著者
吉田 右子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
図書館学会年報 (ISSN:00409650)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.49-62, 1997-06-30

アメリカ公共図書館が教育サービスを開始した1920年代の図書館成人教育の状況をカーネギー教育振興財団研究員ラーネッド (William S. Learned) が1924年にThe American Public Library and the Diffusion of Knowledgeにまとめた。公共図書館に高度な情報提供機能を求めたラーネッドはレポートの中で公共図書館の理想モデルを提示し「コミュニティ・インテリジェンス・センター」(community intelligence center) という名称を与えた。既存の図書館の状況を検討しながらコミュニティ・インテリジェンス・センター構築の可能性を追究したラーネッドの報告書は, 図書館界に成人教育の重要性を自覚させると共にコミュニティにおける公共図書館の役割をめぐる議論を生起させた。彼の公共図書館サービス論は今日の成人サービスの理論的基盤を提供した。
著者
春田 和男
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.152-172, 2006-09-20

日本図書館協会は,その前身組織の時代をも含めると100年以上の歴史を持ち,主に個人会員と施設会員から成る,文部科学省所管の社団法人である。協会の目的は,すべての図書館関係者の連絡,提携のもとに,図書館事業の進歩発展を図ることとされている。協会では,個人会員と施設会員の関係及び各館種間の関係が長年にわたって問題になっている。本稿では,日本図書館協会に関するデータや資料,政治学における選挙に関する文献を基に,会員種別(個人,施設),部会別,都道府県別の3つの観点から,協会の会員と役員の構成について分析した。その結果,(1)協会会員登録率の平均値,会員の増加率,会費負担額で施設会員が個人会員を上回っていること,(2)公共図書館部会所属者が個人会員,施設会員ともに過半数を占めるとともに,個人会員選出役員の大部分を占めていることが明らかになった。
著者
谷口 祥一
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.1-17, 2014-03-31

BSH第4版とNDLSHの個々の件名に付与されているNDC新訂9版の分類記号を手がかりに,BSHとNDCの組み合わせ,NDLSHとNDCの組み合わせにおいて,どの程度上位下位関係の階層構造が相互に一致するのかを定量的に調査した。照合実験の結果BSH/NDLSHにおける件名の上位下位関係が,対応するNDC分類項目間でも同じく上位下位関係となるかを調べたとき,実験の方式に依存して20%台後半から30%強の箇所で不一致となった。逆に,NDCにおける分類項目の階層関係が,対応する件名間でも階層関係となる程度を見たとき,不一致は20%から40%強と幅があった。ただし,これは対応する件名をもたないときの扱いに依存する。また,3階層に照合の範囲を拡大したときには不一致の減少が見られたが,縮約項目および不均衡項目に対処した正規化NDCの適用は大きな効果を見せなかった。NDC関連項目の活用,上位項目からの件名の限定的継承についても併せて実験し,NDC関連項目活用の効果を確認した。
著者
池内 淳
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.49-72, 2002-06-30

本研究では,まず,1991年から1993年までにおける,わが国の市町村立図書館の統計データを,三つの代表的な生産関数モデルに当てはめ,相互の比較を行った。その結果,Cobb-Douglasモデルに対する適合度が最も高く,公共図書館には規模の経済が見出された。さらに,確率的フロンティア生産関数分析を行い,わが国の公共図書館の技術的効率性を測定したところ,三ヶ年間を通じた平均値は58.3%となり,私企業としても公共施設としても低い水準にあることが明らかになった。
著者
間部 豊 小田 光宏
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.88-102, 2011-09-30

本研究の目的はレファレンスサービスにおいてI「実際の調査によく使用されるレファレンスブック」とII「回答を可能としたレファレンスブック」,及びIII「レファレンス事例の主題別頻出レファレンスブック」を明らかにすることである。レファレンスサービスの事例を蓄積したものとして,国立国会図書館の「レファレンス協同データベース」がある。そこで本研究では「レファレンス協同データベース」のレファレンス事例を対象とし,その調査過程及び回答に用いられたレファレンスブックの抽出・分析を行った。分析の結果,I・IIについて出現頻度上位100位以上のリストを得るとともに,IIIについて出現頻度上位20位以上のリストを得ることができた。その多くは一般的に基礎的なレファレンスブックと考えられたものであり,今回の研究の結果それが事実であることを確認できた。
著者
田村 肇
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.145-162, 2002-02-28

