著者
今井 福司
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.147-162, 2010-09-30

本研究はLIPER2の学校図書館班調査の一環として,専門職養成の観点から,占領期日本の学校図書館改革において影響を与えた1930年代のアメリカ南部における学校図書館専門職養成の制度を検討した。その結果,以下の3点が明らかになった。まず,1930年代の南部では学校図書館の専門職は十分に配置されていなかった。次に,南部中等教育および大学に関する基準協会により高い水準の学校図書館基準が作成されていた。そして同協会の基準を達成しようと,南部各州は学校図書館整備を進めていた。こうしたアメリカ南部の基準は,日本で学校図書館専門職制度が構築される際に,文献や学校図書館アドバイザーを通じて紹介された。しかし,アメリカの制度では明確にSchool LibrarianとTeacher Librarianが区別されていたのに対して,日本においては両者の間の区別は曖昧だった。
著者
大城 善盛 鍛治 宏介
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
図書館学会年報 (ISSN:00409650)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.103-116, 1997-09-30

1997年4月現在で136を越えるインターネットOPACを, Web版OPACとtelnet版OPACに分け, 検索システム, 検索対象フィールド, 検索結果表示画面, 利用者支援機能等を遠隔利用者の立揚から調査し分析した。その結果, この2, 3年の間にWeb版OPACが急速に普及し, 数の上ではtelnet版OPACを追い越していることが分かった。また, Web版OPACおよびtelnet版OPACとも従来のOPACに比べて使いやすくはなっているものの, 主題検索機能や利用者支援機能等においてまだまだ課題を抱えていることが分かった。
著者
芳鐘 冬樹
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.18-32, 2000-03-30

計量書誌学が扱う現象において, 偏った分布がしばしば観察される。例えば, 著者の発表論文数の分布では, 少数の著者が非常に多くの論文を発表している一方で, ほとんどの著者はごく少数の論文しか発表してない。つまり, 少数の著者に論文が「集中」している。そのような分布の「集中度」を測る指標が数多く提案されているにも拘わらず, 集中度の概念そのものは必ずしも明らかになっていない。そこで, 本論文では, 「絶対的集中」と「相対的集中」という2つの観点から, 集中度の概念の定義を試みた。そして, その定義に基づいて集中度の指標を分析し, 指標の特徴を明らかにした。
著者
長谷川 昭子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.77-103, 2009-06-30

本稿は,質問紙調査によって,専門図書館職員の人材育成の実態と意識を明らかにし,その結果をもとに今後の人材育成のあり方を考察したものである。研究の結果,専門図書館では(1)OJT,Off-JT,自己啓発に対する支援など能力開発のための体制は十分整っていないこと,(2)OJT,Off-JTの中でもっとも多いのは「基礎知識」に関する内容で,自己啓発でもっとも多い方法は「自学自習」であること,(3)非正規職員は正規職員に比べて学習意欲が高いが,教育訓練の機会や勤務先からの支援において格差があること,(4)OJTが能力向上に有効であるという結果は得られず,人材育成はOff-JTの充実と自己啓発への支援を基盤とせざるを得ないことが明らかとなった。今後は,専門図書館協議会が中心となって,(1)業務の一環としての研修事業の拡充と,(2)専門図書館職員が自ら能力開発を行える教育体制の整備が必要であることを指摘した。
著者
渡辺 智山
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
図書館学会年報 (ISSN:00409650)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.19-37, 1997-03
被引用文献数
1

本稿はCarol C. Kuhlthauによる研究のレビューである。彼女は, およそ10年間, 図書館利用者の情報探索過程を追跡調査し,「知(思考)」「情(感情)」「動(行動)」の三要素から成る情報探索過程モデル (Information Search Process Model : 以下は「ISPモデル」と表記する) を構築した。このモデルは, 利用者研究にとって新たな観点を生み出したという点で評価されるべきモデルであるが, 問題解決過程という領域の狭さ,「情(感情)」の捉え方, モデルを構築するにあたってとられた調査方法など, 多くの間題点を指摘することができる。結果として以下の点が明らかになった。それは「ISPモデル」を一般化していくためには, 異なる観点によって再構築され, 図書館という枠組みに囚われることなく他の領域で検証されなければならないこと, である。この間題を克服した時, 新たに「情報」探索過程のモデルが生まれることになる。
著者
杉江 典子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.117-131, 2008-06-30

本研究の目的は,わが国の市町村立図書館におけるレファレンスサービスの利用者に関する既往調査を整理し概観することによりその傾向を明らにし,既往調査の全体像を示すことである。そのために,1970年代以降に実施されたレファレンスサービスに関する利用者調査を扱う文献29件を収集しそれらを分析した。さらに個々の調査結果からレファレンスサービスの利用者に関する調査結果を抽出し,分析した。その結果,既往調査の大半が図書館サービス全般の利用者調査の一部として行われており,調査手法は質問紙調査が主流であるなど限られた調査しか行われていないことが明らかになった。また利用者のレファレンスサービス利用として,1)調べものの利用者の割合が資料の借り出しや返却に比べると低いこと,2) 10代,20代の利用割合がその他の年代に比べて高いこと,3)学生の利用割合が高く主婦の利用割合がその他の職業に比べて低いこと,4)女性よりも男性の利用割合が高いことなどが明らかになっていることがわかった。
著者
村上 泰子 大城 善盛 生嶋 圭子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
図書館学会年報 (ISSN:00409650)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.17-31, 1998-03
被引用文献数
1

本稿は, 小規模大学の図書館で実施されているグループ(学生)を対象とした, 利用者教育の実態調査報告である。過去2年にわたって規模別に実施してきた一連の調査のしめくくりにあたる。これまで同様アンケート調査法を採用し, オリエンテーションとそれ以外の利用指導に二分し, それらの指導内容, 方法, 規模, PRの方法等ついて調査した。結果は268館中105館が図書館独自のオリエンテーションを実施し, 132館がオリエンテーション以外の利用指導を実施していた。大規模大学, 中規模大学の調査結果との比較により, 小規模大学の特徴として次の2点が明らかになった。ひとつは図書館ツアーの実施率が高いことであり, もうひとつはオリエンテーション以外の利用指導で, 中規模大学に見られたオリエンテーションのレベルと専門的指導のレベルとの両極化傾向が見られなかったことである。この他, 国公立と私立, 関東と関西, 首都圏および京阪神地区とその他, 医歯薬系とその他の比較も試みた。
著者
顧 銘
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.34-47, 2002-03-30

1980年代以降中国の図書館情報学界において,コンピュータの発展に伴い,コンピュータ技術,情報検索や情報処理といった情報学要素が徐々に伝統的な図書館学の中に浸透し,図書館情報学という用語が用いられるようになった。こうした動向の下で,各大学は図書館学教育の中に情報学要素を取り込み,図書館学教育は図書館情報学教育へと移行した。さらに,1990年代に入ると,中国の急激な社会的・経済的変動に伴い,図書館学は情報学との相補性を図りながら経済学の関連知識も多く導入し始めた。こうした変革の中で,各大学は図書館学と情報学とを統合しながら,市場ニーズに対応できる人材養成を目指して,専攻を新設したり,科目を増設したため,カリキュラムが目まぐるしく変容してきた。こうした背景を踏まえて,本稿では,北京大学と華東師範大学の2つの代表的な事例を通して1980年代以降の中国における図書館情報学教育の改革を考察する。