著者
千綿 かおる 武田 文
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.206-213, 2010
参考文献数
17

本研究は,知的障害者施設入所者への職員の歯磨き介助に対する負担感(以下,歯磨き介助負担感)が職員個人に関する要因や歯磨き介助の要因とどのように関連しているかを明らかにすることを目的とした.東海地区の一県内に所在する知的障害者入所施設43施設のうち協力の得られた27施設職員527名に無記名自記式質問紙調査を行い,有効回答393名(74.6%)について分析した.歯磨き介助負担感と各変数との関連について単変量解析を行い,有意な関連の認められた変数について相互に強い相関のないことを確認したうえで独立変数として投入し,歯磨き介助負担感の有無を従属変数とする多重ロジスティック回帰分析を行った.その結果,歯磨き介助負担感と単独で有意な関連が認められた項目は,職員の性別が「男性」(OR=2.31;95% CI=1.39-3.84),歯磨き介助対象者の状況のうち「歯肉が腫れている」者が多い(OR=2.96;95% CI=1.79-4.90),歯磨き介助時に「頬側を磨く頻度が少ない」(OR=2.45;95% CI=1.48-4.08),「入所者に口を開けてもらえなくて困る」(OR=2.61;95% CI=1.54-4.42),「歯磨き姿勢が難しくて困る」(OR=1.99;95% CI=1.13-3.53),「歯磨き時間が短くて困る」(OR=1.85;95% CI=1.02-3.35)であった.以上のことから,知的障害者施設入所者への職員の歯磨き介助負担感を軽減するうえで,男性職員に対する歯磨き介助技術向上の支援,入所者の口腔状態に対応した歯磨き介助方法を学ぶ研修,歯磨き介助が必要な部位を特定できるPlaque Control Record等の利用,短時間で歯磨き介助ができる電動歯ブラシの使用,歯磨き介助効果をあげるフッ化物応用等を検討する必要があると考えられた.
著者
合場 千佳子 中垣 晴男 森田 一三 大澤 功 渡邊 貢次
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.22-29, 2011
参考文献数
21

成人期の初めとしての大学生を対象に,Sense of Coherence(前向き姿勢:SOC)の強さと歯科衛生士の業務の認知度との関係を明らかにするために本研究を行った.対象は,名古屋市郊外にあるA私立大学の学部生全2年生中,質問調査票に回答した男女合計1,772名(有効回答率は90.7%)の学生である.歯科衛生士の業務の認知度は松田が用いた方法を,また,SOCスケールは,日本語版29項目スケールを用いた.その結果,歯科衛生士業務の認知度得点(平均値±SD)は,男子5.0±2.6,女子5.8±2.3で,SOC得点の平均値は,男子116.8±17.7,女子117.1±16.3であった.歯科衛生士業務の認知度は,女子のほうが高かった.また,70%以上が「ブラッシング指導」を歯科衛生士業務であるとしていた.さらに「リスク検査」を業務としている男子のSOC得点は,誤答の男子より有意に高かった.女子では,歯科衛生士業務10項目の正解者と誤答者の間には,SOC得点に有意な差はみられなかった.男女とも歯科衛生士業務を認知している学生は,その業務を認知していない学生より,SOC得点は高い傾向にあった.大学生のSOC得点の高い学生は,歯科衛生士業務の認知度得点も高くそれぞれが関連していること,また大学生の歯や口腔に対する保健行動や歯科衛生士業務の認知には,SOCの強さが関係すると考察された.以上から,歯科衛生士の業務を認知している学生は,認知していない学生より,SOC得点は高い傾向にあると結論できる.
著者
小山 史穂子 相田 潤 長谷 晃広 松山 祐輔 佐藤 遊洋 三浦 宏子 小坂 健
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.65, no.5, pp.417-421, 2015-10-30 (Released:2018-04-13)
参考文献数
15

