著者
筒井 昭仁 中村 寿和 堀口 逸子 中村 清徳 沼口 千佳 西本 美恵子 中村 譲治
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.341-347, 1999-07-30 (Released:2017-11-12)
参考文献数
23
被引用文献数
2

社会人の歯科的問題の程度を企業の生産性および経済面から把握することを目的とした。福岡市に本社を置く電力供給に関連する大型電気機械を製造する企業の工場部門の全従業員421名を対象とした。年齢は20〜65歳に分布していた。質問紙の配布留置法により過去1年間の歯科的問題に関連した1日休,半日休,遅刻・早退,作業効率の低下の情報を収集した。これらの情報から労働損失時間を算出し,さらに金額にも換算することを試みた。質問紙回収率は96%であった。工場全体で歯科的問題に関連する労働損失経験者は22%で,全損失時間は年間1,154時間,日数換算で144日であった。1人平均労働損失時間は年間2.85時間であった。この労働損失は生産高ベースで約1,200万円,生産コストベースで約800万円,人件費ベースで約400万円の損失と算定された。一企業を単位に歯科的問題に関連した欠勤や生産性の低下を把握,収集したとき社会・経済的損失は多大であることがわかった。DMFTやCPIなどの客観的指標にあわせてこれらの情報を明らかにすることは,労使双方に強いインパクトを与えるものであり,産業歯科保健活動の導入,展開に寄与するものであると考える。
著者
片岡 宏介 吉松 英樹 栁沢 志津子 三宅 達郎
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.13-20, 2023 (Released:2023-02-15)
参考文献数
23

ヒト成人の皮膚総面積の200倍以上を占める粘膜の表層では,常に細菌やウイルスといったさまざまな病原体が体内への侵入を試みている.それに贖う手段として,非特異的防御バリア(自然免疫機構)と特異的防御バリア(獲得免疫機構)が粘膜部では作働している.粘膜ワクチンは,病原体の侵入門戸である粘膜面に病原体由来の抗原と免疫賦活化剤(アジュバント)を直接投与することにより,自然免疫機構を効率良く誘導し,異的防御バリアの主体となる抗原特異的分泌型IgA抗体を産生することを可能とする. われわれはこれまで,加齢の影響を受けにくい鼻咽腔関連リンパ組織(NALT)の樹状細胞をターゲットに,サイトカインFlt3 ligand発現DNAプラスミドとCpGオリゴデオキシヌクレオチドを併用した経鼻ダブルDNAアジュバント(dDA)システムの構築を行い,高齢者にも応用可能な粘膜ワクチンの開発を目指してきた. 本稿では,経鼻dDAシステムが抗老化作用を有すること,また感染症のみならずNCDs発症を防ぐ経鼻ワクチンへの応用の可能性について,われわれの最新の知見を紹介する.近い将来,本粘膜ワクチンが,感染症だけでなくNCDsをも制御することで,わが国の「健康寿命の延伸」と「健康格差の縮小」という国家課題の克服と,世界的に進行する超高齢社会における高齢者のQOL向上に寄与できるツールとなり,口腔保健医療サービスの充実に貢献できればと考える.
著者
大岡 貴史 拝野 俊之 弘中 祥司 向井 美恵
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.88-94, 2008-04-30 (Released:2018-03-30)
参考文献数
28
被引用文献数
17

口腔機能は,摂食・嚥下機能や構音機能など,生活の質の維持・向上,コミュニケーションをはじめとした社会生活を営むうえで重要な役割を担っている.本研究では,在宅高齢者の機能減退に伴う摂食・嚥下機能および構音機能の低下に対して,機能低下の進行を予防するために高齢者自身が行える口腔機能向上における新たな介護予防システムを構築することを目的に,口腔体操が口腔機能の向上に与える効果を検討した.特定高齢者および要支援高齢者計23名(男性4名,女性19名,平均年齢77.9±6.5歳)を対象として,器具を用いない口腔体操および口腔ケアを含む口腔機能向上プログラムを自宅にて約3ヵ月継続して実施した.この介入前後に摂食・嚥下機能および構音機能の改善効果について評価を行い,口腔機能の変化について検討を行った.その結果,口唇閉鎖力および音節交互反復運動の回数に著明な改善がみられた.また,反復唾液嚥下テスト(RSST)においては,介入前の評価で3回の嚥下が行えなかった対象者で明らかな嚥下回数の向上が認められ,初回嚥下までの時間も有意に短縮された.これらより,特定高齢者および要支援高齢者が自宅にて日常的に行える簡便な口腔体操の実践により,摂食・嚥下機能,構音機能をはじめとした口腔機能の向上が得られる可能性が示唆された.
著者
Donald M. BRUNETTE 八重垣 健
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.536-543, 2011-10-30 (Released:2018-04-06)
参考文献数
3

