藤 一誠 早崎 治明
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.338-343, 2016 (Released:2016-06-10)
参考文献数
13

本研究の目的は,知的障害者施設における利用者に対して,在所期間から知的障害者の口腔および支援の状態について検討することである.歯科診療室が併設されている「N知的障害者総合援護施設」利用者77名を対象とし,利用者の口腔内状態および口腔管理の支援状態を調査した. その結果,利用者の平均年齢は47.0 ± 12.7歳(無回答2名),在所期間は0~9年が24名,10~19年が41名,20年以上が12名であった.在所期間10~19年では,0 ~9年より障害支援区分の重い人が多く統計的に有意な差があった.口腔内状態は,未処置歯所有率が在所期間20年以上で8.3%と低く有意な差がみられた.施設には歯科の設備があるにも関わらず,在所期間0~9年および10~19年で未処置歯所有率が高く,今後,フッ化物塗布などのう蝕予防の実施が必要と考えられた.食事形態,食事時間については在所期間別で有意な差はみられなかった.嚥下および歯磨き支援については,支援必要者と不要者では在所期間別で有意な差があり,在所期間が長くなると支援の必要者の割合が多く,支援の必要性が高いと考えられた.また,現在,特に嚥下検査を行っていないことから,今後,専門医による検査を在所期間に関係なく全員に実施するとともに,食事介助の見直しが必要と考えられた.
著者
津川 恵子
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.322-338, 1977
被引用文献数
2 2

著者は, 歯牙酸蝕症を初期に発見することによって予防対策, 職場転換等の適切な処置に対処することのできることを目的として某バッテリー工場における酸蒸気の発生する部門に従事する従業員を対象として4年間にわたり肉眼的方法 (著者らの教室で定めたもの) 及び林の方法によるレプリカ法での光学顕微鏡所見とを観察し, 更にそのなかから4年間にわたって検しえた同一人について年次的な推移を比較検討した。また肉眼的方法による診断とレプリカ法による所見との関係について観察した。<BR>対象作業部門の空気中酸量は, 平均0.475mg/klであり許容濃度1mg/klに比してかなり低い濃度であった。<BR>結果<BR>1) 従業員の自覚症状は, 約半数が何らかの症状を訴え, 前歯に冷たい空気がしみる, 時々前歯に嫌な感じがする, 作業中に前歯がしみる等が多くみられた。<BR>2) 罹患者は, 年齢別には20歳代に多く, 職齢では6~10年に多くみられた。<BR>3) 罹患歯率は上顎に比し下顎に多く, 歯別では下顎中切歯に多く, 上顎切歯に少ない。逐年的に罹患歯率は, 増加を示した。<BR>4) レプリカ所見では, 林の程度分数 (R<SUB>0</SUB>-R<SUB>4</SUB>) のうちR<SUB>2・3</SUB>が1年度で77.5%と高率を示したが, R<SUB>2</SUB>は逐年的に減少し, R<SUB>3</SUB>は増加した。<BR>5) 同一被検者についての4ヵ年間の推移では, 経年的に罹患率を増し, 罹患歯率では直線的な増加を示した。許容濃度以下の空気中酸量にあっても長期間にわたって作業に従事することによって, 次第に侵蝕の状況が進んでゆく状況をみることができる。レプリカ法においてもR<SUB>0・1</SUB>からR<SUB>3</SUB>へと進行する状況をみることができた。<BR>6) 肉眼的診断とレプリカ所見との関係では, E<SUB>0</SUB> (肉眼的に正常のもの) から48~65%に, F<SUB>±</SUB> (凝問型) においても70~80%にR<SUB>2・3</SUB>をみとめた。<BR>7) 歯牙酸蝕症の初期変化は, レプリカ法を用いて鏡検することによって早期に発見が可能であるので, その時点, あるいは進行度によって職場転換や予防のための処置を実施することが可能となる。
著者
境 脩 小林 清吾 榎田 中外 野上 成樹 堀井 欣一
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.21-34, 1978
被引用文献数
3 1