平成24年4月の母子健康手帳の改正により,幼児に対するフッ化物配合歯磨剤の使用の推奨が記載された.本研究では,大学での教育内容を深く反映すると考えられる歯学教育を終えて間もない臨床研修歯科医師を対象に,「幼児への歯磨剤の使用を推奨しているのか」について出身大学ごとに差があるかを調べた.平成24年12月から平成25年3月に臨床研修歯科医師2,323名に対し,郵送による自記式質問紙調査を行った.「二歳の男児の患者さんに対して,あなたが推奨する歯磨剤の量はどれになりますか」の質問の選択肢を「歯磨剤の使用を推奨しない」(歯磨剤は使わない)と「歯磨剤の使用を推奨する」(小児用歯ブラシのヘッドの1/3まで(豆粒大),小児用歯ブラシのヘッドの1/3〜2/3まで,小児用歯ブラシのヘッドの2/3以上,のいずれかを選択)の2カテゴリーにし,出身大学との関連を調べた.統計学的検定には,χ2検定およびロジスティック回帰分析を用いた.1,514名(有効回答率:65.2%)の有効回答の内,使用を推奨した者は48.7%であった.出身大学別の解析では,使用を推奨する者の割合が最も多い大学で73.8%であったのに対し,最も少ない大学で22.2%と両者間に有意差が認められ,出身大学によって,幼児への歯磨剤の使用に関する認識が異なることがわかった.科学的根拠を考慮した効果的な口腔衛生学教育のあり方について検討が必要だと考えられる.
著者
廣瀬 晃子 可児 徳子 新谷 裕久 大橋 たみえ 石津 恵津子 福井 正人 可児 瑞夫
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.274-280, 1997
参考文献数
18
被引用文献数
1

フッ化物歯面塗布術式のうち,塗布後の洗口・飲食禁止時間を再検討する目的で,in situモデルを用いてAPF溶液(9,000 ppm F^-,pH3.6)4分作用アパタイトペレットの口腔内浸漬実験を行った。その結果,8時間浸漬後のペレット中の残留フッ素量は,すべての群でAPF溶液作用直後群の半量に減少していた。浸漬群間では洗口開始時間が早かった0分群,10分群は他の群に比較して残留フッ素量は少なかったが,一般にいわれている洗口・飲食禁止時間の30分群を基準に残留フッ素量を比較すると,0分群でも表層から内層に向かって一様に30分群の80%の割合でフッ素が確認された。各浸漬群の酸抵抗性試験では,すべての群で対照群に比べて耐酸性獲得が認められた。また脱灰時間が長くなると,洗口開始時間が早い群は遅い群に比べてカルシウム溶出が多く認められたが,それらの群もAPF作用直後群との間には差はみられなかった。以上のことから30分間の洗口・飲食禁止時間短縮の可能性が示唆された。
著者
山本 未陶 八木 稔 筒井 昭仁 中村 譲治 松岡 奈保子 埴岡 隆
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.65, no.5, pp.410-416, 2015-10-30 (Released:2018-04-13)
参考文献数
34

本研究の目的は3歳から5歳までの間に発生した乳歯のう蝕の予測に関連する要因をコホート研究にて明らかにすることである.対象は2004年に福岡県内7施設の保育所・幼稚園に通う満3歳児185名とし,3歳時に保護者へ実施した自記式質問紙調査結果および3歳時と5歳時の定期歯科健康診断結果が確認できた151名(男児78名,女児73名)を解析対象とした.乳歯う蝕有病者数は3歳時が53名(35.1%),5歳時には84名(55.6%)に増加した.2年間に新たな乳歯う蝕が発生した者は75名(49.7%)であった.乳歯う蝕経験歯数(dft)の増加の有無と,質問紙調査項目および3歳時のdftの有無それぞれとの間で二変量のχ^2検定を行い,p<0.2であった項目を説明変数として,う蝕有病状況に応じた次に示す二通りの多変量ロジスティック回帰分析を行った.まず,全員を対象とする多変量解析モデルでは説明変数として3歳時にdftあり(odds比10.7,95%CI 4.54〜25.48,p<0.001)のみが選択された.つぎに,3歳時の非う蝕有病者98名(64.9%)を対象とするモデルでは説明変数として歯磨剤の使用なし(odds比2.7,95%CI 1.10〜6.76,p=0.030)のみが選択された.3〜5歳の乳歯う蝕発生には3歳時点でのう蝕経験の有無が影響しており,3歳までの乳歯う蝕予防が重要である.本研究でみられた歯磨剤によるう蝕予防効果は,配合されているフッ化物によるものと思われた.よって,3歳以降の乳歯う蝕有病率の増加抑制には3歳以前からのフッ化物配合歯磨剤の使用が有効と考えた.
著者
小松崎 明 末高 武彦
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.834-841, 2001
参考文献数
19
被引用文献数
6

