著者
日高 三郎 東納 恵子 岡本 佳三
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.165-172, 2005-07-30 (Released:2018-03-23)

洗口剤の口腔内リン酸カルシウム沈殿物形成(歯石形成, エナメル質再石灰化)に与える影響の可能性を調べるため, 洗浄, 抗菌, 殺菌, 抗炎症, 抗口臭, 湿潤効果のいずれかを1〜3つもつ9種類の市販洗口剤のin vitroリン酸カルシウム沈殿物形成に対する抑制能をpH低落法を用いて測定した.その結果は, ハイザック^[○!R]>コンクールF^[○!R]&gtモンダミン^[○!R]>GUM^[○!R]>レノビーゴ^[○!R]>リステリン^[○!R]>1/15希釈イソジン^[○!R]>1/50希釈ネオステリングリーン^[○!R]>絹水^[○!R]の順であった.さらに, これらの抑制能は抗歯石剤エチドロン酸の濃度範囲10〜60μMで比較すると, より強いかほぼ同じ能力のものであった.ハイザックはその成分中に促進剤を含んでいながら, その効果からは最強の抑制剤であった.これらのことから市販の洗口剤が副作用として抗歯石・抗エナメル質再石灰化作用を有する可能性が強く示唆された.このため, 洗口剤の適用にあたっては抗石灰化効果を考慮に入れておく必要があると思われる.
著者
金子 昇 葭原 明弘 濃野 要 山賀 孝之 財津 崇 川口 陽子 宮﨑 秀夫
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.27-33, 2019

<p> 職域における歯科保健事業として,疾病の早期発見を目的とした歯科健診が主に行われてきた.こうした従来型の歯科健診から,行動・環境リスク発見型・行動変容支援型歯科健診への転換を目的として,日本歯科医師会で「標準的な成人健診プログラム・保健指導マニュアル」(生活歯援プログラム)が策定された.本調査ではこのプログラムに基づいた歯科健診と保健指導が,歯科健診単独に比べてどの程度優れているのか検討を行った.新潟市内の3企業の従業員129名(44.6±11.5歳)を対象としてランダムに2群に分け,介入群には生活歯援プログラムに準じた歯科健診と保健指導を,対照群には歯科健診のみを行った.保健行動を把握するための質問紙調査をベースライン時,3カ月後,6カ月後および1年後に行い,この間の行動変容を調べた.その結果,介入群と対照群のいずれにおいても「職場や外出先での歯磨き」や「フッ素入りの歯磨剤の使用」,「歯間ブラシ・フロスの使用」が有意に改善していた.ただ,介入群では1年後まですべての時点でベースライン時に比べ有意に改善していたのに対し,対照群では一部の時点で有意な改善がみられたのみであった.したがって,従来型の歯科健診でも保健行動の変容がある程度期待できるが,その期間は限定的であること,歯科健診に加え生活歯援プログラムに準じた保健指導を行うことで行動変容はより確実となり,効果が少なくとも1年間持続することが明らかとなった.</p>
著者
郡司島 由香
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.281-291, 1997
参考文献数
36
被引用文献数
1

18歳から31歳までの陸上自衛隊員を対象として,フッ化物を応用した齲蝕予防効果について介入疫学研究を行った。対象者はフッ化物洗口群(洗口群:0.05%NaF,週5回法),フッ化物配合歯磨剤群(歯磨剤群:950ppmF)および対照群の3群に分け,各群の2年間における齲蝕増加量を比較検討した。主な結果は以下のとおりである。1.視診型診査における新生DMFS-indexは洗口群1.96,歯磨剤群2.22,対照群3.17であった。洗口群の新生DMFS-indexは対照群に較べ38.2%小さく,有意な差が認められた(p<0.05)。また,歯磨剤群は対照群より30.0%少なかったが,有意性は認められなかった。2.部位別に齲蝕増加量をみると,臼歯部平滑面において洗口群は対照群に較べ47.5%少なく,その差は有意であった(p<0.01)。3.臼歯部隣接面齲蝕の咬翼法X線評価における新生DeMFS-indexは洗口群0.64,歯磨剤群1.05,対照群1.21であった。洗口群は対照群に較べ47.1%小さく,有意性が認められた(p<0.01)。歯磨剤群と対照群との差13.2%は有意でなかった。以上のことより,成人の齲蝕が増加しているわが国では,成人におけるフッ化物洗口法は非常に効果的な齲蝕予防法であることが示唆された。
著者
石黒 梓 荒川 勇喜 田中 元女 鈴木 幸江 荒川 浩久 川村 和章 石田 直子 神谷 美也子 中向井 政子 晴佐久 悟 田浦 勝彦 広川 晃司 串田 守
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.190-195, 2017