論文を読むあるいは作成するための,論文の価値判断の指針を解説した.論文の構成要素には,まず「読者(あなた)」が最上位にあり,そしてタイトル・著者・掲載雑誌の位置づけ,要旨(抄録),はじめに,研究方法と材料,結果,考察,結論などの因子がある.そのうえで,読者側からは「読者の印象に残る重要な情報」,そして「読者が個人的に学んだ明確で重要な情報」などの因子がある.読者は,その論文に,どの程度興味を持つことができるか,そして読む価値があるかを,判断しなければならない.そこで,要旨を注意深く読み,「読者が,論文を読む目的」を見つけることが必要となる.「タイトル・著者・掲載雑誌の位置づけ」では,論文に重要な新情報が記載されている可能性や,掲載雑誌のランクなどがわかる.要旨にはいくつかの構成要素があり,要旨を読み,「問題点や新知見」を見つけて論文を続けて読む理由とする.「はじめに」では,探求的で仮説に基づいた研究か否か判定し,研究方法と材料では,読者が実験結果の有効性を確かめ,実験を再現するのに十分な情報を得ることができる.結果では結論の基礎となるデータを十分に知り,考察では「論理のある確固とした結論」にしようとの著者の意図を知ることもできる.一方,「はじめに」で記載された仮説の答えを「結論」で明確に知ることができる.
著者
近藤 武 笠原 香 中根 卓 樋口 壽英 藤垣 佳久
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.144-150, 2004-04-30 (Released:2017-12-22)
参考文献数
5

わが国の水道水のフッ素基準値は,0.8 mg/l 以下である.しかし,宝塚市は中等度の斑状歯の発生抑制を目的として,国の基準より低い0.4〜0.5 mg/l 以下で給水している.この基準の妥当性は,この濃度の飲料水を出生時から摂取した児童・生徒の,中等度の斑状歯所有率の減少によって証明される.今回,宝塚市水道局から公表されている,水道水中フッ素濃度の経過と,宝塚市教育委員会から公表されている児童生徒の歯科健診結果から調査した.管末のフッ素濃度は昭和55年度(1980)以降平成12年度(2000)まで,年平均濃度は暫定管理基準を超える濃度はみられなかった.昭和56年度(1981)から63年度(1988)の間に出生した児童・生徒について,斑状歯所有率の経過をみると,平成8年度(1996)では5.3%であったが,平成12年度(2000)には2.3%と減少した.むし歯のない者の割合についてみると,経年的に増加がみられたが,全国的にも同様の傾向がみられたことから,その関係ははっきりしなかった.
著者
清水 都 小島 美樹 井下 英二 真田 依功子 大森 智栄 倉田 秀 森崎 市治郎
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.241-250, 2022 (Released:2022-11-15)
参考文献数
30

