著者
中谷 美穂
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.24-46, 2009

議会の機能に関する研究では,政策アウトプットにおける議会の影響を扱う研究が多く,議会のパフォーマンスを対象とし,かつ議会間の差を検討する研究が少ない。また議会の機能を説明する変数としては,議会の党派性や首長と議会の会派構成の違いなどが要因として用いられており,アクターの心理的変数,ならびにそれを集団的に捉えた政治文化的変数を用いる研究が少ない。そこで本稿では,地方分権が進展する中,議会にも政策立案機能が求められていることを背景とし,都道府県間の議員提案による政策条例数をパフォーマンス指標として取り上げ,その規定要因として議会内の立法型役割意識の程度,首長―議会間での是々非々意識といった政治文化変数を用い,他の要因も含めて分析を行った。その結果,2つの政治文化変数が政策条例を促進する要因として有意であることがわかり,また鳥取県の事例研究からも同様の結果を得ることができた。
著者
谷口 尚子
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.15-28, 2011

本稿は,2009年衆院選後に起きた政権交代の長期的背景を自民党の衰退,短期的背景を民主党の成長と捉え,その過程と特徴を記述するものである。前者に関しては,Merrill, Grofman, & Brunell (2008) によって挙げられた政治再編の4つの特徴,すなわち①政党制の変化,②有権者の政党支持構造の変化,③政党支持構造の地理的変化,④政党間競争の質的変化を追った。①②③いずれにおいても,自民党の優位性と支持構造の揺らぎは明らかであり,概ね,1980年代に安定期,90年代に動揺期,2000年代に変動期が観察された。民主党の成長に関しては,自民党と政策位置の変化を比較し,また党内の政策的分散の大きさを示した。政策的分散を「多様性」と積極的に解釈すれば,これが多様な有権者の票を獲得することに繋がった可能性も示された。
著者
竹中 治堅
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.5-19,212, 2008-02-28 (Released:2011-05-20)
参考文献数
55
被引用文献数
1

本稿は, 戦後日本政治における首相と参議院の関係を分析している。より具体的には, 首相は, 日本の国会制度における法案審議時間の制約と日本の議院内閣制における参議院の独自性を踏まえた上で, 内閣提出法案の成立を確実にするためにさまざまな方策を用いて, 法案審議以前の段階で予め法案に対する支持を参議院の多数派から獲得してきたことを明らかにしている。これまでの参議院研究では, 参議院の審議過程で法案の内容や成立が左右されることがないため, 参議院には限られた影響力しかないというカーボンコピー論が通説的地位を占めてきた。しかし, 本稿はその分析を通じて, 参議院の審議過程で法案の内容や成立が左右されることが少ないのは, 首相の法案成立に向けた事前の努力の結果に過ぎず, 参議院は法案審議以前の政治過程で広範な影響力を及ぼしていることを明らかにしている。
著者
庄司 香
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.93-103, 2012

近年,世界で急速に予備選挙の実施事例が増え,それに伴い予備選挙研究も活性化してきているが,予備選挙の定義には混乱がみられ,比較分析のための枠組の精緻化もまだ進んでいない。本稿では,まず,予備選挙の類型とこれまでの研究の論点を,民主化という尺度を軸に整理し,予備選挙導入と政党の強さの関係について,オーストラリアを題材に考える。さらに,「参加」という尺度から逸脱していく台湾の事例や,政党候補者指名という行為そのものの否定へと行き着いたカリフォルニアの事例を通じて,予備選挙がもつ指名制度の「開放」というインペラティヴについて考察する。最後に,ナイジェリアとアルゼンチンの事例をもとに,それぞれ,政党候補者指名制度の法制化や予備選挙実施の全党義務化が示唆する,予備選挙研究の新しい視角を提示する。
著者
上神 貴佳 佐藤 哲也
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.61-73, 2009

本研究の目的は,政党や政治家の政策的な立場を推定するために考案されてきた様々な方法論を概観し,その現状と発展の可能性について考察することである。政党や政治家の政策的な立場を推定する方法を大別すると,公約の内容分析とアンケー ト調査の二種類に分けることができる。アンケート調査とは異なり,内容分析には,政党や政治家の立場を明らかにすべき争点の選択が客観的であるという長所がある。しかし,この方法には分析コストの高さや結果の信頼性について改善の余地がある。そのための手段として,本研究はコンピュータによるコーディングの自動化を提案する。具体的には,政策の内容分析に必要であるコーディング作業について,「教師付き学習に基づく分類の自動化」を行う。実際に,2005年総選挙と2007年参院選における各党のマニフェストにこの方法を適用し,その有用性と可能性を示す。
著者
山崎 新 荒井 紀一郎
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.120-134, 2011 (Released:2017-07-03)
参考文献数
24

