著者
小森谷 浩志
出版者
日本経営診断学会
雑誌
日本経営診断学会全国大会予稿集 日本経営診断学会第53回全国大会
巻号頁・発行日
pp.1-4, 2020-09-27 (Released:2021-03-11)
参考文献数
10

資本主義は,現代的な企業経営手法と相まって,効率と生産性の向上に寄与したことは疑うべくもない。資本主義とは,単に利潤を得るシステムを表現する言葉であったはずが,問題は,いつの間にか最高の目的へと転化してしまったことではないだろうか。本論文は,地球上の多くの人が急き立てられるように,競争相手を打倒し,物欲を刺激し,生産して,消費するという人間観をベースとする経済学の教義とは異なる立ち位置をとる。仏教思想を援用し,経済価値を第一とする資本主義を問い直し地球と人間が持続可能性を加味した開発のあり方を検討した。仏教思想の中核「四法印」などから,無執着,知足,感謝,慈悲の4つエッセンスを抽出,経済成長は必ずしも人間らしい,健全な生き方につながらないことを明確にした。そして,経済価値一辺倒ではなく,多元的な価値が尊重される社会のあり方を考究した。
著者
小森谷 浩志
出版者
日本経営診断学会
雑誌
日本経営診断学会論集 (ISSN:18824544)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.69-75, 2011 (Released:2012-02-15)
参考文献数
13
被引用文献数
1

質の異なる変化が加速化し,社会・経済的状況の不確実性がますます増加している現在,企業にとってのよりどころとしての経営理念の重要性が,一層増しているように見受けられる。筆者は2005年から2009年にかけ,4社の経営理念に関する助言業務を行った。そのなかで特に主題となったのが,浸透に関することである。本稿では,経営理念の策定から浸透の取り組みにおいて何が要点になるのか検討した。結果,経営理念の策定,現場での実践,節目といったおのおの3段階での問いかけと振り返りによる,“再意味化”を組み込むことの重要性が確認できた。“再意味化”は問いかけと振り返りにより促進された。そして,“再意味化”することで,経営理念が磨かれ,エネルギーが吹き込まれた。経営理念自体が目的であるとともに,経営をより良くしていく有効な手段として生かされている状態になり,共有化に進み結果として浸透の道筋が見えた。
著者
小島 貢利 田村 隆善
出版者
日本経営診断学会
雑誌
日本経営診断学会論集 (ISSN:18824544)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.106-111, 2015 (Released:2016-09-15)
参考文献数
16

長期的な円高が進行し,日本の製造業は生産拠点の海外移転を加速させた。海外進出した企業は,為替変動のリスクが少なくなることを,利益面のメリットとして押し並べて主張している。一方,東日本大震災以降原子力発電が停止し,石油の輸入が増加したがために貿易収支が赤字に転換し,政権交代後に急激な円安が進行した。本研究では,一例として自動車メーカーを取り上げ,為替変動が輸出企業の利益率に与える影響を統計分析する。次に,経済性分析モデルを考え,為替レートや変動費の連動性が輸出企業の損益に与える影響を評価する。また,生産拠点のグローバル展開が必ずしも企業収益にとってメリットばかりではなく,むしろ円安のリスクを負い,増収のチャンスを失うことを数値例などで紹介する。
著者
西崎 信男
出版者
日本経営診断学会
雑誌
日本経営診断学会論集 (ISSN:18834930)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.23-28, 2015

2012年英プレミアリーグのManchester United(MANU)がニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場,そして新株発行による資金調達を行った(IPO)。安定性に欠け収益性にも問題があるサッカークラブが,投資家保護が徹底し世界で最も厳しいNYSEになぜ上場できたのか? そこには新規創業を促進し,雇用を産み出すために,証券発行市場,流通市場の規制を緩和して(Jobs Act),成長企業に米国資本市場を再開放するとの米国政府の強い決意があった。米国側には規制緩和のシンボルとして,MANU側にはオーナーの資金繰り問題,広告塔としての上場があった。サッカークラブのファイナンスと米国ベンチャー企業施策を論じる。単なるプロスポーツクラブの上場ではない。その背景に世界各国の資本を巡る取引所経由の戦いがある。
著者
福田 康典
出版者
日本経営診断学会
雑誌
日本経営診断学会論集 (ISSN:18824544)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.21-26, 2014 (Released:2015-06-10)
参考文献数
14

