著者
重田 美咲
出版者
専門日本語教育学会
雑誌
専門日本語教育研究 (ISSN:13451995)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.41-48, 2020-12-31 (Released:2023-01-01)
参考文献数
13

就労者の減少と高齢化が深刻な日本の農業では、外国人材の受入れに期待が寄せられる。農業に従事する外国人材は技能実習生を中心に近年急増しており、技能実習法や改正出入国管理法の施行により更なる増加と在留期間の長期化が見込まれる。しかし、それらを対象とした研究や教材は極めて少なく、農場での日本語使用の実態も明らかでない。本研究では、農場でどのような日本語が使われているかについて、三つの農場で観察法と面接法を用いた調査を行い、抽出した語彙を日本語能力試験出題基準や職種別専門用語対訳集と比較した。調査の結果、まず、多くの場面で経営側の指示が実習生に伝わらない実態があることが明らかになった。そして、指示の表現に着目したところ、文型や動詞の難易度は高くないが、それらの動詞の多くが一般的な初級日本語教育で扱われる用例とは異なる用例で使われていることが明らかになった。また、動詞以外では、日本語能力試験の級外語彙でなおかつ専門用語対訳集にも載っていない語が多いことが明らかになった。地域語に加え、その農場が独自に使っている表現もあった。それらを踏まえ、日本語教育においては効率的な日本語講習、日本語習得を促進する職場環境のデザイン、農場オリジナル教材が手軽に作成できるツール開発と共有システムの構築、農業技能実習評価試験を活用した日本語学習が必要であることを指摘した。
著者
矢野 和歌子
出版者
専門日本語教育学会
雑誌
専門日本語教育研究 (ISSN:13451995)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.67-72, 2014-12-26 (Released:2016-11-20)
参考文献数
6

本研究は、卒業論文の実情を踏まえた指導や教材の開発を目的とし、人文・社会学系の4大学4学部の優秀卒業論文計35編を対象に引用の形式、目的など、引用の使用実態について調査した。その結果、引用の形式としては、間接引用の使用が多いという傾向が明らかになった。また、段落単位での間接引用など、既刊の教材ではあまり扱われていない類型もみられた。留学生の論説文における引用の使用について調査した矢野1)との比較では、優秀卒業論文において、「論点を分析する観点の提示」、「解釈の提示」など幅広い目的で引用を活用していることが特徴として見られた。学部間の比較では、外国語学部、社会学部の論文全編で「論点を分析する観点の提示」を目的とした引用がなされていること、20編中17編で「解釈を提示する」目的での引用が見られる点が特筆できる。社会学部の論文では、「自己の主張の補強」を目的とした引用が全編で活用されていることも特徴である。また、商学部、経営学部の論文では、「先行研究の整理」をする目的での使用が多く、目的が限定的で引用の割合も少ないという傾向が見られた。これらの結果から、指導への示唆をまとめた。
著者
林 長河
出版者
専門日本語教育学会
雑誌
専門日本語教育研究 (ISSN:13451995)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.15-20, 2016-12-25 (Released:2020-09-08)
参考文献数
9

台湾の日本語教育には逆風が吹いている。グローバル化や少子化の影響を受け、定員割れの学科が続出している。2016年の入試試験では計23校、203学科に定員割れが見られ、このうちの6校では定員の半数以下しか新入生が集まらなかった。英語シフトと就職に役立つ学科が推奨され、日本語学科の価値が改めて検討されている。さらに大卒者の失業率が平均数値より高いことに対する世論の批判もさることながら、企業側が大学の教育内容のミスマッチを指摘し、社会のニーズに合った卒業生が少ないと嘆いていることなど、高等教育は批判の渦中に置かれている。これに対して、政府も教育機関も次第に改革に向けて動き出している。日本語の人材育成といった観点から見ると、日本語学科には、カリキュラム、教員のアイデンティティー、学生のキャリア能力開発を行なう第2専攻等の内容と制度の欠如、学科の競争力の向上などの課題があり、カリキュラムの見直し、業界との連携によるビジネス・観光日本語の開発、インターンシップの導入などにより、学科の付加価値を高めるといった対策が立てられている。今後の課題として、高等教育における専門日本語教育の深化、非専攻のJOP (Japanese for Occupational Purposes)教育などの研究と実践、中等教育の日本語教育の拡大が望まれる。
著者
山路 奈保子 因 京子 藤木 裕行
出版者
専門日本語教育学会
雑誌
専門日本語教育研究 (ISSN:13451995)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.45-52, 2014

