著者
新藤 透
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.1-16, 2013

選書論の研究は,論文や研究書が数多く刊行され学界が注目するテーマとなっている。しかし発表される研究のほとんどが戦後,特に1970年代以降の議論を取り上げており,それ以前を含めての歴史的な研究が見落とされている感があった。本稿ではこのような認識に立ち戦前期,特に明治時代に刊行された図書館学や隣接分野の通俗教育書の図書や論文から選書に関する記述を摘出し,当時どのよう意見があったのか明らかにすることを目的とした。検討の結果,図書館学書は比較的利用者の立場を考慮しての選書を心懸けるべきとの認識が目立つ記述が多かったが,通俗教育書では国民を「良書」によって「良い」方向に導くべきとの見解を強調している書籍が多かった。このように明治期の選書論とひとくちにいっても多様な議論があったことが明らかになった。
著者
金井 喜一郎
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.168-180, 2015

音楽資料には,一媒体多作品,多責任性,多言語,作品の可塑と断片化などの特徴があり,利用者もこの特徴に関連した検索要求を持っている。しかしながら,現状では音楽図書館のOPACでさえ,これらの特徴に十分に対応できてきないことが先行研究で示されている。そこで本稿では,この問題を解決する一つの方法として音楽資料に関するOPACのPRBR化を目指し,音楽資料に特化したMARCを対象として,著作および表現形の機械的同定のための基礎的な検討を行う。具体的には,音楽資料に特化したMARC(Toccata MARC)からクラシック音楽に関するデータ300件を抽出し,それらのデータの分析結果を参考に,著作および表現形の同定キー作成方法を探る。本研究が最終的に目指すのは,(1)音楽資料に特化したMARCを対象に,(2)文字列照合に基づく同定キーのクラスタリングによって,(3)著作だけではなく表現形の同定も行うことである。本稿は,この研究の第一段階となるものである。,
著者
須賀 千絵
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.83-96, 2012

英国の自治体Wirralの公共図書館閉館問題に対し,2009年に,1964年公共図書館・博物館法に基づく中央政府の審問が実施された。本研究では,審問の過程を検証し,審問の制度の意義と課題について考察した。その結果,Wirralにおいては,審問によって図書館閉館の決定を撤回させることができ,緊急事態への対応という点で,一定の効果があったことが明らかとなった。同時に,課題として,第一に,審問は政治を超えた安定的制度ではないこと,第二に,問題を大臣に通報するにはロビー活動によるしかないことから,通報にあたっての市民の時間,労力,金銭的負担が大きいこと,第三に,適正な審問が実施できるかどうかは審問官個人の力量に左右される可能性があること,第四に,定期的なモニタリング等によって継続的に中央政府が介入しない限り,問題点を是正するという効果を持続させることはできないことを指摘した。
著者
利根川 樹美子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.101-123, 2010-06-30 (Released:2017-05-04)

本稿では,戦後日本の大学図書館における司書職法制化運動の経緯,および関係団体と行政機関の交渉の経過と内容を示し,運動の意義と限界,提案の実現を妨げた要因,焦点となった大学図書館司書の資格について考察した。その結果,司書職確立の観点に立つならば,当時の大学図書館において必要であった取り組みとして,少なくとも次の四つの事項が挙げられることを明らかにした。(1)大学図書館全体を対象とし,大学図書館司書の資格の内容,認定方法等を具体的に検討して,根本からの解決を図ること,(2)そのために,関係者の考え方において,大学設置主体別の立場から大学図書館全体の立場へ転換を図ること,(3)司書職法制化の提案における根本的な問題について検討し,解決を図ること,(4)以上の事項について取り組むために,団体組織による継続した運動を形成することである。
著者
土屋 深優
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.87-103, 2021

<p> 本研究の目的は,社会的包摂の視点からコミュニティ図書館の意義と取り組みを明らかにすることである。研究方法として文献調査とロンドンのコミュニティ図書館6 館の運営責任者へのインタビュー調査を用い,社会的包摂の視点から考察を行った。調査の結果,コミュニティ図書館には社会的包摂概念が十分に浸透していることが明らかとなった。コミュニティ図書館は地域の閉館した図書館を維持することで,住民の情報,娯楽,文化へのアクセスを保障しており,具体的な取り組みとして,図書館を「場」とした人々の交流を促進し,孤立感の緩和に取り組んでいる。更に,従来は主に「包摂に取り組む側」として捉えられていたボランティア職員を,運営責任者は「包摂する側であり,される側である」と位置付けていた。それゆえコミュニティ図書館ではボランティア職員のスキルやコミュニケーション能力の向上,就労支援に意識的に取り組んでいることが明らかとなった。</p>
著者
浅石 卓真
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.38-53, 2016