健常歯列者およびブリッジ装着前後の第一大臼歯1歯喪失患者を対象として,複数の咬合平衡に関する評価法について比較検討し,次の結果を得た。1.健常歯列者を対象とする評価から,透過レーザー法による歯冠相当部体積の重心偏値率の平均値が8.1%だったのに対し,感圧紙法のWタイプの咬合力重心価値率では20%を超えて有意(p<0.01)に大きく,咬合力の重心の価値量は大きく表示される。また,前・後基準点との距離関係から重心位置の比較を実施したところ,透過レーザー法は感圧紙法Wタイプに比較して重心-後基準点間距離が有意(p<0.01)に長く,重心がより前方に位置していることがわかった。2.ブリッジ装着患者を対象とする評価から,透過レーザー法によるブリッジ装着前の価値率の平均値は44.3%だったが,装着後には同8.1%と有意(p<0.01)に減少し,ブリッジ装着による咬合平衡状況の回復が観察できた。ブリッジ装着後の摂取障害食品の有無と,装着後の価値率の大小とを比較した結果,摂取障害食品の有無と,健常歯列群の偏値率を超える者,以下の者の割合について関連が認められた(p<0.05)。以上のようなことから,口腔の恒常性維持の観点から,透過レーザー法による歯冠相当部体積の重心を用いた咬合平衡状況から,咀嚼機能の適正な評価がなされる可能性が示唆された。
著者
中山 佳美 森 満
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.265-272, 2011
参考文献数
34
被引用文献数
1

8020運動が提唱されてから20年以上経過しているが,いまだに多くの者が達成できておらず,北海道でも同様の状況である.今回,高齢者が歯を20本以上保つ要因について,北海道道東地域において調査を行った.町広報誌による一般応募から参加した現在歯数19本以下の高齢者79人(男性19人,女性60人)をケースとし,十勝地域高齢者歯のコンクール被表彰者である現在歯数20本以上の高齢者85人(男性60人,女性25人)をコントロールとして,身長,体重,治療中の疾患の有無,食習慣,口腔保健行動など全38項目について調査した.これらの38項目を説明変数,現在歯数を目的変数として,男女別に単変量ロジスティック回帰分析を行った.その結果,男性においては,現在歯数が20本未満と関連があった要因は,年齢が78歳以上などの8要因であり,女性においては,BMIが高いなどの8要因であった.これらの単変量解析で有意であった変数を用いて,stepwise法による多変量解析を行った結果,現在歯数が20本未満と関連があった要因は,男性では年齢が78歳以上,飲酒をほとんどしない,加工食品をほとんど食べないおよびかかりつけ歯科医がいないことで,女性ではBMIが23以上,運動が30分未満および糸ようじや歯間ブラシを使用していないであった.これらの結果を活用して,北海道道東地域の自治体の健康計画を推進する必要がある.
著者
小松 義典 仙道 悦子
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.38-47, 2003-01-30 (Released:2017-12-15)
参考文献数
17
被引用文献数
1

