著者
横山 智哉 稲葉 哲郎 Yokoyama Tomoya Inaba Tetsuro ヨコヤマ トモヤ イナバ テツロウ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 = Japanese journal of interpersonal and social psychology (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.14, pp.45-52, 2014-03

本研究は、政治的な話題を話すことの抵抗感について検討した。具体的には、日頃話していると想定される9つの話題の中から、より政治的関連性が強い話題を話すことにどの程度抵抗を感じるのか、またその抵抗感を低減する要因も併せて検討した。20代から60代の有権者300名を対象にWeb上で、調査を行ったところ、日常的に話している9つの話題の中では、「国や政府に関する話題」が相対的に最も話すことに抵抗を感じる話題であった。しかし、実際には「国や政府に関する話題」を話す際に感じる抵抗の程度は非常に低いことが示された。また、抵抗感を低減する要因として、ハードな争点的知識が効果を持つ一方で、新聞閲読頻度が抵抗感を高めていることが明らかとなった。
著者
釘原 直樹 Kugihara Naoki クギハラ ナオキ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 = Japanese journal of interpersonal and social psychology (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.14, pp.1-15, 2014-03

スケープゴーティングとは、何らかのネカティブな事象が生起、あるいは生起が予見されている際に、事態発生や拡大・悪化に関する因果関係・責任主体が不明確な段階で、原因や責任をある対象に帰属したり、その対象を非難することが、一定の集合的広がりをもって行われることである。また因果関係の枠外にある対象に対する責任帰属や非難、そしてそのような認知や行為が共有化されていくプロセスもスケープゴーティングに含める。このスケープゴーティングにおいて、対象となるものをスケープゴートと呼ぶ。ここでは、スケープゴーテイングの発生プロセスに関するモデルを構成し、さらにスケープゴーティングを促進するマスメディアの報道特性やスケーフゴートの時間経過による変遷プロセス(波紋モデル)について述べる。The scapegoating was typical kinds of collective attribution of causes and responsibility and blaming a certain targets when people perceive that negative events occurred in past or will occur in the future. The targets of scapegoating may be selected on the basis of ambiguous or no causal relationship to the negative event. Here I proposed a total scapegoating model and discussed characteristics of mass media publicity. And finally, a scapegoat transition model (the ripple widening model) was presented.
著者
安部 健太 Abe Kenta アベ ケンタ
出版者
大阪大学大学院 人間科学研究科 対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 = Japanese journal of interpersonal and social psychology (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.17, pp.53-60, 2017-03

原著スポーツ場面において、ホームチームのほうがアウェイチームよりも有利だとするホームアドバンテージが指摘されてきた。ホームアドバンテージを生じる要因には習熟因子、移動因子、ルール因子、観客因子が挙げられる(Courneya & Carron, 1992)。観客因子に注目したとき、観客の人数や密度を比較した分析はなされてきたものの、純粋に観客の不在の効果を分析した研究は少ない。これはスポーツの試合において観客がいることが一般的だからである。そこで本研究では、インフルエンザ感染の拡大により複数の無観客試合が実施された2008-09シーズンのメキシコのサッカーリーグを対象として分析を行い、観客因子の効果を検討することを目的とした。分析の結果、選手のパフォーマンスにはホームアドバンテージの傾向が認められたものの、観客の有無による差異はみられなかった。一方で審判の判定は、観客の有無による警告数に差が一部認められた。
著者
今村 夕貴 釘原 直樹 イマムラ ユキ クギハラ ナオキ Imamura Yuki kugihara naoki
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 = Japanese journal of interpersonal and social psychology (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.16, pp.47-52, 2016-03

