著者
高橋 晶 伊藤 ますみ 岡崎 光俊 田中 晋 原 恵子 渡辺 雅子 開道 貴信 大槻 泰介 加藤 昌明 大沼 悌一
出版者
日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 = Journal of the Japan Epilepsy Society (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.74-80, 2007-08-31
参考文献数
9

われわれは成人期に脳出血が生じ、初めてウィリス動脈輪閉塞症(もやもや病)と確定診断された側頭葉てんかんの1例を経験した。症例は36歳男性。8歳時月に1&sim;2回の嘔吐から始まる短い意識減損発作が出現した。17歳時、脳波上左前側頭部に棘波を認め側頭葉てんかんと診断された。27歳時けいれん発作重積とひき続くもうろう状態が2日持続した。その後MRIにて両側海馬硬化、右脳内出血瘢痕を認めた。36歳時、遷延する意識障害を呈し画像所見にて脳内出血を認め、もやもや病と診断された。本例の発作は、臨床症状および脳波所見からは側頭葉起源のてんかん発作と考えられ、もやもや病は偶発的に合併したものと判断した。ただし、てんかん原性獲得にもやもや病による慢性的血行動態異常が関与した可能性は考えられた。以上からてんかんの経過中であっても他の脳器質疾患の並存を考慮すべきと思われた。<br>
著者
原 實 松田 一巳 原 恵子 三原 忠紘 八木 和一 鳥取 孝安 大沼 悌一 桑名 信匡 青木 恭規 大沢 武志
出版者
日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.33-40, 2008-06-30

39歳の男性。既往歴に1歳時の髄膜炎と、5歳、6歳時各1回の単純型熱性けいれん。10歳時に複雑部分発作(CPS)で発病した。二種類の精神障害がCPS後にみられ、一種類は18歳8カ月から7回みられた不機嫌症で、意識障害がない。他の一種類は20歳2カ月から4回みられ、CPS後に意識清明期を経て現れる意識障害・反復叫喚・自己破壊的行動・攻撃性で、意識清明時に妄想、感情障害が認められた。頭蓋内脳波/ビデオ記録で左海馬と左眼窩前頭部に独立性2発作起始域が記録され、18歳7カ月からみられた左方眼球間代/偏椅・頭部回旋は、左眼窩前頭部の発作症状であった。難治性で、22歳時に左前側頭葉切除術がおこなわれた。術後17年、抗てんかん薬断薬後9年経過し、発作再発せず精神障害もみられない。精神障害の一種は左海馬起始の発作発射拡延による左眼窩前頭部の発作後機能障害、他の一種は左海馬と左眼窩前頭部が関与する発作後精神病と考えられた。
著者
Takamichi Yamamoto Seung Bong Hong Masahiro Shimizu Katsuaki Sato Yotaro Numachi
出版者
日本てんかん学会
雑誌
Epilepsy & Seizure (ISSN:18825567)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.55-65, 2014-08-15 (Released:2014-08-15)
参考文献数
12
被引用文献数
5

Purpose: To evaluate the efficacy and safety of lamotrigine monotherapy in patients with newly diagnosed partial seizures including secondarily generalized seizures or generalized tonic-clonic seizures, and those with recurrent seizures in Japan and South Korea.Methods: The study was a multi-center, open-label, evaluation of lamotrigine monotherapy in patients with newly diagnosed epilepsy or epilepsy with recurrent seizures. The primary endpoint was the seizure-free rate in the maintenance phase.Results: A total of 67 patients were enrolled; 52 patients completed 6 weeks of treatment (the escalation phase) and 42 patients completed 30 weeks of treatment (the escalation phase and the maintenance phase). The seizure-free rate in the maintenance phase for all seizure types was 43.1%. Adverse events (AEs) were reported in 82% (53/65) of patients. The most common AEs were headache (14/65, 22%), nasopharyngitis (12/65, 18%) and rash (7/65, 11%).Conclusion: The seizure-free rate with lamotrigine monotherapy in the maintenance phase was 43.1% for all seizure types. Lamotrigine monotherapy appears to be effective in patients with newly diagnosed epilepsy and those with recurrent seizures in Japan and South Korea. The safety profile of lamotrigine in this monotherapy study was similar to that observed in patients with adult bipolar disorder treated with lamotrigine monotherapy.
著者
山内 俊雄
出版者
日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.393-402, 2009-01-31
被引用文献数
1 4

わが国のてんかん研究ならびにてんかん医療についての歴史を概観する中で、今後のわが国のてんかん学・医療のあるべき姿について考えた。20世紀の半ばまで、てんかんは精神科の三大精神病の一つとされ、精神医療の対象とされてきた。その背景には、てんかん発作に対する適切な治療法が無いままに、進行性に慢性の経過を辿りながら、精神症状が出現し、精神の荒廃に陥ることが多いという、てんかんの置かれた状況が関係していたものと思われる。20世紀半ばから、てんかん学の進歩により、てんかんの診断ならびに治療が進むにつれ、てんかん発作の抑制が可能になり、それにともない、精神の荒廃にいたらずにすむようになった。そのような状況とあいまって、精神科以外に、小児科、脳神経外科、神経内科などの診療科がてんかん学・医療に参画し、基礎医学なども加えて、学際的な研究組織が生まれ、日本てんかん学会へと発展し、今日に至っている。これらてんかん学・医療の発展を基盤として、今後は、診療科にこだわらない形で、「てんかん学科」「てんかん診療科」の名の下に、学際的・包括的な学問・医療を創設する必要がある。そのためには、現在の日本てんかん学会認定医(臨床専門医)制度を、てんかん学・医療の基本的な能力を有する「てんかん学会認定医」と、さらに専門性が高く、各診療科の専門的能力を発揮する「てんかん学会専門医」(現在の学会認定医に相当)の2層構造にすべきであることを主張した。また、当事者ならびに家族を中心とした組織である日本てんかん協会との連携の重要性を強調した。
著者
菅野 秀宣 中島 円 荻野 郁子 新井 一
出版者
日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.16-25, 2008-06-30

目的:海馬歯状回において神経細胞新生が継続していることは動物実験のみならずヒトでの研究でも報告されている。今回、われわれはヒト側頭葉てんかん患者における神経細胞新生と成熟について免疫染色による検討を行った。方法:海馬での神経細胞新生はNeuro D、PSA-NCAM、NeuNの免疫染色により確認した。手術時年齢、海馬硬化の有無、発症から手術までの罹患期間、発作頻度が、新生神経細胞数におよぼす影響を統計学的に解析した。神経細胞の成熟度の指標としてNKCC1、KCC2の免疫染色を追加した。結果:新生神経細胞は、海馬硬化群で有意に少なかった(p=0.0003)。非海馬硬化群での新生細胞の74.0%はNKCC1が陽性であり、36.0%がKCC2に陽性であった。一方、海馬硬化群では各々67.6%と6.3%の陽性率であり、海馬硬化群において有意にKCC2の発現が少なかった(p=0.003)。結論:ヒトてんかん海馬においても神経細胞の新生が継続していることが確かめられた。硬化海馬では非硬化例に比べその数は有意に少なく、かつ未成熟であるといえる。