著者
葭原 明弘 深井 浩一 両角 祐子 廣富 敏伸 宮崎 秀夫
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.822-827, 2001
参考文献数
21
被引用文献数
7

1999年の歯科疾患実態調査によると,5〜14歳で歯肉に所見のある考は47.4%に達している。歯肉炎は主に歯間乳頭部から初発することから,歯肉炎予防にはデンタルフロスの使用が重要と考えられる。本調査の目的は,デンタルフロスを用いた歯科保健指導による歯肉炎の改善と口腔保健行動の変容について評価するものである。対象者は新潟県M小学校の5年生39人(テスト群),Y小学校の5年生18人(コントロール群)であった。テスト群には給食後のブラッシングに加え,上下顎前歯部にデンタルフロスを使用するよう歯科衛生士が指導した。診査はベースライン時(2000年5月)および6ヵ月後に,同一1名の歯科医師が行い,上下顎前歯の歯間乳頭部を対象にPapilla Bleeding IndexおよびPlaque Indexの要訣を用いた。ベースラインにおける一人平均出血部位数,歯垢付首部拉数およびデンタルフロスの家庭での使用率に,2群間で有意な差は認められなかった。一人平均出血部拉数は,テスト群では4.67(SD=3.01)部位から3.03(SD=2.70)部位に減少したのに対し,コントロール群では4.59(SD=2.50)から5.41(SD=3.43)に増加した。6ヵ月間の変化量の差は統計学的に有意であった(p=0.003,Mann-Whitney U検定)。一人平均歯垢付着部位数は,テスト群では4.64(SD=3.02)部位から3.41 (SD=2.68)部位に減少したのに対し,コントロール群では,5.12(SD=2.93)から6.41(SD=2.62)に増加した。6ヵ月間の変化量は,統計学的に有意だった(p=0.008,Mann-Whitney U検定)。さらに,6ヵ月間でデンタルフロスを新たに家庭で使用するようになった者は,テスト群で51.5‰コントロール群で22.2%であった(p=0.023,χ^2検定)。今目の結果は,デンタルフロスの使用を取り入れた歯科保健指導により歯肉炎が抑制されたこと,さらに対象学童の行動変容が起きたことを示している。本プログラムは学校歯科保健活動に組み入れることが比較的容易であり,また今後広く普及が可能な方法と考える。
著者
葭原 明弘 安藤 雄一 池田 恵 小林 清吾 小黒 章 石上 和男 永瀬 吉彦 澤村 恵美子 瀧口 徹
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.339-345, 1996-07-30
被引用文献数
24

1984年より行政事業として成人歯科健診事業を実施してきた地区において,成人歯科健診事業の受診経験が喪失歯数およびう蝕処置状況に及ぼす影響について調査した。調査対象者数は,1994年の歯科健診事業受診者1,311人である。1993年以前に実施された歯科健診事業を1回でも受診したことのある者を「過去受診群」(309人),1994年の歯科健診初診者を「過去未受診群」(1,002人)とした。1994年における「過去受診群」と「過去未受診群」との横断分析のみならず「過去受診群」におけるベースラインデータと1994年との縦断分析も加えて評価を行った。その結果,一人平均喪失歯数については歯科健診事業の受診経験による改善傾向は認められなかった。う蝕処置完了者率については,歯科健診事業受診経験者に経年的な向上を認めた。しかし,これは歯科健診事業の受診によることよりも日常的に歯科医院を受診し易くなったという社会的要因に負うものが大きいと推察された。したがって,成人歯科保健事業については,今後歯科保健教育および適切な事後の予防管理を主体とする方向に可能性を見いだすべきであると考えた。
著者
秋山 理加 濱嵜 朋子 酒井 理恵 岩﨑 正則 角田 聡子 邵 仁浩 葭原 明弘 宮﨑 秀夫 安細 敏弘
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.76-84, 2018 (Released:2018-05-18)
参考文献数
47
被引用文献数
1

