著者
田所 摂寿
出版者
作新学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

公認心理師法が制定された現在、カウンセラー養成において理論や知識の教育だけでなく、臨床実践におけるカウンセリングコンピテンス(態度・姿勢、技術、能力)の教育が喫緊の課題となっている。本研究の重要なテーマは,ゲートキーピングでである。これは,カウンセリング学習者の資質と能力を評価し,必要な改善策を提供するシステムである。 日本においてゲートキーピングシステムを導入するために、カウンセリングコンピテンシーの概念を明確にし、カウンセラーのアイデンティティを再定義し、カウンセラーの教育内容を検討を行った。 これらの調査に基づき、最終的に日本におけるゲートキーピングに関する調査を実施した。
著者
天尾 久夫
出版者
作新学院大学
雑誌
作大論集 = Sakushin Gakuin University Bulletin (ISSN:21857415)
巻号頁・発行日
no.12, pp.85-103, 2021-02-15

本論の結論を要約して述べれば、中国の北京オリンピック誘致したときの経済効果は、中国GDPを押し下げる効果が確認できた。ブラジルのリオオリンピック誘致では、GDPへの効果は確認されなかったが、イギリスのロンドンオリンピック誘致では、GDPの押し上げる効果が統計的に有意な意味で確認された。 オリンピック誘致によって、消費や投資への影響では、中国では投資について統計的にやや弱い意味で有意な結論ではあったが、所得から投資への反応速度が高まるが、投資水準を押し下げる効果が確認された。ブラジルのリオオリンピック誘致では投資については、中国同様に所得から投資への反応速度が高まり、国全体の投資水準を押し下げる効果が統計的に有意な意味で確認された。ロンドンオリンピック誘致では消費と投資への波及効果は統計的意味から確認されなかった。
著者
牧 裕夫
出版者
作新学院大学
雑誌
作大論集 (ISSN:21857415)
巻号頁・発行日
no.7, pp.137-149, 2017-03

<要約> 計画と実践的行為の関係について人工知能の研究者であるL.C.Suchmanは「計画を実践する行為はその都度的な即興的行為による」と指摘した。支援過程がこの即興的行為によるとすれば、職業リハビリテーション支援者が実践的行為の中で体験する「逐次的な相互作用」を余剰的な効果として位置づけることはできない。前研究で、牧は2つの事例からその「逐次的な相互作用」に基づき「学習の身体化」「ギブ・アンド・テイク関係」「希望の共有」等の制御要因を指摘した。本論では、これらの理論的背景として状況論アプローチの諸論が職業リハビリテーション支援をどのように拡張しえるのか、その方向性を示す。J.Gibsonのアフォーダンス理論から、実際に利用者を支援する実践的行為では「逐次的な相互作用」によるとし、学習を拡大するために、試行錯誤行為による過程が必要条件であることを指摘する。そこで、計画場面と実践場面では別な構造を有するシステムとして「既存(制度)システム」「個別(計画)システム」「現場(状況)システム」の3つのシステムを提示する。特に「現場(状況)システム」で試行錯誤による相互作用を拡張しえる理論的枠組みとして状況論アプローチであるJ.laveの「正統的周辺参加」、L.Vygotskyの「発達の最近接領域」と職業リハビリテーション支援の関連について検討した。
著者
天尾 久夫
出版者
作新学院大学
雑誌
作大論集 = Sakushin Gakuin University Bulletin (ISSN:21857415)
巻号頁・発行日
no.7, pp.163-194, 2017-03-15