本報告は,著者らが昭和60年代まで重度のう蝕有病者率を示した地域において,昭和60年度以降乳幼児を対象にして口腔保健活動を行った10数年間の地域保健活動の取り組みと,その成果を述べたものである.活動の内容は1)3食をしっかり取る,2)砂糖を含むお菓子とジュース類の制限などの間食を含む食習慣の見直し,3)就寝前の保育者による仕上げ磨きの励行という生活習慣の見直し,4)可能な限り乳臼歯の予防填塞を行うことである.活動を行っている過程で,3歳児のう蝕有病者率は平成5年度に,一人平均う歯数は平成4年度に大幅な改善を示した.3歳児のう蝕有病者率は,活動前に80%以上だったものが平成10年度には40%以下に,3歳児の一人平均う歯数は,活動前に6.1本だったものが平成10年度には2.2本に改善した.これは1)間食を規則的に与えるようになったこと,2)飲み物が牛乳・お茶および水の割合が増加したこと,3)仕上げ磨きの実施率が増したことによる影響が大きいと考えられる.さらに,平成10年度の小学6年生におけるう蝕有病者率および一人平均う歯数は,活動前に比較しともに改善を示した.地域の特性を把握し,それに即した活動を行っている過程で,地域の口腔環境は改善できることを明らかにした.この活動の中心的役割を担ったのは歯科衛生士である.歯科医師は口腔保健活動の計画を作成し行政の理解を得られるように努力するべきである.
著者
松平 文朗 北村 中也 山田 秀則 藤本 泉 荒井 美香 軽部 裕代 柳田 顕郎
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.230-235, 1998
参考文献数
11
被引用文献数
2

リンゴ未熟果実抽出物(ポリフェノール)の歯垢抑制効果をみるため,洗口液を使ったランダム化比較対照試験を行った。対象は19〜20歳の女性20入で,3日間の歯磨きを禁止し,4日目に歯垢の付着を検査した。歯垢付着はDebris Indexの変法で点数評価した。試験法は試験液と対照液を参加者にランダムに割り付け,試験参加者にも検査者にもマスク化した二重マスク法で,さらにクロスオーバー試験として比較検討した。その結果,対照液での洗口と比較して,試験液での洗口には歯垢付着の抑制効果を認めた(p<0.05)。
著者
高橋 雅洋 岸 光男
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.137-147, 2006-04-30 (Released:2018-03-23)
被引用文献数
5

85歳高齢者,歯周組織の健全な若年成人(以下,健常者)およびその中間年齢層にあたり,歯周治療後のメインテナンスのために定期受診している者,合計292名から舌苔を採取し,菌種特異的PCR法により,4種の歯周病原性細菌と2種のミュータンスレンサ球菌を検出し,検出率を比較した.また,85歳高齢者と健常者においては歯科疾患関連細菌の検出と口腔内状況との関連を検討した.結果を以下に示す.1.無菌顎者の舌苔からの4種の歯周病原性細菌の検出率は低かった.また,有歯顎高齢者を含むその他の被験者群中では,健常者からのPorphyromonas gingivalis, Treponema denticolaの検出率が有意に低かった.これらより,歯周病に罹患していない者,歯周病感受性がない者の舌苔は,歯周病原性細菌の棲息部位となりにくいことが示された.2.健常者において舌苔と歯垢からの歯科疾患関連細菌の検出状況を比較したところ,T. denticola以外の細菌で,舌苔と歯垢からの検出に関連が認められた.さらに歯周病原性細菌に関しては,舌苔からの検出率が歯垢より高く,いずれか一方から歯周病原性菌が検出された場合には,主として舌苔からであった.これらの結果から,舌苔は口腔他部位への細菌の供給源であると同時に受容部位としても働き,さらに口腔他部位の細菌叢と相互に関連し合って,口腔全体の細菌叢を構成しているものと考えられた.
著者
小島 登喜子 末高 武彦
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.663-674, 1997-10-30 (Released:2017-10-20)
参考文献数
32
被引用文献数
1