<p> 健康日本21(第2次)に歯・口腔の健康目標が示され,歯・口腔の健康が健康寿命の延伸と健康格差の縮小に寄与することが期待されている.学校保健教育は生涯を通じた口腔保健の取り組みの土台をなすものである.</p><p> 本研究では,今後の子どもたちの保健教育の改善を目的に,平成28年度に使用されている小学校から高等学校の学習指導要領,学習指導要領解説および学校で使用されているすべての保健学習用教科書を資料に,口腔関連の記載内容を調査し,「歯科口腔保健の推進に関する基本的事項」の歯科疾患の予防計画の学齢期の内容と照合した.</p><p> 小学校では大半が「むし歯」と「歯周病」に関する原因と予防について記載されていたが,フッ化物応用,シーラント,定期的な歯科検診の記載はほとんどなかった.中学校では「むし歯」と「歯周病」の記載はほとんどなく,「口腔がん」や「歯と栄養素」,水道法基準として「フッ素」の記載に変化していた.高等学校になると「むし歯」に関する記載はまったくなく,「歯周病」や「口腔がん」の記載が中心であったが,歯口清掃に関する記載はなかった.</p><p> 現在の小・中学校および高等学校で使用されている保健学習用教科書は,「歯科口腔保健の推進に関する基本事項」の学齢期に示されている保健指導,う蝕予防,歯周病予防に関連する記載内容は不十分であり,学習指導要領を見直すとともに,子どもの発達に応じた表現で収載することを提言する.</p>
著者
山田 季恵 犬飼 順子 柳原 保 向井 正視
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.328-337, 2016 (Released:2016-06-10)
参考文献数
21

本研究では,セルフケアによる歯面色素沈着の阻止効果の検討を目的として,各種歯磨剤を併用したブラッシングが,外来性色素沈着に伴う歯面の色調変化に及ぼす影響を,牛歯エナメル質試料と歯科用色差計を用いて調べた.試料を研磨後,ウーロン茶,人工唾液,ムチンを混合した溶液に14日間浸漬して色素沈着を誘引し,この間1日2回,研磨剤(無水ケイ酸A)と清掃補助剤(無水ピロリン酸ナトリウム)配合の美白用歯磨剤,研磨剤を配合した低研磨性歯磨剤,または研磨剤無配合歯磨剤を使用する,および歯磨剤を使用しない4条件で,歯ブラシ試験機を用いてブラッシングした.1日1回ブラッシング前に,L*値(明度),a*値(赤み),b*値(黄み)を測定し,これらの値からC*値(彩度)とΔE*ab値(色差)を算出した.その結果,すべてのブラッシングの条件とブラッシングをしないコントロールにおいて,経日的にL値は低下し,a*値,b*値,C*値,ΔE*ab値は増加した.美白用歯磨剤の使用は,コントロール,歯磨剤の未使用または研磨剤無配合歯磨剤の使用に比較して,b*値,C*値,ΔE*ab値が有意に低く,L*値が有意に高かった.また,低研磨性歯磨剤の使用は,コントロールまたは歯磨剤の未使用に比較して,ΔE*ab値が有意に低く,L*値が有意に高かった.一方,低研磨性歯磨剤の使用と美白用歯磨剤の使用との間には,すべての色調指標に有意差は認められなかった.以上の結果から,研磨剤や清掃補助剤を配合した歯磨剤を使用したセルフケアで歯面の色素沈着は阻止されるが,その効果は歯面の色調を維持するには十分でない可能性が示唆された.
著者
相田 潤 田浦 勝彦 荒川 浩久 小林 清吾 飯島 洋一 磯崎 篤則 井下 英二 八木 稔 眞木 吉信
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.362-369, 2015-07-30 (Released:2018-04-13)
参考文献数
13

