著者
菊地 正悟 黒澤 美智子
出版者
一般社団法人 日本消化器がん検診学会
雑誌
日本消化器がん検診学会雑誌 (ISSN:18807666)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.431-435, 2009 (Released:2011-04-15)
参考文献数
11

約11万人の地域住民を対象としてコホート研究のデータを用いて喫煙, 飲酒と膵がん, 胆嚢がんの関係を分析した結果の検診への応用を検討した。男性では, 喫煙が膵がんと胆嚢がん, 飲酒が胆嚢がんのリスクを有意に上昇させる結果が得られ, 最大曝露群は非曝露群に比べて, いずれも約3.2倍リスクが高かった。女性では, 喫煙について有意でないが男性と同様の関連を示唆する結果が, 飲酒については関連がないことを示唆する結果が得られた。3倍程度のリスクの違いでは, 喫煙習慣, 飲酒習慣を単独で対象者のスクリーニングに用いることは難しい。むしろ, 曝露群をハイリスク群として, 検診受診を特に強力に勧奨する手段として用いる方が実際的である。喫煙, 飲酒と膵がん, 胆嚢がんの関係を周知することは, 喫煙や飲酒に関連する疾患の予防にも役立つと思われる。血清タンパク, 遺伝子多型など, 新たなマーカーの検診への導入の検討も今後の課題である。
著者
鯵坂 秀之 小山 文誉 魚谷 知佳
出版者
一般社団法人 日本消化器がん検診学会
雑誌
日本消化器がん検診学会雑誌 = Journal of gastroenterological cancer screening (ISSN:18807666)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.237-242, 2011-03-15
参考文献数
13

胃内視鏡検診の精度を評価するために, 2006年9月から2009年8月までの内視鏡検診発見胃癌42例のうち, 逐年内視鏡検診の既往を持つ"広義偽陰性例"20例を対象に, 臨床病理学的特長を検討するとともに, 前年度の記録を見直した。肉眼型は全例早期陥凹性病変(O-IIc 18例, O-IIb+IIc 1例, O-IIa +IIc 1例)であった。組織型は分化型が12例(tub1 9例, tub2 3例), 未分化型が8例(sig 5例, por 2例, muc 1例), 最大腫瘍径は16例が25mm以下であったのに対し, 4例は37mm・43mm・47mm・81mmと突出していた。壁深達度/リンパ節転移はM/N0が17例, SM1/N0・SM2/N0・M/N2が各1例ずつであった。前年度の記録を見直した結果, "非狭義偽陰性例"(前年度顕性病変なし)は5例, "見落し例"(前年度記録なし)は4例, "見逃し例"(前年度病変あり)が8例, "生検不備例"(前年度生検にて非悪性と判断された)が3例であった。内視鏡検診でも偽陰性があり, 逐年受診を勧めることが重要である。
著者
望月 直美 小林 正夫 西大路 賢一 釜口 麻衣
出版者
一般社団法人 日本消化器がん検診学会
雑誌
日本消化器がん検診学会雑誌 (ISSN:18807666)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.545-555, 2014 (Released:2014-10-15)
参考文献数
16

人間ドックで胃がんリスク評価(ABC分類)を実施した。対象は1223例, 平均年齢は56.3歳であった。A群が全体の61%でA群の割合は年代が上がるにつれ低下した。同時に実施した内視鏡検診でC群から3例, A群から1例の胃がんが発見された。いずれも年齢は65歳以上で内視鏡的に胃粘膜の萎縮は高度であった。ABC分類の結果と内視鏡的胃粘膜萎縮度を比較した結果, A群の13.9%は内視鏡的に萎縮を認める, いわゆる「偽A群」であった。内視鏡的に萎縮を認めない真のA群と比較すると, 「偽A群」では60歳以上, およびHp抗体価3.0U/ml以上の症例が有意に多かった。「偽A群」のうち高度の胃粘膜萎縮を有する20例はPGI低値, Hp抗体価3.0U/ml以上の両方, あるいはいずれかに合致し, Hp既感染, または現感染が考えられた。胃がんリスク評価を正確に行うため, 初回は内視鏡による画像診断を併用することが望ましい。
著者
一瀬 雅夫
出版者
一般社団法人 日本消化器がん検診学会
雑誌
日本消化器がん検診学会雑誌 (ISSN:18807666)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.355-364, 2008 (Released:2012-03-25)
参考文献数
31
被引用文献数
1 6