本研究は、Bem(2011)の予知的恐怖回避実験の結果を再検討することを目的とした。Bem(2011)の研究については、これまで多くの追試が行われている。しかしながら、一貫した結果は得られていない。Galak, Leboueuf,Nelson&Simmons(2012)は、Bem(2011)による実験の結果は参加者数の過多による帰無仮説の誤棄却であると主張している。したがって本研究では、実験参加者数を減らし、Bem(2011)の主張を再検討した。加えて、山羊・羊効果(Schmeidler,1945)から、超心理現象を信奉する程度が実験結果に影響すると考えられる。そのため、超自然現象信奉尺度(中島・佐藤・渡邊,1993)得点と参加者が予知能力の信奉する程度を分析に用い、Bem(2010)の主張を詳細に検討した。結果、実験条件間に有意な差は認められず、Bem(2011)の研究は再現されなかった。The purpose of the study was to reexamine the experiment of precognitive avoidance of negative stimuli (Bem,2011).Although, several researchers have attempted to replicate the results of Bem's study,they have had inconsistent results.Galak,Leboueuf,Nelson&Simmons(2012)criticized that the result of Bem's study was derived from large sample size and false rejection of null hypothesis. Therefore, we reexamined Bem's study by assembling adequate number of participants. In addition,because the degree of believing in psi is said to have effects on precognitive ability(sheep-goat effect(Schmeidler,1945)),we me asured the score of Paranormal Belief Scale(Nakajima,Sato&Watanabe,1993)and compared the performance of participants who have different level of believing in psi.Our results did not match those reported by Bem;thus,we were not able to replicate the 2011 precognitive ability study.
著者
鶴田 智 Tsuruta Satoshi ツルタ サトシ
出版者
大阪大学大学院 人間科学研究科 対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 = Japanese journal of interpersonal and social psychology (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.18, pp.173-178, 2018-03

資料近年、インターネットやSNS上で犯罪者を誹謗中傷するなど、誰でも容易に社会的制裁を行うことができるようになった。社会的制裁とは犯罪者への非法的な制裁行為とされ、犯罪者の社会復帰の妨げとして問題視されている。法制度上の刑罰があるにも関わらず、なぜ社会的制裁が起きるのか。先行研究によれば、法的制裁(刑罰)と社会的制裁には相補的な関係性があり、法的制裁が社会的制裁を促進(または抑制する)可能性がある。本研究は、刑事事件の犯罪者に対する法的制裁と社会的制裁の相補性の検証を目的とした2つの実験を行った。その結果、客観的指標(社会的制裁の強さ、法的制裁の重さ)の影響による法的制裁と社会的制裁の相補性は確認されなかったが、主観的評価(社会的制裁の強さ認知、刑の重さ認知)において、法的制裁と社会的制裁の相補性の存在が示唆された。よって、人々の主観的評価に影響を及ぼす事で、客観的な法的制裁と社会的制裁の相補性を実現できると考えられる。社会的制裁が引き起こす問題を解決するために、今後は人々の主観的評価に影響を及ぼす要因を検討する必要がある。
著者
高松 礼奈 Takamatsu Reina タカマツ レイナ
出版者
大阪大学大学院 人間科学研究科 対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 = Japanese journal of interpersonal and social psychology (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.18, pp.53-59, 2018-03

原著本研究は、人身的ジレンマを判断課題に使用し、多くの人びとを救うことを目的とした特定の他者への危害の肯定に影響を与える要因として共感を検討した。そこで、犠牲となる特定の他者に対する共感を操作し、危害の肯定率に変化が生じるか質問紙実験を行った。結果、犠牲者に共感しにくい社会的属性をフレーミングしたところ(低共感条件)、直接的危害を与える功利主義判断をする傾向が高くなった。また、犠牲者に共感するよう教示してから判断課題を行なったところ(高共感条件)、危害を与える功利主義判断をする傾向が低くなった。このことから、ジレンマ状況において、共感を操作するフレーミングは功利主義判断に影響を及ぼすことが示された。The present study examined the effect of empathy on utilitarian judgment in sacrificial dilemmas by manipulating empathy with a victim. Results showed that participants who read a modified version of Footbridge dilemma in which the victim is described as a released convict were more willing to sacrifice him to save more people. In the empathy-inducing condition, participants performed a perspective-taking task to increase empathic concern for the victim and were less likely to make utilitarian judgment. These suggest that utilitarian judgment in high-conflict dilemmas is not only based on a calculation of greater good, but is also susceptible to interpersonal cues, such as empathy with the victim.
著者
望月 正哉 澤海 崇文 瀧澤 純 吉澤 英里 Mochizuki Masaya Yoshizawa Eri Takizawa Jun Sawaumi Takafumi ヨシザワ エリ サワウミ タカフミ モチズキ マサヤ タキザワ ジュン
出版者
大阪大学大学院 人間科学研究科 対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 = Japanese journal of interpersonal and social psychology (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.17, pp.7-13, 2017-03