歯科衛生士の職業寿命や需要供給量について明らかにするため,17都府県に在住する歯科衛生士1,712人を対象として「歯科衛生士の業務従事状況調査」を実施した。回答者は749人であり,歯科衛生士免許取得後の既婚率は6〜10年目で57%, 16〜20年目で88%である。歯科衛生士業務への従事率は,未婚者では1〜5年目で94%, 6〜10年目で88%,11〜15年目で82%, 16〜20年目で77%であり,既婚者ではそれぞれ61, 50, 48, 55%である。このうち,フルタイム従事者は,未婚者では1〜5年目で98%で,その後徐々に低下し16〜20年目で87%となり,既婚者では1〜5年目で92%で,その後次第に低下し16〜20年目で68%となる。日本人女性の将来生命表に基づく死亡率と上記の既婚率,業務従事率,フルタイム従事率をもとに,歯科衛生士免許取得者1万人の免許取得後40年目までの業務従事率を推計すると,フルタイム従事率は10年目で58〜66%,20年目で37〜44%, 40年目で35〜42%となる。また,パートタイム従事者も加えた総従事率は10年目で64〜71%,20年目で54〜60%,40年目で52〜58%となる。歯科衛生士養成数が現在の入学定員で今後も推移すると仮定したとき, 2020年における業務従事歯科衛生士推計数は,フルタイム従事者が約126,000〜145,000人となり,パートタイム従事者も加えると約160,000〜177,000人となる。
著者
郡司島 由香
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.281-291, 1997-07-30 (Released:2017-10-20)
参考文献数
36
被引用文献数
2

18歳から31歳までの陸上自衛隊員を対象として,フッ化物を応用した齲蝕予防効果について介入疫学研究を行った。対象者はフッ化物洗口群(洗口群:0.05%NaF,週5回法),フッ化物配合歯磨剤群(歯磨剤群:950ppmF)および対照群の3群に分け,各群の2年間における齲蝕増加量を比較検討した。主な結果は以下のとおりである。1.視診型診査における新生DMFS-indexは洗口群1.96,歯磨剤群2.22,対照群3.17であった。洗口群の新生DMFS-indexは対照群に較べ38.2%小さく,有意な差が認められた(p<0.05)。また,歯磨剤群は対照群より30.0%少なかったが,有意性は認められなかった。2.部位別に齲蝕増加量をみると,臼歯部平滑面において洗口群は対照群に較べ47.5%少なく,その差は有意であった(p<0.01)。3.臼歯部隣接面齲蝕の咬翼法X線評価における新生DeMFS-indexは洗口群0.64,歯磨剤群1.05,対照群1.21であった。洗口群は対照群に較べ47.1%小さく,有意性が認められた(p<0.01)。歯磨剤群と対照群との差13.2%は有意でなかった。以上のことより,成人の齲蝕が増加しているわが国では,成人におけるフッ化物洗口法は非常に効果的な齲蝕予防法であることが示唆された。
著者
山田 茂 久野 敏行 中村 清隆 小原 正紀 加文字 幸雄 郷 義明
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.51-56, 1979

小学校5学年男女, 78名を, 2群に分け, A群41名に, a歯みがき剤を, B群37名に, b歯みがき剤を, 1ヵ月間使用させ, その間における歯面清潔度と, PMA指数を, 調査した。<BR>実験集計終了後, A群は2.5% Chlorhexidine digluconate (以下CHDGと略称) 含有歯みがき剤, b群はPlaceboであることが判明した。使用歯みがき剤は, スイスHawe-Noes Dental社製のもの (商品名Plak Out) である。<BR>歯面清潔度は, 日数の経過と共に, 改善の傾向を示し, 15日後と, 30日後は, 1%の危険率でCHDG含有パスタ使用群が勝っていた。PMA指数は, 歯面清潔度ほど明確でなかったが, 日数の経過と共に, いくぶんCHDG含有パスタ使用群が優る傾向を示し, 30日後では, 5%の危険率で勝っていた。<BR>実験期間中は副作用を認めなかった。
著者
中尾 俊一 森田 十誉子 安井 利一 田中 園治 小野沢 裕彦 田中 入 大高 義文 菅沼 信夫 徳光 史彦 山本 瑞哉
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.643-653, 1991
被引用文献数
6 4

