著者
長澤 多代
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.18-34, 2012-03-31

本稿の目的は,アーラム・カレッジの解釈的ケース・スタディによって,"図書館員による教員へのアプローチの中で,何が教員と図書館員の連携を促す要因となっているのか"という研究課題を明らかにすることである。文献調査及び訪問調査で得た情報を帰納的分析法で分析した。その結果,次のことが明らかになった。1)アラーム・カレッジの教育目標が【学ぶ方法の習得】であるために,多くの授業科目で課題探求型の課題を与えている,(2)学生の[情報リテラシー]は低く,図書館員は初歩的な「図書館サービス」に多くの時間と労力を投じているという【図書館員の気づき】があった。[学習成果]は低く,無関心や誤解という[教員の図書館観]のために,教員は学生の図書館利用を促さなかった,(3)図書館員は,教員との【つながり方を開拓】することが重要であると考え,自身の役割を【ファシリテーター】と捉え,【事前対策的な働きかけ】によって教員との連携を構築しようとした。
著者
長澤 多代
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.185-201, 2012-12-30

本稿の目的は,アーラム・カレッジの解釈的ケース・スタディによって,"図書館員による教員へのアプローチの中で,何が教員と図書館員の連携を促す要因となっているのか"という研究課題を明らかにすることである。文献調査や訪問調査で得た情報を帰納的分析法で分析した。本研究課題について,これまでに,原因となる条件,文脈,現象について明らかにしていた。今回明らかにしたのは,学習支援に関する行為/相互行為の戦略である。その結果,次のことが明らかになった。・図書館員は,高い学習効果を得られる学習支援を実現するためには,【カスタマイズ型の支援】が有効だと考えた。・これを実現するために,【課題探求型の授業科目】を担当する教員に焦点を定めて学習支援の案内をしたり,各授業科目の【課題に関する主題】を支援内容に反映させたり,【教える好機】に支援を実施したり,各教員を担当する【MYライブラリアン】を設定したりした。
著者
薬袋 秀樹
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
図書館学会年報 (ISSN:00409650)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.145-160, 1997-12-30

現在, 地方分権推進委員会は, 地方分権, 規制緩和の観点から, 地方自治体における様々な専門職員の必置規制の廃止や見直しを勧告している。国から補助金を受ける公立図書館には, 館長が司書資格を持つこと, 一定人数の司書及び司書補を配置することが義務づけられているが, この2点の廃止が勧告されている。本稿では, 必置規制の定義, 評価, 成立条件を明らがにし, 現在の司書の制度がその成立条件を満たしているかどうかを検討した。その結果, 次の4点が明らかになった。(1) 地方では司書の養成・資格取得の機会が不十分である。(2) 司書資格の学歴要件と取得方法が柔軟性に欠ける。(3) 司書の配置は小規模自治体にも義務づけられている。(4) 司書の力量の客観的評価は行われておらず, 教育内容が不明確である。これらをもとに, 司書資格の取得方法, 司書の力量の評価, 図書館学教育, 司書の人事管理等について,そのあり方を論じた。
著者
宮澤 彰 向當 麻衣子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.35-44, 2012-03-31

本研究は,国内の大学図書館を中心に多くの機関が参加するNACSIS-CATの日本人著者名・団体名の典拠レコード作成状況を調査し,国内の日本著者名典拠コントロールの実態を把握することを目的とする。1986年1月1日から2009年12月31日までに作成されたNACSIS-CAT著者名典拠レコード全件(1,517,926件)のうち,日本人著者名・団体名典拠レコードである425,360件を対象に分析を行った結果,1)対象レコードの作成を行う機関は微増傾向にある,2)作成について先行研究が指摘するほどの寡占傾向は見られない,3)各々の参加組織の作成量の変動は年によって激しいものの一部の組織はコンスタントなペースを維持している,4)作成数上位組織は固定していない,ことが明らかとなった。NACSIS-CATにおける日本人著者名・団体名典拠レコード作成は未だ安定的に保証されているとは言えない状況と見られる。
著者
匂坂 佳代子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.141-160, 2011-12-31
被引用文献数
1

