著者
山本 奈生
出版者
カルチュラル・スタディーズ学会
雑誌
年報カルチュラル・スタディーズ (ISSN:21879222)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.59-79, 2018 (Released:2019-10-09)
参考文献数
20

本稿は現代日本における大麻自由化運動を、特に90 年代以後の展開に注目しながら整理 するものである。大麻合法化が進む欧米諸国において、大麻問題は政治的なリベラル/保 守の係争として位置づけられ、同性婚や銃規制問題と同様にしばしば争点化されている。 ここでは大麻自由化運動が、広範なリベラル派支持層の賛同を得つつ法規制の変化に現実 的な影響を与えてきたが、日本での状況は大きく異なっている。 日本における大麻自由化運動は、60 年代のビートニク/ヒッピーに端を発し、90 年代か ら現在まで複数のフレーミングを形成しながらネットワーク化されてきたものである。こ こでの運動は一つの団体に還元できるものではなく、多様な問題関心と志向性を持つ諸個 人らが織りなす群像であるが、この潮流は社会学界においても十分には知られていない。 そのため本稿では一つの出来事や団体に対して集中した解釈を行うのではなく、まずはグ ループおよび諸個人が形成してきたムーヴメントの布置連関を把握しようと試みた。 現在の大麻自由化運動は「嗜好用を含めた全般自由化」「医療目的での合法化」「産業利 用の自由化」など複数の目標を掲げながら、同時に言説枠組みの展開においてもアカデミ ックな研究に依拠するものから、スピリチュアリズムやナショナリズム、陰謀論に至るま で散開している。その後景には、社会運動というよりはサブカルチャーとしての精神世界 やニューエイジ、レゲエ文化の展開があり、こうした音楽や文化と大麻自由化運動はクロ スオーバーしながら進展してきた。本稿では、90 年代以後の日本における状況を整理する ためにまず前史を概観した後に、諸グループがどのようにして活動と主張を行ってきたの かを捉え、社会状況に対するそれぞれの抵抗のあり方について論じた。
著者
山本 奈生
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
no.32, pp.120-133, 2007-10-20

G・ケリングらの「割れ窓理論」は,これまで国内外の警察政策に対し一定の影響力を発揮してきたが,そこに見られるコミュニタリアン的色彩の強さから,賛否を巡る多くの議論の的ともなってきた.しかし,そうした議論とは裏腹に,政策決定の現場やマスメディアにおいては,ほとんどの場合,「治安の悪化」に対する特効薬として肯定的に評価されてきたと言ってよい.本稿では,「割れ窓理論」に基づく取締り政策の事例として,京都市における「祇園・木屋町特別警察隊」の試みを取り上げ,質的な分析を加えることによって,ここでの取り組みが指示する「無秩序」がどのような立場から定められているのかを問題とする.この調査が照準するところは,(1)京都市の取り組みで,「安全・安心」を希求する主体はどの位概に在るのか,そして何が「無秩序」として分割線の外部に引き出されているのか.(2)バーテンダーなど街で働く人々は,この警察政策をどのように捉えているか,の二点であり,これらの考察を通して,「割れ窓理論」が持つ理論的な問題点を描写する.
著者
山本 奈生
出版者
佛教大学社会学部
雑誌
社会学部論集 = Journal of the Faculty of Sociology (ISSN:09189424)
巻号頁・発行日
no.62, pp.75-91, 2016-03

本稿は2015年の「安全保障関連法案」に対する市民的不服従の社会運動,とりわけ学生を主体としたSEALDsについて論ずるものである。本稿ではまず第一にSEALDsが組織性や中心点をもたない緩やかな「立憲主義」への呼びかけである点を描写し,第二に当該運動の表面的な訴えのフレーミングおよび参与者らによる複数の言説について論述する。その上で,SEALDsに対して投げかけられた運動体内外からの批判を詳説し,社会運動とナショナリズムの問題やポスト植民地主義的観点からの批判について検討する。そして,参加者諸個人の水準においては,既にそのような批判が内在的に検討されているのにもかかわらず,ムーヴメントの表面的な言説水準においてはナショナリズム論やポスト植民地主義論の観点からみると素朴に映ずる主張が採用されている問題を中心に考察する。安全保障関連法案集団的自衛権新しい社会運動SEALDs
著者
山本 奈生
出版者
佛教大学社会学研究会
雑誌
仏大社会学 (ISSN:03859592)
巻号頁・発行日
no.31, pp.81-85, 2006