原著In recent years, some forms of interpersonal communication among the youth are labeled as "ijiri". The current paper investigates what characteristicsijiri is perceived to have, in comparison with similar types of behavior, teasing and bullying. We identified conceptual characteristics of each behavior in an open-ended preliminary survey. In a following study, we asked participants to rate to what degree each feature would characterize each of the three kinds of behavior while taking an observer's perspective. Results revealed that ijiri was perceived to be different from teasing and bullying based primarily on intention of the behavior: ijiri was perceived to carry more positive features such as the provider's and receiver's mutual intention to get closer to each other while less holding negative characteristics such as malicious and contemptuous attitudes toward the receiver.近年、若年者を中心とした対人コミュニケーションのなかでいじりという言葉が用いられる場面がある。本研究では、対人行動におけるいじりとはどのような特徴をもつ行動と認識されているのかについて、類似する行動と考えられるからかいやいじめとの比較を通じて検討した。初めに自由記述による予備調査を実施し、いじり、からかい、いじめがもつ概念的特徴を見出した。そのうえで、本調査では、第三者の立場から、いじり、からかい、いじめにおいて、それらの概念的特徴がどの程度あてはまるのかを評価させた。その結果、いじりは他の2つの行動に比べ、好意や互いが仲良くなりたいといった肯定的な特徴をもちつつ、悪意や受け手をバカにするといった否定的な特徴をもたないと評価されていた。このことから、いじり行動はからかいやいじめ行動と比較して、それぞれの意図性などをもとにして異なる特徴をもつと認識されていることが示された。
著者
中川 裕美 Nakagawa Yumi ナカガワ ユミ
出版者
大阪大学大学院 人間科学研究科 対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 = Japanese journal of interpersonal and social psychology (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.18, pp.61-69, 2018-03

原著社会心理学の分野において、内集団協力を説明する代表的な理論には社会的アイデンティティ理論(SIT)と閉ざされた一般互酬仮説(BGR)がある。SITは自己と集団の同一化から、BGRは互恵性の期待から内集団協力が生じるという。中川・横田・中西(2015)により野球ファンにおける内集団協力には、二つの理論が記述する心理過程が同時に働くことが示された。さらに、中川・横田・中西(投稿中)で協力行動にかかるコストを明示すると、SITよりもBGRの心理過程が強く働き内集団協力が生じた。このことから、SITとBGRの心理過程の働きを規定する状況要因の一つは、協力行動のコストであることが示唆された。しかし、中川他の実験では集団間の関係性が曖昧であり、他集団の比較を前提とするSITの心理過程を引き出すには不利な状況だったと考えられる。そこで、本研究ではコストは明示したままで集団間の関係性を明確にするため、集団間の地位を提示した。地位を提示した状況では、SIT が支持されるか否か検討を行った。実験では、カープファン81名(男性47名, 女性33名, 不明1)に地位の刺激(高地位/低地位/統制)をプライミングした後、内集団協力を測定した。その結果、地位の効果が見られず、地位の効果を除いた内集団協力ではSITとBGRともに支持されなかった。In this study, we compared the ability of both the Social Identity Theory (SIT) and Bounded Generalized Reciprocity Hypothesis (BGR) to explain ingroup cooperation in real groups. We conducted the vignette experiments that were designed as controlling various confounded factors to possibility influence ingroup cooperation among Japanese baseball fans. In the experiment, we manipulated expectation of reciprocity, which was assumed as a precursor of ingroup cooperation by BGR, by controlling knowledge of group membership. Ingroup cooperation was measured by participants' intent of helping a stranger in four scenarios. According to Nakagawa et al. (2015, submitted), cost of ingroup cooperation can enhanced the psychological process of BGR, while ingroup cooperation without cost proceeds both processes of theories. However, these experiments were unclear intergroup differences and the effect of social identity was weak. Thus, we expressed the stimulus of intergroup status by the perceptual priming to clear intergroup differences. But the result of the experiment was not support the effect of intergroup status. The analysis that the effect of status was removed revealed both theories was not supported.
著者
潮村 公弘 シオムラ キミヒロ Shiomura Kimihiro
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 = Japanese journal of interpersonal and social psychology (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.15, pp.31-38, 2015-03

