- 著者
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久野 マリ子
- 出版者
- 国学院大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2004
東京都とその周辺の地域で話されている言葉を首都圏方言とする。首都圏方言というのは伝統的な東京方言ではなく、共通語を母方言とする話し手の言葉、あるいは異なる方言の話者が共通語と思って話している言葉とする。本研究はそのような首都圏方言の記述がなされないまま、スタンダード日本語として流布している状態に着目してその記述的研究をめざした。今回は特にアクセントと無声化について研究を実施した。無声化は音韻論的対立を持たない音声現象であるが、標準的日本語に必要な特徴として広く知られている。無声化の起こる基本的条件はすでに明らかにされているが、首都圏方言での実態はまだ明らかでなかった。本研究では無声化の現象を広く日本語全体の中で把握するため、琉球竹富方言、岩手県盛岡方言、兵庫県西脇方言を参考のため調査を実施した。今回は700余語について調査した。この研究で次のことが明らかになった。1.首都圏方言では、無声化の程度に個人差がある。例えば、無声子音+狭母音+無声子音という環境であっても、「すし(寿司)」という語はほとんどの話者が無声化しない。2.アクセントの核を無声化の影響で移動させることが知られていて、この現象が衰退する方向にあることが指摘されていた。本研究において「吹く」「拭く」では無声化してもアクセント核の移動は起こらないが、それ以外の語例,例えば、「着く」「突く」などではアクセント核が移動して同じ型に発音する話者が多いことが確認された。3.無声子音に挟まれた、広母音が無声化することが知られているが、その傾向が衰退する報告がなされている。しかし今回の研究では広母音の無声化の傾向が若年層でも確認された。ただし、従来から指摘されている語例では確認しにくく、「山手線」の「テ」のような語例である。4.無声化と促音の関係が曖昧であることも指摘されているが、今回の調査語例「西新橋」「日進橋」などで混乱が見られた。さらに研究が必要であることがわかった。無声化の研究は音響分析の立場などから多く進められているが、今回のように多くの語例で多人数の調査が首都圏方言の解明に必要なことが明らかになった。