- 著者
-
白石 哲郎
- 出版者
- 佛教大学社会学研究会
- 雑誌
- 佛大社会学 (ISSN:03859592)
- 巻号頁・発行日
- no.40, pp.25-42, 2016-03-20
ここ四半世紀の間で,文化を考察の主軸に据える「文化的転回」が広がりをみせている。それは後期近代の社会科学に興った「知の地殻変動」であり,社会関係や社会構造を不断に組織化していく文化の「自律性」に焦点化する。係る学際的潮勢は,従来の実証主義的アプローチからの脱却を企図しており,包括的な概念図式を客観主義的に仮構し,人間的事象一般に演繹するパーソンズの社会学からは距離を置く傾向にある。しかしながら,越境化の日常性をも射程に入れた,文化と社会との「脱領土的な相互関係」を分析の主題に置く「文化の社会理論」を構築していくにあたって,文化による社会的な説明力を前景化する反面,社会による文化的な説明力を後景化してしまう文化的転回への全面準拠には慎重でなければならない。翻って,パーソンズが60年代に構想した「文化の社会学」は,初発から「文化と社会,両システム間の相互依存および相互浸透の分析」を一義的な目的としていた。この点にこそ,文化‐社会間の今日的関係の分析に有効なモデルの抽出先として,パーソンズの文化理論を特定化する必要性が認められるのである。ただしそれは同時に,文化による社会的構制をシステムの統合に還元する傾向ゆえに,「動態的自律性」――社会が文化によって内側から根底的に変成される「内破」の特質――が問えないという重大な陥穽もかかえている。「秩序化」という「静態的自律性」への偏重は,価値ないし規範の内面化と制度化のメカニズムに重点を置く構造‐機能分析の立場からも明らかなように,パーソンズ生涯の学問的関心が,「社会の秩序はいかにして可能か」にあったことを鑑みれば無理からぬことといえる。われわれが直面するアポリアの克服のためには,文化的転回によって批判的に基礎づける仕方で,彼の文化理論を脱構築しなければならない。本稿では,文化的転回に関して,「方法論」,「(文化の)概念規定」,「理論構成」の面でその輪郭をできるかぎり概括的に描出したうえで,「文化的社会学」(新機能主義の文化理論)および「文化の社会学」(正統派機能主義の文化理論)とのリンクを試みた。その結果,新機能主義がかなりの程度,文化的転回に親和的なコミットメントをみせていることが明らかとなった。この事実は,最大限の譲歩ともいうべき接近の仕方ゆえに,「相互浸透の追究」というパーソンズの文化理論の特長がスポイルされてしまう可能性を孕んでいる。われわれが目指すべきは新機能主義への追従ではなく,あくまでパーソンズに看取できる「不変的に妥当な視点」を継承するかたちで,彼の「文化の社会学」を文化的転回の見地から建設的に解体せしめることである。このような「再定式化」と仮に呼ぶべき思考実践は,グローバル化が徹底された現代の相互浸透分析にも耐え得る理論的枠組を導出するうえで,その基調をなすという部分に戦略的意義が見出されるのである。文化的転回文化の動態的自律性文化的社会学文化の社会学再定式化