著者
相原 弘之
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.63, no.12, pp.2495-2507, 2021 (Released:2021-12-20)
参考文献数
47

バレット食道は食道腺癌の発生母地であり,その発癌プロセスの初期段階にあるバレット上皮および異型粘膜に対しては,内視鏡的切除および内視鏡的焼灼法を併用した多角的なアプローチが必要である.現在欧米では内視鏡的焼灼法を施行するにあたり,主にラジオ波焼灼法,内視鏡的凍結療法,そしてアルゴンプラズマ凝固が用いられている.この中から治療法を適切に選択し,安全に施行しそして有効な治療効果を得るには,それぞれの治療法に使用されるデバイスの種類やその構造,使用法,治療適応,そして発生し得る偶発症に関し理解を深めることが重要である.本稿ではこれらの内視鏡的焼灼法に関し,主に手技的な側面に焦点を合わせて解説する.
著者
伊藤 公訓 佐藤 貴一
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.63, no.12, pp.2433-2440, 2021 (Released:2021-12-20)
参考文献数
43

本邦における消化性潰瘍の2大要因は,H. pylori感染,およびNSAIDsなどの薬剤服用である.従って,前者に対してはH. pylori除菌治療が,後者に対しては薬剤服用中止が根本的な治療法になる.薬物治療ではプロトンポンプ阻害薬などの酸分泌抑制が重要な役割を演じることに異論の余地はないが,近年多くの臨床的エビデンスが蓄積されてきた.とりわけ,抗血栓薬服用者に対しての出血性潰瘍予防について多くの臨床研究結果が示されており,それらに基づく効果的な治療戦略の再構築が求められる.一方,特発性消化性潰瘍は近年報告例が増えており,有効な治療法確立が急務となっている.
著者
鈴木 翔 河上 洋 三池 忠
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.65, no.10, pp.2145-2158, 2023 (Released:2023-10-20)
参考文献数
9

消化器内視鏡は消化器診療において必要不可欠な医療機器で,検査・診断のみならず治療でも大きな役割を担っている.ルーチンのEGDや全大腸内視鏡検査(total colonoscopy:TCS)の他,胆膵内視鏡,EUS,ESDや止血処置・異物除去など内視鏡スキルは多岐に渡るが,内視鏡技術を向上させるには経験と時間が必要である.現在,様々なタイプのトレーニングモデルやシミュレーターが開発されており,初学者の練習や研修医・学生指導に用いられている.トレーニングモデルは簡便性や低コストが長所で,シミュレーターは豊富な種類の内視鏡検査・手技のトレーニングができる点で優れている.練習や指導の中でトレーニングモデルやシミュレーターを上手に活用して,個々のスキルアップ,実際の内視鏡診療の向上に繋がることが期待される.
著者
上西 紀夫 田尻 久雄 炭山 和毅 相原 弘之 大谷 友彦
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.328-332, 2011 (Released:2011-05-18)

われわれは,2010年4月に米国消化器内視鏡学会(ASGE;American Society for Gastrointestinal Endoscopy)事務局を訪問した.ASGEは2002年に運営方式の大幅な改革がなされself managementとなった.現在は様々な部門に細分化され,組織として積極的にマーケティングを行っている.また会員の技術向上のため,学会が直接運営するトレーニングセンターで技術講習を定期的に開催したり,世界各国の内視鏡学会とcollaborationを行っている.両学会の発展のために,今後両者の関係をより強固なものにしていきたい.
著者
杉本 光繁
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.60, no.10, pp.2345, 2018 (Released:2018-10-22)
参考文献数
1

【目的】プロトンポンプ阻害剤(PPI)の長期投与によって,ヘリコバクターピロリ菌(HP)感染者において胃粘膜萎縮が進行することが報告されている.われわれは,HP除菌治療を受けた既感染者におけるPPI長期使用の胃癌発症に与える影響を明らかにするために本検討を行った.【デザイン】この検討は,2003年から2012年までの間にクラリスロマイシンを使用した3剤除菌治療を行った外来患者を対象として,香港の健康データベースを使用して行われた.このレジメンで除菌できなかった症例,除菌治療後12カ月以内に胃癌の診断がされた症例,除菌治療後に胃潰瘍を発症した症例は除外した.また,胃癌が診断された半年以内にPPIやヒスタミン受容体拮抗薬(H2RA)が開始された患者はバイアスを考慮して除外した.われわれはプロペンシティスコアを利用したCOXハザードモデルを使用してPPI内服による胃癌発症リスクを評価した.【結果】63,397人の対象者の中で153人(0.24%)が平均7.6年の観察期間中に胃癌が発症した.PPIの使用で胃癌発症のリスクが2.44(95%CI:1.42-4.20)倍に有意に増加したが,H2RAの使用時は0.72(1.48-1.07)とリスクの増加は認めなかった.また,胃癌発症のリスクはPPIの投与期間と正の相関を示し,投与期間の延長に伴いリスクが増加した[PPI内服1年:5.04(95% CI:1.23-20.61),2年内服:6.65(1.62-27.26),3年内服:8.34(2.02-34.41)].PPIの非内服者と内服者の10,000人年あたりの胃癌発症リスクの差は,4.29(95%CI:1.25-9.54)であった.【結論】長期間のPPIの使用は,HP除菌治療後にもかかわらず,胃癌発症リスクを増加する可能性があり,使用する際には注意を要する.
著者
阿部 雅則
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.58, no.11, pp.2342, 2016 (Released:2016-11-20)
参考文献数
1