本研究では,高校理科教科書を読み進めていく過程に対応した知識の形成過程を明らかにすることを目的として,専門用語を頂点,同一段落内での共起関係を辺とする語彙ネットワークの成長過程を4科目(物理,化学,生物,地学)の教科書で分析した。複数のネットワークの統計量の推移から,知識すなわち概念の体系が形成されていく過程は以下のようにまとめられる。(1)全体的に新しい概念はコンスタントに出現していくが,新しい概念が多く出現する部分も見られる。(2)殆どの概念は初出時から他のいずれかの概念と結びついており,部分的な概念体系の中で最大のものが一貫して概念全体の大部分を占めている。(3)個々の概念はより多くの概念と直接的に結びつけられていく。また,最大の概念体系の中で概念同士は平均で2〜3,最大でも4〜8程度の概念を介して間接的に結びついており,部分的な概念集合の中で強く結びついている。(4)少数の概念が特に多くの概念と直接的に結びついたり,概念同士の間接的な結びつきを仲介・媒介する傾向は次第に弱まる。いずれの教科書でも専門用語がランダムに出現した場合とは語彙ネットワークの成長過程は明らかに異なり,教科書間で多くの傾向が共通する一方で科目ごとの特徴も一部に見られた。
著者
浅石 卓真
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.123-140, 2017

<p>本研究では,中学・高校の理科教科書における知識の潜在的規模を推定した上で,実際の教科書ではそのうちどの程度がカバーされているかを分析する。そのために,語の出現頻度分布に関する2 つの言語モデル(Zipf-Mandelbrot の法則と一般化逆ガウス・ポアゾン分布)を実際のテキストに当てはめて,科目の概念が全て出現するまでテキストを仮想的に大きくした場合の語彙量を推定した。その上で,実際の語彙量と推定された潜在語彙量との比率を計算した。主な結果は以下の通りである。(1)各科目の潜在語彙量のうち,テキスト上で実際に出現するのは40%~60%程度である。(2)分野間で比較すると,生物分野の教科書で最も語彙が出尽くしており,物理,化学,地学の順に語彙が出尽くさなくなる。(3)学年間で比較すると,概ね高校の上級学年より下級学年の教科書の方が語彙が出尽くしている。(4)時代間で比較すると,1977 年と 1969 年告示の学習指導要領に基づく教科書が,それ以外の時期の教科書よりも語彙が出尽くしている。これらと実際の語彙量による比較結果とを組み合わせて各分野・学年・時代別の教科書を特徴付け,各分野の特性,学年に応じた専門性,時代ごとの教育政策の点から仮説的に解釈した。</p>
著者
木川田 朱美 辻 慶太 キカワダ アケミ ツジ ケイタ
出版者
日本図書館情報学会
巻号頁・発行日
2008-03

本研究ではAmazon.co.jp の書誌リストをNDL-OPAC に突き合わせる形で国立国会図書館における納本状況を調査し,成人向け出版物のほとんどが納本されていない現状を示した。また成人向け出版物を刊行している出版社の納本状況を調査し,一般出版物は納本しているにもかかわらず成人向けだけは納本していないといったパターンも確認した。さらに国立国会図書館,取次,出版社に聞き取り調査を行い,日本の納本制度の運用上における問題点を明らかにした。2008年度日本図書館情報学会春季研究集会発表年月日:2008年3月29日場所:東京大学本郷キャンパス
著者
薬袋 秀樹 Minai Hideki
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会春季研究集会発表論文集 (ISSN:21885982)
巻号頁・発行日
pp.13-16, 2016

日本図書館情報学会2016年春季研究集会:2016年5月28日(土)白百合女子大学(東京都)『日本図書館情報学会春季研究集会発表論文集』2016年度,2016.5,p.13-16.(2016.5一部訂正)
著者
川村 敬一
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.1-25, 2004-07-07 (Released:2017-05-04)
被引用文献数
1