歯科医師法では公衆衛生の向上および増進が明記されており,予防歯科学・口腔衛生学は歯科分野で公衆衛生教育の中心を担う.またう蝕は減少しているが,現在でも有病率や健康格差が大きく公衆衛生的対応が求められ,近年の政策や条例にフッ化物応用が明記されつつある.根面う蝕対策としてフッ化物塗布が保険収載されるなど利用が広がる一方で非科学的な反対論も存在するため,適切な知識を有する歯科医師の養成が求められる.そこで各大学の予防歯科学・口腔衛生学,フッ化物に関する教育の実態を把握するために,日本口腔衛生学会フッ化物応用委員会は,1998年に引き続き2011年9月に全国の29歯科大学・歯学部を対象に質問票調査を行った.結果,予防歯科学・口腔衛生学の教育時間の大学間の最大差は,講義で8,340分,基礎実習で2,580分,臨床実習で5,400分となっていた.フッ化物に関する教育の時間も大学間によって講義で最大540分,基礎実習で280分,臨床実習は510分の差異があり臨床実習は実施していない大学も存在した.さらに1998年調査と比較して,教育時間や実習実施大学が減少しており,特に予防歯科学・口腔衛生学の臨床実習は1,319分も減少していた.また非科学的なフッ化物への反対論への対応など実践的な教育を行っている大学は少なかった.予防歯科学・口腔衛生学およびフッ化物応用に関する講義や実習の減少が認められたことから,これらの時間および内容の拡充が望まれる.
著者
深井 穫博 眞木 吉信 高江洲 義矩
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.129-136, 1996-04-30 (Released:2017-10-14)
参考文献数
36
被引用文献数
6

保健行動は生涯発達の中で形成・獲得されるものであるが,成人期から老人期にかけての口腔保健行動が,社会的な影響を受けてどのように修正・形成・定着していくかについては必ずしも明らかではない。そこで本研究は,関東地域在住の20歳から50歳代の男女673名を対象に,成人のライフスタイルおよび健康習慣とその年齢特性について検討した。その結果,今回の調査では以下の結論を得た。25〜34歳,35〜44歳の年齢層は生活のゆとりおよびソーシャルサポートが少なく,また職場環境に関しても,「残業」および「ストレスを感じる」者が中高年層に較べて多かった。一方,「仕事の満足感がある」者では逆に中高年層ほど仕事にやりがいを感じていた。ただし主観的健康状態は,どの年齢層でも約60〜70%の者が「健康である」と回答しており,年齢層による差は見られなかった。健康習慣では「毎日の朝食摂取」および「定期健康診断受診」に関して,明らかに中高年層が若年成人に較べて高い割合であった。また,「喫煙」,「飲酒」,「運動」,「体重」,「睡眠」,「間食」,「ストレス」に関する項目では,その健康習慣を持っている者は,どの年齢層でも約10〜30%の範囲であった。これら9項目の健康習慣について各項目で「あり」と回答した場合を1点としその合計得点で評価した結果,24歳以下の群で2.1±1.9であったのに対し55〜59歳の群では3.0±2.1であり,高い年齢層ほど健康習慣得点は増加していた(p<0.05)。
著者
小倉 喜一郎
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.341-350, 2000
参考文献数
28
被引用文献数
3

