著者
松井 克浩
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.61-71, 2013-07-19 (Released:2014-08-31)
参考文献数
9
被引用文献数
5

2011年の東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故により,多くの住民が避難を余儀なくされた.新潟県でも,なお5,000人を超える人びとが避難生活を続けている.本稿では,福島県からの広域避難者とそれを迎え入れた新潟県内の団体・個人を対象としておこなってきた聞き取り調査をもとに,広域避難者の現状,避難者支援にみられる特徴,支援の課題について検討を試みた.その結果,①強制避難者(柏崎市)・自主避難者(新潟市)という「棲み分け」がみられ,避難者の属性の違いに対応した支援がなされていること,②支援に取り組む姿勢には一定の共通性(避難者との距離感)があり,その背後には災害経験の蓄積があったこと,③時間の経過とともに避難者が抱える困難は増しており,社会関係の分断が進む中で各個人・世帯が個別的な判断を迫られていること,などが分かった.その上で,ゆるやかなコミュニティの維持と避難者の共同性の回復に向けた支援が課題であることを指摘した.
著者
松井 克浩
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.19-29, 2016-12-26 (Released:2018-09-25)
参考文献数
15

本稿では,福島県の隣に位置する新潟県への原発避難の事例を対象として,長期・広域避難とコミュニティとのかかわりについて考察する.避難指示区域からの避難者に対して,間隔を置いて同じ人に数回行った聞き取りをもとに,避難生活の経過と将来の見通し,故郷/福島について,奪われたもの/失ったものの順に,現状とその変化などをたどった.その結果,表面的には生活の安定がうかがわれる一方で,避難者の迷いや不安はむしろ深まっていることが分かった.何が「難民」という言葉に象徴されるような避難者の苦悩をつくりだしているのだろうか. 若松英輔の議論をふまえると,避難者は「人生の次元」抜きの「生活の次元」を強いられているといえる.すなわち,時間の蓄積をふまえた未来への展望,被害の真の回復までに要する時間,「根っこ」のある生き方,住み慣れた生活空間での承認等々を失い,しかも失っていることさえ周囲から理解されずに日々の生活に追われている.避難者が再び地に足をつけて前に進んでいくためには,「生活の次元」の再建・維持に加えて,時間的・空間的・関係的な「人生の次元」の再生が不可欠である.避難者全体の不可視化と難民化がいっそう進むのか,それとも「人生の次元」の再生がはかられるのか,現在はその岐路にあるといえる.
著者
澤村 明 渡辺 登 松井 克浩 杉原 名穂子 北村 順生 加井 雪子 鷲見 英司 中東 雅樹 寺尾 仁 岩佐 明彦 伊藤 亮司 西出 優子
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究では、新潟県の中山間地域を中心に、条件不利地域での居住の継続に必要な要素のうちソーシャル・キャピタルに焦点を当ててフィールドワークを行なった。対象は十日町地域、村上市三面地域であり、他に前回の基盤研究費Cから継続して観察を続けている村上市高根地区、上越市桑取地区についても蓄積を行なった。十日町地域では2000年来3年ごとに開催されいている「越後妻有大地の芸術祭」のソーシャル・キャピタルへの影響を質問紙調査によって捉えた。その結果は2014年6月に刊行予定の『アートは地域を変えたか』で公表する(慶應義塾大学出版会)。
著者
松井 克浩
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、被災と復興の過程における近隣関係の再評価や外部の民間やNPOなどの多様な諸主体との連携が、被災地内の種々の社会関係に影響を与え、関係の対自化を促し、それを更新していく様を新潟県内での事例研究および質問紙調査によって具体的に明らかにした。そこに東日本大震災を含む災害被災地の復興、さらには中山間地の再生の新たな可能性の端緒を見出すことができた。
著者
伊藤 守 杉原 名穂子 松井 克浩 渡辺 登 北山 雅昭 北澤 裕 大石 裕 中村 潔
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本研究から、住民一人ひとりの主体的参加と民主的でオープンな討議を通じた巻町「住民投票」が偶発的な、突発的な「出来事」ではない、ということが明らかになった。巻町の行政が長年原発建設計画を積極的に受け止めて支持し、不安を抱えながら町民も一定の期待を抱いた背景に、60年代から70年代にかけて形成された巻町特有の社会経済的構造が存在した。「住民投票」という自己決定のプロセスが実現できた背景には、この社会経済的構造の漸進的な変容がある。第1に、公共投資依存の経済、ならびに外部資本導入による大規模開発型の経済そのものが行き詰まる一方で、町民の間に自らの地域の特徴を生かした内発的発展、維持可能な発展をめざす意識と実践が徐々にではあれ生まれてきた。第2に、80年以降に移住してきた社会層が区会や集落の枠組みと折り合いをつけながらも、これまでよりもより積極的で主体的に自己主張する層として巻町に根付いたことである。「自然」「伝統」「育児と福祉」「安全」をキーワードとした従来の関係を超え出る新たなネットワークと活動が生まれ、その活動を通じて上記の内発的発展、維持可能な発展をめざす経済的活動を支える広範な意識と態度が生まれたのである。こうしだ歴史的変容が、町民に旧来の意思決定システムに対する不満と批判の意識を抱かせ、自らの意思表明の場としての「住民投票」を可能にしたといえる。
著者
澤村 明 寺尾 仁 寺尾 仁 杉原 名穂子 鷲見 英司 松井 克浩 渡邉 登 伊藤 亮司 岩佐 明彦 福留 邦洋 中東 雅樹 西出 優子 北村 順生 澤村 明
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

新潟県の北部に位置する高根集落(村上市、2008年の合併までは朝日村)と、逆に西部に位置する桑取川流域(上越市)である。具体的な集落の分析を通じて、結束型、橋渡し型、連結型というソーシャル・キャピタルの基本概念や、コミュニティとアソシエーションという組織のありかたの基本概念を深化させる手がかりを提供した。