著者
杉江 典子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.71-89, 2017

<p>本研究の目的は,無線周波個体識別の技術を応用した観察法を用いて利用者の情報探索行動に関するデータを収集し,クラスタリングにより利用者を類型化すること,位置情報を用いた分析の利点を検討することである。2012 年に千代田区立千代田図書館において動線調査と質問紙調査を実施し,取得した209 人の位置情報を,1)訪問地点の範囲の広がりと集中,2)移動経路の類似度により分析した。その結果,1)資料を借りた利用者の多くが,短時間滞在し特定の書架で資料を探していること,資料を借りなかった利用者は,より多様な行動を取っていること,2)クラスタ1 には,借りる資料を探すために館内を巡る利用者が多いこと,クラスタ2 には資料を閲覧して過ごした利用者が多いこと等が明らかになった。さらにRFID を用いて得た位置情報は,目視の位置情報に比べ客観的で論拠として示しやすいこと,統計処理に適していることなどの利点が示された。</p>
著者
杉山 悦子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.1-19, 2017

<p>沖縄で1954 年度から60 年度に適用された基準教育課程の国語科と社会科を中心に分析し,1950 年代の沖縄において図書館および図書館資料が教育課程でどのような位置にあったかを検討した。国語科試案では読書や図書館利用計画がカリキュラム化され,社会科試案では事典,統計,新聞,地図など多様な資料を使う問題解決学習が設定されていた。学校図書館法の無いなか,1955 年度の琉球政府文教予算では"資本"としての図書購入費用が計上されていた。1957 年の社会科改訂においても読書活動,問題解決学習,資料を活用する単元,自発的学習のための図書館活用方針は継続され,文部省の指導要領改訂とは異なる動きをみせていた。学校以外の"図書館"施設には必然的に琉米文化会館が含まれることから,図書館の活用教育が文化政策に絡めとられる構造にあったことが推察された。本研究の過程で基準教育課程各教科編の現存を確認した。</p>
著者
古賀 崇
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.137-138, 2016

「博物館学の射程の狭さに対するメディア論からの応答」という本書の意義を示しつつ、「"可能性としての周縁性"に対する制度化の動き」「スペクタクル化」の2点について著者への問いを記した。
著者
赤山 みほ
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.242-254, 2016 (Released:2017-01-08)
参考文献数
29

本研究の目的は,地方公共団体が公立図書館に指定管理者制度を導入する際の選考プロセスの実態と課題を明らかにし,解決策を提示することである。文献調査では,制度成立の経緯,法的位置づけ,入札方法に問題があること,質問紙調査では,約半数の地方公共団体が,入札方法に公募型プロポーザル方式を用いていること等が明らかになった。これらから,公立図書館へ指定管理者制度を導入する際には,透明性と公平性の確保のため,指定管理者に関する情報公開条例を制定し,入札方法に競争的対話方式等を取り入れることが望ましいと結論づけた。
著者
安形 麻理 小島 浩之 上田 修一 佐野 千絵 矢野 正隆
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.129-147, 2014-12-31

本稿の目的は,4年生大学図書館,大学院大学図書館,国立国会図書館,都道府県立図書館に悉皆質問紙調査を行うことにより,日本の図書館におけるマイクロ資料の保存の現状を把握することである。902件(回収率62.8%)の有効回答と予備調査4件の合計906件を分析した結果,回答館の52.3%にあたる474館がマイクロ資料を所蔵していた。マイクロ資料を所蔵している回答館のうち,47.5%がマイクロ資料を長期保存の媒体と位置付け,30.0%が1年に1回程度以上の頻度で受け入れを続けていること,11.4%の図書館で所蔵数が把握できていないこと,44.3%の図書館で代表的な劣化であるビネガーシンドロームが発生しているが,24時間の空調管理は31.6%,湿度設定は22.7%のみで可能であることなどが明らかになった。ビネガーシンドロームは加水分解により発生,進行するため,湿度の管理が非常に重要となるが,根本的な対策である環境改善が進んでいない現状が確認された。
著者
河井 弘志
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.97-112, 2002-01-31

