著者
臼田 知史 田中 雅臣
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.226-231, 2010-04-05 (Released:2020-01-18)
参考文献数
12

我々の銀河系では超新星の頻度が約50〜100年に一度と推定されているが,人類がこの約400年間に銀河系内の超新星を肉眼で確認した例はない.その間に望遠鏡や分光器が発明され,系外の超新星について詳細な観測研究が進んだが,系内の超新星に対してはこれら高度化した装置での観測機会はなかった.我々は日米独共同で,系内の超新星残骸ティコ(超新星爆発記録は1572年)とカシオペヤA(推定爆発年は1680年)の爆発当時の放射光の「こだま」(light echo)-光源の周囲にある塵やガスによって反射された光が遅れて届く現象-をすばる望遠鏡で分光観測し,新たな知見を得た.
著者
長谷川 秀一
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.73, no.12, pp.878-879, 2018-12-05 (Released:2019-06-24)

新著紹介個別量子系の物理;イオントラップと量子情報処理
著者
成塚 拓真 山崎 義弘
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.72, no.10, pp.747-751, 2017-10-05 (Released:2018-08-06)
参考文献数
17

話題―身近な現象の物理―統計物理の眼で見るサッカー
著者
元屋 清一郎
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.69, no.9, pp.628-633, 2014-09-05 (Released:2019-08-22)

強磁性や反強磁性といった磁気秩序の形成や磁気構造の変化など磁性体における相転移は,温度・磁場などの外場の変化に従って直ちに起きるものとされてきた.例外としてスピングラス(薄い磁性原子濃度を持ち特殊な磁気転移を示す物質)や永久磁石材料など不規則性や不均一組織を持つ物質では長時間にわたる磁気的性質の変化があることが知られている.しかし,これまで3次元の規則構造を持つ物質での磁気秩序の形成過程や磁気構造の変化過程を直接観測したという報告はなかった.私たちは最近CeIr_3Si_2という化合物で磁気構造が数時間から数十時間にわたって変化していく現象を偶然発見した.磁化測定などからこの物質ではCeの持つ磁気モーメントが4.1K以下で反強磁性に秩序し(中間温度相),さらに温度を下げると3.3Kで別の磁気構造(低温相)へと相転移すると考えられていた.この逐次相転移と呼ばれる現象自身は珍しいものではない.しかし,この物質の磁気構造を決めるために行なった中性子回折実験では次のような新奇な振る舞いが観測された.試料を4.1K以上の常磁性相から低温相の温度に冷却した直後には途中に通過した中間温度相の磁気構造に対応する磁気ブラッグ反射のみが観測された.時間経過とともにこの反射強度は減少し,代わって低温相の磁気構造に対応する反射強度が数時間という長い時間をかけて増加した.しかし,それぞれのブラッグ反射の位置には変化はみられなかった.この結果は2種類の磁気構造を持つ領域が共存し,各領域の体積比が長時間にわたって連続的に入れ替わる現象であることを示している.これは誘電体の構造相転移で見られる長い潜伏時間を伴う1次相転移とは全く異なる現象である.CeIr_3Si_2が示す磁気的特徴(逐次相転移とメタ磁性転移)をキーワードとして他の物質を探索したところいくつかの物質でも類似の現象が見られた.このうちCa_3Co_2O_6は磁性原子であるCoの1次元鎖が三角格子を作るフラストレート磁性体である.時間変化の存在を考慮した中性子散乱実験から低温での磁気構造が決定された.1次元鎖を作るCo原子の磁気モーメントは(10Kでは)1,150Åにわたる強磁性的に整列した領域が方向を反転して繰り返されており,この方向を反転する位置が三角格子の上で周期的に移動してc軸方向に2,300Åの周期を持つ3次元磁気秩序を形成している.この磁気的周期は温度とともに連続的に変化する.しかし,温度を変えると磁気的周期がその温度での平衡値に達するのにやはり数時間から数十時間を要するという特徴を示した.CeIr_3Si_2で観測された時間変化は2つの定まった構造の間での不連続な変化であるのに対して,磁気構造の周期が連続的に時間変化するという点において異なる種類の時間変化と言える.これら2つの物質を含め,長時間にわたる磁気構造の変化を見いだした物質に共通する特徴は強磁性面あるいは強磁性鎖の存在と競合する磁気相互作用によるフラストレーションである.これらの物質の磁気構造の変化は強磁性面の方向や強磁性鎖の長さの変化によって達成される.しかしこれらは大きなエネルギー障壁のため一斉には起こり得ない.まず転移の核となる磁化の反転した小領域が形成された後,核と周囲との境界が移動する方式で平衡相の領域拡大が進行すると考えられる.CeIr_3Si_2ではこの核生成速度の遅さが長時間変化の要因であることも検証された.他の多くの物質でもここで紹介したような時間に依存する現象が見落とされてきたのかもしれない.
著者
立沢 尚史 坂井 伸之 野々山 信二
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
大学の物理教育 (ISSN:1340993X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.70-71, 2005-07-15 (Released:2018-09-12)
参考文献数
14
被引用文献数
1
著者
大関 真之 西森 秀稔
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.252-258, 2011-04-05 (Released:2018-08-14)
参考文献数
11
被引用文献数
2