日本語母語話者大学生の文章作成技能の獲得を支援する方法の開発を目ざし、学部後半の文章作成技能獲得状況とそれに伴う認識の変化を把握するため、工学系専攻の学部から大学院に進学した直後の学生に対し、本人が学部3年生時に書いた作文の問題点を指摘するコメントと、同一主題による作文の作成を求めた。作文から文章作成技能が向上したと判断された学生に対しては、自己評価と獲得過程についての自己認識を問うインタビューを実施した。コメントには、根拠の弱さや説明不足の指摘、冗長さの整理やより適切な語・語句への提案がみられ、思考と言語表現の両面で厳密さ・明確さへの意識が高まったことが観察された。大学院進学直後の作文では、全体構造が重層化し、それがメタ言語表現などによって明示されており、学術的文章らしい特徴を強めていた。内容も、議論や判断の前提の記述が出現し、主張に至る推論の各段階が詳細に提示されるなど、議論の過程を読者と共有するために有用な記述が増加していた。インタビュー調査では、学術的文章らしい構造や表現の使用が、単に模倣や形式遵守の意識からではなく「受け手の理解を得られる効率的な伝達の要件」として内面化されていること、受け手への配慮の重要性を認識する上で「自分の表現意図が通じない」という失敗を含む対人コミュニケーションでの経験など、学術的文章執筆以外の経験が有用に働いていることが示唆された。
著者
黄 明侠
出版者
専門日本語教育学会
雑誌
専門日本語教育研究 (ISSN:13451995)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.25-32, 2011-12-16 (Released:2012-08-20)
参考文献数
11

本稿は、日本語母語話者と、中国語を母語とする日本語学習者の書いた意見文を対象に、序列の接続表現の種類とその組み合わせの傾向、およびその背景にある要因を明らかにしたものである。調査の結果、日本語母語話者と中国語を母語とする日本語学習者は全く異なる傾向が見られた。日本語母語話者が「一つ目」系列と「第一」系列という組み合わせを多く使用していたのに対し、中国語を母語とする日本語学習者は「一つ目」系列と「第一」系列をあまり使用せず、「まず」系列を使用していた。また、中国語を母語とする日本語学習者の作文の中に出てきた序列の接続表現の系列選択は、中国国内で使用されている日本語教科書の影響だけでなく、同じテーマで書かれた母語による作文との比較・検討の結果、母語である中国語の影響を受けていることが示唆された。
著者
布尾 勝一郎
出版者
専門日本語教育学会
雑誌
専門日本語教育研究 (ISSN:13451995)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.23-26, 2013-12-26 (Released:2016-04-07)
参考文献数
10
被引用文献数
2
著者
山科 直子
出版者
専門日本語教育学会
雑誌
専門日本語教育研究 (ISSN:13451995)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.9-14, 2011-12-16 (Released:2012-08-20)
参考文献数
6
被引用文献数
2

昨今、サイエンスコミュニケーションのフォーカスは、科学技術の普及啓発や理解増進活動から、データの解釈や社会における科学技術の活用方法についての議論へと大きく移行している。そのようなコミュニケーションでは、純粋な学問とは異なる価値観や、政治・経済など全く別の分野との関係性から科学技術を捉えることも必要となり、サイエンスコミュニケーションに携わる人材(サイエンスコミュニケーター)には、単に科学技術の学術的な知識を発信するだけでなく、多様な情報や問題意識を持つ人々の間をつなぎ、双方の建設的な議論を活性化する、ファシリテーターとしての役割がより求められるようになりつつある。本稿では、これまでのサイエンスコミュニケーションの考え方およびサイエンスコミュニケーター育成の取り組みを振り返るとともに、立場を異にする人々の相互理解を促すためのコミュニケーションの在り方について考察する。さらに、サイエンスコミュニケーションにおけるファシリテーター機能の重要性に着目し、さまざまな分野の専門知識を持つ者がこれからのサイエンスコミュニケーション活動にどのように関わり、その役割を果たしていくべきか、また、そのための人材育成の方向性について論じる。
著者
渡辺 政隆
出版者
専門日本語教育学会
雑誌
専門日本語教育研究 (ISSN:13451995)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.15-18, 2011-12-16 (Released:2012-08-20)
参考文献数
5

サイエンスコミュニケーションの要諦は、サイエンスをめぐる開かれたコミュニケーションである。しかしそれを阻むのが、専門用語、ないし個々の業界特有のジャーゴンである。ジャーゴンは、必ずしも特殊な専門用語とは限らない。日常語であっても、コミュニティーが異なればジャーゴンとなりうるためである。サイエンスコミュニケーションが開かれたコミュニケ-ションとなるためには、異分野コミュニケーションの壁を崩すリテラシーの共有を図る工夫が必要となる。誰もがその工夫を心がければ、サイエンスが一つの文化として社会に浸透してゆく助けになろう。
著者
フクシマ ユパカー
出版者
専門日本語教育学会
雑誌
専門日本語教育研究 (ISSN:13451995)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.3-8, 2018-12-31 (Released:2020-09-08)
参考文献数
11