歯科疾患や口腔の不健康とメタボリックシンドロームとの関連が,多くの疫学研究で報告されている.本研究では,壮年期男性における口腔の自覚症状とメタボリックシンドロームおよびそのリスク因子との関連を調べることを目的とした.歯科・医科健診データを用いて,4年間の後ろ向きコホート研究を行った.42歳時点で,メタボリックシンドロームがない者3,519人,肥満(高BMI)をもたない2,574人,高血圧症(高収縮期血圧かつ/または高拡張期血圧)をもたない者2,785人,脂質異常症(高中性脂肪かつ/または低HDLコレステロール)をもたない者2,879人,高血糖症(高空腹時血糖)をもたない者3,604人を解析対象とした.これらの項目別に,46歳時点で各項目を有する者の割合を,42歳時点における口腔の自覚症状の有無で比較した.ロジスティック回帰モデルを用いて交絡要因を調整したオッズ比と95% 信頼区間を算出した.その結果,生活習慣調整モデルでは「う蝕あり」と「歯肉出血」は高血圧症と,「歯肉出血」と「歯肉腫脹・疼痛」は高血糖症と有意に関連していた.生活習慣に加えて全身状態を調整したモデルにおいても,「歯肉出血」と高血圧症,「歯肉腫脹・疼痛」と高血糖症との関連は有意であった.以上の結果より,壮年期男性において,特に歯周病に関係する症状の自覚が,メタボリックシンドロームのリスクとなる状態の発症と関連することが示唆された.
著者
秋山 理加 濱嵜 朋子 酒井 理恵 岩﨑 正則 角田 聡子 邵 仁浩 葭原 明弘 宮﨑 秀夫 安細 敏弘
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.76-84, 2018 (Released:2018-05-18)
参考文献数
47
被引用文献数
1

【目的】在宅高齢者を対象として簡易嚥下状態評価票(EAT-10)を用いて,嚥下状態と栄養状態の関連について明らかにすることを目的とした.【対象および方法】新潟市の85歳在宅高齢者129名を対象とした.口腔と全身の健康状態に関するアンケートを郵送し自記式にて調査を行った.調査内容は,EAT-10,現在歯数,簡易栄養状態評価(MNA-SF),主観的健康観,老研式活動能力指標,Oral Health Impact Profile-49(OHIP),嚙める食品数である.これらの因子について,EAT-10の合計点数が3点以上を嚥下機能低下のリスク有り群とし,3点未満の群との比較検討を行った.【結果】EAT-10によって,嚥下機能低下が疑われたものは52.7% であった.嚥下機能低下のリスク有り群ではOHIP 高値(p<0.001),嚙める食品数低値(p<0.001)と有意な関連がみられ,主観的健康観で“あまり健康ではない”者の割合が有意に高く(p<0.001),MNA-SFで“低栄養”の割合が有意に高かった(p=0.007).さらに,MNA-SF を従属変数としたロジスティック回帰分析の結果,栄養状態と嚥下機能には有意な関連がみられ,EAT-10の点数が高くなるほどMNA-SF で“低栄養のリスク有りまたは低栄養”となるオッズ比が有意に高かった (p=0.043).【結論】在宅高齢者の嚥下機能低下と低栄養状態との関連性が示唆された.
著者
田嶋 和夫 今井 洋子 田草川 博 堀内 照夫 金子 憲司
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.740-750, 2000-10-30 (Released:2017-12-08)
参考文献数
15
被引用文献数
2

フッ化物イオンを含有する泡状製剤のハイドロキシアパタイト(HAP)に対する物理化学的研究から溶液状と泡沫状でフッ化物イオンの吸着に関して,次のことを明らかにすることができた。(1)発泡剤の界面活性剤(SDS)とう蝕予防剤(NaF)は泡沫状態で錯体やイオン対形成などの直接的相互作用をしない。(2)SDSは水分散状態におけるHAP表面にほとんど吸着しない。(3)HAP表面に対するフッ化物イオン(F-)のイオン交換吸着速度は溶液状態より泡沫状態のほうが約10倍速い。(4)人臼歯の切片を用いて,溶液状と泡状でのう蝕予防剤処置後,脱灰処理の結果,泡状のほうが予防効果が大きいことが実験的に証明された。(5)ヘテロ界面電気二重層の理論に従い,イオン交換吸着速度は泡沫状態のほうが速くなる機構を説明することができた。以上より,泡状剤型はフッ素を効率的に歯牙表面に供給できる優れた剤型であることが示唆された。
著者
秋山 理加 濱嵜 朋子 岩﨑 正則 角田 聡子 片岡 正太 茂山 博代 濃野 要 葭原 明弘 小川 祐司 安細 敏弘 宮﨑 秀夫
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.136-146, 2021 (Released:2021-08-15)
参考文献数
37

