著者
平本 毅
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.153-171, 2011-09-30 (Released:2013-11-19)
参考文献数
13
被引用文献数
1

本稿では, 他者の「私事 (独自の経験やそれにかんする見解や態度) 語り」に対して「わかる」と明示的に理解を表明するやり方の, 会話の中での組織化のされ方を会話分析により記述する.Harvey Sacksによる理解のとの区別を参照して論じながら, 以下2点の問題が提起される. (1) 語りに対する理解の表明の形式としては「弱い」であるはずの「わかる」が, 「私事語り」に対する理解の提示においてしばしば用いられるのはなぜか, (2) 「わかる」を含む発話連鎖により, 理解の提示を組織化することはいかにして可能になっているのか.分析の結果, まず「わかる」は, 多くの場合単独では発されず, それに理解のの試みが付加されることによりの「弱さ」が補われることがわかった. このとき, 理解のは相手の語りの中途/語りの終了後の2つの位置に置かれるが, の試みは, 語りの終了後にしか置かれない. 理解のに加えて, 語りの終了後の位置で理解のを試みることによって, 聞き手は, 「私の心はあなたと同じ」であることを語り手に示しており, それを語り手がるという発話連鎖を組織化することによって, 会話の中で理解が達成されることが論じられる. また, この「わかる」連鎖を利用した理解の提示は, 経験とそれへの見解や態度を語り手と聞き手が「分かち合う」かたちでのものであることが明らかになる.
著者
額賀 淑郎
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.132-147, 2016

<p>社会学の秩序問題は多様な対立を調整する社会メカニズムの研究である. これまで多くの理論研究によって複数の秩序概念が示されたが, その主な構成要素であるコンセンサスを分析した研究は少ない. そのため, 本稿は政治哲学者J. ロールズが提唱した重なり合う合意の分析に焦点を当てる. 「重なり合う合意」とは, 立憲民主社会において自由で平等な人格をもつ市民が, それぞれの多様な世界観から共通の基本原則を支持し, その結果, 社会において長期の正義が可能になるという理念である. 本稿の目標は, 1) ロールズの重なり合う合意を分析し理念型の重複合意モデルとして再構成すること, 2) 重複合意モデルの事例分析が可能になる条件を分析すること, である.</p><p>結果として, ロールズの重なり合う合意は, 狭い重なり合う合意と広い重なり合う合意に分類できること, その広い重複合意モデルは秩序問題の分析モデルとして利用できること, を示した. まず, 重なり合う合意は異なる抽象レベルの倫理判断の整合性という「反照的均衡」を前提とするが, その分類によって重なり合う合意を2分類した. 次に, 広い重複合意モデルには, 利益相反の回避, 機会均等の手続き, 集団構成の多様性, 共有価値の同一性, 背景理論・基本原則・データ間の整合性, 長期の安定性, という条件が必要であると考察できた.</p>
著者
藤間 公太
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.148-165, 2016
被引用文献数
1

<p>近年, 子どもの権利への関心が高まるなか, 社会的養護における支援の個別性の保障が課題となっている. とりわけ強調されるのが「施設の家庭化」である. 本稿の目的は, 児童自立支援施設での質的調査データにもとづき, 施設の家庭化論を検討するとともに, 今後に向けた示唆を得ることにある.</p><p>まず, 施設の家庭化を訴える議論と, それを批判した家族社会学研究を概観したうえで, 個別性を2つの位相に分節化する戦略を採用する(第2節). 次に, 対象と方法について説明し (第3節), 児童自立支援施設Zでの調査から得た知見を示す. 分析からは, 確かに施設における集団生活は個別性保障を妨げる部分があるものの, 集団生活だからこそ実現される個別性保障も存在することが明らかにされる (第4節, 第5節). 以上の結果を踏まえ, (1) 家庭でケアラーが直面する困難を隠蔽すること, (2) 子どもの格差是正を妨げること, (3) 少数の大人が少数の子どもをケアする以外の可能性をみえなくすることという3つの陥穽が施設の家庭化論にあることを示す. そのうえで, 職員充足によって家庭を超えるケアを実現する可能性があること, 家庭という理念を相対化して議論をすることが必要であることを論じる (第6節).</p>
著者
梅村 麦生
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.166-181, 2016