【目的】在宅高齢者を対象として簡易嚥下状態評価票(EAT-10)を用いて,嚥下状態と栄養状態の関連について明らかにすることを目的とした.【対象および方法】新潟市の85歳在宅高齢者129名を対象とした.口腔と全身の健康状態に関するアンケートを郵送し自記式にて調査を行った.調査内容は,EAT-10,現在歯数,簡易栄養状態評価(MNA-SF),主観的健康観,老研式活動能力指標,Oral Health Impact Profile-49(OHIP),嚙める食品数である.これらの因子について,EAT-10の合計点数が3点以上を嚥下機能低下のリスク有り群とし,3点未満の群との比較検討を行った.【結果】EAT-10によって,嚥下機能低下が疑われたものは52.7% であった.嚥下機能低下のリスク有り群ではOHIP 高値(p<0.001),嚙める食品数低値(p<0.001)と有意な関連がみられ,主観的健康観で“あまり健康ではない”者の割合が有意に高く(p<0.001),MNA-SFで“低栄養”の割合が有意に高かった(p=0.007).さらに,MNA-SF を従属変数としたロジスティック回帰分析の結果,栄養状態と嚥下機能には有意な関連がみられ,EAT-10の点数が高くなるほどMNA-SF で“低栄養のリスク有りまたは低栄養”となるオッズ比が有意に高かった (p=0.043).【結論】在宅高齢者の嚥下機能低下と低栄養状態との関連性が示唆された.
著者
秋山 理加 濱嵜 朋子 岩﨑 正則 角田 聡子 片岡 正太 茂山 博代 濃野 要 葭原 明弘 小川 祐司 安細 敏弘 宮﨑 秀夫
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.136-146, 2021 (Released:2021-08-15)
参考文献数
37

わが国では,年々超高齢者数が増加している.健康度の高い在宅超高齢者の食生活の実態を把握することは健康寿命延伸の有益な知見になると考えられる.そのため著者らは,在宅超高齢者を対象として,食事パターンを同定し,栄養素摂取量,栄養状態および嚥下状態との関連について明らかにすることを目的として本研究を行った. 新潟市の91歳在宅高齢者86名を対象として,簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ),簡易栄養状態評価(MNA-SF),簡易嚥下状態評価票(EAT-10)による調査を行った.食品群別摂取量から主成分分析を行い,食事パターンを同定し,それらと栄養素摂取量の関連を検討した.さらに,各食事パターンと食に関連する因子,MNA-SFおよびEAT-10との関連を比較検討した. 主成分分析の結果,4つの食事パターンが同定された.それぞれの主成分得点三分位によって栄養素摂取量を比較したところ,肉,魚,野菜類の摂取量が多く,ご飯,パンが少ない「副菜型」では,高得点群ほどたんぱく質やビタミンDなどの栄養素摂取量が多く,栄養状態も良好な者が多かった.また,MNA-SFで低栄養と判定された群では対照群と比べて嚥下機能低下のリスクのある者の割合が有意に高かった. さらに,「副菜型」の食事パターンでは居住形態や共に食事をする人の有無との関連も示唆された.
著者
筒井 昭仁 瀧口 徹 斎藤 慎一 田村 卓也 八木 稔 安藤 雄一 岸 洋志 小林 秀人 矢野 正敏 葭原 明弘 渡辺 雄三 小林 清吾 佐久間 汐子 野上 成樹 小泉 信雄 中村 宗達 渡辺 猛 堀井 欣一 境 脩
出版者
Japanese Society for Oral Health
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.329-341, 1994-07-30 (Released:2010-10-27)
参考文献数
35
被引用文献数
4