わが国では,年々超高齢者数が増加している.健康度の高い在宅超高齢者の食生活の実態を把握することは健康寿命延伸の有益な知見になると考えられる.そのため著者らは,在宅超高齢者を対象として,食事パターンを同定し,栄養素摂取量,栄養状態および嚥下状態との関連について明らかにすることを目的として本研究を行った. 新潟市の91歳在宅高齢者86名を対象として,簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ),簡易栄養状態評価(MNA-SF),簡易嚥下状態評価票(EAT-10)による調査を行った.食品群別摂取量から主成分分析を行い,食事パターンを同定し,それらと栄養素摂取量の関連を検討した.さらに,各食事パターンと食に関連する因子,MNA-SFおよびEAT-10との関連を比較検討した. 主成分分析の結果,4つの食事パターンが同定された.それぞれの主成分得点三分位によって栄養素摂取量を比較したところ,肉,魚,野菜類の摂取量が多く,ご飯,パンが少ない「副菜型」では,高得点群ほどたんぱく質やビタミンDなどの栄養素摂取量が多く,栄養状態も良好な者が多かった.また,MNA-SFで低栄養と判定された群では対照群と比べて嚥下機能低下のリスクのある者の割合が有意に高かった. さらに,「副菜型」の食事パターンでは居住形態や共に食事をする人の有無との関連も示唆された.
著者
嶋崎 義浩 齋藤 俊行 山下 喜久
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.192-197, 2006-04-30 (Released:2018-03-23)
参考文献数
16
被引用文献数
2

老人保健法による歯周疾患検診を想定し,歯周ポケット保有者をCPIを用いた部分診査法で検出する有効性を検討することを研究目的とした.対象は,九州大学病院口腔ケア・予防科受診患者のうち20歯以上歯がある者とした.全顎の歯周ポケット診査結果から4mm以上の歯周ポケットを1歯以上もつ歯周ポケット保有者をCPIコードを用いて検出した場合と,全顎診査法によって検出した場合との一致率を求めた.その結果,CPI代表歯10歯の診査で個人コード3以上を歯周ポケット保有者として検出した場合,全顎診査法との一致率は97.2%であった.老人保健法による歯周疾患検診の基準と全顎診査法との一致率は88.9%であった.検査を簡略化するために臼歯部4分画のなかで第二大臼歯だけを対象とした方法では,全顎診査法との一致率が93.1%であった.また, CPI代表歯10歯の診査でCPIコード3以上の分画数と歯周ポケット4mm以上の歯数との関係を調べたところ,コード3以上の分画数が増えるに従って歯周ポケット保有歯数が増え,CPIの結果から歯周疾患の広がりの程度を示すことができた.これらのことから,CPIを用いた歯周ポケット保有者の検出は,全顎診査法との一致率が高いことが示唆された.また,実際の検診で時間的な制約がある場合には,CPIをさらに簡略化できる可能性が示唆された.
著者
竹下 萌乃 岡澤 悠衣 加藤 啓介
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.84-91, 2022 (Released:2022-05-15)
参考文献数
16

これまでに,さまざまな歯ブラシの臨床研究が報告されているが,試験群間で毛先形状以外の歯ブラシの仕様が異なるものが多く,毛先形状のみ異なる歯ブラシを比較した臨床研究は少ない.よって本研究では,毛以外の因子を揃えたうえで,毛先形状の異なる歯ブラシにおけるプラーク除去効果の比較を行い,ブラッシング圧の測定も併せて行った. 成人男女61名を無作為に,研磨処理によるテーパード毛(研磨処理毛),化学処理によるテーパード毛(化学処理毛)および先丸毛をそれぞれ同一のハンドルに植毛した歯ブラシを使用する3群に割り付けた.各群3分間/回,3回/日のブラッシングを3週間実施した.0日目および3週間後の時点で被験者にブラッシングを実施させ,プラーク除去率を算出した.ブラッシング圧は,全員同じ歯ブラシ(ガム・デンタルブラシ#211)を用いた時と,試験品を用いた時の2回測定した. その結果,0日目,3週間後それぞれのプラーク除去率は,研磨処理毛群62.5%/55.4%,化学処理毛群42.8%/40.1%,先丸毛群65.0%/55.9%であり,研磨処理毛群と化学処理毛群の間,先丸毛群と化学処理毛群との間に有意な差が認められた(p<0.01).ブラッシング圧は3群間に有意な差は認められなかった. 以上のことから,研磨処理毛と先丸毛は,化学処理毛よりも高いプラーク除去効果を示す可能性が示唆された.
著者
山本 龍生 阿部 智 大田 順子 安藤 雄一 相田 潤 平田 幸夫 新井 誠四郎
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.410-417, 2012-07-30 (Released:2018-04-06)
参考文献数
12