潜在連合テスト(IAT)は、潜在認知研究の領域において近年で広く活用される測定法であるが、紙筆版 IAT につ いてはその実施方法に関する標準的で体系立った資料存在していない。本論文は、この点に注目し、紙筆版 IAT の実施方法についてのスタンダードとなりうる資料を提供し、紙筆版 IAT の進展に資することを目的として執筆された。そのさい、、単なる実施マニュアルにとどまらず、潜在指標測定の意義、潜在連合テストの背景、基礎的な分析方法、結果を解釈していく上で の考察ポイントや留意点についても包括的論じること目指した。個人あるいはグループで実習形式で学ぶことがきるように、「心理基礎実験」等の授業マニュアルとして直接に利用できる形式を採用した。そのさい、課題遂行用の各種資料をインターネットからダウンロードできるようにした。さらに参考となる情報源の紹介や今後の発展性についても論じた。There are no standard manuals utilizing the paper IAT (Implicit Association Test), though the Implicit Association Test (IAT) is a widely used technique for implicit cognition. The aim of this manuscript is to provide standard pricedures and guidelines for the paper pencil IAT. For this purpose, this practical manual includes descriptions concerning the meanings for measuring implicit indexes, the background for the IAT, the funddamental methods of data analysis, critical points for dicussion, and other things to keep in consideration. Additionally, this manuscript is provided in the form of materials for a university class, such as on basic research methods in psychology. The related materials for this practice (in class or in other style) are available on the website for downloading. This manuscript also includes information for reference and further contributions.
著者
荻原 祐二 Ogihara Yuji オギハラ ユウジ
出版者
大阪大学大学院 人間科学研究科 対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 = Japanese journal of interpersonal and social psychology (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.18, pp.133-143, 2018-03

資料本研究では、中学生から60代の高齢者という幅広い年齢層を対象に、日本における自尊心の年齢差について検討した。先行研究から、日本における自尊心は児童期に高く、青年期に低下し、成人期に上昇することが示されていた。しかし、この知見は自己好意を測定する1項目の分析に基づいており、その測定の信頼性は複数項目を用いた尺度による分析と比べて相対的に低くなっている可能性があった。したがって本研究では、先行研究の知見の妥当性を高めるために、日本における幅広い年齢層を対象に自己好意を測定しており、各性別・年齢層のサンプルサイズも十分に大きい先行研究とは異なるデータを分析した。その結果、先行研究と一致して、自尊心は青年期で低く、その後成人期に上昇し続けることが示された。本研究は、自尊心が発達過程でどのように変化するかを明らかにし、相対的に介入の必要性が高い時期を示している。
著者
板山 昂 Itayama Akira イタヤマ アキラ
出版者
大阪大学大学院 人間科学研究科 対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 = Japanese journal of interpersonal and social psychology (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.18, pp.165-171, 2018-03

資料本研究の目的は、厳罰傾向である厳罰志向性の高低による情状酌量の余地の程度、および量刑の重さの差異を検討するとともに、厳罰志向性と情状酌量の余地の程度、量刑判断における世代差を検討することであった。結果として、大学生と保護者で厳罰志向性の強さに差異はみられなかったものの、厳罰志向性は量刑判断に大きな影響を与えること、大学生と保護者の間で量刑の重さには大きな差が生じることが明らかとなった。本研究では、幼女が無差別に殺害される事件と介護疲れ殺人を評価対象としており、保護者は幼女が殺害された事件では被害児童の親に、介護疲れ殺人ではわが子に介護される(または自分が親を介護する)ことを考え(視点取得)、量刑の重さを判断したものと考察された。
著者
正高 杜夫 釘原 直樹 Masataka Morio Kugihara Naoki マサタカ モリオ クギハラ ナオキ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 = Japanese journal of interpersonal and social psychology (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.15, pp.95-99, 2015-03