【背景】世界中で大腸癌の患者数や死亡率が増加しており,予防のための新しい対策が求められている.経口糖尿病薬であるメトホルミンには大腸癌を含む癌の化学予防効果の可能性があるが,メトホルミンを用いた大腸癌の化学予防についての臨床試験は報告されていない.本研究では,腺腫再発のリスクの高い患者におけるメトホルミンの安全性と大腸がん化学予防効果(腺腫・ポリープの再発で評価)について1年間の臨床試験を行った.【方法】本研究は多施設二重盲検プラセボ対照ランダム化第3相試験として行われた.日本の5病院において大腸ポリープまたは腺腫を内視鏡下で切除された非糖尿病成人を対象とした.メトホルミン(250mg/日)投与群もしくはプラセボ投与群に無作為に割り付け,試験開始1年後に大腸内視鏡検査を施行し,腺腫・ポリープの数と発生頻度を解析した.【結果】2011年9月1日から2014年12月30日までに大腸腺腫・ポリープに対して内視鏡下切除を行った498人のうち,151人にランダム化を行った(メトホルミン群 79例,プラセボ群 72例).メトホルミン群の71例,プラセボ群の62例が1年後の大腸内視鏡検査を施行した.全ポリープおよび腺腫の発生率はメトホルミン群でプラセボ群に比し有意に低かった.(全ポリープ:メトホルミン群 27/71[38.0%:95%CI 26.7-49.3],プラセボ群 35/62[56.5%:95%CI 44.1-68.8];p=0.034,リスク比0.67[95%CI 0.47-0.97];腺腫:メトホルミン群 22/71[30.6%:95%CI 19.9-41.2],プラセボ群 32/62[51.6%:95%CI 39.2-64.1];p=0.016,リスク比 0.60[95%CI 0.39-0.92]).ポリープ数の中央値はメトホルミン群で0(IQR 0-1),プラセボ群で1(IQR 0-1)であった(p=0.041).腺腫数の中央値はメトホルミン群で0(0-1),プラセボ群0(0-1)であった(p=0.037).有害事象は15例(11%)にみられたが,すべてgrade 1であった.1年間の試験期間中に重篤な有害事象はみられなかった.【結論】非糖尿病患者における1年間の低用量メトホルミン投与は安全に行うことができた.低用量メトホルミンはポリペクトミー後の異時性腺腫・ポリープの発生頻度・個数を減少させたことから,メトホルミンは大腸癌の化学予防に有用である可能性が示された.しかし,最終的な結論を得るためにはさらに大規模な長期間の臨床試験が必要である.
著者
樫田 博史
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.311-325, 2017 (Released:2017-03-22)
参考文献数
18

有茎性病変は通常のポリペクトミーの適応である.無茎性や平坦型病変で大きいもの,小さくとも癌を疑うような病変はEMR(やESD)の適応である.コールドポリペクトミーの適応は,癌を疑わない無茎性ないし平坦型病変で,9mm以下までが妥当な線と思われる.有茎性ポリープでは,頭部寄りにスネアをかける.茎が太い場合は出血予防のために留置スネアも使用する.コールドポリペクトミーの場合,周囲粘膜を含めて切除するため,常に病変をスネアの中央付近に捉えるよう,微調整しながらスネアを閉じる.EMRの成否の大半は,局注にかかっていると言っても過言ではない.屈曲部やヒダにまたがっている病変では口側から局注を開始する.SM癌を除く大きい病変では中央部から局注を開始する方が膨隆を得られやすい.穿刺した針で病変を少し持ち上げるようにし,注入しながら針をゆっくり引き戻していく.スネアをかける際は,軽く病変を押さえ込むようにするが,筋層を巻き込まないよう注意する.患者が痛みを訴える場合や,介助者がゴムのような弾力を感じてなかなか切れない場合は,筋層を巻き込んでいる可能性が高いので中止する.
著者
野津 巧 足立 経一 石村 典久 岸 加奈子 三代 知子 曽田 一也 沖本 英子 川島 耕作 石原 俊治 木下 芳一
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.183-187, 2021 (Released:2021-02-22)
参考文献数
13