<p>A. シュッツは『社会的世界の意味構成』の中で, 社会的世界の最も根源的な層をなす「われわれ」関係は, 我と汝の「同時性」に基づき, この同時性の中で「われわれは共に年をとる」と述べた. 本稿はシュッツのこの同時性論を, その土台となっている内的時間論と, シュッツが具体的な社会関係の下で同時性が成立する事態として記述している例を踏まえて検討し, その問題点と可能性を追究する.</p><p>シュッツの同時性論には, 先行研究ですでに複数の問題点, 特に複数の二元論的な契機が指摘されている. 他方で, シュッツが用いた「間主観性は所与」であるといった考え方を受けて, そうした問題を不問にして社会関係の記述を始めた点に認識利得があるとする見解もある. しかし実際に, シュッツが不問にしたベルクソンやフッサールの概念に伴う問題をみていくと, 同時性に関する重要な問題が現われてくる. それは〈同時性〉が単なる瞬間性や現前性を超える場合に現れる〈時間性〉の問題である. 事実, シュッツは同時性を「共に年をとること」として扱っているにもかかわらず, 同時性に含まれる時間性の問題を主題化していない. 本稿では特に, シュッツが混同した2つの〈同時性〉の違いを指摘した上で, 「共に年をとること」を〈理念化された時間性〉の共有として捉える見解を導き出し, 上記の二元論的な契機への回答と, シュッツの同時性論を社会学的な時間論へ接続する可能性を提示する.</p>
著者
鈴木 広
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.414-430, 1990-03-31 (Released:2009-11-11)
参考文献数
50

清水幾太郎は, 「コントにおける三段階の法則について」を書いて、東京帝国大学を卒業し、五七年の後、再び『オーギュスト・コント』を書いて、社会学者を卒業した。二つのコント研究の間には、正反対ともいうべき、極端な対照がある。このような振幅の大きさは、清水の特有のパターンである。二つのコント像の間に、清水の大衆社会論と社会学説研究のすべてが横たわっているはずである。本稿では、 (一) 清水の人間形成過程における、想像を絶する特異性と、それに由来する、 (二) 彼の地方観、田舎意識の驚くべき未熟さとを手掛りとしてアプローチし、彼の社会学の実体をなしている、大衆社会論の特色、欠陥、限界を示唆する。そして、そのような大衆社会像が、図らずも、次第に日本においても現実のものとなり、彼のニヒリズムが現実化したため、そのような状況を克服すべく、逆に自分自身が、普遍的デモクラットから、日本的ナショナリストへと、転身せざるを得なかった、という秘密を解読する作業に迫りたい。
著者
南 博
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.9-16, 1950-11-30 (Released:2009-10-20)
参考文献数
6
著者
大和 礼子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.235-250, 2000-09-30 (Released:2010-04-23)
参考文献数
35

社会階層と社会的ネットワークとの関係については, 多くの研究が共通して, “階層が高い方がネットワークの構成は多様である” という知見を共通に報告している. 本稿ではまず先行研究の検討によって, この知見は社交・相談・軽い実際的援助などをネットワークとして測定した結果得られたものであることを示し, これを〈交際のネットワーク〉と呼ぶ. 次にこの交際のネットワークと, 自分の身体的ケアについてのネットワーク (〈ケアのネットワーク〉と呼ぶ) の両方を含んだ調査データを分析する. そしてその結果を基に, 交際のネットワークについては先行研究と同様, 男女ともに階層が高い方がその構成は多様であるが, ケアのネットワークについては, 男性と女性では階層の効果が異なることを示す. すなわちケアのネットワークは, 男性では, 階層が高い方が配偶者と子供に限定され多様性に乏しいが, 逆に女性では, 階層の高い方が家族に加えて専門機関を含める人が多く多様である.最後にこの結果に基づき, 社会的ネットワークは, 〈交際〉と〈ケア〉の両面からとらえられなければならないこと, そして〈公共領域と家内領域の分離〉という近代の支配的イデオロギーに適合するような形でネットワークを編成している人は, 階層の高い男性に最も多いことを論じる.
著者
星 敦士
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.120-135, 2000-06-30 (Released:2009-10-19)
参考文献数
14
被引用文献数
3 1

本稿の目的は, 階層帰属意識の判断基準と比較基準を明らかにすることである.まず, 階層帰属意識の判断に影響する要因として, 従来の研究が用いてきた自身の社会経済的地位とともに, 地位認知の判断基準となる他者の社会的地位, 他者と自身との間の地位関係を含めて, 帰属意識の判断パターンに関する分析枠組みを構成した.1985年のGSSデータを用いて計量的に検証した結果, 階層帰属意識の判断について従来用いられてきた個人の地位から帰属意識を説明するという分析枠組みの妥当性を確認するとともに, 準拠集団論的なアプローチが指摘してきた他者の地位の影響についても部分的にその妥当性を実証した.個人は自己の地位評定を行う際に, 自身の社会的地位 (職業威信, 世帯収入) と, ネットワークの社会的地位 (学歴) を社会全体という比較基準において判断基準とする.また, 規定要因としての効果の大きさを比較すると, ネットワークの社会的地位の効果は, 本人の職業威信, 世帯収入よりも大きく, 個人の階層帰属意識の判断において重要な判断基準であるという結果をえた.一方, 自身とネットワークの地位関係に関する要因は階層帰属意識の判断パターンとしてほとんど考慮されていない.また, どのようなネットワークをもつかという準拠対象の構造的要因 (社会的地位の分散, 親密度) は, 階層帰属意識の判断に対して影響を与えていないことが明らかになった.

