著者
橋爪 夏樹
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.50, no.11, pp.870-873, 1995
参考文献数
2

これは私がお茶の水女子大学から東京大学の久保研究室へ内地留学していた1955年頃の話です.久保さんも意気軒昂でした.
著者
小林 努
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.73, no.4, pp.221-226, 2018-04-05 (Released:2019-02-05)
参考文献数
20

初期宇宙にインフレーションと呼ばれる加速膨張期があったとするシナリオは,現在最もメジャーで広く受け入れられているシナリオである.標準ビッグバン宇宙モデルにあった地平線問題や平坦性問題などの初期条件の微調整に関する問題を自然に解決する上に,宇宙マイクロ波背景放射の異方性や大規模構造の種となる原始密度揺らぎを生成することもできる.適切なモデルを選べば,予言される揺らぎのスペクトルは観測と整合的である.ほぼ完璧なシナリオにも思えるインフレーションであるが,初期特異点の問題など幾分conceptualな問題も抱えている.このような問題に動機付けられて,特異点のない代替シナリオとしてさまざまなものが提唱され研究されている.これら代替シナリオは,エネルギーの正値性に関する条件を破るような特殊なスカラー場などを用いて実現されており,そもそも解が摂動に対し明らかに不安定であるなど,かえって深刻な問題を露呈しているものが大半であった.一方,近年,拡張された重力理論の研究が深まる中で,エネルギー条件を破っているにも関わらず安定な宇宙論解が原理的には構築可能であることが判明し,既存のモデルにあった問題点を解決する望みのある,特異点のない新たな宇宙モデルも考案されている.しかしながら,きわめて広いクラスの重力理論で特異点のない宇宙はやはり不安定であることが示される.「ホルンデスキ理論」という拡張された重力理論が,特異点のないシナリオの近年の進展に大きな寄与をしている.ホルンデスキ理論とは,スカラー場と重力(計量テンソル)からなり,運動方程式が2階になる最も一般的な理論である.運動方程式が2階という条件により,高階微分項に起因するゴースト(オストログラドスキーゴースト)の問題を自明に回避することができている.インフレーションにしても特異点のない代替モデルにしても(あるいは現在の宇宙を加速膨張させているダークエネルギーのモデルにしても),基本的にスカラー場と重力で記述される系であり,ホルンデスキ理論はそのような宇宙論を包括的に研究する強力な枠組みを与えてくれる.線形摂動に対する安定性の条件にもとづく簡単な計算と考察から,ホルンデスキ理論のもとで(平坦な3次元空間をもつ)特異点のないすべての宇宙論解が不安定であることが明らかになった.今回示されたこの結果は,相互作用する複数のスカラー場を含む場合にも拡張することができる.複数のスカラー場と重力からなり運動方程式が2階になる最も一般的な理論(ホルンデスキ理論の複数スカラー場への拡張)は知られてはいないが,今回得られた結果により,特異点のない宇宙はかなり一般的に不安定であるといってよいであろう.運動方程式に高階微分項が現れることを許容しつつも,ゴーストの問題を回避するようにホルンデスキ理論を拡張する,という方向性の研究が,最近の重力理論研究のトレンドのひとつになっている.この方針のもとで新しく発見された理論の一部については,特異点のない安定な宇宙論解が実際に存在する.(平坦な3次元空間をもつ)特異点のない安定な宇宙論解を作るためには,このような手の込んだ方法に頼る必要がある.
著者
堂園 昌伯 上坂 友洋 道正 新一郎 高木 基伸 小林 幹 松下 昌史 大田 晋輔 時枝 紘史 下浦 享
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会講演概要集
巻号頁・発行日
vol.71, pp.291, 2016