亜鉛(Zn)は必須微量元素の1つであり,生体内の数多くの酵素の構成成分として生理機能に重要な働きを示しており,その欠乏時には味覚異常や成長抑制などの障害を引き起こすことが知られている。本研究はWistar系雄性ラットを用いて,Zn欠乏飼料で4週間飼育し,Zn欠乏における味蕾細胞のターンオーバータイム延長および大腿骨に及ぼす影響を調べる目的で,舌微小血管構築の走査電子顕微鏡観察,大腿骨骨密度および機械的特性について検討した。それらの結果としてZn欠乏群ラットは,対照群に比べて食餌摂取量が減少し,体重増加が抑制されたことや,実験開始3週間頃よりZn欠乏の特徴とされる皮膚症状や立毛などの肉眼所見が観察された。また,血液生化学値に関しては対照群に比べ血清中Zn濃度および血清ALP活性が有意に低値であった。舌中Zn濃度については対照群に比べ有意に低値であり,大腿骨における骨長,骨密度および最大ひずみ,最大曲げ応力は,対照群に比べともに有意に低値であった。さらに,舌微小血管構築像の電子顕微鏡観察により舌微小血管の漏洩像が観察された。これらのことから,Zn欠乏による味覚異常は,味蕾細胞の栄養供給路である舌微小血管の障害が関連しており,かつ大腿骨骨密度の成長障害および骨密度の低下が認められた。これらからZn欠乏が舌乳頭の局部組織障害とともに硬組織への影響が無視できないことが示唆された。
著者
出分 菜々衣 濱嵜 朋子 邵 仁浩 吉田 明弘 粟野 秀慈 安細 敏弘
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.278-283, 2014

本研究では,要介護高齢者を対象として,低栄養を予防する要因を探るため,Sense of Coherence(前向き姿勢:SOC)と簡易栄養状態評価(MNA)との関連,さらに,SOCと身体自立度(ADL),生活習慣および口腔関連因子との関連について調べた.対象は北九州市内および近隣市に居住し,高齢者施設を利用する要介護在宅高齢者66名のうち,認知症・うつなど精神的問題がないと判断された63名(男性20名,女性43名,平均年齢81.1±7.0歳)について,面接聞き取り法によるSOC評価,MNAによる栄養状態の評価,また口腔の健康評価として,口腔内診査,嚥下機能検査を行った.生活習慣については面接聞き取りによる質問紙調査を行った.<br> その結果,SOCスコアは運動習慣,MNA,食欲,現在歯数との間に有意な関連性がみられた.さらに重回帰分析を行ったところ,交絡因子による調整後もSOCスコアとMNAとの間の有意性は保たれた.<br> したがって,高齢者の栄養状態の維持には前向きな姿勢が関与していることが示唆された.
著者
豊嶋 優子 齋藤 俊行 嶋崎 義浩 山下 喜久
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.156-160, 2006
参考文献数
12
被引用文献数
1

某プロ野球球団に所属する選手84名を対象に,歯と歯周組織の診査,および咬合圧測定用感圧フィルムを用いた咬合力や咬合の左右のバランスの測定を行った.本研究では,咬合状態と歯や歯周組織の状態との関連性について調べた.対象者の1人平均DMF歯数は,歯科疾患実態調査における同年齢層とほぼ同様であった.咬合状態とDMF歯数との関連については,D歯数やM歯数が多いほど総咬合面積や総咬合力は小さく,平均圧力は大きい傾向にあった.特にC_4 の歯数と総咬合力との間には,有意な負の相関関係が認められた(r=-0.225, p<0.05).咬合状態の左右のバランスについて調べたところ,片側のみにD歯のある着では,齲蝕側は健康側に比べ総咬合面積(p=0.01)と総咬合力(p=0.02)が有意に小さく,最大圧力(p=0.03)は有意に大きかった.このことから,齲蝕が左右側の片側のみに存在する場合,齲蝕側の咬合面積が減少する一方で,咬合圧は増加し,齲蝕側に負担加重を生じる可能性が示唆された.
著者
西辻 直之 古藤 真実 福澤 洋一 矢吹 義秀 上谷 公之 久保 宏史 吉野 浩和 長井 博昭 中曽根 隆一 矢島 正隆 岡田 彩子 有吉 芽生 曽我部 薫 菊地 朋宏 宮之原 真由 山田 秀則 村田 貴俊 野村 義明 花田 信弘
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.89-93, 2017