1 0 0 0 OA お詫びと訂正

出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.E1-E1, 2015 (Released:2016-09-30)

本誌第 66 巻第 1 号(261 号)に掲載されました論文「仕事の価値の布置と長期的変化」(田靡裕祐・宮田尚子 著)に関して,筆者の責に起因しない形での誤植がございましたので,以下のように訂正させていただきます.63 頁 表 1(注): (誤)左に男性有識者,右に女性有識者 (正)左に男性有職者,右に女性有職者
著者
石島 健太郎
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.295-312, 2015 (Released:2016-09-30)
参考文献数
24

本稿は, 身体障害者の介助において, 利用者の決定に対して自身の存在が不可避にもってしまう影響を踏まえたうえで, 介助者がいかに介助の実践に臨んでいるのかを問う.介助者は手段にすぎないという主張に対し, 近年では利用者の決定に先だって介助者の存在がこれに影響していることが指摘され, そうした存在として介助者を記述することが提案されている. こうして従来の研究は利用者に対する介助者の実践を考察してきたのだが, 利用者の自己決定が介助者のあり方を理由として控えられてしまう状況に介助者が気づくのは別の介助者を通してであることを踏まえると, 介助者間の実践も検討される必要がある.そこで本稿では, 身体障害をもつALSの患者とその介助者を対象に, インタビュー調査を行った.その結果, 他の介助者を通じてある介助者が利用者の自己決定に影響していることが可視的になった場合, 介助者間の相互作用によって状況が改善され, 利用者が要望を出しやすい状況が達成されることもある一方, 介助者間の相互作用が抑制される場合もあることが発見された. また, そこでは利用者の自己決定の尊重という障害者の自立生活において重要な理念が逆機能的であることも明らかにされた.こうした介助者間の実践を描くことは, 従来の利用者に対する介助者の実践とは別の切り口から, 利用者の生が制限されないようにするための方法を考えるために参照されうる.
著者
宮本 みち子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.204-223, 2015 (Released:2016-09-30)
参考文献数
68

1990年代後半以後, それまで低迷していた若者研究が活発になり, その後2000年代の中盤あたりまで, 政府の若者政策の活発化を背景に, 学術研究とマスメディアのさまざまな言説のブームとなった. それらを区分してみると, ①フリーターなどの若者の実態把握を中心とする調査研究, ②国際比較の観点で, 先進工業国の若者の実態と施策を検討する研究, ③日本における労働を中心とする若者施策の検討, ④フリーターやニートやひきこもりなどから脱出するためのアドバイス本, ⑤フリーターやニートを巡る言説分析の5つに分かれる.2000年代の取り組みは, 研究者, 行政, 民間団体の密接な共同関係を抜きには発展しなかった. そのなかで, 若者の実態を分析し, 社会政策の課題として提示したことが研究者の役割であった. 社会学は, 無業者問題を社会的包摂の課題として位置づけ, 社会政策を構想できる. また, 若者問題を包括的に理解するという視点や方法論は社会学が得意とするところである. 社会学者は社会政策の視点をもち, 長期的な視野に立って若者への社会投資が必要であることを主張する必要がある.
著者
栗田 宣義
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.374-391,479, 1989-03-31 (Released:2010-02-19)
参考文献数
46
被引用文献数
1

一九六〇年代後半、日本の政治社会は、青年層に主導されたラディカルな抗議活動の高揚とそれに対する強力な社会統制の発動によって織りなされる激突政治の時代を迎えた。一九六八年から一九六九年にかけて、大学紛争は全国的に拡大し、その頂点に達する。このような激突政治の時代に青年期を過ごした世代は、反抗的な政治文化を学習する機会を与えられたのである。本稿は、この世代に焦点を合わせ、彼ら/彼女らの現在に至るまでの持続的な政治的社会化過程を解明する。「一九六〇年代後半激突政治の時代に政治的社会化を受けた者たちは、その後もラディカルな抗議活動に従事し続けているのだろうか?」「現在、社会運動勢力は、彼ら/彼女らのエネルギーに支えられているのだろうか?」これら二つの問いに答えるために、政治世代構成仮説、同時代的政治的体験による社会運動加入仮説、社会運動加入による抗議活動従事仮説、と命名された三つの仮説を提示する。これらの仮説は、本稿で提唱される世代政治的社会化の理論モデルに依拠しているのである。社会運動の水源地である抗議活動支持層を対象としたデータ解析の結果、仮説群は全て支持され、世代政治的社会化の理論モデルの妥当性が確認された。一九六八-六九年世代は、彼ら/彼女らの青年期に生じた大学紛争の激化という同時代的政治的体験の共有と、社会運動加入の両要因からなる世代政治的社会化のフィルターを通過することによって、激突政治志向に傾き、抗議活動に従事していることが明らかになったのである。
著者
小山 栄三
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.153-156, 1977-10-30 (Released:2009-10-19)
参考文献数
24