19世紀のドイツの民衆図書館は,下層民衆を対象とする貧民給食所のような慈善図書館であり,英米の影響を受けたネレンベルクらは,これを全住民を対象とする図書館に変革しようとした。民衆教育普及協会事務局長ヨハネス・テーフスは,下層民衆のための民衆図書館の普及に力を注いだ1人であった。彼は社会民主主義の影響を受け,下層民衆と労働者の教育の充実につとめ,民衆学校とギムナジウムに二分する複線型学校制度を批判した。のちにネレンベルクらの影響によって全住民のための民衆図書館論に転換し,閲覧室つきの図書会館を主張し,図書館の中立性を守るために公立化を回避し,有料制もやむをえないと言った。しかしテーフスのとらえた全住民の中心には常に下層民衆があり,これが彼の民衆図書館思想を根底から規定していたようである。
著者
古賀 崇
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.111-127, 2001-03-31

アメリカ合衆国の連邦政府刊行物寄託図書館制度(FDLP)は,19世紀半ばより政府刊行物への無償のアクセスを保証する制度として存続してきた。しかし,政府情報提供の電子化が進行するにつれ,寄託図書館制度の改革が求められるようになった。寄託図書館制度を管轄する政府印刷局(GPO)は,1993年制定の「GPO電子情報アクセス推進法」に基づき,政府情報のオンライン・データベースとして"GPO Access"を構築した。GPOはまた1996年より,寄託図書館や他の政府機関との協力関係に基づく「寄託図書館制度の電子化」という方向性を打ち出し,電子化された政府情報の永続的アクセス保証への取り組みを進めている。しかし,GPOの将来計画は,電子的な環境に対応しうるように,寄託図書館制度の構造を抜本的に変革するまでには至っていない。本稿は,こうした「寄託図書館制度の電子化」の過程とその課題,およびその政策形成上の背景について論じる。
著者
和気 尚美
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.135-151, 2015-09-30

デンマークでは異なるレベルのアクターが協力して移民に対し公共図書館サービスを提供している。本研究では,地域レベル3つ,国レベル2つのアクターを取り上げ,移民に対する図書館サービスに関わるアクターの機能と関係について検討した。調査から得られたデータは,予算の提供,多言語資料・専門的助言の提供,ネットワーク形成支援の3点から考察した。そして 1)プロジェクトは主に文化局の助成事業によって支えられており,文化局が助成対象を図書館に限定せず,関連アクターにまで広げているため多様なアクターのプロジェクトの実施を可能にしていること,2)統合図書館センターが移民に対する図書館サービスを専門に扱うナショナルセンターとして明確な立場にあるため多言語資料や専門的助言に関するニーズは統合図書館センターに凝集していること,3)各アクターは異なる2つのアクターの協力関係を支える機能を有していることを示した。
著者
大場 博幸
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.65-81, 2015-06-30

憲法上の表現の自由と図書館の役割を結び付ける議論を「表現の自由」目的説と定義し,その展開を検討した。CIPAをめぐる2003年のALA判決は内容に基づいた資料選択が避けられないことを理由に図書館を非パブリック・フォーラムとした。ALAは1990年代から図書館=限定的パブリック・フォーラム論を採用したが,表現の自由の保護の徹底は図書館員の裁量を限定しないものだという誤解があった。日本でも同様の誤解から資料請求権が提唱されたが,法律家はそれを否定している。2005年の船橋市西図書館蔵書廃棄事件判決における「公的な場」への言及は図書館への限定的パブリック・フォーラム論の適用であるという議論が現れたが,優勢とはなっていない。このように「表現の自由」目的説は成立しなかったが,それによって現実の図書館も,「図書館の自由」も特に影響を被ることはなかった。
著者
橋本 麿美
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.215-231, 2015-12-31