<p> (公社)東京都港区芝歯科医師会は,JR新橋駅西口SL広場において,事前の告知や当日の呼びかけに応じた成人男女250名を対象に,「歯周病予防のための新唾液検査事業」を5年間にわたり4回実施した.事業目的は,歯周病のスクリーニング可能な唾液検査の受診を契機に,受診者の歯周病への理解を促し,検診の重要性を啓発することである.</p><p> 各受診者から採取した唾液を用いて生化学検査を行い,結果を受診者に郵送した.また,事後アンケートを実施し,「受診したきっかけは何か」,「唾液検査は簡単か」,「唾液を採取することに対して抵抗があるか」,「次回の検査も受けたいか」,「検査結果票はみやすいか」,「検査結果をみて歯科を受診するか」,「検査結果をみて歯周病について関心が深まったか」の7項目への回答を求めた.</p><p> 事後アンケートで回答者(回収率;年平均22.1%)の9割が選択した項目は,「この検査が簡単だと感じた」,「次回も受けたいと思う」および「検査により歯周病に興味をもった」であった.以上より,唾液検査は歯周病への関心を高めるとともに,受診契機の一要因となることがわかった.</p>
著者
相良 徹
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.308-323, 1978
被引用文献数
11

最近の建築は環境衛生学的には自然換気が極めて乏しいことから空調施設が著るしく発達してきた。しかし必ずしも充分な空調がなされているとはいえないものがある。とくに病, 診療所等においては空調の在り方によつて却つて各診療室の汚染を他の診療室に及ぼし, わゆる院内感染の原因となりうることが考えられている。歯科においてはエアータービンンジンによる歯牙の切削が効果的な反面, 切削粉塵とともに微生物が室内に飛散し汚染の因となる。今回著者は空調施設を異にした, 二医療機関における空気中の粉塵, 菌についの測定を行なった。<BR>方法: 1. 測定場所, Y歯科病院 (以後Yとする) 及びZ総合病院歯室 (以後Zとする) の診療室, 技工室, 待合室において, 診療室ユニット附近, 技工室のぼ中央と各診療室の空気吹出口及び吸込口について空気中粉塵数並びにコロニー数を診療始前 (9時), 診療中 (11時) 及び診療終了前 (15時) の3回測定した。2. 大きさ別粉塵の定, 直接法による光散乱式のRoyco 202 Airborne-Particle Moniterを用いて空気中粉塵. μ以上を粒子の大きさ別に15段階に分けて測定した。3. 気菌の測定, (a) 気菌の採取はYPinhole samplerを用い測定場所の空気50<I>l</I>/2minを採取し, トリプトソイ寒天培 栄研) を用い培養し, コロニー数を算定した。またDHL培地 (栄研) による観察を行なつ。 (b) 気菌を大きさ別に採取するためAndersen samplerを用い, 菌の大きさ別に6段階に分て捕集した。4. 大きさ別粉塵数と在室人員との相関関係について相関係数を求めた。5. きさ別粉塵数と菌数との相関関係について相関係数を求めた。6. 診療器具の汚染につい診療室の受付台及びブラケットテーブル (5×5cm<SUP>2</SUP>) とハンドピース表面につて拭きとり検査を行なった。以上のことから次の結果を得た。<BR>(1) 粉塵数a) 総粉塵, 診療室, 技工室と吸込口ではYは48.8×10<SUP>4</SUP>~58.9×10<SUP>4</SUP>個/<I>l</I>, Zは4.8×10<SUP>4</SUP>~9.9×10<SUP>4</SUP>個/<I>l</I>でYはZに比し約510倍であり, 吹出口はYでは45.4×10<SUP>4</SUP>~49.2×10<SUP>4</SUP>個/<I>l</I>, Zでは3.3×10<SUP>4</SUP>~3.9×10<SUP>4</SUP>個/<I>l</I>でYはZに比し約12~17倍を示した。