本研究では一般分類法の主類の選定と順序に関して,その哲学的および社会歴史的背景を考察する。このため1870年のHarrisの体系を起点に,現在までに考案され,単行本形式で出版された28の一般分類法(内訳は,普遍分類法11,統一分類法15,一館分類法2)を研究対象とする。一般分類法の主類は現実世界で確認される学問分野を基礎にしているが,世界観の相違と記号法の制約により,主類の数と順序は一様でない。さらに,一館分類法は自館の蔵書構成を反映し,国家の統一分類法はその社会歴史的背景を考慮している。普遍分類法だけが哲学的原理を保持している。筆者は体系の中心部が自然科学から始まるBrownのSC(1906), RanganathanのCC(1933), BlissのBC(1940), BCA/CRGのBC2(1977),およびUnesco/FIDのBSO(1978)が,進化論的発想に基づく普遍分類法の新しい系譜であると考える。これらは一般分類法における脱デューイの歩みでもあり,その歩みは1876年のDDCから数えて百年後に完結したのである。
著者
川村 敬一
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.1-25, 2004

本研究では一般分類法の主類の選定と順序に関して,その哲学的および社会歴史的背景を考察する。このため1870年のHarrisの体系を起点に,現在までに考案され,単行本形式で出版された28の一般分類法(内訳は,普遍分類法11,統一分類法15,一館分類法2)を研究対象とする。一般分類法の主類は現実世界で確認される学問分野を基礎にしているが,世界観の相違と記号法の制約により,主類の数と順序は一様でない。さらに,一館分類法は自館の蔵書構成を反映し,国家の統一分類法はその社会歴史的背景を考慮している。普遍分類法だけが哲学的原理を保持している。筆者は体系の中心部が自然科学から始まるBrownのSC(1906), RanganathanのCC(1933), BlissのBC(1940), BCA/CRGのBC2(1977),およびUnesco/FIDのBSO(1978)が,進化論的発想に基づく普遍分類法の新しい系譜であると考える。これらは一般分類法における脱デューイの歩みでもあり,その歩みは1876年のDDCから数えて百年後に完結したのである。
著者
國本 千裕 宮田 洋輔 小泉 公乃 金城 裕奈 上田 修一
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.199-212, 2009

本研究は読書の行為に焦点を当て「読書とはいかなる行為であるのか」を明らかにすることを目的としている。既存の読書研究は,読書の対象や,児童や生徒に対する読書指導といった側面に焦点を当てるものが多かった。これに対して本研究は,個人の行う読書は様々な次元からなる行為であると考え,成人を対象として読書の次元を明らかにしようと試みた。20代から40代の計29名を対象にフォーカス・グループ・インタビューを5回実施し,発言を分析した結果,読書とは,対象(何を読むのか)に加えて,志向(なぜ・何のために読むのか),行動(どのように読むのか),作用(読んだ結果何を得るのか),場所(どこで読むのか)の五つの次元から成る行為であることが明らかになった。特に対象は,物理的媒体,ジャンル,内容評価といった観点からみられる可能性が示唆された。
著者
河村 俊太郎
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.110-126, 2012-06-30 (Released:2017-04-30)

大学組織及び図書館組織の中における東京帝国大学附属図書館の役割について,そのモデルや実際の運営から検討した。当時の図書館組織のモデルとなるのは二つあった。一つはドイツの大学に代表される学問型であり,このタイプの図書館においては,中央と部局は切り離されており,価値のある図書だけを購入していた。もうひとつは,アメリカの伝統ある大学に代表される教育型であり,このタイプの図書館は,部局と中央が組織的な関係を持つことを意識し,また教育的な資料も収集していた。東京帝国大学は,研究型の図書館を望み,附属図書館の基礎を築いた三人の館長は教育型を重視していた。実際の附属図書館の運営を見てみると,部局図書館と附属図書館は別々に運営され,図書館員は大学図書館についての知識は十分に身につけていなかったが学問に関しての知識は持っていた。そして,少なくとも関東大震災ごろには図書館員を中心に選書は行われていたが,教員による選書や授業に関連した選書は十分に行われなかった。ここから,少なくとも1920年代後半には附属図書館の運営は研究型により近いと結論された。