いわゆる「生活安全条例」や「コミュニティ・ポリッシング」の理論的背景として脚光を浴びてきたケリングらの「割れ窓理論」は,近年いくつかの批判に晒されている。本稿では,「割れ窓理論」に対するこれまでの批判点を概観し,論点を整理した上で,「割れ窓理論」が抱える困難と隠された社会的コストについて考察する。ここで主張されるコストとは, 1)「犯罪のリスク」が高いとされる人口集団に対する抑圧と排除, 2)都市空間そのものが内部に向かって規範化され,「ゲーテッド・コミュニティ」へと進展する可能性,の二点である。割れ窓理論人口への<生―政治>ゲーテッド・コミュニティ
著者
山本 奈生
出版者
佛教大学総合研究所
雑誌
仏教大学総合研究所紀要 (ISSN:13405942)
巻号頁・発行日
no.17, pp.127-137, 2010-03

これまで,いわゆる「監視社会」論は,国内外の都市社会学や犯罪社会学に対して一定の影響を発揮してきた。「監視社会」をめぐる議論では,監視と安全,あるいは監視と自由といったテーマが取り上げられてきたが,しかしこれらの議論に対する社会学的評価は,未だ十分に定まっているとはいえず,「公共圏」や「パノプティコン」などの部分的なキーワードのみが比喩的に援用されてきたともいえる。本稿では,代表的な「監視社会論」の命題を整理したうえで,これに理論的検討を加えるが,ここで「監視社会」論の主たるテーマとされるのは次の三点である。.監視と権力性の問題,.監視とプライバシーの問題,.監視と「法維持的暴力」,あるいは公共圏との関係,が本稿で取り扱う問題圏であり,さらにこれらのテーマが内包する「監視社会論」の前提命題について検討を加える。そして結論として,.の命題が..の成立要件をなしていることが主張される。監視社会法維持的暴力公共圏
著者
山本 奈生
出版者
佛教大学
雑誌
佛大社会学 (ISSN:03859592)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.41-54, 2015-03-20

本稿は安倍政権下における「教育再生実行会議」の第五次提言を踏まえて,文科省で開催されている「実践的な職業訓練を行う新たな高等教育機関の制度化に関する有識者会議」で行われた,冨山和彦委員の大学構想を批判的に考察する時事評論である。 経営コンサルタントである冨山委員は,独自の経済的世界観を大学や学問といった領域に敷衍して適用し,グローバル型大学とローカル型大学のいずれかに全ての大学は変わるべきであり,ローカル大学において学術的な一般教養や専門学知を教える必要はなく,それらは国際競争を勝ち抜くためにグローバル型大学において教授すべきであるとの持論を展開した。本稿はこうした言説に対する内在的な批判と外在的批判の二種類について検討し,大学の分類を経済的尺度のみによって行うことの問題点や,社会的公正さと人間の自由の観点からみて,当該報告の問題性がどの部分にあるのかを指摘した。
著者
丸山 哲央 山本 奈生
出版者
佛教大学
雑誌
社会学部論集 (ISSN:09189424)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.17-31, 2010-03-01

社会学や人類学における文化理論では,宗教は文化の普遍的項目あるいは普遍的類型(universal pattern)として扱われてきた。しかし,文化のグローバル化との関連で宗教に言及する場合,宗教の包括的な定義をもってしては,そのグローバル化の実態を捉えることは困難である。なぜなら,グローバルなレベルでの宗教的実践が周知の事実として確認されると同時に,宗教の本質には身体性と地域性という時間・空間に規定されたローカルな実存的(existential)要素が不可欠なものとして含まれている。本稿では,世界宗教とされる仏教のグローバル化について,特に浄土宗の布教活動である海外開教を事例として取り上げ,その理論的分析方法について考察する。この際に,仏教の教義,教理を含む文化の認知的および評価的要素とともに,具体的な宗教的実践にかかわる実存的要素と宗教芸術や娯楽的行事(仏教の「花まつり」等)を捉えるための表出的要素とを分析概念として設定することの有効性が確認された。
著者
山本 奈生
出版者
カルチュラル・スタディーズ学会
雑誌
年報カルチュラル・スタディーズ (ISSN:21879222)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.59-79, 2018