b) きさ別粉塵数, Y, Zとも0.3~0.4μ未満の粉塵数が最も多く粉塵粒子が大となるにつれて少し, 1.0μ以上の粉塵数は1%となる。プレフィルター及びアフターフィルターを用いてるZにおいては吹出口では1.5μ以上の粉塵は認められなかった。<BR>(2) 在室人員と総粉数との相関係数はr=0.31を示し, 大きさ別粉塵数とでは大きさが増すにつれて相関係数はとなり10μ以上とではr=0.87であつた。<BR>(3) コロニー数は診療室, 技工室, 吸込口にいては, Yでは0.16~1.82個/<I>l</I>, Zでは0.10~0.24個/<I>l</I>であり, YはZより多った。吹出口からはZでは認められなかった。<BR>(4) 総粉塵数とコロニー数との相関係数はr=0.28を示したが粉塵の大きさ別とでは衛生学的に重視される1.0~5.0υ未満とではr=0.75, 1.2μ以上とでr=0.77であった。<BR>(5) 菌の大きさはAndersen samplerによる測定では1.0μ以下の菌は全体の3%であった。<BR>(6) 診療器具のブラケットテーブルとハンドピースの汚染は診療時間の経過と共に増大し, DHL培地 (+) のものがあった。<BR>以上のことから中央空調施設及びそれに使用されるフィルターの材質及び用い方によって粉塵数及び大きさ別粉塵数やコロニー数が診療時間と共に増加される度合の相違することがわかった。大きさ別粉塵数とコロニー数との間には, 一定の相関関係のあることがみられた。本邦に於ては病院及び医療施設の構造と設備に関する一般基準に類するものは見られない現状にあることから, 今後これらに対しての基準を定めると共に医療機関についての空調施設に一定の規格を設定する必要があると考えられる。
著者
藤好 未陶 筒井 昭仁 松岡 奈保子 埴岡 隆
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.3-14, 2005
参考文献数
28
被引用文献数
7

歯科保健教育の受け手側である小学生のブラッシング行動に関連する諸要因を検討し, 学齢期の歯肉炎対策に効果的な教育プログラムの開発に供することを目的とした.福岡市某小学校5年生81名を対象に, 児童のブラッシングに関連する知識, 意識と行動, 心理学的要因および歯肉炎と歯垢付着の状況を調査し, 関連性を検討した.93.3%が1日1回以上ブラッシングを行っていたが, 歯肉に炎症が認められたものは85.1%と多かった.歯肉の炎症度と歯垢付着度との間には相関性がみられた(r=0.515, p=0.0001)が, ともにブラッシング行動との関連性は認められなかった(p>0.05).心理学的要因のセルフエスティームは5つのブラッシング行動関連項目と, 自己管理スキルは8項目と有意な関連性を示した(p<0.05).因子分析の結果2因子が抽出され, 自己管理スキルは両因子に対して高い因子負荷量(0.526, 0.716)を示した.これらのことから, 小学生ではブラッシング行動は定着しているが歯肉炎に関する情報や意識が不足しているために有所見者率が高いこと, ブラッシング行動の背景として心理学的要因, 特に自己管理スキルが関与することが示された.歯肉炎対策には, 良好なブラッシング技術を伴ったブラッシング行動を定着させる歯科保健教育プログラムの開発が必要であり, その際には自己管理スキルの育成に着目する必要があることが示唆された.
著者
瀧口 徹 深井 穫博 青山 旬 安藤 雄一 高江洲 義矩
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.524-536, 2005-10-30 (Released:2018-03-23)
参考文献数
14