The purpose of this study was to investigate the clinical effect of dentifrice R containing 0.05% tranexamic acid and 0.05% dipotassium glycyrrhizinate on the improvement of periodontal disease compared with dentifrice T containing 0.05% tranexamic acid.<BR>Subjects were 148 adults who had no serious oral or systemic diseases. They were divided into two groups equally and performed toothbrushing twice a day for four weeks with dentifrice R or T.<BR>The PMA index, redness, swelling, and plaque score were selected as indices for clinical evaluation of periodontal condition.<BR>The results obtained were as follows.<BR>1) Dentifrice R was significantly superior to dentifrice T in the improvement of PMA index (p<0.01), redness (p<0.01) and swelling (p<0.05). There was no significant difference in the improvement of plaque score between dentifrices R and T.<BR>2) The mean improvement rates of dentifrice R and dentifrice T were 37.0% and 26.3% in PMA index, 40.7% and 25.2% in redness, and 36.7% and 29.9% in swelling, respectively.<BR>3) No particular side effects were observed during this clinical study.
著者
佐藤 節子 水枝谷 幸恵 日野 陽一 於保 孝彦
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.117-125, 2007-04-30 (Released:2018-03-23)
参考文献数
19
被引用文献数
2

容易に入手できるペットボトルや缶入り飲料の種類は多岐にわたる.われわれはう蝕予防の観点から62種類の飲料のう蝕誘発性に関する4つの要因,すなわち飲料のpH,中和に要するアルカリ量,う蝕細菌Streptococcus sobrinusによる酸産生および接着性不溶性グルカン合成を評価した.その後,4つの評価で得られたスコアを統合してう蝕誘発性リスクのレーダーチャートを作成した.その結果,炭酸飲料,スポーツドリンク,果・野菜汁および乳飲料のpHは,エナメル質脱灰の臨界値5.5より低かった.それらの飲料の中和には多量のアルカリが必要であり,特に果・野菜汁の中和には最も多くのアルカリを必要とした.また, S. sobrinusとの反応の結果,天然水飲料,無糖茶飲料および無糖コーヒー以外の飲料は, 5.5以下のpHを示した.さらに調査した飲料の半数が,接着性不溶性グルカンを産生した.レーダーチャートの評価により,全飲料は4つの特徴的なパターンに分類された.このレーダーテャートを用いて,茶飲料や天然水飲料等の低う蝕誘発性飲料とその他の高う蝕誘発性飲料を容易に区別することが可能であった.以上の結果から,われわれは飲料の潜在的なう蝕誘発性について認識する必要があること,そしてそのリスクについてのレーダーチャートは飲料の特徴を認識するのに有用であることが示唆された.
著者
五月女 さき子 船原 まどか 川下 由美子 梅田 正博
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.190-197, 2018 (Released:2018-11-10)
参考文献数
16

頭頸部がんの放射線治療時にしばしばみられる有害事象の一つに重症の口腔粘膜炎があるが,有効な予防法は確立していない.本稿では,MASCC/ISOOガイドラインに示されている頭頸部がん放射線治療時の口内炎対策とそれに対する著者らの知見を示し,含嗽剤やステロイド局所投与について,関連する情報と著者らの基本的考え方について述べる. さらにわれわれが行っている有害事象バンドル(①感染源になる歯の照射前抜歯,②スペーサー作製,③口腔ケア,④塩酸ピロカルピンの投与,⑤デキサメタゾン軟膏+オリブ油の塗布,⑥保清と保湿,ステロイド塗布などの皮膚ケア,⑦フッ化物局所応用の予防策)についても紹介する. 周術期口腔機能管理が保険収載され数年が経過し,多くの医療機関で放射線治療時の有害事象の予防が歯科に求められるようになったが,管理方法の標準化や有効性に関するエビデンス検証は今後の課題である.多施設共同臨床研究などにより,放射線性口腔粘膜炎の重症化予防方法を確立していくことが重要である.
著者
笹原 妃佐子 河村 誠 河端 邦夫 戸田 信彦 土田 和範 岩本 義史
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.807-814, 1995-10-30 (Released:2017-10-06)
参考文献数
10