症例は41歳女性.健診目的の上部消化管内視鏡検査にて下部食道に限局した白斑所見を認め,生検組織にて高倍率1視野あたり最大78個の好酸球浸潤があり好酸球性食道炎(EoE)と診断した.当センター受診の15日前から標準化スギ花粉エキスによる舌下免疫療法を受けており,EoE診断までは舌下後の薬液は飲み込んでいた.舌下後に薬液を吐き出すようにしたところ,治療継続3カ月後の内視鏡検査では,下部食道の白斑は消失し,生検所見でも改善を認めた.舌下療法を継続しているにもかかわらず,1年6カ月後の検査では,内視鏡所見,組織所見ともEoEの所見を認めなかった.また,スギ花粉症の症状も軽快傾向となっている.
著者
白井 保之 木下 善博 幸本 達矢 川野 道隆 中村 綾子 大石 俊之 原田 克則 吉田 智治
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.62, no.10, pp.2293-2297, 2020 (Released:2020-10-20)
参考文献数
11

上部消化管内視鏡検査後に両側または片側の耳下腺部から頸部の腫脹が認められることがまれにある.われわれが経験した7例は1例が両側性,6例は左側の発症であった.いずれも経口内視鏡後の発症で,6例は無鎮静であり,DBERCP(Double balloon ERCP)後の1例は鎮静下での内視鏡であった.2例は以前にも同様の腫脹の経験があった.6例は疼痛なく,1例は腫脹部の軽度の疼痛があった.6例は約1時間で改善したが,1例は消失まで半日程度かかった.単純X線検査を施行した2例で空気の貯留は見られず,CTを施行した1例より耳下腺部の腫脹と診断した.上部消化管内視鏡後に一過性に起こる耳下腺部・頸部の腫脹自体は無害であり自然に改善するが,本疾患の知識は内視鏡医にとって重要であると考え報告する.
著者
田中 秀典 岡 志郎 田中 信治
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.63, no.7, pp.1382-1388, 2021 (Released:2021-07-20)
参考文献数
16

近年,潰瘍性大腸炎関連腫瘍(ulcerative colitis associated neoplasia;UCAN)に対する内視鏡切除が施行されているが,適応や切除法に関して十分なコンセンサスは得られていない.当科では,UCANに対する内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection;ESD)の適応を,1)術前生検でlow grade dysplasia,2)内視鏡的に境界明瞭,3)周囲生検でdysplasia陰性,4)寛解期UCとしている.UCANに対するESDは,粘膜下層高度線維化のため技術的難易度が高く,周到なストラテジーと効果的なデバイス使用が肝要である.
著者
水上 健 杉本 真也
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.19-28, 2023 (Released:2023-01-20)
参考文献数
29

ループ形成や屈曲を招きやすいS状結腸は大腸内視鏡の挿入困難部位とされる.初学者では過送気によってS状結腸を拡張させてしまい,軸保持短縮法を用いても挿入困難となることがある.日本で開発された注水法では,少量の水の注入により短縮直線化が容易となるメリットがある.注水法に直腸S状結腸部での脱気を追加して改良した浸水法では,水と空気の境界面が解消され,視野の改善が得られた.初学者でも修得しやすく,ループ形成抑制による盲腸到達率の向上,患者の苦痛軽減が示されている.また,S状結腸軸捻転解除,過敏性腸症候群や腸管形態異常の評価などにも応用されている.欧米にも浸水法は普及し,腺腫発見率の向上につながるWater Exchangeや,内視鏡挿入手法に留まらず治療時に活用する浸水下内視鏡的粘膜切除術へと応用されている.浸水の特性を生かし,送気法における困難を克服する注水関連手技は,今後ますます普及することが期待される.
著者
今村 祐志
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.1444-1449, 2018 (Released:2018-08-20)
参考文献数
31
被引用文献数
2