<p>高分解能磁気スペクトロメータSHARAQにおいて、陽子-重イオン同時測定のための新しいイオン光学モードを開発した。これにより陽子過剰核領域の不変質量核分光が可能となり、元来SHARAQが得意としていた質量欠損核分光と組み合わせることで、核物理研究に新たな可能性をもたらす。講演では、新モードの概念・特性とともに、例として(^16^O,^16^F)反応の測定から得られた性能について報告する。</p>
著者
田口 善弘
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
大学の物理教育 (ISSN:1340993X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.147-148, 2019

<p>1.はじめに</p><p>本書の副題は「Overleafで手軽に文書作成」である.OverleafはWEBベースのLaTeX入力システムである.LaTeXはワードのようなWYSIWYG (入力したままが印刷される) ワードプロ</p>
著者
吉田 紅
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.74, no.10, pp.691-699, 2019

<p>ブラックホールがこれほどまでに人々を魅了するのは,「一度入ってしまうと,二度と出てくることはできない」という神秘性からであろう.しかし,この不可逆性は物理学的な立場から見ると,非常に奇妙な代物である.我々がこれまで観測してきた全ての現象は量子力学を用いて説明することができるが,量子力学は可逆の理論である.現在の状態を知ることで過去の状態を完璧に遡ることが原理的には可能なのである.この量子力学と重力理論,特にブラックホールの物理との不整合は,ブラックホール情報損失問題と呼ばれている.</p><p>長らくこの問いに対する我々の答えは,系を記述する運動方程式があまりに複雑すぎて過去まで遡ることができないだけだというものだった.たとえ最初は局所的だった量子情報も,ブラックホールに落ちていく過程で複雑な相互作用を経て,ブラックホールの外にいる観測者の立場からは,まるで非局所的なものに変換されたように見える.それは到底観測できないような物で,損失したも同然だ.この現象はスクランブリング(量子情報の非局所化)と呼ばれており,まさに量子版のバタフライ効果である.このような背景から,ブラックホールの量子カオス的な時間発展は,量子情報の非局所化が最も強く純粋な形で見られる系ではないかと思われてきた.</p><p>しかし約十年ほど前に,ブラックホール情報損失と量子カオスに関する衝撃的な結果が2人の量子情報理論研究者ヘイデン(Hayden)とプレスキル(Preskill)によって発表された.彼らは通常考えられてきた物とは異なる,「古いブラックホール」と呼ばれるエントロピーの半分以上をすでにホーキング輻射で失ったブラックホールを考察した.そして,運動方程式をランダムなユニタリー発展と仮定する簡単なおもちゃの物理モデルを使うことで,ブラックホールに落ちてしまった情報を非常に短い時間スケールで取り出すことが「原理的には可能」であることを発見したのである.</p><p>ブラックホールがまるで鏡のように情報を即座に跳ね返すというこのヘイデンとプレスキルの結論は,スクランブリング現象及び情報損失問題の研究に革命的な発展をもたらしつつある.これまでとは全く異なる新しい物理量が量子カオスの秩序パラメータとして考案され,新たな重力ホログラフィーの模型が提案された.その影響は重力,量子情報,そして物性物理にまで及び,最近ではこれらの概念は実験家の興味の対象にさえなっている.しかし,これらの結果が真に驚くべきものである点は,「情報の取り出し可能性」がまさに「ブラックホールの量子カオス性」からの帰結であることである.もし,ブラックホールが量子情報を非局所化しない非カオス系であったならば,ヘイデンとプレスキルの言ったような情報の取り出しは不可能なのだ.</p><p>量子情報理論的概念の応用から得られたこれらの一連の結果は,情報喪失問題に対する新しいアプローチを生み出すこととなった.「ブラックホールからは二度と出てくることはできない」というのは迷信だったのであろうか? ブラックホールの事象の地平線は本当に絶対的な存在なのだろうか? これらの問いを,量子情報の非局所化という視点から今一度見つめ直してみよう.</p>
著者
余語 覚文 民井 淳
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.55-56, 2022-01-05 (Released:2022-01-05)

ラ・トッカータ“Nuclear Photonics”誕生――光と原子核が融合する新領域