[要約] 信金中央金庫(Shinkin Central Bank)は昭和21年(1946年)6月1日に設立され、平成28年(2016 年)3月末で、国内14店舗、23分室、海外5拠点を構えている。 この金融機関の特徴を一言で述べれば、日本の金融史の大きな事件を、金融当局の指導のもと上手く対応し尽くした金融機関と言える。この機関は、現在の全国265の信用金庫の信用ほう助や日本銀行の一歩手前の全国信用金庫の最後の貸手の存在として位置づけられる。信金中央金庫の社史を見ると、為替の取引の自由化、プラザ合意、金融ビッグバン、バブル経済の進捗、崩壊、金融機関の倒産、2000年になり日本の中小企業の海外展開の進捗、高齢化社会の進捗と企業の継承問題、地域創生に併せて経営業務が展開されてきた。 信用金庫がなぜ為替取引の業務も担当しなければならないのか、どうして投資信託から保険まで窓口販売手数料を稼ぐ必要があるのか、筆者はこの銀行がどういう顧客に対してどのようなポジションを志向しているのか、目指す業態は都市銀行ではないのかという錯覚を抱く。 この金融機関は、「信用金庫法」に基づいて業務を行っている。この法律の元々の狙いは会員(中小企業)向けの資金決済や与信のための金融で国民経済に貢献することであった。なぜ、上記のように変遷したのかという金融史の視点も存在する。しかし、本稿ではその議論を省くことにした。 この機関は平成28年3月で総資産(平残)は34兆6440億円で、会員(主として信用金庫)からの出資金は6909億円、連結自己資本比率(国内基準)は41.1%を記録している。そして、出資会員に占められているのは、全国265行の信用金庫である。 信金中央金庫は会員信用金庫のセントラル・バンクとしての位置づけとなっており、国内で都市銀行(メガバンク)・地方銀行という範疇からみて、規模の小さな信用金庫の信用保証を果たすという経営目標を掲げている。 しかし、銀行には日本銀行という中央銀行の存在があるにも係わらず、戦後の混乱期を終えても、なぜ、信用金庫にセントラルバンクの機能が必要なのか、そのことが大きな疑問として残る。会員へのサービスのように振る舞っているが、この機関はなぜ信用金庫の代理貸出を為し、その意味で各信用金庫が都市銀行(メガバンク)の支店のように展開しているようにも見える。 本稿では、信金中央金庫の財務データーからこの機関の行動を分析する。本稿では貸出に関しての関数を推計することにした。これは現在の金融当局の貨幣拡張政策による金利低下が、この種の機関にどのように作用しているかを見たいと考えたからである。これが本稿の副次的目的である。 この信金中央金庫を考える際に、信用金庫の現行の業態の特徴を検証することが必要となる。本稿では、まず信用金庫の現況について検証することから始めている。信用金庫は、政府が実体経済を刺激するとき、中小企業向け貸出時に信用保証協会などを通じ積極的に与信を与えている。 信金中央金庫も、最近では、東日本大震災の復興預金を集め、そこから復興資金を提供したり、あるいは、人口減少する過疎地域で「地域創生」の名の下、資金提供を行っている。全国のそれぞれの信用金庫が地域住民や中小企業の預貸業務を行うことが主目的であるとすれば、これは完全に業務目的が重なる分野である。信金中央金庫と各信用金庫がどのように重複する貸出について棲み分けを行っているのか、それも本稿で明確にしたい疑問の一つである。 上記のような見解に同意できない研究者もいるかもしれない。例えば、農林中央金庫と地方のJAの与信部門では、預貸への分野の重複を避け、上部機関の農林中央金庫が採算性の乏しいJA本体の利益を保つために、投資銀行として、地域JAから集めた資金を信託して利益を得ている事実がある。そうした業態と同じ形状を採っているのではないかという疑念が本稿作成の動機の一つである。 さて、本稿の結論だけを述べれば、日本で、すべての信用金庫の預金は右肩上がりで増えていることが確認できるが、貸出については思うように伸びていないことが確認できる。信用金庫のその余剰資金は有価証券では国債、社債で運用されている。そして信金中央金庫は信用金庫のかなりの資金を信金中央金庫の預入金として資金運用を行っている。ところが、信金中央金庫は、その資金運用の国内業務での収益率(利鞘)が、0.1%を下回る事態になっており、投資銀行の体を為していない状況にある1)。 信金中央金庫の貸出行動についても政府への依存度の高い姿が見える。すなわち、この機関は預金を大量に集めて、乏しい資金運用力でも十分機関本体に維持可能な金融収益を稼得している。しかし、貸出も政府・地方自治体への関係が深く、他業種への貸出能力に長けていない。そして、昨今、信託部門を都市銀行系列の信託銀行に売却した。この金融機関は、いよいよ生き残りを与信業務に掛けなければならない時期に来た。本稿はこのことを明示した論文と言える。1) 2016年10月31日の日経新聞で信金中央金庫の傘下の信託銀行を三菱UFJ信託銀が買収と記載されたとき、本稿を書き終えるところであった。
著者
小林 千枝子
出版者
作新学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