A型胃炎とは自己免疫性胃炎のことであり,自己免疫的機序により胃底腺領域の高度粘膜萎縮および化生を認め,ビタミンB12や鉄などの吸収障害が起こり,神経内分泌腫瘍や胃癌を合併しうる.特徴的な所見は,胃底腺領域の萎縮を内視鏡や生検組織などで認め,抗壁細胞抗体や抗内因子抗体が陽性となり,ガストリン値が高値,ビタミンB12が低値となる.治療法はなく,ビタミンB12や鉄などの補充を行うとともに,胃癌のサーベイランス,合併症の検索を行う.診断されていない症例が多いと考えられ,自己免疫性胃炎を鑑別に挙げることが大切である.
著者
原 明史 宮澤 祥一 鈴木 剛 相田 久美 江崎 行芳
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.1651-1655, 2012 (Released:2012-07-03)
参考文献数
15

症例は85歳,女性.ランソプラゾール内服中に水様性下痢が出現した.大腸内視鏡検査で下行結腸,S状結腸から直腸に縦走傾向を呈する線状の引っかき傷様の所見が存在し,いわゆるcat scratch colonの内視鏡所見を呈していた.生検で粘膜上皮直下にcollagen bandを認め,collagenous colitisと診断.ランソプラゾール中止により臨床症状は速やかに改善した.Cat scratch colonを呈した示唆に富むcollagenous colitisの1例と考えられた.
著者
斎藤 豊 岡 志郎 河村 卓二 下田 良 関口 正宇 玉井 尚人 堀田 欣一 松田 尚久 三澤 将史 田中 信治 入口 陽介 野崎 良一 山本 博徳 吉田 雅博 藤本 一眞 井上 晴洋
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.62, no.8, pp.1519-1560, 2020 (Released:2020-08-20)
参考文献数
293
被引用文献数
3

日本消化器内視鏡学会は,新たに科学的な手法で作成した基本的な指針として,「大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドライン」を作成した.大腸がんによる死亡率を下げるために,ポリープ・がんの発見までおよび治療後の両方における内視鏡によるスクリーニングおよびサーベイランス施行の重要性が認められてきている.この分野においてはレベルの高いエビデンスは少なく,専門家のコンセンサスに基づき推奨の強さを決定しなければならないものが多かった.本診療ガイドラインは,20のclinical questionおよび8のbackground knowledgeで構成し,現時点での指針とした.
著者
関口 正宇 関根 茂樹 松田 尚久
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.457-469, 2020 (Released:2020-04-20)
参考文献数
59
被引用文献数
1

内視鏡医が日常診療で遭遇する機会の増えている直腸神経内分泌腫瘍(NET)であるが,診断,治療から治療後の対応に至るまで,十分にコンセンサスが得られていない事項が多く,その取り扱いに苦慮することが経験される.内視鏡治療適応についても,腫瘍径1~1.5cmの病変の扱いなどさらなる検証を要するが,少なくとも,最も高頻度に遭遇する,粘膜下層にとどまる1cm未満の直腸NETが内視鏡治療の適応であることについてはコンセンサスが得られている.そのような病変に対する内視鏡治療手技としては,有効性,安全性,患者負担の観点から,ESMR-LやEMR-Cといった通常のEMRに工夫を加えた手技が推奨される.内視鏡治療後には,切除病変の病理評価に基づき追加手術の必要性を判断するが,細胞増殖能や脈管侵襲などの結果によって判断に迷う症例も多い.特に脈管侵襲については,病理における免疫・特殊染色の使用に伴い,粘膜下層にとどまる小さなNET G1病変でも脈管侵襲陽性例が高頻度に見られることが報告されており,その取り扱いについてさらなる議論が望まれる.
著者
露口 利夫
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.143-152, 2022 (Released:2022-02-21)
参考文献数
40

急性胆管炎,胆石性膵炎,急性胆囊炎など胆膵疾患は緊急内視鏡を必要とすることがある.緊急ERCPの適応には中等症以上の急性胆管炎,胆管炎を伴う胆石性膵炎,手術や経皮経肝胆囊ドレナージ(percutaneous transhepatic gallbladder drainage,PTGBD)の適応のない急性胆囊炎などがある.急性胆管炎に対する内視鏡的ドレナージは中等症では早期,重症では直ちに行うべきである.胆管炎を伴わない胆石性膵炎に対するERCPのタイミングは緊急ではなく早期(待機的)とすべきである.ドレナージ方法の選択と施行するタイミングはガイドラインに従うだけでなく各施設において得意とする方法を選択すべきである.新たな手技としてバルーン内視鏡下ERCP,超音波内視鏡下胆道ドレナージなどがあげられるが,これらの緊急内視鏡は基幹病院において経験豊富な胆膵内視鏡医により施行されるべきである.