著者らは, 日本における飲料水中フッ素濃度とエナメル斑の発現状況の関係を明らかにすることを目的に, 1978年以来, 東北, 関東, 甲信越地方で飲料水中フッ素濃度の測定を継続的に行ってきた。その結果, フッ素濃度の変動が少なかった7つの天然フッ素地域を確認した。水道給水系は26あり, フッ素濃度は0から1.4ppmの範囲に分布していた。フッ素濃度を確認してきた地域に生まれ, 当該の水道水を利用して育った小学5, 6年生1,081名を対象に, 1987年歯牙フッ素症検診を行った。歯牙フッ素症の分類にはDeanの基準を使用した。また, 非フッ素性白斑についてもDean基準の白濁部面積算定基準を準用して分類した。確認された歯牙フッ素症はいずれもmild以下の軽度のものであり, very mild以上のフッ素症歯所有者率と飲料水中フッ素濃度との間に有意な正の相関関係 (r=0.485, p<0.05) が認められた。また, 非フッ素性白斑歯所有者率と飲料水中フッ素濃度との間には有意な負の相関関係 (r=-0.429, p<0.05) が認められた。全エナメル斑発現状況と飲料水中フッ素濃度の間には特別な傾向は認められなかった (r=-0.129, ns)。CFIは0.04から0.30であり公衆衛生上問題のない地域と判定された。この度の研究結果は, わが国の歯牙フッ素症に関する疫学研究において不足しているとされていたデータ部分を補うものであり, わが国の至適フッ素濃度研究に寄与するものであると考察した。
著者
堀 良子 高野 尚子 葭原 明弘 宮崎 秀夫
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 = Japanese journal of environmental infections (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.85-90, 2010-03-25
参考文献数
21
被引用文献数
4 2

&nbsp;&nbsp;歯科関係者の専門的な口腔ケアが要介護高齢者の誤嚥性肺炎を防ぐことに関する研究報告は多いが,リスクのある入院患者の看護者による日常的な口腔ケアを評価した報告は殆どない.そこで,われわれは一般病棟入院患者に実施されている口腔清掃と院内発症肺炎の起炎菌と同じ菌株の口腔からの検出および発熱との関連について検討した.<br> &nbsp;&nbsp;新潟県内4病院の口腔清掃に介助を必要とする40歳以上の入院患者69名を対象とし,清掃の回数および実施内容を記録した.また,黄色ブドウ球菌,MRSA,緑膿菌を対象として口腔内細菌の検出と菌数測定を行い,過去7日間の37.5&deg;C以上の発熱の有無を調査した.これらを経口摂取群と非経口摂取群に分けFisherの直接確率法で評価した.その結果,経口摂取群において口腔清掃が3回/日以上の者で,発熱ありの割合と黄色ブドウ球菌の検出された割合が有意に低かった.一方非経口摂取群においては,歯ブラシを使用している者の方が発熱ありの割合が有意に低かった.以上より,経口摂取者においては頻回の口腔清掃が発熱と口腔内の日和見菌の定着を防止することが示唆され,非経口摂取者においては歯ブラシを用いた機械的な口腔清掃を行うことによって発熱が防止できることが示唆された.<br>
著者
金子 昇 葭原 明弘 濃野 要 山賀 孝之 財津 崇 川口 陽子 宮﨑 秀夫
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.27-33, 2019

<p> 職域における歯科保健事業として,疾病の早期発見を目的とした歯科健診が主に行われてきた.こうした従来型の歯科健診から,行動・環境リスク発見型・行動変容支援型歯科健診への転換を目的として,日本歯科医師会で「標準的な成人健診プログラム・保健指導マニュアル」(生活歯援プログラム)が策定された.本調査ではこのプログラムに基づいた歯科健診と保健指導が,歯科健診単独に比べてどの程度優れているのか検討を行った.新潟市内の3企業の従業員129名(44.6±11.5歳)を対象としてランダムに2群に分け,介入群には生活歯援プログラムに準じた歯科健診と保健指導を,対照群には歯科健診のみを行った.保健行動を把握するための質問紙調査をベースライン時,3カ月後,6カ月後および1年後に行い,この間の行動変容を調べた.その結果,介入群と対照群のいずれにおいても「職場や外出先での歯磨き」や「フッ素入りの歯磨剤の使用」,「歯間ブラシ・フロスの使用」が有意に改善していた.ただ,介入群では1年後まですべての時点でベースライン時に比べ有意に改善していたのに対し,対照群では一部の時点で有意な改善がみられたのみであった.したがって,従来型の歯科健診でも保健行動の変容がある程度期待できるが,その期間は限定的であること,歯科健診に加え生活歯援プログラムに準じた保健指導を行うことで行動変容はより確実となり,効果が少なくとも1年間持続することが明らかとなった.</p>
著者
葭原 明弘 清田 義和 片岡 照二郎 花田 信弘 宮崎 秀夫
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 = JOURNAL OF DENTAL HEALTH (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.241-248, 2004-07-30
参考文献数
25
被引用文献数
7