わが国における戦後の歯科医師需給施策は, 1960年代後半から70年代にかけて歯科大学(歯学部)の急増策で始まったが, 1980年後半から一転して抑制策に転じた.しかし入学定員の20%削減, 国家試験の改善だけでは十分に功を奏さないことが明らかである.そこで本研究においては, 1982年から2002年までの20年間の人口10万人当たりの歯科医師数(歯科医師10万比)の都道府県較差に着目して, 増減の源である歯科大学(歯学部)の設置主体と社会経済的および地理的特性のかかわりを明らかにすることを目的とした.要因分析にはGLIM法: 一般化線形モデル法を用い, 将来予測は回帰式の外挿法によった.さらにこれらの結果に基づき, 歯科医師需給調整施策について検討した.20年間の歯科医師10万比の推移は, 全都道府県で相関係数が0.96以上で明確な直線的増加傾向を示し, かつ地域較差は縮減していない.GLIM分析で国公立大の存在がその都道府県の歯科医師10万比の急増に最も関連が強く, 国公立大は設置都道府県に対して新規参入歯科医師への強い吸引力を示した.しかし, 近隣都道府県への波及効果は予想に反して有意ではなかった.また供給過剰の閾値を歯科医師10万比80人とすると, 20年後に5割強の都道府県が供給過剰になると予測され, 需給対策には既存の全国的施策に加えて歯科医師臨床研修地の分散化が有効と考えられた.
著者
吉野 浩一 深井 穫博 松久保 隆 高江洲 義矩
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.92-97, 2002-04-30 (Released:2017-12-15)
参考文献数
30

喫煙と歯周病や口腔がんとの関連はよく知られているが,生活習慣と関連が深い歯の喪失についての研究はきわめて少ない。本調査は,喫煙習慣および口腔保健行動と歯の喪失との関連について5年間のコホート調査を行うことを目的とした。対象は某銀行の従業員の男性129人とし, 1992年から5年間追跡調査した。その結果,20〜39歳群の喫煙者は一人平均0.40歯喪失歯が増加し,非喫煙者の0.13歯に比べて多い値であった(p<0.01)。40〜59歳群では,喫煙者は0.75歯,非喫煙者は0.51歯と多い傾向を示したが有意な差はみられなかった。口腔保健行動と歯の喪失との関連をみると,40〜59歳群ではかかりつけの歯科医院のある者に歯の喪失する者の割合が高かった(p<0.05)。さらに,単純ロジスティック回帰分析を行った結果,20〜39歳群では喫煙習慣が歯の喪失に有意な関連を示し(p<0.001),オッズ比は8.08(信頼区間1.83〜35.72)であった。以上の結果から,20〜39歳群の若年成人では,喫煙習慣が歯の喪失に強く関連していることおよびコホート調査の重要性が示された。
著者
鏡 宣昭 高江洲 義矩
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.31-39, 2000-01-30 (Released:2017-12-08)
参考文献数
31

学校歯科保健は,児童生徒が歯・口腔の健康に関する知識・習慣・態度への変容を期待して行われる保健活動の1つで,養護教諭は常にその要として「保健教育」と「保健管理」に携わってきた。また,平成7年度に学校保健法の改正が行われ,健康診断票や健診内容は大幅に変わった。これは,従来からの検診を中心とした健康管理から,本来求められていた健康教育を積極的に取り入れるものとして注目されている。そこで,千葉市内の養護教諭171名を対象に,児童生徒への口腔保健教育の進め方や学校健診の評価など10項目について,Delphi法によるアンケート調査を行った。その結果,(1)健診時の器具の消毒についての回答では,公的機関が診査器具を一括管理し必要な時期に必要な量を配送してもらうことを希望するものが1回目は51.8%であったが,2回目以降は71.5,72.8%と回を追うごとに回答率が上昇した。(2)学校現場で行える事後措置としては,「保健だより」などを利用した「家庭との連絡」と回答したものに集中して72.3〜83.1%であった。(3)学校でのフッ化物洗口については,「必要ない」と回答しているものが50.4〜57.8%で,「実施が望ましい」は12.7〜17.7%あった。Delphi法の特徴の1つである収束傾向は,「新しい健診法の全体的評価」,「要観察歯の導入」,「年間の健康診断の回数」,「診査器具の消毒」,「学校保健委員会の活動」および「学校歯科医とかかりつけの歯科医との関係」の設問にみられたが,特に診査器具の消毒についての「業者に依託する」応答に顕著に示された。
著者
岩﨑 理浩 福田 英輝 林田 秀明 北村 雅保 小山 善哉 介田 圭 川崎 浩二 前田 隆浩 齋藤 俊行
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.445-451, 2016 (Released:2016-12-08)
参考文献数
19