本研究は、集団形成の過程の違いが、内集団バイアスに与える効果について吟味する。具体的には、実験室において形成された最小条件集団から、同様の手続きを用いてさらに集団を分割する事により、集団の形成過程を再現した。実験の結果、内集団バイアスにおける否定的認知傾向(外集団蔑視)が集団形成の過程で生起することは示されなかった。一方、集団形成の過程において、内集団への好意的行動傾向(内集団ひいき)が変化することが明らかになった。以上の結果より、集団間の境界の明確さが内集団ひいき行動に影響を与えることが示唆された。
著者
中井 彩香 沼崎 誠 Nakai Ayaka Numazaki Makoto ナカイ アヤカ ヌマザキ マコト
出版者
大阪大学大学院 人間科学研究科 対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 = Japanese journal of interpersonal and social psychology (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.18, pp.77-84, 2018-03

原著本研究は、妬みにはネガティブな行動を導く悪性妬みと、ポジティブな行動を導く良性妬みという2つのサブタイプがあるとするサブタイプ理論が、悪性妬みと良性妬みに該当する言葉のない日本においても支持されるか調べた。過去の妬み場面を想起させ、当時の感情や動機、行動を回答させた。妬みを単一の感情とするモデルと2つの感情とするモデルを比較したところ、後者のモデルが適切であることが示された。悪性妬みは他者に向けられたネガティブ感情(敵意)を含む感情であり、他者を低める行動を導く一方で、良性妬みは自己に向けられたネガティブ感情(劣等感)を含む感情であり、自己を高める行動を導くことが確認された。相手の成功を内的要因に帰属するほど、悪性妬みが生じにくく、良性妬みが生じやすいという先行研究の結果も再現された。この結果は、妬みのサブタイプ理論は言語の種類に依存しないことを示唆している。また、本研究のもう1つの貢献点として、悪性妬みを感じたときは問題焦点型コーピングと情動焦点型コーピングの両方が行われるが、良性妬みを感じたときは問題焦点型コーピングが行われやすいことが明らかにされた。Envy is a painful emotion that arises from social comparisons with others. Recent research has identified two types of envy; malicious and benign. The present study investigated whether these envies also exist among the Japanese. Participants in the study were asked to describe a situation in which they experienced envy. Next, they answered certain items measuring their causal attribution of other people's high achievement, feelings toward themselves and others, motivations (including pulling others down, seeking to advance oneself, and emotion- focused coping) and actions. The data fit the two-subtype model of envy better than the single-type model. They showed that malicious envy led to a pulling-down motivation aimed at damaging the position of person viewed as superior, whereas benign envy led to a moving-up motivation aimed at improving one's own position. These results suggested that the types of envy existed among the Japanese. Furthermore, malicious envy caused people to engage in both problem-focused and emotion-focused coping, whereas benign envy caused only problem-focused coping.
著者
相田 直樹 礒部 智加衣 アイダ ナオキ イソベ チカエ Aida Naoki Isobe Chikae
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 = Japanese journal of interpersonal and social psychology (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.15, pp.39-44, 2015-03

人は、所属欲求のため、拒絶された後に笑顔へ注意が向くことが示されている(DeWall et al.,2009)。また、拒絶感受性が高い人は平時において拒絶顔から注意をそらす傾向があることが知られている(Berenson et al.,2009)。拒絶感受性とは、不安をもって拒絶を予測し、素早く知覚し、過敏に反応する特性である。曖昧な拒絶後に、拒絶感受が高い人は笑顔に注意を向けることができるだろうか。本研究ではドットプロープ課題を用いて、次の代替仮説を検討した。拒絶感受性が高い人は、曖昧な拒絶後に笑顔に注意を向ける、もしくは、拒絶後に注意を向けるだろう。実験の結果はこれらの仮説に反し、拒絶感受性が高い人は、拒絶を経験しない統制条件において、拒絶顔に対する注意を高めることのみが示された。つまり、曖昧拒絶条件における選択的注意は、拒絶感受性による影響を受けなかった。拒絶感受性と不適切な反応の関係について考察した。It has been demonstrated that after an experience of being rejected, individuals pay increased attention to smiles, because of their fundamental need to belong (DeWall et al., 2009). Other research suggests that people with high rejection sensitivity tend to avoid attending faces showing rejection (Berenson et al., 2009). Rejection sensitivity is the disposition to anxiously expect, readily perceive, and intensely react to experiences of being rejected. Do rejection sensitive people also attend to a smile after experiencing an ambiguous rejection? In this study, we use the dot-probe task and examined the following predictions after an ambiguous rejection: highly rejection sensitive people would pay attention to (i) a smiling face, or (ii) disgust face. Contrary to these predictions, results indicated that in control condition, in which there was no rejection, highly rejection sensitive people highly attended only to the disgust faces. On the other hand, in the ambiguous rejection condition, selective attention was not affected by rejection sensitivity. We have discussed the relationship between rejection sensitivity and inappropriate reactions.
著者
樽井 この美 五十嵐 祐 タルイ コノミ イガラシ タスク Tarui Konomi Igarashi Tasuku
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 = Japanese journal of interpersonal and social psychology (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.16, pp.33-39, 2016-03