胃癌死亡率減少に大きく貢献した胃がん検診も, 現在, 受診率および検診効率の向上に向けての取り組みが強く求められている。その様な状況下, 血清ペプシノゲン(PG)検査により, 萎縮性胃炎の進展した個人を把握, 内視鏡検査の対象とする検診方法, PG法が高い評価を受け, 血清PGにより同定される萎縮性胃炎を標的とした胃癌ハイリスク集約が有効である事が明らかとなって来た。加えて, 萎縮性胃炎の最重要因子としてのH.pyloriの役割が明確になって以来, 胃癌発生の自然史をH.pylori感染を主軸に理解する事が可能となり, PGやH.pylori抗体などの血液検査データを基に, 各個人におけるH.pylori感染のstageの把握, 胃癌発生リスクの具体的な予測が可能になって来た。これらの情報は, さらに, 胃癌発生予防, 検診効率化を目標とした有効な胃癌対策を立案可能なものとしつつある。本稿ではその現況について概説する。
著者
日山 亨 田中 信治 茶山 一彰 吉原 正治
出版者
一般社団法人 日本消化器がん検診学会
雑誌
日本消化器がん検診学会雑誌 = Journal of gastroenterological cancer screening (ISSN:18807666)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.393-400, 2011-05-10
参考文献数
37
被引用文献数
2

今回, 上部消化管内視鏡検査(生検を含む)に伴う稀な偶発症に関する報告について, レビューを行った。1990年から2009年末までに英語(抄録を含む)で医学雑誌に発表されたものをMedline を用いて検索した。これら報告からデータを抽出し, 検討を行った。該当する偶発症としては,(1)出血:食道粘膜内血腫および十二指腸血腫,(2)空気塞栓症,(3)気腫・気胸・緊張性気腹:皮下気腫, 後腹膜気腫等,(4)腹部コンパートメント症候群,(5)横隔膜ヘルニア,(6)内視鏡嵌頓,(7)口蓋垂炎,(8)膵炎,(9)感染症関連:敗血症等,(10)び漫性脳浮腫があった。報告の中には死亡例もあった(十二指腸血腫や空気塞栓症等)。上部消化管内視鏡検査に伴う稀な偶発症の中には迅速な対応が必要なものもあり, 内視鏡医はこれらについて, 十分な知識を持っておく必要があると思われた。
著者
瀬川 昂生 岡村 正造 大橋 信治 小林 世美
出版者
一般社団法人 日本消化器がん検診学会
雑誌
日本消化器集団検診学会雑誌 (ISSN:13454110)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.415-419, 2003-07-15 (Released:2012-12-11)
参考文献数
3

愛知県健康づくり振興事業団の平成3年から12年までの10年間の間接撮影による胃がん検診の成績に基づいて, その適正な要精検率について検討を行った。その結果, 要精検率が高くなるとともに胃がんの発見率および早期胃がんの比率が高くなっていたが, 胃がん発見率が0.07~0.09%であった年の要精検率を比較すると, 8.6~12%の間にあり, 要精検率を多くしてもがんの発見率の伸び率は高くなく, 全国集計の要精検率である10%代は一つの目安であると考えられた。今後は撮影技術および読影技術を高めてさらに要精検率を低くして, 的中率を上げる努力が必要であると考える。
著者
守田 万寿夫
出版者
一般社団法人 日本消化器がん検診学会
雑誌
日本消化器集団検診学会雑誌 (ISSN:13454110)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.11-19, 2002-01-15 (Released:2012-12-11)
参考文献数
14
被引用文献数
1

富山県内で実施される職域検診受診者を対象に, X線, PG同時併用による胃がん検診を実施した。X線は間接または直接造影法で実施した。PGはIRMA法にて測定し, スクリーニング基準をPGI≦70ng/mlかつPGI/PG II比≦3.0とした。X線またはPGで要精検とされた者全てに精検を勧奨した。対象者5,567名中過去3年間の胃がん検診受診割合は88.5%であった。要精検率はX線11.7%, PG23.6%, X線またはPG31.9%, 精検受診率はX線, PGともに要精検63.3%, X線のみ要精検55.4%, PGのみ要精検51.9%であった。発見胃がん症例数は10名であり, 3名はX線PGともに要精検, 7名はPGのみ要精検であった。早期がんは9名, 進行がんは1名であった。陽性反応適中度はX線0.8%, PG1.4%, 胃がん発見率はX線0.05%, PGO.18%であった。
著者
中村 泰彦 畠中 正光
出版者
一般社団法人 日本消化器がん検診学会
雑誌
日本消化器がん検診学会雑誌 (ISSN:18807666)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.392-395, 2009 (Released:2011-04-15)