学童における永久歯の歯垢分布を, 疫学的手法により, 経年的に追跡調査し, 分析した。新潟市近郊の7小学校学童の昭和45年4月の時点で1学年から4学年851名の永久歯を対象とし, 歯の萌出状態, う蝕の発生状態, 歯垢の付着状態などを満6年間, 被検者各個人の各歯を歯面単位で追跡した。検査は年2回計13回行ない, データ処理に汎用コンピューターを使用した。<BR>口腔全体の歯垢の付着程度, 不潔度は学年の進行とともに減少していく傾向は確実であった。その減少速度はほぼ一定しており, 1年間およそ不潔度で0.36程度であった。不潔度を歯種, 歯面別に, 歯の萌出してからの期間, すなわち歯牙年齢を追って検討すると, 歯垢の経時的な分布にはそれぞれの歯種, 歯面で特徴がみられた。咬合面は萌出初期において不潔度は大きいが, 歯牙年齢の増加に従って急に減少する。臼歯部の頬, 舌側面は上下顎によって差があり, 上顎頬側面と下顎舌側面, 上顎舌側面と下顎頬側面は同様なパターンを示した。また, 上下顎同名歯での対合状態の差によって不潔度に差がみられ, 全く対合していない状態に比較して, 完全に対合した状態では不潔度は小さかった。<BR>これらの結果から, 不潔度の経年変化に及ぼす要因のうち, 咬合の完成による要因が, より重要であると考察した。
著者
小野 幸絵 田中 彰 末高 武彦 澤 秀一郎
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.208-213, 2007
参考文献数
11
被引用文献数
6

2004年10月23日夕方に新潟県中越地方で最大震度7の地震が発生した.著者は,地震直後に村ぐるみで避難しその後も仮設住宅で生活しているY村住民を対象として,地震前,地震直後,仮設住宅入居以降(地震から約50日)における歯磨きの状況などについて,2005年4月にY村診療所患者のうち協力が得られた388名に調査を行った.その結果は以下のようである.1歯磨き回数は,地震前に比べて直後では減少したが,仮設住宅入居後では地震前よりわずかに増加した.また,歯磨きの仕方について地震前と入居後で比較すると,地震前と同じ者が半数以上で,雑になった者は10%あまりであった.2地震直後は,うがい液でうがいをした者あるいは口をすすいだ者が多かった.歯ブラシは80%以上が3日以内に入手した.3地震直後に必要としたものは,歯ブラシ,うがい用のコップ,うがい液の順で多かった.今回の調査参加者は一地域のみで年齢的にも偏りがあるが,被災時そして被災前後の歯磨き状況についての実態と需要を把握することができた.
著者
栗田 啓子
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.541-562, 1983
被引用文献数
5 18

幼児齲歯の多発, 発症の原因を解明する目的で, 北海道辺地の幼児について, 2541名を対象として, 生活習慣6項鼠を設定し, 齲蝕罹患に及ぼす影響を偏相関係数を用いて分析した。併せて, コーホートを用いた経年的研究および細菌学的検索をも実施して, 次のような結果を得た。<BR>1. 牛乳摂取によって乳前歯および乳臼歯の齲歯多発は抑制傾向を有意に示していた。<BR>2. 清涼飲料摂取によって乳前歯, 乳臼歯とも齲歯多発傾向が強くみられ, 乳臼歯齲蝕の重症化にも影響を及ぼすことが明らかにされた。<BR>3. 甘味菓子類の摂取は, とくに乳前歯の齲歯多発および, 乳臼歯齲蝕の重症化に対して強い影響がみられた。<BR>4. 齲蝕罹患に対する影響を清涼飲料と甘味菓子類とを比較して検討したが, 全歯および乳前歯の齲歯多発には清涼飲料が有意に関与し, 乳臼歯齲蝕の重症化には甘味菓子類のほうがより強い影響を示していた。<BR>5. 間食摂取については, 齲歯を多発させる傾向は有意に認められなかった。<BR>6. 子供自身による刷掃の齲蝕抑制効果は極めて少なかうた。<BR>7. 母親による刷掃については, 指標に用いた各齲歯数および乳臼歯顔蝕の重症化に対して, 偏相関係数による分析では有意な抑制傾向を認めた。<BR>8. コーホート分析の結果は, 偏相関係数を用いた分析結果を支持し, 生活習慣の改善によって齲歯の多発および重症化を抑制し得ることを明示した。<BR>9. 幼児の歯垢中の総レンサ球菌数, Str. mutans菌数について検索した結果, 生活習慣と齲蝕罹患との相関関係を微生物学的検査からも明らかにした。また, 歯垢を材料とした齲蝕活動性試験 (カリオスタット) 48時間値と幼児の生活習慣との関係について検索したが, その結果は各生活習慣の要因の齲歯多発または抑制傾向を明示した。
著者
田辺 文枝
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.328-337, 1960