本研究は、集団討議場面において集団成員が問題解決に寄与する言動をしないことを沈黙として捉え、集団内での沈黙を抑制する要因について検討した。集団内の圧力への屈服、ネガティブなフィードバックへの恐れ、現状維持といった沈黙の要因は、制御焦点(Higgins,1997)のうち予防焦点と関連すると考えられることから、本研究では、集団討議場面において、予防焦点の優勢な個人の発言時間が促進焦点の優勢な個人よりも短くなると予測し、隠れたプロフィール課題を用いて3名集団での集団討議実験を行った。分析の結果、制御焦点の操作によって発言時間に有意な差はみられなかった。その一方で、促進焦点が優勢となっている場合、特性的な予防焦点が発言と関連しており、特性的予防焦点と、促進焦点のプライミングの交互作用が発言に影響する可能性が示唆された。This study investigated psychological factors that decrease in-group silence.Silence is regarded as behaving passively or doing nothing to influence group decision making in a group,and lead by in-group pressure,threats of getting negative feedback,and status quo. Based on the regulatory focus theory,this study used a hidden profile task in a group with three members and predicted that a minority member in the group primed with prevention focus is likely to speak shorter than those with promotion focus. Results showed that no significant differences were found between promotion focus and prevention focus priming.On the other hand,trait prevention focus of the minorities increased an illocutionally act in the promotion-focused condition.Implication of the result interpreted by the impact of activated motivation on the avoidance of criticism for passive involvements in group tasks among people with chronic prevention focus.
著者
中山 満子 Nakayama Michiko ナカヤマ ミチコ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 = Japanese journal of interpersonal and social psychology (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.16, pp.41-46, 2016-03

PTA活動は子どもを持つ親のほとんどが経験する向社会活動の一種である。本研究は、ボランティアなどの援助行動から得られる援助成果が活動継続意図につながるという先行研究(妹尾・高木,2003)を受けて、必ずしも自発的とは言えないPTA活動においても、実際の活動から得られる効果認識と自身の得る内的報酬が活動継続意向につながるのかどうか、さらにこれらがPTA以外の向社会的活動への参加意向にもつながるのかどうかを検討した。10歳から15歳の子どもを持ちPTA活動の経験のある母親120名を対象にWeb調査を行った。その結果、自分の行った活動が役にたつと感じ、自己評価と人間関係の広がりという内的報酬を得ることで、PTA活動の継続意図につながること、またその影響はPTA活動のみにとどまらずにボランティア活動や地域の活動にも波及しうることが示された。さらにその影響は、PTA活動での負担を重く感じている群で特に顕著であることも示された。PTA activity is a kind of prosocial behavior that almost all of parents rearing children experience.The present study examined PTA activities in line with Senoo & Takagi(2003)in which helper obtained the helping effects through the activities such as volunteering and the helping effect determined helpers'motivation of continuing their activities.Research question is whether their finding is applied to PTA activity which is not necessarily executed voluntarily.Furthermore,it was tested that helping effects obtained in PTA activity affected other prosocial behavior such as volunteering or activities in neighborhood a ssociation.Web survey was administered for 120 middle-aged women who had children and have experienced PTA activities.The main results were as follows:(1)Perceived effect of PTA activity and obtained internal reward,i.e.,elevation of self-evaluation and establishment of new relationship,positively influenced the intention to continue PTA activity, (2)this was applied to other prosocial activities,(3)these effects were obtained clearer in groups who felt burdens heavily in PTA activity.
著者
竹内 穂乃佳 釘原 直樹 Takeuchi Honoka Kugihara Naoki タケウチ ホノカ クギハラ ナオキ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 = Japanese journal of interpersonal and social psychology (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.16, pp.27-32, 2016-03