日常の楽しみごととして食事をあげる高齢者は多い.本調査では,食欲とQOLの関連をほかの要因を考慮しながら評価することを目的としている.本調査の対象者は70歳の高齢者600人である.QOLを総合的にあらわす指標としてフェイススケールを用いた.生活満足状況について5つの顔の表情を示し,一番実感に近いものを選択してもらった.食欲については質問紙法により情報を得た.さらに,身体的要因,健康行動,社会的要因,口腔内症状について情報を得た.フェイススケールの結果にもとづき,食欲,口腔内症状の合計数およびほかの全身的要因との関連をロジスティック回帰分析により評価した.その際,従属変数をフェイススケールの分布にもとづき2種類のモデル(モデル1,モデル2)を作成した.いずれのモデルにおいても食欲,口腔内症状の合計数,老研式活動能力指標,睡眠時間および性別を独立変数に採用した.その結果,モデル1では,食欲(オッズ比:2.77,p<0.05) ,口腔内症状の合計数オッズ比:1.25,p<.05) ,老研式活動能力指標オッズ比:1.25,D<0.01)が統計学的に有意であった.一方,モデル2では,食欲(オッズ比:3.23,p<0.001),老研式活動能力指標(オッズ比:1.24,D<0.001) ,睡眠時間(オッズ比:1.72,n<0.0l)が統計学的に有意であった.食欲は,モデル1とモデル2において,また,口腔内症状の合計数はモデル1において有意な関連が認められた.この結果は,地域在住高齢者では,食欲とQOLが有意に関連していることを示している.さらに,口腔内症状の改善がQOLの向上には必要であると考えられた.
著者
石川 裕子 米澤 大輔 葭原 明弘 齊藤 一誠 早崎 治明
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.338-343, 2016 (Released:2016-06-10)
参考文献数
13

本研究の目的は,知的障害者施設における利用者に対して,在所期間から知的障害者の口腔および支援の状態について検討することである.歯科診療室が併設されている「N知的障害者総合援護施設」利用者77名を対象とし,利用者の口腔内状態および口腔管理の支援状態を調査した. その結果,利用者の平均年齢は47.0 ± 12.7歳(無回答2名),在所期間は0~9年が24名,10~19年が41名,20年以上が12名であった.在所期間10~19年では,0 ~9年より障害支援区分の重い人が多く統計的に有意な差があった.口腔内状態は,未処置歯所有率が在所期間20年以上で8.3%と低く有意な差がみられた.施設には歯科の設備があるにも関わらず,在所期間0~9年および10~19年で未処置歯所有率が高く,今後,フッ化物塗布などのう蝕予防の実施が必要と考えられた.食事形態,食事時間については在所期間別で有意な差はみられなかった.嚥下および歯磨き支援については,支援必要者と不要者では在所期間別で有意な差があり,在所期間が長くなると支援の必要者の割合が多く,支援の必要性が高いと考えられた.また,現在,特に嚥下検査を行っていないことから,今後,専門医による検査を在所期間に関係なく全員に実施するとともに,食事介助の見直しが必要と考えられた.
著者
葭原 明弘 佐久間 汐子 小林 清吾 宮崎 秀夫
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.46, no.5, pp.729-733, 1996-10-30
参考文献数
20
被引用文献数
5