近年,自然科学系の研究者のみならず社会科学系の研究者においても,解析手段としての統計学はますますその重要性を増している。しかし,研究者は,通常,統計学における検定結果を第1種の過誤を犯す確率αによって解釈し,第2種の過誤を犯す確率βについて考慮することはほとんどない。本研究では,既存の有限母集団から,ある一定の大きさの標本を繰り返し抽出する実験を行った。母相関係数の異なる二つの有限母集団(母相関係数; 0.215,0.650)それぞれについて,標本の大きさとβについて検討し,再現性のある結果を得るための妥当な標本の大きさについて考察を加えた。有限母集団の一つは,幼児の母親から得られた2847組の歯科保健行動目録(HU.DBI)と口腔評価指数(ORI)のデータであり,その相関係数は0.215であった。他の一つは,2885組の大学新入生の身長と体重のデータで,その相関係数は0.650であった。それぞれの母集団から,標本の大きさが25,50,100,200,300,400の標本をランダムに100回ずつ抽出し,得られたすべての標本において. HU-DBIとORIの順位相関係数,ならびに,身長と体重の相関係数を計算した。その結果,母相関係数0.215 (P<0.001)のHU-DBIとORIのデータでは,有意水準を5%(α=0.05)とすると,標本の大きさが100の場合,全体の51%の標本で帰無仮説が棄却され,標本の大きさが400の場合, 99%の標本で帰無仮説が棄却された。つまり,標本の大きさが100の場合,βは0.49,標本の大きさが400の場合,βは0.01であった。一方,母相関係数0.650 (p<0.001)の身長と体重のデータでは,標本の大きさが50以上では,帰無仮説はすべての標本で棄却された。つまり,標本の大きさが50以上で,βは0.00を示した。以上の結果から,ある標本において,2変数間の相関係数の有意性が危険率5%以下で確認されたとしても,その標本の大きさが小さい時には,別の標本において同様の結果を得る確率は必ずしも高くないことが示唆された。即ち,第1種の過誤を犯す確率(危険率)が5%以下であったとしても,ある程度の標本の大きさが確保されていない場合には,結果の再現性はあまり期待できないと考えられる。
著者
石黒 梓 川村 和章 石田 直子 神谷 美也子 中向井 政子 晴佐久 悟 田浦 勝彦 広川 晃司 串田 守 荒川 勇喜 田中 元女 鈴木 幸江 荒川 浩久
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.190-195, 2017 (Released:2017-08-08)
参考文献数
22

健康日本21(第2次)に歯・口腔の健康目標が示され,歯・口腔の健康が健康寿命の延伸と健康格差の縮小に寄与することが期待されている.学校保健教育は生涯を通じた口腔保健の取り組みの土台をなすものである. 本研究では,今後の子どもたちの保健教育の改善を目的に,平成28年度に使用されている小学校から高等学校の学習指導要領,学習指導要領解説および学校で使用されているすべての保健学習用教科書を資料に,口腔関連の記載内容を調査し,「歯科口腔保健の推進に関する基本的事項」の歯科疾患の予防計画の学齢期の内容と照合した. 小学校では大半が「むし歯」と「歯周病」に関する原因と予防について記載されていたが,フッ化物応用,シーラント,定期的な歯科検診の記載はほとんどなかった.中学校では「むし歯」と「歯周病」の記載はほとんどなく,「口腔がん」や「歯と栄養素」,水道法基準として「フッ素」の記載に変化していた.高等学校になると「むし歯」に関する記載はまったくなく,「歯周病」や「口腔がん」の記載が中心であったが,歯口清掃に関する記載はなかった. 現在の小・中学校および高等学校で使用されている保健学習用教科書は,「歯科口腔保健の推進に関する基本事項」の学齢期に示されている保健指導,う蝕予防,歯周病予防に関連する記載内容は不十分であり,学習指導要領を見直すとともに,子どもの発達に応じた表現で収載することを提言する.
著者
藤枝 真
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.379-397, 1995-07-30 (Released:2017-10-06)
参考文献数
57

われわれ歯科界の人間にとって基本的な用語である「歯」という語が,民俗学的にはどのように使われているかに強い関心を持ち,「定本柳田国男集(新装版)」(筑摩書房)をテキストとして,その「索引読み」を試みた。その結果,総索引中に30語が見出された。さらにそれらの内容について民俗学的諸分野にわたる分類を試みたところ,その分布状況を把握することができた。その一方で,テキスト読解に関する「索引読み」の方法論は,今後の電子機器とそれらに関連する教材開発の進展により益々威力を発揮するようになり,テキストの本質に,より接近しうる可能性が示唆された。