著者
安部 健太 Abe Kenta アベ ケンタ
出版者
大阪大学大学院 人間科学研究科 対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 = Japanese journal of interpersonal and social psychology (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.17, pp.53-60, 2017-03

原著スポーツ場面において、ホームチームのほうがアウェイチームよりも有利だとするホームアドバンテージが指摘されてきた。ホームアドバンテージを生じる要因には習熟因子、移動因子、ルール因子、観客因子が挙げられる(Courneya & Carron, 1992)。観客因子に注目したとき、観客の人数や密度を比較した分析はなされてきたものの、純粋に観客の不在の効果を分析した研究は少ない。これはスポーツの試合において観客がいることが一般的だからである。そこで本研究では、インフルエンザ感染の拡大により複数の無観客試合が実施された2008-09シーズンのメキシコのサッカーリーグを対象として分析を行い、観客因子の効果を検討することを目的とした。分析の結果、選手のパフォーマンスにはホームアドバンテージの傾向が認められたものの、観客の有無による差異はみられなかった。一方で審判の判定は、観客の有無による警告数に差が一部認められた。
著者
鶴田 智 Tsuruta Satoshi ツルタ サトシ
出版者
大阪大学大学院 人間科学研究科 対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 = Japanese journal of interpersonal and social psychology (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.18, pp.173-178, 2018-03

資料近年、インターネットやSNS上で犯罪者を誹謗中傷するなど、誰でも容易に社会的制裁を行うことができるようになった。社会的制裁とは犯罪者への非法的な制裁行為とされ、犯罪者の社会復帰の妨げとして問題視されている。法制度上の刑罰があるにも関わらず、なぜ社会的制裁が起きるのか。先行研究によれば、法的制裁(刑罰)と社会的制裁には相補的な関係性があり、法的制裁が社会的制裁を促進(または抑制する)可能性がある。本研究は、刑事事件の犯罪者に対する法的制裁と社会的制裁の相補性の検証を目的とした2つの実験を行った。その結果、客観的指標(社会的制裁の強さ、法的制裁の重さ)の影響による法的制裁と社会的制裁の相補性は確認されなかったが、主観的評価(社会的制裁の強さ認知、刑の重さ認知)において、法的制裁と社会的制裁の相補性の存在が示唆された。よって、人々の主観的評価に影響を及ぼす事で、客観的な法的制裁と社会的制裁の相補性を実現できると考えられる。社会的制裁が引き起こす問題を解決するために、今後は人々の主観的評価に影響を及ぼす要因を検討する必要がある。
著者
高松 礼奈 Takamatsu Reina タカマツ レイナ
出版者
大阪大学大学院 人間科学研究科 対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 = Japanese journal of interpersonal and social psychology (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.18, pp.53-59, 2018-03

原著本研究は、人身的ジレンマを判断課題に使用し、多くの人びとを救うことを目的とした特定の他者への危害の肯定に影響を与える要因として共感を検討した。そこで、犠牲となる特定の他者に対する共感を操作し、危害の肯定率に変化が生じるか質問紙実験を行った。結果、犠牲者に共感しにくい社会的属性をフレーミングしたところ(低共感条件)、直接的危害を与える功利主義判断をする傾向が高くなった。また、犠牲者に共感するよう教示してから判断課題を行なったところ(高共感条件)、危害を与える功利主義判断をする傾向が低くなった。このことから、ジレンマ状況において、共感を操作するフレーミングは功利主義判断に影響を及ぼすことが示された。The present study examined the effect of empathy on utilitarian judgment in sacrificial dilemmas by manipulating empathy with a victim. Results showed that participants who read a modified version of Footbridge dilemma in which the victim is described as a released convict were more willing to sacrifice him to save more people. In the empathy-inducing condition, participants performed a perspective-taking task to increase empathic concern for the victim and were less likely to make utilitarian judgment. These suggest that utilitarian judgment in high-conflict dilemmas is not only based on a calculation of greater good, but is also susceptible to interpersonal cues, such as empathy with the victim.
著者
望月 正哉 澤海 崇文 瀧澤 純 吉澤 英里 Mochizuki Masaya Yoshizawa Eri Takizawa Jun Sawaumi Takafumi ヨシザワ エリ サワウミ タカフミ モチズキ マサヤ タキザワ ジュン
出版者
大阪大学大学院 人間科学研究科 対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 = Japanese journal of interpersonal and social psychology (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.17, pp.7-13, 2017-03