本研究の目的は,価値共創のモデル化におけるプラクティス概念の適用がどのような貢献を果たすのかという点を明らかにすることである。ここでは,価値共創のモデリングにおける研究課題として,価値共創行為の説明と価値共創の連結構造の説明という二つの課題を取り上げ,プラクティス概念の適用がこうした研究課題の解決にどのように寄与するかを考察している。考察の結果,プラクティス概念を用いることで,顧客の価値共創行為の発生や変容を,従来とは全く違った社会文化的な視点から説明できるようになることが明らかになった。また,プラクティスの束と複合体という概念を利用することで,価値共創の連結構造をつながりの密度ごとに識別できるようになる点が確認された。最後に,こうした考察結果のマーケティング診断に対するインプリケーションについて検討を行った。
著者
清水 恵一
出版者
日本経営診断学会
雑誌
日本経営診断学会論集 (ISSN:18834930)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.183-188, 2012

本論文のねらいは,提携の概念とパースペクティブについて考察を加え,統合化を試みることにある。具体的には,第1に,提携の定義や種類を明らかにしている。第2に,提携の動機としてのパースペクティブについて考察を行っている。ここでは特に,従来議論されてきたパースペクティブの類型化が中心となっている。第3に,パースペクティブに基づいた提携を行う利点や欠点について明らかにしている。本論文は,こうした作業を通じて,提携の全体像を再構築するとともに,今後の実証研究に向けた一助とする。
著者
石内 孔治
出版者
日本経営診断学会
雑誌
日本経営診断学会全国大会予稿集
巻号頁・発行日
vol.8, pp.128-131, 2008

本報告の第1の目的は,計上利益のうち,現金に裏打ちされた利益と現金に裏打ちされていない利益とを峻別することである。第2の目的は現金取引を擬制するのではなく,正真正銘の現金取引(キャッシュ・フロー)に基づき,これを損益取引からもたらされた現金預金と交換取引からもたらされた現金預金とに峻別し,後者の交換取引をさらに負債取引からもたらされた現金預金と資本取引からもたらされた現金預金とに分類することである。第3の目的は、発生主義利益とキャッシュの乖離を診断するための理論と技法を提示することである(以下、利益とキャッシュの乖離性診断という)。
著者
川村 悟
出版者
日本経営診断学会
雑誌
日本経営診断学会論集 (ISSN:18834930)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.37-43, 2013

中小企業診断士には,フリーランスとして活躍する「独立診断士」,企業に所属する「企業内診断士」という二つの属性がある。後者の企業内診断士は,所属企業の副業禁止規定によって,企業外において診断サービスを提供しても,有償で活動を行うことが難しい。したがって,無償の診断を余儀なくされ,サービス品質を向上しにくい問題が存在する。本報告では,診断報酬の有償化によって企業内診断士のサービス品質向上が実現できることを検証する。有償化が引き金となり,「企業内診断士のモチベーション向上」と「中小企業の要求品質向上」が相互に作用する好循環が生まれ,中小企業診断士の専門性発揮や中小企業の経営改善に貢献しうる可能性を示す。
著者
西崎 信男
出版者
日本経営診断学会
雑誌
日本経営診断学会全国大会予稿集
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.138-141, 2009

スポーツの商業化の進展に伴い、ファンの利益とクラブの利益の相反が起こる。それを解決する仕組みとして英国(サッカーとラグビー)で「サポータートラスト」が政府の後押しで発達してきている。トラスト(信託)という名の相互会社を作り、クラブ株式購入、取締役派遣等クラブ経営に積極的に関与するスキームである。地域・ファンのサポートがクラブの存続に不可欠な大多数のチームで有望な仕組みと言える。企業スポーツ中心であった日本のスポーツも、この不況の影響もありスポンサーが撤退する動きが見られる。ファンクラブ、持株会、サポータートラスト、相互会社等、プロスポーツクラブの企業統治におけるファンの経営参加について論じる。
著者
海老澤 栄一
出版者
日本経営診断学会
雑誌
日本経営診断学会年報 (ISSN:21851883)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.13-23, 1997-12-10 (Released:2010-06-04)
参考文献数
8
被引用文献数
1
著者
田川 元也 山本 勝 横山 淳一
出版者
日本経営診断学会
雑誌
日本経営診断学会全国大会予稿集
巻号頁・発行日
vol.10, pp.78-81, 2010

介護保険制度は,開始から10 年が経ち,日本の高齢者福祉を担う制度として定着してきているといえよう。しかし,民間企業やNPOなど多様な事業者によるサービス提供により成り立つとされた制度創設時の理念とは裏腹に,安定したサービスが継続して提供されているとは言いがたい状況にある。そこで,まず,サービス提供者の立場から現行制度の問題点の整理を行う。その上で,民間のサービス提供者が顧客ニーズを的確に把握し,利用者本位のサービスを提供しながら,なおかつ事業として採算性を保つために必要なマーケティング的視点についての提言を行う。
著者
髙村 清吾 高野 研一
出版者
日本経営診断学会
雑誌
日本経営診断学会論集 (ISSN:18834930)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.75-81, 2017