「健康日本21」の歯の健康に関する目標値「学齢期におけるフッ化物配合歯磨剤(F歯磨剤)使用者の割合を90%以上にする」の達成状況を調査した.  2005年実施のF歯磨剤使用状況調査対象校のうち,協力の得られた18小学校(対象者:8,490 名)と17中学校(対象者:8,214名)に対して,調査票を2010年に送付し,小学生の保護者と中学生自身に無記名で回答を依頼した.回収できた調査票から回答が有効な12,963名(小学生:6,789名,中学生:6,174名)分を集計に用いた. F歯磨剤の使用者割合は89.1%(95%信頼区間:88.6〜89.7%)(小学生:90.0%,中学生:88.1%,男子:88.0%,女子:90.2%)であった.歯磨剤使用者に限るとF歯磨剤使用者割合は92.6%(小学生:94.9%,中学生:90.2%)であった.F歯磨剤使用者の中で,歯磨剤選択理由にフッ化物を挙げた小学生(保護者),中学生は,それぞれ47.9%,15.8%であった.歯磨剤を使わない者の約3〜4割は味が悪いことを使わない理由に挙げていた. 以上の結果から,学齢期におけるF歯磨剤の使用状況は,2005年(88.1%)からほとんど変化がなく,「健康日本21」の目標値達成には至らなかった.今後はF歯磨剤の市場占有率の向上,歯磨剤を使わない者への対応等,F歯磨剤使用者の割合を増加させる取り組みが求められる.
著者
平田 幸夫 阿部 智 村田 ゆかり 上條 和子
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.295-301, 2006-07-30 (Released:2018-03-23)
参考文献数
12
被引用文献数
4

「健康日本21」の「歯の健康」に関する目標値の一つに,「学齢期におけるフッ化物配合歯磨剤使用者の割合を90%以上にする」が掲げられ,学齢期におけるフッ化物配合歯磨剤(以下,F歯磨剤と略す)の使用が推奨されている.そのため,学齢期(小学生・中学生)におけるF歯磨剤の使用状況の把握を目的に,質問票調査を実施した.全国から協力の得られた小学校25校の児童12,700名と中学校21校の生徒10,580名を対象に,本学会フッ化物応用委員会の調査票を改変した調査票を用い,小学生の場合には保護者に,中学生の場合には生徒自身に無記名で回答をお願いした.そして,回収できた調査票から有効な17,237名(小学校9,810名,中学校7,427名)分を集計に用いた.その結果,F歯磨剤使用者の割合は歯磨剤の未使用者も総数に含めると88.1%(小学生:88.2%,中学生:87.8%)で,性別では男子が86.5%,女子が89.7%であり,また,歯磨剤使用者のなかでは93.1%(小学生:95.0%,中学生:90.7%)であった.さらに,F歯磨剤を使用している小学生(保護者回答)では,その約49%の者がフッ化物配合であるということを認識して使用していることが示唆された.以上から,学齢期(小学生・中学生)におけるF歯磨剤の使用状況は「健康日本21」の「歯の健康」目標値に接近していることが示された.この要因の一つとして,企業によるF歯磨剤の市場占有率の拡大が考えられたが,今後も学齢期におけるF歯磨剤の使用状況について定期的なモニタリングが必要であると思われた.
著者
宮田 一 星 秋夫 佐藤 勉 丹羽 源男
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.21-29, 1999-01-30 (Released:2017-10-27)
参考文献数
21

