- 著者
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平本 毅
山内 裕
- 出版者
- 日本質的心理学会
- 雑誌
- 質的心理学研究 (ISSN:24357065)
- 巻号頁・発行日
- vol.16, no.1, pp.79-98, 2017 (Released:2020-07-10)
本稿ではサービスエンカウンターにおけるサービス提供者の「状況への気づき」がもつ社会規範性を例証するために,イタリアンレストランの注文場面において,注文品を選んだ客の様子に店員がどう「気づく」かを,会話分析により調べる。分析結果から,注文の伺いに際して店員が客の様子に「気づく」という事態が,秩序立った仕方で相互行為的に組織されていることが明らかになった。具体的には,注文品を選んだ客がいきなり店員に声をかけることは少なく,まずは,厨房を見る,辺りを見回す,姿勢を変化させる,荷物を探る,窓の外をみる,メニュー表をよける,おしぼりの袋をあける,携帯電話をいじる等々の「注文を決める活動からの離脱を示す要素」を配置していた。この「注文を決める活動からの離脱を示す要素の配置」が,店員の「気づき」を可能にする。ただし店員はいつもこれにすぐ「気づく」わけではない。「注文を決める活動からの離脱を示す要素の配置」が失敗した場合に,客が店員を「直接呼ぶ」手段がとられる。以上の結果は,サービスの提供場面において,顧客のニーズに「気づく」ことが,店員と客とが,社会規範を参照しながら相互行為的に達成しているものであることであることを示している。