本稿の目的は,1996年から2015年の間に実施された連邦図書館政策の動向を明らかにすることである。図書館サービス技術法(LSTA)を含む1996年博物館図書館サービス法(MLSA),2003年改正法,2010年改正法を対象に(1)改正法案の成立過程,(2)LSTAの改正内容,(3)実施機関である博物館図書館サービス機構(IMLS)の役割の変化を分析した。その結果,第一にMLSAの改正法案は,図書館界の提案内容が反映されており,議会において短期間で成立したこと,第二にLSTAの目的は「統合」から「連携」へと変容し,館種間での資料共有や情報へのアクセス支援が進められ,また教育,労働政策分野等との連携協力への取り組みが増加したこと,第三に連邦政府の図書館政策に関与する組織の再編が進められ,補助金交付,政策助言,統計業務がIMLSに集約されたことが明らかになった。
著者
薬袋 秀樹
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会研究大会発表論文集
巻号頁・発行日
pp.91-94, 2016-11

「公立図書館の設置及び運営に関する基準」(1992)は、大臣告示されなかったが、都道府県教育委員会に通知された。本研究の目的は、この基準に関する議論の特徴を明らかにすることである。関係文献を収集・分析した結果、取り上げている雑誌や論者は限られること、図書館問題研究会は検討の途中から積極面を評価する方針に転換したこと、同時に、これまでの文部省の図書館行政をほぼ全面的に否定していること等が明らかになった。
著者
渡邊 由紀子 兵藤 健志
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会研究大会発表論文集 (ISSN:21879990)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.85-88, 2014

大学図書館の学生協働において図書館職員に求められる役割と専門性を明らかにすることを目的に、九州大学附属図書館の学生協働の実践例を対象として、その活動内容を業務日誌等の記録をもとに分析し、学生スタッフと図書館職員それぞれが果たしている役割を特定した。図書館職員には経営管理能力、コミュニケーション能力等の汎用的な能力に加えて、図書館固有の専門的な知識、教育工学等に関する知識、所属大学の教育に関する知識が必要であることがわかった。
著者
鈴木 守
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.90-102, 2007-06-20

本稿では,NEA・ALA合同委員会が,1941年に出版された研究報告書Schools and Public Librariesに掲載された「学校図書館サービスの原則」において,学校図書館サービスを教育委員会の責任とする原則を表明した過程を明らかにするために,NEA・ALA合同委員会の関連文書を調査すると共に,Schools and Public Librariesとその原稿の内容の比較検討を行った。NEA・ALA合同委員会は,公共図書館との活動の重複を根拠とした学校図書館の必要性に対する疑問や学校図書館サービスの責任の所在に関する議論に対して,学校と公共図書館の関係と学校図書館の基本原理を明らかにするための研究を計画した。合同委員会は,学校図書館が公共図書館との重複ではなく,学校の教育計画の不可欠な要素と位置付け,学校図書館サービスにおける教育委員会の役割と責任を明確にした。
著者
浅倉 秀三
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.112-122, 2015

書誌レコードをMARCXML形式へ変換すれば,LCの変換XSLスタイルシートでそれをDC,MODSやMARC Tagsなどの形式へ変換することが可能になる。ISO2709規格の書誌レコードをMARCXML形式へ変換するプログラムはすでに開発されている。本稿の目的は,LCのMARCXML形式からMODS形式への変換スタイルシートはNDLの書誌レコードを正しく変換できるかどうかを調査し,問題があればそれに対する解決策を提案することである。実験の結果,属性scriptの値が正しくない場合もあるという問題が明らかになった。そこで,それに対する解決方法を提案した。また,その他の問題は見つからなかった。本稿によって,LCのその変換スタイルシートは,少しの修正でNDLの書誌レコードにも有用であることが明らかになった。また,同様の修正で非ラテン文字を用いる国や地域の書誌レコードにも有用であると考えられる。
著者
西村 正守
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
図書館学会年報 (ISSN:00409650)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.44-52, 1974-07