ビッグ・ディール契約の課題を明らかにするために,日本の中小理工医学系国立大学における電子ジャーナルの需要と提供の実態として利用と契約状況の双方を調査し,それらの関連性を探った。協力の得られた9大学を対象とし,研究者に対するウェブを用いた質問紙調査及び,図書館に対する契約状況調査を行った。更に,2大学の図書館員にインタビュー調査を行った。研究者からは,250人(回答率7.7%)の回答を得た。研究者の電子ジャーナルの需要は高かった。一方,図書館は,ビッグ・ディール契約におけるパッケージを維持するために,研究者の需要があるいくつかの学会誌等が契約できない状況が確認された。研究者の需要と図書館からの提供にはずれが生じていたが,現状では図書館は,ビッグ・ディール特有の価格設定のために修正は難しいことも明らかになった。この要因により,研究者の私費購読や他大学の知人への依頼という利用実態があると考えられた。
著者
池内 淳
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.89-107, 2004-02-29

本研究では, 仮想評価法を用いて, 公共図書館サービスの経済価値を測定した。図書館利用者に対するアンケート調査において, 回答者は借覧, 及び, 来館に対する支払い意志額を尋ねられた。その結果, 図書館サービスに対する支払い意志額は100円や50円といったきりのよい金額に集中した。また, 四つの異なる手法によって便益額を集計しそれぞれの便益額を比較した。さらに, 館外貸出サービスについての費用便益分析を行ったところ, 資料費を正当化するに充分な便益が測定された。
著者
松戸 宏予
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.97-116, 2008-06-30

小・中学校の養護教諭,スクールカウンセラー,特別支援教育コーディネーターら学習の評価を担わない職員19名を対象に,学校図書館をどのように認識しているのか,またその認識の変化の要因を修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチで分析を試みた。結果として,評価を担わない職員は,利用する前は用がなかったらいかない場とみていたが,特別な教育的ニーズをもつ児童生徒の同行をきっかけに学校図書館を資料・情報の源,生徒が落ち着ける場,社会へつながる場へと捉えていく。この認識の変化は,評価を担わない職員が学校司書を資料の専門家,学校司書の生徒への自然なかかわりをもちながら生徒の成長を考えるという姿勢を認識したことによるものであった。これらの特性から,適切な資料提供,共感理解による児童生徒の自己肯定,児童生徒の社会性を育てる教育的な支援が,学校図書館の特別な支援として示唆された。
著者
利根川 樹美子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.101-123, 2010-06-30

本稿では,戦後日本の大学図書館における司書職法制化運動の経緯,および関係団体と行政機関の交渉の経過と内容を示し,運動の意義と限界,提案の実現を妨げた要因,焦点となった大学図書館司書の資格について考察した。その結果,司書職確立の観点に立つならば,当時の大学図書館において必要であった取り組みとして,少なくとも次の四つの事項が挙げられることを明らかにした。(1)大学図書館全体を対象とし,大学図書館司書の資格の内容,認定方法等を具体的に検討して,根本からの解決を図ること,(2)そのために,関係者の考え方において,大学設置主体別の立場から大学図書館全体の立場へ転換を図ること,(3)司書職法制化の提案における根本的な問題について検討し,解決を図ること,(4)以上の事項について取り組むために,団体組織による継続した運動を形成することである。
著者
三波 千穂美
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.128-138, 2001-03-31

歴史学分野の学協会誌における投稿規定の整備状況を,記載された項目に着目し,調査を行った。まず雑誌を発行している学協会を抽出し,その雑誌に掲載されている投稿規定を収集した。次にそこに記載されている項目を列挙し,分類および考察を行い,さらに科学技術分野における調査との比較を行った。その結果,以下の点が明らかとなった: (1)項目の内容には,科学技術分野における調査結果との大きな違いは見られない; (2) 項目の記載率は多様である; (3) いくつかの項目の記載率が,科学技術分野における調査結果とは非常に異なっていた。
著者
松本 直樹
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.241-252, 2008