原著In recent years, some forms of interpersonal communication among the youth are labeled as "ijiri". The current paper investigates what characteristicsijiri is perceived to have, in comparison with similar types of behavior, teasing and bullying. We identified conceptual characteristics of each behavior in an open-ended preliminary survey. In a following study, we asked participants to rate to what degree each feature would characterize each of the three kinds of behavior while taking an observer's perspective. Results revealed that ijiri was perceived to be different from teasing and bullying based primarily on intention of the behavior: ijiri was perceived to carry more positive features such as the provider's and receiver's mutual intention to get closer to each other while less holding negative characteristics such as malicious and contemptuous attitudes toward the receiver.近年、若年者を中心とした対人コミュニケーションのなかでいじりという言葉が用いられる場面がある。本研究では、対人行動におけるいじりとはどのような特徴をもつ行動と認識されているのかについて、類似する行動と考えられるからかいやいじめとの比較を通じて検討した。初めに自由記述による予備調査を実施し、いじり、からかい、いじめがもつ概念的特徴を見出した。そのうえで、本調査では、第三者の立場から、いじり、からかい、いじめにおいて、それらの概念的特徴がどの程度あてはまるのかを評価させた。その結果、いじりは他の2つの行動に比べ、好意や互いが仲良くなりたいといった肯定的な特徴をもちつつ、悪意や受け手をバカにするといった否定的な特徴をもたないと評価されていた。このことから、いじり行動はからかいやいじめ行動と比較して、それぞれの意図性などをもとにして異なる特徴をもつと認識されていることが示された。
著者
中川 裕美 Nakagawa Yumi ナカガワ ユミ
出版者
大阪大学大学院 人間科学研究科 対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 = Japanese journal of interpersonal and social psychology (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.18, pp.61-69, 2018-03

原著社会心理学の分野において、内集団協力を説明する代表的な理論には社会的アイデンティティ理論(SIT)と閉ざされた一般互酬仮説(BGR)がある。SITは自己と集団の同一化から、BGRは互恵性の期待から内集団協力が生じるという。中川・横田・中西(2015)により野球ファンにおける内集団協力には、二つの理論が記述する心理過程が同時に働くことが示された。さらに、中川・横田・中西(投稿中)で協力行動にかかるコストを明示すると、SITよりもBGRの心理過程が強く働き内集団協力が生じた。このことから、SITとBGRの心理過程の働きを規定する状況要因の一つは、協力行動のコストであることが示唆された。しかし、中川他の実験では集団間の関係性が曖昧であり、他集団の比較を前提とするSITの心理過程を引き出すには不利な状況だったと考えられる。そこで、本研究ではコストは明示したままで集団間の関係性を明確にするため、集団間の地位を提示した。地位を提示した状況では、SIT が支持されるか否か検討を行った。実験では、カープファン81名(男性47名, 女性33名, 不明1)に地位の刺激(高地位/低地位/統制)をプライミングした後、内集団協力を測定した。その結果、地位の効果が見られず、地位の効果を除いた内集団協力ではSITとBGRともに支持されなかった。In this study, we compared the ability of both the Social Identity Theory (SIT) and Bounded Generalized Reciprocity Hypothesis (BGR) to explain ingroup cooperation in real groups. We conducted the vignette experiments that were designed as controlling various confounded factors to possibility influence ingroup cooperation among Japanese baseball fans. In the experiment, we manipulated expectation of reciprocity, which was assumed as a precursor of ingroup cooperation by BGR, by controlling knowledge of group membership. Ingroup cooperation was measured by participants' intent of helping a stranger in four scenarios. According to Nakagawa et al. (2015, submitted), cost of ingroup cooperation can enhanced the psychological process of BGR, while ingroup cooperation without cost proceeds both processes of theories. However, these experiments were unclear intergroup differences and the effect of social identity was weak. Thus, we expressed the stimulus of intergroup status by the perceptual priming to clear intergroup differences. But the result of the experiment was not support the effect of intergroup status. The analysis that the effect of status was removed revealed both theories was not supported.
著者
荻原 祐二 Ogihara Yuji オギハラ ユウジ
出版者
大阪大学大学院 人間科学研究科 対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 = Japanese journal of interpersonal and social psychology (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.18, pp.133-143, 2018-03