Previous studies have revealed that observer's tendencies to attribute to unfortunate victims is affected by the victims'environments and by their willingness to resist disaster. A number of scholars tackle this issue in America, after 9.11,however, this topic has not been very thoroughly studied in Japan. In this study, we used 3 terms ("fault","carelessness"and"responsibility")to study, whether blame attribution differed between case of murder and terrorism.A2×2×2 mixed design (will vs. no will)×(high risk vs.low risk of encountering disaster)×(murder vs.terrorism)was used.The results revealed that in concerning"fault",observers attribute more blame to the victims in both the will and high risk conditions.Furthermore,in the case of the term"careless",observers attribute more blame to victims in the low risk and murder conditions. However, concerning"responsibility", observers'attributions did not differ between any of the conditions. These results suggest observers'blame attribution was influenced by the attaching of labels (fault, carelessness, and responsibility) to the victims'behaviors.従来、第三者の災害被害者に対する責任帰属は本人の抵抗の意思や周りの環境によって変化するといわれてきた。この問題に関してアメリカでは9.11テロ事件以降研究が増加した一方で、日本での研究はほとんど行われていないのが現状である。そこで、本研究では帰属ラベルに「落ち度」、「隙」、「責任」を用い、さらにテロと殺人によって責任帰属が異なるのか否か検討をした。本研究の実験デザインは(被害者の意思(事件現場に自発的に行ったか否か):有条件・無条件)×(災害に遭遇する可能性:高条件・低条件)×(災害の種類:殺人条件・テロ条件)の3要因混合計画であった。その結果、被害者の自発的意思有条件の方が無条件よりも、災害に遭遇する可能性高条件の方が低条件よりも被害者に「落ち度」があるとされた。さらに災害に遭遇する可能性が低い場合には殺人条件の方がテロ条件よりも「隙」があるとされた。一方、帰属ラベルが「責任」の場合は条件間の差異は見出されなかった。以上から、帰属ラベルがテロ被害者への責任帰属に影響を与えることが示唆された。
著者
大工 泰裕 阿形 亜子 釘原 直樹 Agata Ako Kugihara Naoki Daiku Yasuhiro ダイク ヤスヒロ クギハラ ナオキ アガタ アコ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 = Japanese journal of interpersonal and social psychology (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.16, pp.21-26, 2016-03

Currently,scams are one of the biggest social problems in Japan.This study investigates whether empathetic observation increases individuals'awareness of their own vulnerability to scams.Moreover, we compared individuals'evaluation of imagined others' vulnerability to that of their own vulnerability.We presented two fraud scenarios (scenarioA and scenarioM)to university students and asked them to rate the victim's responsibility for being defrauded and their own or imagined others'vulnerability to scams. A2×2 between-participants design was used to analyze the relationship between empathetic observation (empathetic,non-empathetic)and the target of vulnerability evaluation(self,others).The results of an ANOVA revealed that empathetic observation did not affect attribution; therefore, the possibility of a failed manipulation was implied. As for vulnerability awareness,the interaction effect was significant in scenario M,which contrasted our expectations. Problems and implications are discussed.詐欺被害が近年大きな社会問題となっており、関係各所が様々な対策を講じているものの一向に問題が解決する気配はみられない。その原因として、詐欺に対する脆弱性認知が十分に向上していないことが考えられる。本研究ではそのような背景を踏まえ、詐欺被害事例を読んだ際に被害者に共感的観察を行うことが、詐欺に対する脆弱性認知を向上させるのかということについて、2種類の詐欺被害事例(事例A, M)を用いた質問紙によって検討した。また、同時に他者に対する脆弱性も評価させ、自己に対する脆弱性認知との比較も試みた。その結果、共感的観察の操作に問題があった可能性が示唆され、事例Aでは脆弱性認知の変化は見られなかった。一方、事例Mでは当初の予測とは異なり、共感的観察が逆効果となる可能性が示唆された。今後は、より統制された状況の設定や、新たな共変量を加えたモデルの開発などさらなる検討が必要とされる。