For the purpose to find the exact position of neonatal line in Japanese, ground sections of 475 human deciduous teeth were examined histologically. Obtained results are as follows.<BR>1. The position of neonatal line was not characteristic and showed considerable variation in each tooth type, especially on the anterior teeth.<BR>2. The variation of position would be mainly owing to the change of physiologic condion of new- erine period or of the gravity at birth. The considerable variation on the anterior teeth would be ow ng to the constitutional feature of their enamel.<BR>3. The position of neonatal line in Japanese had a trend to appear at incisal or cuspal portion of the tooth crown than the position in American or European people.<BR>4. Toot development in female showed a tendency more earlier than in male at birth-time.<BR>5. The tooth development of the children born after 1950 at birth was thought more fast than of the born at The War-Time and the soon after, but the further investigation about this result will be done.
著者
森岡 俊夫 森田 恵美子 神宮 純江 南部 由美子 新谷 早苗
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.197-202, 1981
被引用文献数
2

福岡市博多保健所において昭和50年度から同54年度までの間に実施された3歳児歯科健診時の各種資料を基に, 同期間における3歳児健診受診状況ならびにう蝕罹患状況の推移, さらには, 保育環境および保健所の実施した母子保健活動とう蝕罹患状況との関連を検討した。健診受診率およびf歯率ほこの期間毎年有意に増加し, う蝕罹患者率および一人平均df歯数は有意に減少した。なお, う蝕罹患型別罹患者率については有意な増減は認められなかった。<BR>昭和54年度においては, 被健診児が第1子である方が第2子以下よりう蝕罹患者率が有意に低率であり, また, f歯串は保育園非就園児が就園児より, そして祖父母と同居している方が核家族より有意に高率であった。<BR>また, 同保健所管内で保健所が行なう母子保健活動の度合は異なった地区別のう蝕罹患状況の変化を昭和50年と54年について比較すると, う蝕罹患者率および一人平均df歯数はそれぞれ母子保健が推進された地区においてより高い改善傾向がみられた。
著者
網元 愛子 岡本 浩 玉沢 修 斉藤 邦男 二上 捷之
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.185-194, 1978
被引用文献数
3 1

臨地試験でのDextranaseの有効単位数に関する基礎的検討を行い, 更に, Chaetomium gracile由来のDextranaseを2000単位/g配合した歯磨剤を用いて, Dextranaseの臨地的な歯垢除去効果の確認を行った。<BR>In vitroの実験において, 500単位のDextranaseを歯垢に作用させた場合, 明らかな還元糖の溶出が認められた。その溶出は, 約2000単位まで直線的に増加した。<BR>一方, 2000単位のDextranase溶液を1分間含嗽したときに, 統計的にも有意な量の還元糖が口腔から溶出された。しかし, 500単位のDextranaseでは, 統計的に有意な還元糖の溶出は認められなかった。以上の結果から, 臨地的なDextranaseの有効単位数は, 500から2000単位の間に存在することが示唆された。<BR>更に, 20~50歳の被検者15名で構成した2群を対象にし, Dextranase (2000単位/g) およびplacebo歯磨剤を2週間使用した場合の歯垢除去効果について検討を行った。<BR>Dextranase歯磨剤群では, 1および2週間後に各々61.6および74.7%のplaque indexが減少した。しかし, placebo歯磨剤群では, その減少率は少なく, 各々38.5および41.5%であった。両群間には, 統計的に有意差 (p<0.01) が認められ, 明らかなDextranase (2000単位/g) 歯磨剤の歯垢除去効果が確認された。<BR>しかしながら, gingival indexの減少におよぼすDextranaseの効果は弱く, 統計的な有意差は認められなかった。