本研究では,公共図書館の効率性を測るための手法として包絡分析法(Data Envelopment Analysis)を導入し,実際に東京都の市区立図書館の効率性の測定に応用する。効率性は産出最を維持したまま(複数の)投入を同じ割合で削減することが可能であるかどうかによって定義される。投入としては職員数,蔵書冊数,受入資料数,図書館数,奉仕人口を用い,産出としては貸出冊数を用いている。各図書館に関して技術効率得点(CCR効率得点),純粋技術効率得点(BCC効率得点),規模効率得点を求めた。その結果,CCR効率得点で考えた場合,分析の対象となる図書館は平均で80%の効率であることが明らかになった。このことは非効率な図書館が効率的な図書館と同じように運営することができるならば,産出を維持したまま投入を20%削減することが可能であることを意味している。
著者
中村 百合子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.105-124, 2005-09-20

本稿では, 1947年から1948年に, 日米の関係者の協働によって編集された『学校図書館の手引』の内容・記述を, 複数の日本人の編修委員が当時目にしたと述べていた米国の8冊の図書と対照させながら, 分析した。特に第2章第1節「設置の基準」と第4章第2節「図書および図書館利用法の指導」には, 当時の米国の図書の影響がはっきりと認められた。しかしその他の章や節, たとえば第3章「学校図書館の設備」;第4章第1節「図書委員の構成と活動」;同第3節「読書指導の実施」;同第5節「学級文庫の指導」;同第6節「読書会・発表会の開催と読書クラブの奨励」;同第9節「図書の増加と図書費の問題」では, 日本人執筆者の判断によると考えられる記述が目立った。つまり, 『学校図書館の手引』には, 米人ライブラリアンの指示や, 当時の米国の学校図書館に関する図書の内容・記述が反映されていたが, そればかりではなく, 日本人の執筆者各人の経験や専門分野の知識も少なからず反映されていた。
著者
河村 俊太郎
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.110-126, 2012-06-30

大学組織及び図書館組織の中における東京帝国大学附属図書館の役割について,そのモデルや実際の運営から検討した。当時の図書館組織のモデルとなるのは二つあった。一つはドイツの大学に代表される学問型であり,このタイプの図書館においては,中央と部局は切り離されており,価値のある図書だけを購入していた。もうひとつは,アメリカの伝統ある大学に代表される教育型であり,このタイプの図書館は,部局と中央が組織的な関係を持つことを意識し,また教育的な資料も収集していた。東京帝国大学は,研究型の図書館を望み,附属図書館の基礎を築いた三人の館長は教育型を重視していた。実際の附属図書館の運営を見てみると,部局図書館と附属図書館は別々に運営され,図書館員は大学図書館についての知識は十分に身につけていなかったが学問に関しての知識は持っていた。そして,少なくとも関東大震災ごろには図書館員を中心に選書は行われていたが,教員による選書や授業に関連した選書は十分に行われなかった。ここから,少なくとも1920年代後半には附属図書館の運営は研究型により近いと結論された。
著者
岡野 裕行
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.270-287, 2008-12-25

文学館研究は図書館学や博物館学に比べると発展が遅れている学問分野であるが,それでも近年においてはその数が少しずつ増加している傾向にある。その時期は一般に,全国文学館協議会が発足した1995年以降であると考えられている。この点を確認するために,国立国会図書館の「雑誌記事索引」による文献調査を行ってみたところ,1995年以前と1996年以後との間で文献数やその内容面に関する相違点を見出すことができた。また,同時期には文学館に関する図書についても同様の変化が見られた。すなわち文学館研究は,ここ10年ほどの間に発展していったものと推測される。
著者
浅倉 秀三
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.159-170, 2004-12-24

LC(米国議会図書館)はMARC21をXMLデータベースヘ変換し,それをMARCXMLとよんでいる。そして,MARCXMLをDublin Coreなど種々なデータ形式との相互変換のバスとして位置づけている。MARCXMLのXML構造は,LCが提示する書誌データのための標準化したXML構造である。本稿では,日本語書誌データ処理技術として,日本語MARCをMARCXMLのXML構造でXMLデータベースヘ変換する実験を行った。そして,日本語MARCにこの構造を採用することの妥当性を実証した。その結果,その構造を採用することによって,同一の操作環境でMARC21, JAPAN/MARCとTRC MARCのデータを閲覧できることが明らかとなった。さらに, JAPAN/MARCとTRC MARCのように,タグとサブフィールドコードが統一されている場合は,それらのデータを混在して利用できることが明らかとなった。
著者
河村 俊太郎
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.131-146, 2010-09-30

本研究は東京帝国大学図書館を対象に,図書館商議会の運営及び中央と部局の関係を中心とした図書館組織について,一次資料の検討を中心に歴史的に検討した。東京帝国大学では特に1918年以降は学部所蔵の図書については学部と附属図書館両者が権利をもつ曖昧な管理体制となっていた。こういった状態の中で,学部の意図を附属図書館の運営に反映するために設立された図書館商議会でも,附属図書館の運営以外にも部局と中央の関係が議題として取り上げられるようになっていた。行われていた議論からは,東京帝国大学の図書館組織が,中央から部局ではなく,いくつかの部局からの中央へのコントロールという側面が強いものであったことが考察された。
著者
岸田 和明
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.49-66, 2001-11-30
被引用文献数
2