長崎県内には51の有人島があるが,離島は本土と比較して現在歯数が少ない.これは離島特有の歯科医院へのアクセスの悪さが関係していると考えられている.しかし,同じ離島であっても歯科医院の有無が現在歯数に与える影響や無歯科医離島住民の受療行動についての研究はなされていなかった.そこで,平成17年以降長崎大学が実施した五島市での口腔内診査と,平成22年に五島市が実施した無歯科医離島における歯科受療に関するアンケート調査を用いて,口腔内の現状と受療行動について分析した.その結果,無歯科医離島は,歯科医院のある離島と比較して平均現在歯数が有意(p<0.01)に少なく(無歯科医離島:10.8±10.5本,歯科医院のある離島:15.9±10.4本),無歯顎者の割合が有意(p<0.01)に高かった(無歯科医離島32.3%,歯科医院のある離島15.6%).また,住民の約半数の者が治療回数を減らすために抜歯を他の治療よりも優先した経験を有すること,約9割の者が島内での歯科受療を希望していることが明らかとなった.これより,無歯科医離島では,時間的,地理的制約から歯科医療機関への頻回のアクセスが困難であるため,治療回数を減らすために抜歯することが,当該地区の平均現在歯数が少なく,無歯顎者の割合が高い理由の一つと考えられた.本調査結果より,無歯科医離島における歯科医療サービスの提供体制の構築が急がれるとともに,予防対策の充実を図る必要性が示唆された.
著者
吉岡 昌美 中村 亮 本那 智昭 福井 誠 横山 正明 田部 慎一 玉谷 香奈子 横山 希実 増田 かなめ 日野出 大輔
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.552-558, 2005
参考文献数
15
被引用文献数
2

徳島県の山間部に位置するK村では, 平成5年度より村内の保育園, 幼稚園, 小中学校において週5回のフッ化物洗口と年度2回の歯科健康診断を実施している.本研究では, フッ化物洗口を開始してからの児童生徒のう蝕有病状況の経年的変化をまとめ, 特に, 小学校6年生での歯群別のう蝕有病状況について詳しく調べた.さらには, 小学校1年生での乳歯う蝕の状況, 歯の萌出状況と6年生での永久歯う蝕経験との間の関連性について調べた.以上の結果, フッ化物洗口開始後のう蝕有病状況の経年的変化において, 永久歯う蝕は小学校低学年で早期に減少傾向が現れ, 次いで高学年, 中学生へと移行していることがわかった.小学校6年生での歯群別のう蝕有病状況から, 第一大臼歯のう蝕有病率が大幅に抑制されたことが, 全体のう歯数低下につながっていることが示唆された.一方, フッ化物洗口開始後も小学校1年生での乳歯未処置う歯の本数や乳歯の現在歯数が小学校6年生でのDMFTと有意に関連することがわかった.このことは, 就学前からのフッ化物洗口は第一大臼歯のう蝕罹患を抑制するのに効果的なう蝕予防施策であるが, さらに永久歯う蝕の抑制効果を期待するためには, 乳歯う蝕を指標としたう蝕リスクの高い幼児への介入が必要であることが示唆された.