タイ人日本語学習者は2012年頃から急増し、2015年の日本語教育機関調査でも2012年に比べて34.1%増の173,817人となり、ついにアメリカを抜いて世界第6位になった。その背景にはタイの教育方針、日本のサブカルチャーの人気、および日本とタイの経済的結びつきの強さという3つの要因が考えられる。この約17万人の中、高等教育機関の学習者は14.3%の24,789人であり、大学の卒業生の大半がタイ国内の日系企業に就職することを踏まえ、企業が求める日本語人材はどのようなものか、それらの要望にビジネス日本語コースがいかに対応しているか、カセサート大学を事例としてビジネス日本語コースの現状と課題を考察した。
著者
李 羽喆
出版者
専門日本語教育学会
雑誌
専門日本語教育研究 (ISSN:13451995)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.35-42, 2018-12-31 (Released:2020-09-08)
参考文献数
14

本研究は、中国の日本語専攻大学生の語彙学習の実態を解明することを目的とし、どのような語彙学習方略が使われているか、日本語能力とどのような関連性があるかを検討したものである。語彙学習方略を測定するためのKVLSSを使い、使用頻度に関するアンケート調査を3年間連続で行った。その結果、語彙学習の方略使用における10種類の因子項が見出され、日中同形語に関する中国人学習者の特徴的な学習方略を確認できた。また、因子項の中で、日本語能力に役に立つ可能性がある方略は、「ノートテイキング方略」「同形語の形態意味への注意」「人的リソースの活用」「支援要請」であることが明らかになった。学習者の語彙学習の実態を踏まえ、有効な方略を語彙教育活動に取り入れる必要性が示唆される。
著者
佐野 大樹
出版者
専門日本語教育学会
雑誌
専門日本語教育研究 (ISSN:13451995)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.19-26, 2010-12-20 (Released:2011-07-22)
参考文献数
22

本稿では、選択体系機能言語理論の概念の一つ「修辞ユニット」を用いてどのようにテクストの専門性を捉えることができるか、また、この概念を用いることで、専門性が低い作文を専門性の高い作文にどのように修正することができるか、作文指導の方法を説明する。また、選択体系機能言語理論における言語観について概説し、言語を「規則としての言語」 (language as rule) として捉えるだけでなく「資源としての言語」 (language as resource) として捉えることが、特定目的のための作文指導では肝要であることを説明する。
著者
王 健
出版者
専門日本語教育学会
雑誌
専門日本語教育研究 (ISSN:13451995)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.27-34, 2018-12-31 (Released:2020-09-08)
参考文献数
10

本研究は中国での観光業インターンシップにおける学生の案内文作成に焦点を当て、観光日本語教育における案内文作成教育の改善点を検討することを目的とする。具体的には、学生が実際に作成した案内文と、学生・メンター・教師の三者へのインタビュー調査を行った。その結果、学生は案内文の内容と語彙に関する課題を抱えていたため、情報の追加、言い換えと削除の方法を用いて独自に対応していた。メンターは、案内文の丸暗記を禁止し、観光客の視点に立った案内文作成、内省の促進などで支援していた。教師は、教科書の案内文の暗記が重要でそれ以外の指導は現実的に難しいという考えを示した。以上から、観光日本語教育では、案内文作成に対する教育の再考、教育・支援でのメンターと教師の協力、および、インターンシップに関する教師の役割の再検討、の3点が必要であることが分かった。
著者
平田 未季 舩橋 瑞貴
出版者
専門日本語教育学会
雑誌
専門日本語教育研究 (ISSN:13451995)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.53-58, 2013-12-26 (Released:2016-04-07)
参考文献数
11

本報告は、日本語学習者に聞き手を意識した研究発表をさせることを目的として、聞き手に対する配慮の実現型の一つである「注釈挿入」を研究発表指導に取り入れた。その結果、日本語学習者のパフォーマンスにおいて、ピア評価に基づく「注釈挿入」の使用、それに伴う非言語行動及び音声面での変化が現れた。

1 0 0 0 OA 法の日本語

著者
大橋 將
出版者
専門日本語教育学会
雑誌
専門日本語教育研究 (ISSN:13451995)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.15-18, 2010-12-20 (Released:2011-07-22)

一般的に、法律の文章は非常にわかりにくいと酷評されている。もちろん、法学初学者にとっても、この状況は決して歓迎されることではなく、初学者は昔から一様に嘆き悲しむ。しかし、法律家は、さまざまな非難にもかかわらず、この風潮を変えようとせず、かえって「法律学習の仕方」の類の書物を数多く世に送り出してきた。つまり、法律文書の晦渋さは自明の前提となっているといってよい。本稿では、なぜそうなっているのか、法律条文、判決文を素材に構造の一端を検討し、法律文理解のための指針を示す。