1960年代の高等学校多様化政策は、一般には、多様な学科の成立を促したことと理解されてきているが、定時制・通信制課程に目を向けると、産業界の要請のもと、修学形態の多様化がもたらされた点が注目される。昼間二交代定時制は産業界の要請のもとに繊維産業の二交代勤務に合わせた定時制である。通信制と定時制を併用する隔週定時制もある。また、戦後各町村に設置された新制中学校のなかには、生徒数は少ないため「貧弱」であるという理由から廃校に追い込まれたケースがある。その背後に市町村合併があった。高度成長期を境に農林漁業から工業へと産業構造が転換したが、そのことは青少年を都市部へ突き動かす役割を果たした。
著者
荒木 宏
出版者
作新学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究は、1980年代以降の年金と医療の制度改革を事例に、「公―私」の政策変容におけるアカウンタビリティの範囲や有効性について分析を行った。年金制度改革では、年金の私有化政策が行われ、規制改革と税控除政策等により、公的年金を縮小し私的年金を拡充する政策が実施された。一方、医療制度改革では、NHSに市場原理が導入された。GPや規制機関に権限が委譲され、またNHS体制内に曖昧で複雑なネットワークが形成された。これらの事例研究から、アカウンタビリティの特徴や範囲の変化について明らかにした。
著者
中山 緑朗
出版者
作新学院大学
雑誌
作新学院大学紀要 (ISSN:09171800)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.1-19, 2006-03-23

1232年に制定された鎌倉幕府法である『御成敗式目』は、唐律の影響下に成立した公家法を継承した面もある。条文に用いられている漢語語彙を検討すると、(1)古代中国の歴史書に共通する伝統的な漢語、(2)伝統的な漢語であるが、意味などが日本的に変容した<和化漢語>、(3)中国での用例を見ない<和製漢語>、の三種に分類することができる。本稿では(2)(3)について検証する。
著者
羅 黨興
出版者
作新学院大学
雑誌
作新経営論集 (ISSN:09186220)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.1-17, 2008-03

台湾経済の独自的発展はすでに休止符です。中国大陸への依存はますます拡大すると同時に、いわゆる(関閉自守)政策はどういう結果になりますか。台湾の現政権の経済政策 中国大陸のWTO加入により台湾企業(台商)に与える影響 中国大陸は大陸に進出する台湾企業に優遇政策 西進政策の環境分析(空洞化及び閉鎖政策) 石油化学、ハイテク産業、三通政策、双方の依存とその代償、人材の流出と汚職横行、庶民生活の変動、大三通、小三通、春節包機、南進政策 華人企業と儒教
著者
村澤 和多里
出版者
作新学院大学
雑誌
作新学院大学人間文化学部紀要 (ISSN:13480626)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.1-15, 2005-03-23

E.H.エリクソンのアイデンティティ論は、1950年代のアメリカにおいて、既存の社会に対して反抗的な「青年文化」を理解する枠組みとして生み出され、1970年代には日本においても青年心理学の基礎に位置づけられた。しかしながら、1980年代にはいるとエリクソンの理論は急に色あせたものとなり、論壇からは「退場」していった。現代、「ひきこもり」などの青年期の問題について理解・援助していく上で心理と社会を包括的にとらえるパラダイムが必要であると思われるが、エリクソンに代わるものはいまだに登場していない。本論文ではあらたなるパラダイムの可能性を探る第一歩として、エリクソンのアイデンティティ論について概観し、また相対化することを目的として、社会学者P.L.バーガーのアイデンティティ論と比較検討した。エリクソンの理論の限界としては時代的コンテクストを相対化する視点を持ち得なかった点を、バーガーの理論の限界としては結果的に人間から社会への働きかけの可能性が示されていない点を指摘し、新たな理論への可能性としてエリクソンにおけるアクチュアリティの概念に注目した。