本稿の目的は, 索引作成支援システムを応用目的とした, 文献の自動分類あるいは自動索引作成のための統計的手法について実証的な分析を試み, より優れた方法を提案することにある。このために, まず, 自動分類法と自動索引法に関する先行研究を概観し, その諸手法を整理する。次に, 約9, 000件のレコードから成る『図書館情報学文献目録』のデータを使って, それらの諸手法の性能を実証的に比較評価する。そして, その結果を踏まえて, 情報検索分野のレレバンスフィードバック手法を応用した独自の方法を提案し, この方法の性能が既存のものよりも高いことを実証的に示す。
著者
金井 喜一郎
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.190-208, 2010-12-30

音楽資料の検索に関しては,典拠コントロール,シソーラス,OPACシステムなどの研究があるが,利用者が求める書誌情報を効果的かつ効率的に提供する研究は限られている。本研究では音楽図書館のOPACの検索機能について,利用者の検索要求に基づきその機能要件の導出を試みる。まず利用者の検索要求を把握するためにレファレンス記録の分析を行う。調査対象は国立国会図書館および昭和音楽大学附属図書館(2種類)の記録である。各記録の内容分析により音楽資料に関する利用者ニーズを類型化し,そのニーズを表現する典型的な検索課題を作成する。次にその検索課題を用いて国内の音楽図書館5館のOPAC検索機能を評価する。調査の結果,音楽資料に関するOPAC検索機能要件として12の機能が導き出された。このうち「音高や歌詞の検索」や「収録曲ごとの詳細検索」は現在のOPACでは実行が難しく,これらを可能にする機能は今後の課題である。
著者
百鳥 直樹 小泉 公乃
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.24-41, 2024 (Released:2024-02-29)
参考文献数
73

本研究の目的は,2000 年代前半の国立大学改革によって変化した国立大学図書館組織を類型化したうえで,その特徴を解明することである。現在の国立大学図書館組織を8 つに類型化し特徴を明らかにした。組織分類の特徴から,1)法人化前の組織形態を継続する組織,2)学内の他部門と統合した組織,3)図書館以外の業務も担当する組織と,組織が多様化していることを確認した。また,法人化前後の比較や学部数による大学規模の分析から, 大規模な国立大学(8 学部以上)が法人化前の組織体制を継続しているのに対し,中小規模の大学(7 学部以下)では他部門組織との統合,統合に伴う管理職数の削減,図書館管理職の職位の格下げが行われていることが明らかになった。そして,これら組織再編の多くが,大学全体の業務の合理化・集約化を目的に行われた。
著者
山田 翔平
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.1-23, 2024 (Released:2024-02-29)
参考文献数
67

本研究では,大学図書館の主な利用者である大学生の視点を考慮し,大学生に意識される大学の属性と大学図書館蔵書の関係を,ページ数に着目して高い解像度で記述した。大学の属性は,設置形態,入試偏差値,所在地の3 つを取り上げ,属性ごとに大学を群に分けて蔵書を比較した。大学図書館蔵書の分析でほとんど取り上げられていないページ数に着目し,ページ数の記述統計量とヒストグラムを分析した。経済学,理学,文学,工学の 4 つの学問分野を取り上げ,分野ごとの分析結果を見比べながら属性ごとの蔵書の特徴を精緻に記述した。4 分野で計251 校,334,594 タイトルを対象とした。4 分野に共通して見られた特徴として,設置形態においては,公立大学が所蔵するタイトルのページ数の平均値・中央値が国立大学・私立大学に比べて大きく,公立大学が所蔵するタイトルの分布は国立大学・私立大学に比べてページ数の多い方に寄っていることが得られた。
著者
黒木 努
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
図書館学会年報 (ISSN:00409650)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.54-64, 1967 (Released:2023-07-29)

Increasing university students and the establishments of more universities are the current of the world. The Japanese colleges and universities are no exception. Each college and universities has own history, and its scale or structure is various. We cannot grasp likeness among universities. It is important to render these universities a library service without the declining of its quality in a period of sudden growth and expansion. Many university librarians consider quality matters more than quantity in the estimating of book collections. The present author regards quantity as serious as quality. There are five standards for college and junior college libraries in Japan. Those standards use only student body for estimating size of college library collection. College library has an obligation to cater for faculty as well as students. Accordingly, it is not reasonable to estimate the size of book collection based only upon the student body. The quantitative standard of college libraries must be estimated based on the factors; departments of instruction, the course of study, faculty and the student body, etc. The author tried to find out the formula to estimate the minimum size required for an college library, combinding each factor. The standards for the blueprint of college and university libraries should be revised according to needs of the times. College librarians should show the satisfactory standards of quantity for accrediting agency and appropriating authorities.