歯科医師に推奨すべき健康管理を確立するための基礎的データを収集する目的で,歯科医師の死亡構造の特徴について検討した。対象集団は,1975年から1996年までの22年間に某歯科大学同窓会に所属した男性歯科医師9,026名(死亡者1,550名)であり,SMRを算出して日本人男性と比較を行い,以下の結果を得た。1.観察期間における死因は心疾患(29.8%)が最も多く,次に悪性新生物(27.8%),脳血管疾患(13.6%),肺炎・気管支炎(9.9%)であり,これら死亡割合の合計は全体の80%以上に達した。2.歯科医師の平均死亡年齢は72.8±12.1歳(27〜101歳)であるが,近年になるに従って有意に増加した。3.総死因における歯科医師のSMRは日本人男性よりも有意に低価であった。4.主要死因のSMRについてみると,悪性新生物,および脳血管疾患は歯科医師で有意に低価であった。しかし,心疾患のSMRはいずれの年次においても歯科医師が有意に高値を示した。また,肺炎・気管支炎は歯科医師で有意に低値を示したが,最近4年間と55〜69歳の年齢層では高値を示した。以上から歯科医師は日本人男性よりも良好な健康状態にあることが示唆された。
著者
田島 聖士 小野寺 勉 阿部 公喜 海老沢 政人 飯塚 浩道
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.344-350, 2013
参考文献数
12

2011年3月11日,東日本大震災が発生し甚大な災害となったが,海上自衛隊(海自)は災害派遣命令により宮城県沖に多数の自衛艦を派出した.被災地では歯科医療機関の被害もあったため,海自移動歯科班を歯科診療支援要請に基づき,3月26日から4月21日まで宮城県本吉郡南三陸町および気仙沼市大島において歯科診療支援を実施した.一方,現地歯科医師会歯科班は3月20日から4月25日まで各避難所を往診車にて巡回診療を行った.現地歯科班と海自歯科班は協働して歯科診療支援を行い,避難所等における診療実績および質問紙調査から,震災直後の歯科診療ニーズ,口腔清掃状況ならびに現地歯科班と海自歯科班の診療連携について調査した.調査対象は初診患者数455名,延べ患者数584名,疾患内訳はう蝕31%,歯周疾患23%,脱離17%,義歯不適10%,根尖性歯周炎9%,義歯紛失2%であった.災害対策本部があった志津川ベイサイドアリーナにおける経時的な受診調査では,震災直後から最多疾患であったう蝕は調査期間中増加傾向を示し,歯周疾患は2〜3週以降減少傾向を示した.主訴発現に関する調査では震災直後から震災後1週の主訴発現は全体の12%であったが,その内75%は急性症状を伴っていた.本調査から震災直後における歯科診療ニーズが確認できたが,現地歯科班による避難所等の情報収集能力と海自歯科班の機動性や装備を生かすことにより相互補完的な支援が可能であることが示唆された.
著者
廣瀬 晃子 可児 徳子 新谷 裕久 大橋 たみえ 石津 恵津子 福井 正人 可児 瑞夫
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.274-280, 1997-07-30 (Released:2017-10-20)
参考文献数
18

フッ化物歯面塗布術式のうち,塗布後の洗口・飲食禁止時間を再検討する目的で,in situモデルを用いてAPF溶液(9,000 ppm F^-,pH3.6)4分作用アパタイトペレットの口腔内浸漬実験を行った。その結果,8時間浸漬後のペレット中の残留フッ素量は,すべての群でAPF溶液作用直後群の半量に減少していた。浸漬群間では洗口開始時間が早かった0分群,10分群は他の群に比較して残留フッ素量は少なかったが,一般にいわれている洗口・飲食禁止時間の30分群を基準に残留フッ素量を比較すると,0分群でも表層から内層に向かって一様に30分群の80%の割合でフッ素が確認された。各浸漬群の酸抵抗性試験では,すべての群で対照群に比べて耐酸性獲得が認められた。また脱灰時間が長くなると,洗口開始時間が早い群は遅い群に比べてカルシウム溶出が多く認められたが,それらの群もAPF作用直後群との間には差はみられなかった。以上のことから30分間の洗口・飲食禁止時間短縮の可能性が示唆された。
著者
清田 義和 佐久間 汐子 岸 洋志 須藤 明子 小林 清吾 宮崎 秀夫
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.307-312, 1997-07-30 (Released:2017-10-20)
参考文献数
19
被引用文献数
12