本研究は,過去の倒産企業に共通した組織風土を導き出すことを目的としている。このため,公開されたデータベースから,対象とする倒産企業76社を抽出し,企業倒産に至った根本原因(本源的な倒産原因)を突き止める「根本原因分析」を行うとともに,倒産原因の本源的な問題である経営者問題(倒産要因におけるハザード)を中心に,「数量化III類」を適用し,本質的な問題である経営者問題に関係する企業の組織風土について考察を行った。考察の結果,「傲岸不遜,士気低下,私利私欲」の経営者問題に係る「腐敗堕落」型の組織風土が倒産企業に共通する根本原因との結論に至った。
著者
田原 静
出版者
日本経営診断学会
雑誌
日本経営診断学会論集 (ISSN:18834930)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.48-54, 2017

電子書籍サービス等のデジタル・コンテンツ提供サービスでは,従来の有形グッズの所有とは異なり,利用者は所有対象に対する所有権を持たない。本研究では,これらのサービスが作り出す不安定な所有の状況に対する消費者の意識と反応,またサービスの一環として提供される,所有権を伴わない消費対象に対し所有意識を持つケースがあることを明らかとした。この結果は従来のデジタル・コンテンツおよびアクセス・ベース消費の研究を補完し,サービスの価値や利用者の満足度に関する経営診断に新たな知見を与える可能性を開く。
著者
矢野 耕也 鈴木 英之 竹中 理
出版者
日本経営診断学会
雑誌
日本経営診断学会論集 (ISSN:18834930)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.15-20, 2008

企業の与信を評価する際に,定性スコアリングシートを使用する場合がある。そのとき,定性的な評価に対して客観性を持たせることと,また与信を正しく評価可能とする尺度を与えることが課題であった。またスコアリングシートは評価項目が多いために,定量的な尺度で総合評価することが望ましいといえる。ここではスコアの配列を一種のパターンとして捉え,スコアから総合パターンの値を求める方法に品質工学のマハラノビスの距離を用いた。またパターンの規則性を可視化するために直交表の適用を図った。その結果,36項目の定性スコアを一元化した数値で求められ,また直交表から得られる要因効果図で,潜在構造を可視化することを達成した。
著者
加藤 里美 伊藤 直美 森 智哉
出版者
日本経営診断学会
雑誌
日本経営診断学会論集 (ISSN:18824544)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.74-80, 2016 (Released:2017-09-16)
参考文献数
8

経団連によれば,企業が新卒採用時に重視する要素はコミュニケーション能力である。このことは,企業は新卒者にコミュニケーション能力に長けた人材を求めているということを示している。企業はどの程度のコミュニケーション能力を新卒者に求めているのであろうか。また大学生はどのように自己評価しているのであろうか。本論文の目的は,企業が新卒者に求めるコミュニケーション能力と大学生が自己評価するコミュニケーション能力に関する認識にギャップがあるのかどうかを明らかにすることである。仮説検証の結果,大学生と企業には明らかなギャップがあることが示された。
著者
長谷川 路子 稲福 善男
出版者
日本経営診断学会
雑誌
日本経営診断学会論集 (ISSN:18824544)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.92-98, 2019 (Released:2020-09-05)
参考文献数
3

本稿では,地域の実態を検証するための方法,および,全国で展開されている地域づくりの調査・研究を横断的に一つの規矩で整理し直し,比較を通して,その共通性や特異性を浮き彫りにし,根元的な課題に迫るための思考形式などを試論した。論考は現実での妥当性を得て正鵠を射る。証左をある農村集落での適用に求めた。結果,同集落の状況はもとより,住民の多様な生活の側面,あるいは伝統と変化の許容という地域精神を立体的に描き出すことができた。また,その結果による同地への説明は住民にも改めて地域を見直すことができるとの反応を得た。さらに簡明な説明とフレーム図として準備を整え,各地域の検証例を確保し,所期の研究を進めていきたい。
著者
新井 信裕
出版者
日本経営診断学会
雑誌
日本経営診断学会論集 (ISSN:18834930)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.104-108, 2019

<p>日本に経営診断と云う用語が登場したのは,第二次世界大戦により荒廃した経済を復興するために,1948年に創設された「中小企業診断制度」においてであるとされる。その語源は当時の日本医学の主流であったドイツ医学のダイアグノーシス(診断)を充て,医師と患者との関係を,経営コンサルタントとその助言を得た企業との関係と見做したことによると説明されている。しかしながら狩猟・農耕・工業社会を経て,第4次文明社会に入り,ディスラプター(創造的破壊)に対応するためには,従来の経営診断を超えた高度の進化を目指す経営革新が求められているのであり,ここに従来のダイアグノーシスをコンサルティング・サイエンスへと進化させるよう提言することとする。</p>