ヤングアダルトサービスと障害者サービスに従事する公立図書館職員が用いる情報源について,調査・分析した。結果,職員の属性,サービス,県ごとに選択する情報源が異なることがわかった。具体的には,司書資格を持つ職員はそうでない職員と比べ多様な情報源を用い,担当年数が短い職員は人を介した情報源を用いていた。サービスとの関係では,メディア上に情報がなく,相互協力など協力関係の必要性が高いサービスほど,人を介した情報を用いる傾向が見られた。また,県内での研修機会の有無は,選択する情報源に大きな影響を与えることも分かった。
著者
大庭 一郎
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
図書館学会年報 (ISSN:00409650)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.111-127, 1998-12-30

「司書および司書補の職務内容」(以下,「職務内容」と略す)は, 1950年9月に, 文部省が文部事務次官通牒(文社施第370号)として通達した文書で, 図書館の専門的職員としての司書と司書補の職務内容を示している。本稿の目的は,「職務内容」の成立過程, 内容, 基本的性格を明らかにすることである。そのため,「職務内容」と関連文献の計39点を収集・分析し, 更に,「職務内容」の成立事情に詳しい3人の方にインタビューを行なった。その結果, 以下のことが明らかになった。1)「職務内容」の主な目的は, (1)新しく養成する司書と司書補の職務内容を明らかにし, 養成内容(教育教科)を明確化すること, (2)図書館に勤務する現職者に対する暫定資格付与の判断基準を提示することである。2)「職務内容」は, 図書館の専門的職員である司書と司書補の職務内容を明示したものである。3)「職務内容」に示された司書補の職務は, 米国の公共図書館における非専門的職務に対応している。4)「職務内容」は, 実質的には職務区分表である。5)司書補は, 専門的職員として位置づけられているが, 専門的職務と非専門的職務を担当するように考えられている。
著者
気谷 陽子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.103-121, 2007-06-20

「学術情報システム」の最終利用者による学術図書の需要を近似する要求タイトルにもとづいて,未所蔵/所蔵を従属変数,出版地・出版者・出版年・分野を独立変数とするロジスティック回帰分析を行ない,ここで求めた回帰係数を用いて「学術情報システム」の総体としての蔵書で未所蔵になりがちな図書群の性質を調べ,次の知見を得た。出版年では,1979年以前で未所蔵図書の発生の確率を高める効果がある。出版地では,日本<南・北アメリカ諸国・イギリス<欧州(イギリスを除く)<アジア・アフリカ・オセアニア諸国という順,出版者では,出版社<民間・学会<政府機関<大学という順,分野では,人文科学<理学<工学<社会科学<生命科学という順に,未所蔵図書の発生の確率を高める効果がある。なお,生命科学分野と工学分野では解説書,技法書の需要が多く,これらの資料タイプで未所蔵図書が発生していた。
著者
三浦 敬子 松井 幸子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.29-41, 2001-08-31
被引用文献数
1

典拠コントロールは, 目録データベースの構築と検索において, 著者名や件名の典拠形の維持管理と, 重複レコードや検索もれの防止などに必須の機能である。典拠コントロールを行うには, 典拠レコードを収録した典拠ファイルが必要であり, 著者名典拠ファイルについては, 国際的な共同作成が行われている。本稿では, 欧米における著者名典拠ファイルの共同作成の動向を調査し, NACO(Name Authority Cooperative)Program, the AAAF(Anglo-American Authority File)Project, およびProject AUTHORを紹介した。さらに, 典拠ファイルの国際的共有に向けた典拠フォーマットの標準化の動向について, 北米のMARC典拠フォーマットの開発と発展, およびIFLAの典拠関連の活動を紹介した。
著者
小山 憲司
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.61-73, 1999-07-30
被引用文献数
1

1920, 30年代のアメリカの大学図書館において, 実際にどのような利用教育が展開されていたのかを, 当時の調査研究と雑誌論文から考察した。その結果,まず1926年のALAの調査研究によって, 図書館利用教育の定義が明確化され, それには3つの類型が存在することが示された。また, 一般に講義と実習というラボラトリー・ワーク形式を基本とした利用教育が行われており, その際には, 図書館利用案内やテキストブック, 映画等のツールが利用されるようになったことも明らかとなった。このように, 大学図書館の利用教育は, 1920年代には主要な図書館サービスの1つとして見なされるようになっており, そこには, 今日の利用教育の原型と呼べるものを見出すことができた。その意味で, 1920, 30年代は, 図書館利用教育史において, 重要な時期であると考えられる。