本研究の目的は,フッ化物ゲルを歯ブラシを用いて塗布する方法による乳歯う蝕予防プログラムの効果を評価することである。う蝕がない1歳6ヵ月児892名を対象とし,希望により3歳まで6ヵ月間隔で受けたフッ化物ゲル歯面塗布の回数によってグループ分けし,3歳6ヵ月の時点でう蝕の発生数を比較した。その結果,定期的に4回の塗布を受けた群のう蝕発生数が最も少なく,全く受けなかった群に比較して平均う蝕発生(dmfs)数で47.5%の有意な差が認められた。本法で有意なう蝕予防効果を得るために,少なくとも年2回の定期的,継続的なフッ化物歯面塗布の実施が必要であることが示唆された。
著者
桑原 洋子 新谷 裕久 小澤 亨司 上坂 弘文 可児 瑞夫 可児 徳子
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.243-256, 1995
参考文献数
25
被引用文献数
8

病院歯科各診療室の気菌濃度の分布状態を把握することを目的として,1990年より2年間,朝日大学歯学部附属病院の中規模診療室(矯正歯科,小児歯科)と大規模診療室(保存科,補綴科)において,5ヵ所の測定点でSY法と落下法の併用により気菌濃度の測定を行った。分析は,測定点別気菌濃度分布の経時的推移と差異について二元配置分散分析法により検討し,さらにクラスター分析により気菌濃度の違いによる測定点の分類を行った。また,在室人員の動向と気菌濃度の分布との関係についても検討を行い,次のような結果を得た。1. 歯科診療室内の気菌濃度は,SY法0.02〜1.47CFU/l,落下法0.08〜6.83CFUであり,測定点別気菌濃度には季節変動が認められた。2. 二元配置分散分析により,気菌濃度に差の認められる測定点は,いずれの診療室にも認められたため,気菌濃度は複数カ所測定の必要性が示された。3. クラスクー分析により,気菌濃度の分布が把握できることが示され,気菌濃度測定を継続実施する場合の測定点の選択にクラスター分析が有効であることが示唆された。4.歯科診療室の在室人員の動向は,気菌濃度の分布と高い相関関係(p<0.01)が認められ,歯科用ユニットの使用分布を数量化することにより把握が可能であることが示された。
著者
山中 玲子 水島 美枝子 Rahena AKHTER 古田 美智子 山本 龍生 渡邊 達夫
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.125-133, 2008-04-30 (Released:2018-03-30)
参考文献数
21

電動歯ブラシの使用は,高校生への公衆衛生学的なアプローチとして効果的であると思われる.しかし,電動歯ブラシの機構はさまざまなので,代表的な2種類の電動歯ブラシOral-B(PC)とSonicare(SE)によるブラッシングの効果と安全性を,歯肉炎に罹患している高校生を対象にして比較検討した.高校生956名のうち65名が,歯科検診で歯肉炎と判定された.そのうち本研究に文書で同意をした59名に口腔内診査を行い,学年と性別,すべての第一・第二大臼歯と,右側上顎中切歯,左側下顎中切歯の10歯のプロービング時の出血部位数を診査部位数で除した値の百分率(出血部位割合),口腔清掃状態の指数(QuigleyとHeinによるPlaque IndexのTureskyらによる改良法; PII),プロービングデプスをマッチングしPC群とSE群に分けた.ベースラインから8週間後まで,1日2回,2分間のブラッシングを指示しベースラインと2, 4, 8週間後に口腔内診査と電動歯ブラシによるブラッシング指導を行った.出血部位割合, PII,プロービングデプスは,2群間に有意差はなく,各群とも経時的に有意に減少した.歯肉の擦過傷は,PC群において2,4週間後に4個存在したが,8週間後にはなくなった.電動歯ブラシPCとSEの使用は,同程度に高校生の歯肉炎を改善し,歯肉に対して安全であるため,公衆衛生学的な手法として有効である.