九州大学病院では平成20年初頭の電子カルテ導入と同時に, フィルムレスに向けた医用画像管理システム(picture archiving and communication system:PACS)導入を行った。その背景, 導入時の注意点, システム運用の工夫について概説する。読影において, 表示条件の変更などのPACS機能を活用し, 電子カルテと共存させることで全ての情報を参照でき, 診療の効率化に大きく貢献している。今後は, 画像を含めた情報の標準化, 地域連携の強化を更に推進する必要があると考えられる。
著者
松本 吏弘
出版者
一般社団法人 日本消化器がん検診学会
雑誌
日本消化器がん検診学会雑誌 (ISSN:18807666)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.436-441, 2010 (Released:2010-09-15)
参考文献数
14
被引用文献数
5

【目的】胃内視鏡検診による胃癌死亡率減少効果について検討した。【方法】X線検診群1,425例, 内視鏡検診群2,264例, 検診未受診群6,284例に3区分し, 性別, 年齢をマッチングさせた3群を2008年12月まで追跡した。胃癌死をエンドポイントとした場合の3群それぞれの累積生存率を算出し解析を行い, 検診内容別の死亡に対するハザード比を求めた。【成績】胃癌発症者40例(X線群18例, 内視鏡群12例, 未受診群10例)において胃癌死した症例はX線群1例, 内視鏡群1例, 未受診群8例であった。累積生存率は, X線群と内視鏡群では有意差はみられなかったが, これら2群と未受診群においては有意に未受診群の生存率が低い結果となった(p=.0073)。未受診群は内視鏡群よりも8倍胃癌死亡の危険が高かった(p=.0499)。【結論】内視鏡検診は胃癌死亡率減少効果を認め, X線検診に劣っていない可能性が示唆された。
著者
熊倉 泰久 増田 勝紀 加藤 明 鈴木 方紀子 高島 みさ子
出版者
一般社団法人 日本消化器がん検診学会
雑誌
日本消化器がん検診学会雑誌 (ISSN:18807666)
巻号頁・発行日
vol.46, no.6, pp.713-722, 2008 (Released:2012-03-25)
参考文献数
19
被引用文献数
1

我々は, 人間ドックの上部消化管検診として内視鏡検査を積極的に導入し, 一次スクリーニングを行っている。その対象となる主な胃病変に関し, 2005年の一年間にドック内視鏡検診を行った症例を検討対象とし, 背景の胃粘膜萎縮と病変の存在との関連を調べ, 高危険群の検討を行なった。また逐年受診の際の病変に対し, 前年判定の胃粘膜萎縮も合わせて検討した。「胃癌」「胃腺腫」症例では, 全例でC2以上の背景胃粘膜萎縮を有していた。男性, 特にO1, O2萎縮症例では, 高率に胃癌を認めた。背景に広範な胃粘膜萎縮を有するC3-O1, O2-O3の症例では, C2以下の症例を基準とすると, 胃癌のオッズ比が有意に高値であった。また胃粘膜萎縮C0, C1であった症例からは, 翌年の内視鏡検診にて胃癌は認めなかった。以上より, 胃癌検診において, 胃粘膜萎縮は重要な背景因子であることが再確認された。胃内視鏡検診としては, C2, C3以上を胃癌高危険群とし症例の絞りこみを行い逐年検診とすることがひとつの目安となり, C0, C1の場合は, 胃がん検診の観点からは翌年の内視鏡検診は不要と考えられた。ドック内視鏡検査は, 胃癌だけでなく, 食道炎・食道癌・胃十二指腸潰瘍などもその対象であり, 初回は内視鏡検査を行うことが多い。したがってその後の個々の絞り込みが重要であり, 限られた医療資源の中で効率の良い内視鏡検診を構築していく上で, 背景の胃粘膜萎縮は重要な評価項目である。