よりう蝕リスクが高いと思われる歯牙に実施したシーラントの保持状況および脱落要因について評価した。対象者は,保育園の4歳児から施設ベースのフッ化物洗口法を経験している小学校の1〜3年生,計356名である。Sticky Fissureに咬合面の歯垢付着状況,歯牙の咬合状態,年齢の3指標を組み合わせシーラントの適応を決定した。分析には,シーラント処置を行った第一大臼歯の小窩裂溝,156ケ所を用いた。調査期間は最短で半年間,最長で3年間である。シーラントの保持率は,半年間経過したもので75.9%〜100%,2年間経過したもので69.0%〜96.8%,3年間経過したもので58.6%であった。う蝕は小窩裂溝156ケ所のうち4ケ所にのみ発生した。また,重回帰分析の結果から,処置時の防湿不良がシーラントの脱落に有意に関わっていることが示された。Sticky Fissureを適応条件としたシーラントプログラムの場合,シーラントを処置する際の充分な清掃および唾液からの防湿がシーラントの保持率を高める上で重要な要因と考えた。
著者
金子 正幸 葭原 明弘 伊藤 加代子 高野 尚子 藤山 友紀 宮崎 秀夫
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.26-33, 2009-01-30
被引用文献数
6

平成18年度より,地域支援事業の一環として口腔機能向上事業が実施されている.本調査の目的は,口腔機能向上事業が高齢者の口腔の健康維持・増進に与える効果を検討し,今後の事業展開のための指針を得ることである.対象者は65歳以上の高齢者で,基本健康診査を受診し,厚生労働省が示す特定高齢者の選定に用いる基本チェックリストの「半年前に比べて固い物が食べにくくなりましたか」「お茶や汁物等でむせることがありますか」「口の渇きが気になりますか」の3項目すべてに該当する55名である.対象者に対して,口腔衛生指導や集団訓練としての機能的口腔ケアからなる口腔機能向上事業を,4回または6回コースとして3ヵ月間実施した.口腔衛生状態,口腔機能およびQOLについて事業前後の評価を行った.その結果,反復唾液嚥下テスト(RSST)積算時間は,1回目:事前7.5±5.6秒,事後5.6±3.1秒,2回目:事前16.2±9.7秒,事後12.4±6.9秒,3回目:事前25.7±14.7秒,事後19.4±10.9秒と改善がみられ,2回目,3回目について,その差は統計学的に有意であった(p<0.01).口腔機能についてはその他のすべての項目について,統計学的に有意な改善がみられた.本調査より,新潟市における口腔機能向上事業は,高齢者の摂食・嚥下機能をはじめとした口腔機能の維持・増進に有効であることが認められた.
著者
安藤 雄一 葭原 明弘 清田 義和 宮崎 秀夫
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.263-274, 2001-07-30
被引用文献数
10

本調査は,地域に在住する成人における歯の喪失の発生率とリスク要因について評価することを目的としている。調査対象は新潟県I町における成人歯科健診受診者で,分析対象はベースライン調査(1997年)を受診した有歯顎者724名のうち,3年後に行われた追跡調査を受診した269(男性128,女性141)名である。ベースライン時の平均年齢は60.6歳(SD = 12.8)であった。歯の喪失の有無に関して,個人単位および歯単位で分析し,ベースライン時における口腔診査と質問紙調査との関連についてロジスティック回帰分析を行った。調査期間中に喪失した歯はベースライン時に口腔内に存在していた歯の4.9%で,喪失が認められた対象者は48%,一人平均年間喪失歯数は0.33本であった。歯の喪失リスクに関するロジスティック回帰分析の結果,個人単位の分析では,現在歯数が10〜27歯・未処置う蝕を保有・口腔の自覚症状がある・過去1年以内に歯科医院を受診・歯間清掃具を使用していない人たちは,歯を喪失しやすいことが示された。一方,歯単位の分析では,智歯,未処置歯,クラウン(単冠)装着歯,ブリッジ支白歯,動揺歯,鈎歯が喪失しやすいことが確認された。