量子アニーリングというのは,量子揺らぎを巧みに利用して最適化問題を解くアルゴリズムである.量子力学を用いて最適化問題の解を与えるような情報処理を行うという意味では,量子計算のひとつの技法ともいえる.実験技術の進歩もあって,このような量子力学的な自由度を制御する研究が理論・実験両面で盛んになっている.量子アニーリングは,量子計算の中でも汎用性という意味において際だった特徴を持つ.量子アニーリングの今とこれからについて紹介していこう.
著者
花井 亮
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.77, no.10, pp.666-674, 2022-10-05 (Released:2022-10-05)
参考文献数
33

言うまでもなく,この自然界は相転移であふれている.気液相転移,常磁性・強磁性転移,常伝導・超伝導転移等の熱平衡系における相転移に加え,レーザー発振や同調現象等,非平衡状態で見られる相転移も数多く存在する.熱平衡状態における相転移の理解には,ランダウ理論が大きな成功を収めてきた.この理論は,相転移を特徴付ける秩序変数を変数に持つ自由エネルギーの形を,系の持つ対称性から規定することで,相転移の普遍的な性質を探る理論体系である.所謂「自由エネルギー最小化原理(以下,「最適化原理」と呼ぶ)」に則った単純な現象論でありながら,この理論は系の詳細に依らない,相転移の普遍的な性質の多くを抽出することができる他,繰り込み群等のより洗練された理論の出発点にもなっている.熱平衡系で採用されるこの「最適化原理」は,現在知られている(本来自由エネルギーが定義できない)多くの非平衡相転移にもかなり有用な考え方である.レーザー発振,群れ,有向パーコレーション等の多くの非平衡系における相転移点の存在は,現象論的なランダウの自由エネルギーを導入することで簡潔に説明することができる.この場合,非平衡性は揺動散逸定理を破るノイズによりもたらされる空間・時間揺らぎを通してのみ現れる.しかし,よくよく考えてみると,最適化原理では記述できない現象は,自然界に多く存在する.例えば,(唐突に感じられるかもしれないが)捕食者であるライオンと,被食者である鹿が近くに出くわした場面を想像してみよう.このような状況になると,前者は後者を追いかけ始めるだろう.これは,前者が後者に与える影響と後者が前者に与える影響が異なる,つまり非相反相互作用が両者に働いているからに他ならない.この現象は,最適化原理では理解することができない:むしろ,お互いの実現して欲しい状況が真逆であるため,最適化の方法が見つからず,追いかけっこが始まってしまうわけである.ランダウ理論を運動方程式に立脚した形に拡張することによって最近提唱された非相反相転移は,まさにこのような時間依存する「追いかけっこ状態」へと多体系が相転移するような,新しいクラスの非平衡相転移である.この相転移現象は,上の説明から示唆されるように,最適化原理に則らない,非平衡系特有の現象である.これは連続対称性を自発的に破り,「追う側」と「追われる側」に対応する複数の秩序変数で記述される非平衡系で一般に現れ,量子開放多体系である励起子ポラリトン凝縮から結晶成長に至る幅広い系で起こる.顕著なのは,その臨界性の現れ方の特異性である.通常の最適化原理に則った系では,臨界現象は互いに直交した励起モードのうちの一つの減衰時間が発散することで起こる.一方,非平衡系では一般に,励起モードは互いに直交しない.その結果,励起モードがゴールドストーン・モードと合体する点が現れ,これが非相反相転移の臨界点を与える.この「臨界例外点」では,揺らぎが空間4次元以下で発散する等の異常な臨界現象が生じる.その他,ヒステリシスや時間(準)結晶等,現れる物性は多岐に及ぶ.その一般性の高さから,今後,物理学のみならず,工学や生命科学等,幅広い分野への波及が期待される.
著者
好村 滋洋
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.164-173, 1999-03-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
33
被引用文献数
1

物理学の研究対象としてコロイド系は今注目すべき時期を迎えています. コロイド科学では原子・分子のつくる集合体の不均一な組織構造とその秩序形成過程を解明することが目標となっています. 相転移現象の研究で発展した手法がコロイド系に適用され, 研究のフロンティアとして著しい発展を可能にしています. 物質を連続媒体として扱い, その中に系の構造を特徴づける長さを見出し, 種々の階層構造をそれぞれにあったスケールで粗視化してとらえるやり方です. コロイド科学はこれから新しい研究の場を求めている若い物理学者にとって絶好の挑戦舞台となるでしょう.