本稿は現代日本における大麻自由化運動を、特に90 年代以後の展開に注目しながら整理するものである。大麻合法化が進む欧米諸国において、大麻問題は政治的なリベラル/保守の係争として位置づけられ、同性婚や銃規制問題と同様にしばしば争点化されている。ここでは大麻自由化運動が、広範なリベラル派支持層の賛同を得つつ法規制の変化に現実的な影響を与えてきたが、日本での状況は大きく異なっている。日本における大麻自由化運動は、60 年代のビートニク/ヒッピーに端を発し、90 年代から現在まで複数のフレーミングを形成しながらネットワーク化されてきたものである。ここでの運動は一つの団体に還元できるものではなく、多様な問題関心と志向性を持つ諸個人らが織りなす群像であるが、この潮流は社会学界においても十分には知られていない。そのため本稿では一つの出来事や団体に対して集中した解釈を行うのではなく、まずはグループおよび諸個人が形成してきたムーヴメントの布置連関を把握しようと試みた。現在の大麻自由化運動は「嗜好用を含めた全般自由化」「医療目的での合法化」「産業利用の自由化」など複数の目標を掲げながら、同時に言説枠組みの展開においてもアカデミックな研究に依拠するものから、スピリチュアリズムやナショナリズム、陰謀論に至るまで散開している。その後景には、社会運動というよりはサブカルチャーとしての精神世界やニューエイジ、レゲエ文化の展開があり、こうした音楽や文化と大麻自由化運動はクロスオーバーしながら進展してきた。本稿では、90 年代以後の日本における状況を整理するためにまず前史を概観した後に、諸グループがどのようにして活動と主張を行ってきたのかを捉え、社会状況に対するそれぞれの抵抗のあり方について論じた。
著者
山本 奈生
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.120-133, 2007-10-20 (Released:2017-03-30)

G・ケリングらの「割れ窓理論」は,これまで国内外の警察政策に対し一定の影響力を発揮してきたが,そこに見られるコミュニタリアン的色彩の強さから,賛否を巡る多くの議論の的ともなってきた.しかし,そうした議論とは裏腹に,政策決定の現場やマスメディアにおいては,ほとんどの場合,「治安の悪化」に対する特効薬として肯定的に評価されてきたと言ってよい.本稿では,「割れ窓理論」に基づく取締り政策の事例として,京都市における「祇園・木屋町特別警察隊」の試みを取り上げ,質的な分析を加えることによって,ここでの取り組みが指示する「無秩序」がどのような立場から定められているのかを問題とする.この調査が照準するところは,(1)京都市の取り組みで,「安全・安心」を希求する主体はどの位概に在るのか,そして何が「無秩序」として分割線の外部に引き出されているのか.(2)バーテンダーなど街で働く人々は,この警察政策をどのように捉えているか,の二点であり,これらの考察を通して,「割れ窓理論」が持つ理論的な問題点を描写する.
著者
山本 奈生 長光 太志
出版者
佛教大学
雑誌
社会学部論集 (ISSN:09189424)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.61-75, 2015-03-01

本稿では個々の大学生が就職活動の経験を経てどのように内定先を決定し,その進路を受容しているのかを問題とする。すなわち就職活動の厳しさや「自己分析」の必要が語られる昨今の状況を,大学生諸個人はどのように経験し,最終的な進路へと至っているのかを分析した。ここで用いるデータは私立大学の卒業生に対するインタビュー・データである。本研究では社会学的な就職活動研究における,個人的な範疇の社会関係資本に関する議論や,就職活動過程の研究を踏まえながら,インフォーマントらは自身の進路をどのような合理性をもって選び取ったのかを明らかにする。本研究の含意としては社会関係資本の多様性が,就職活動の私的経験を相対化する作用を持つ可能性が示唆されたことや,それほど「自己分析」に拘泥せずに,過去の労働経験など具体的な経緯から内定先を決定する学生の範型が示されたことにある。
著者
丸山 哲央 山本 奈生 渡邊 秀司
出版者
佛教大学
雑誌
社会学部論集 (ISSN:09189424)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.1-18, 2011-03-01

インドから中国,朝鮮・韓国を経て移入され,日本化された仏教(Japanized Buddhism)は日本固有の要素にすべての時代,地域に通底する普遍的要素を付加し,独自の体系を形成してきた。日本仏教に固有の要素でありながら新たな普遍性を備え,逆に外部に再発信しうる要素とは何かということの解明が,文化のグローバル化現象の根幹をなす問題である。本稿では,日本仏教のグローバル化について,特に布教活動である南米での海外開教を事例として取り上げ,その理論的分析方法について考察する。この際に浄土宗と浄土真宗の開教活動に焦点を当て,見仏体験にかかわる文化の実存的要素の伝播可能性についての究明を試みたが,文化伝播のメディアとの関連での分析が必要なことが明らかになった。