資料本研究では、中学生から60代の高齢者という幅広い年齢層を対象に、日本における自尊心の年齢差について検討した。先行研究から、日本における自尊心は児童期に高く、青年期に低下し、成人期に上昇することが示されていた。しかし、この知見は自己好意を測定する1項目の分析に基づいており、その測定の信頼性は複数項目を用いた尺度による分析と比べて相対的に低くなっている可能性があった。したがって本研究では、先行研究の知見の妥当性を高めるために、日本における幅広い年齢層を対象に自己好意を測定しており、各性別・年齢層のサンプルサイズも十分に大きい先行研究とは異なるデータを分析した。その結果、先行研究と一致して、自尊心は青年期で低く、その後成人期に上昇し続けることが示された。本研究は、自尊心が発達過程でどのように変化するかを明らかにし、相対的に介入の必要性が高い時期を示している。
著者
板山 昂 Itayama Akira イタヤマ アキラ
出版者
大阪大学大学院 人間科学研究科 対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 = Japanese journal of interpersonal and social psychology (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.18, pp.165-171, 2018-03

資料本研究の目的は、厳罰傾向である厳罰志向性の高低による情状酌量の余地の程度、および量刑の重さの差異を検討するとともに、厳罰志向性と情状酌量の余地の程度、量刑判断における世代差を検討することであった。結果として、大学生と保護者で厳罰志向性の強さに差異はみられなかったものの、厳罰志向性は量刑判断に大きな影響を与えること、大学生と保護者の間で量刑の重さには大きな差が生じることが明らかとなった。本研究では、幼女が無差別に殺害される事件と介護疲れ殺人を評価対象としており、保護者は幼女が殺害された事件では被害児童の親に、介護疲れ殺人ではわが子に介護される(または自分が親を介護する)ことを考え(視点取得)、量刑の重さを判断したものと考察された。
著者
中井 彩香 沼崎 誠 Nakai Ayaka Numazaki Makoto ナカイ アヤカ ヌマザキ マコト
出版者
大阪大学大学院 人間科学研究科 対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 = Japanese journal of interpersonal and social psychology (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.18, pp.77-84, 2018-03

原著本研究は、妬みにはネガティブな行動を導く悪性妬みと、ポジティブな行動を導く良性妬みという2つのサブタイプがあるとするサブタイプ理論が、悪性妬みと良性妬みに該当する言葉のない日本においても支持されるか調べた。過去の妬み場面を想起させ、当時の感情や動機、行動を回答させた。妬みを単一の感情とするモデルと2つの感情とするモデルを比較したところ、後者のモデルが適切であることが示された。悪性妬みは他者に向けられたネガティブ感情(敵意)を含む感情であり、他者を低める行動を導く一方で、良性妬みは自己に向けられたネガティブ感情(劣等感)を含む感情であり、自己を高める行動を導くことが確認された。相手の成功を内的要因に帰属するほど、悪性妬みが生じにくく、良性妬みが生じやすいという先行研究の結果も再現された。この結果は、妬みのサブタイプ理論は言語の種類に依存しないことを示唆している。また、本研究のもう1つの貢献点として、悪性妬みを感じたときは問題焦点型コーピングと情動焦点型コーピングの両方が行われるが、良性妬みを感じたときは問題焦点型コーピングが行われやすいことが明らかにされた。Envy is a painful emotion that arises from social comparisons with others. Recent research has identified two types of envy; malicious and benign. The present study investigated whether these envies also exist among the Japanese. Participants in the study were asked to describe a situation in which they experienced envy. Next, they answered certain items measuring their causal attribution of other people's high achievement, feelings toward themselves and others, motivations (including pulling others down, seeking to advance oneself, and emotion- focused coping) and actions. The data fit the two-subtype model of envy better than the single-type model. They showed that malicious envy led to a pulling-down motivation aimed at damaging the position of person viewed as superior, whereas benign envy led to a moving-up motivation aimed at improving one's own position. These results suggested that the types of envy existed among the Japanese. Furthermore, malicious envy caused people to engage in both problem-focused and emotion-focused coping, whereas benign envy caused only problem-focused coping.