政治的洗練性は,政治的態度の形成や投票行動を説明する主要な要素として,これまでの政治意識・投票行動研究において様々に用いられてきた概念の1つである。これまでの研究の多くは,この概念を表す指標を調査データから作成するために,複数の質問項目を「まとめる」過程で各質問項目固有の情報が捨象された結果,政治的洗練性の程度の解釈が曖昧になる傾向があった。そこで本稿では,まず項目反応理論によって洗練性の測定に用いた質問項目の評価をより明示的に行った。次いで,洗練性が有権者の政治的態度の安定性に与える影響を検証した。分析の結果,投票義務感とイデオロギー位置については洗練性が高いほど態度は安定していたが,政治的有効性感覚については洗練性が高いほど態度が変化する傾向があることが明らかとなった。
著者
尾崎 和典
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.17-24,194, 2007-02-28 (Released:2009-01-27)
被引用文献数
1

郵政民営化法案否決による05年衆院選では,メディアによる「小泉劇場」報道が自民党圧勝の大きな要因となった。衆院解散直後までは,「小泉vs抵抗勢力」という,旧来型の対決構図だったが,法案反対議員全員に対抗馬を立てる「刺客」作戦によって情勢が一変した。これまでにない新たな政治ドラマが展開し,これをワイドショーなどが大々的に取り上げたからだ。世論調査の結果を見ても,「刺客」作戦を機に,小泉自民党への支持が増加したことがわかる。テレビを見る時間が長いほど,自民党支持が強くなる傾向も見られた。その一方で,メディアは「小泉劇場」と同時に進んだ自民党政治の構造変化も有権者に伝えた。そのことが改革への期待となり,小泉自民党の支持につながったといえる。
著者
富崎 隆
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.58-77,255, 2003-02-28 (Released:2009-01-22)
参考文献数
12

本稿は2001年イギリス総選挙の投票行動を,British Election Study 2001年調査の生データ資料を使用して分折した。その際,投票行動の一般モデルから予測できる要因をできる限り幅広く取り上げた。多変量解析の結果,以下の点が明らかになった。(1)社会的属性特に職業階級は以前程の規定力を有しない。(2)政党帰属意識の規定力はモデル上有意である。(3)首相•党首評価,最重要争点への対応評価は保守•労働•自民党への投票に,経済危機対応能力評価は2大政党への投票に,階級•強い政党帰属意識とは独立に連関関係を有し,経済業績投票,保守党の政策ポジション失敗•労働党の中道化戦略の成功の影響も概ね確認できる。戦後最低となった投票参加を規定する多変量解析では,年齢•選挙関心•投票義務感•投票経験頻度•政党帰属意識強度•党首評価度が影響を与えるモデルが選択され,労働党勝利の予想が選挙関心と投票率を低めた可能性が指摘できる。
著者
小平 修
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.69-89, 1988-03-25 (Released:2009-01-22)
著者
根本 俊男 堀田 敬介
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.136-147,226, 2005-02-28 (Released:2009-01-22)
参考文献数
9

一票の重みの格差に関する議論での新たな視点として格差の限界を客観的に提供し,考察を加えていきたい。例えば,現在の定数配分法と区割指針に沿った格差の限界は1.977倍と算出できる。格差拡大要因として指摘の多い各都道府県への一議席事前配分を廃すると2.032倍と逆に拡大し,この指摘は誤りといえる。定数配分法による要因を見るために,広く知られている人口比例配分法毎の限界値を算出したところ,最良でも1.750倍であった。また,現行法内で考えられる自由度を配分法に許してもやはり1.750倍が限界で,さらに法律の枠を超えた状況でさえ1.722倍未満は実現不可とわかった。これらより,格差の是正には,定数配分法の議論だけではなく,議席数の変更や県境を跨いだ選挙区設定への緩和など制度自体の改革が重要であることが数理的に明らかとなった。
著者
金 宗郁
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.158-168,216, 2006-02-28 (Released:2009-01-22)
参考文献数
15

本稿は,近年自治体において行っている改革政策を検討しながら,自治体の政策パフォーマンスに影響を与える要因を析出する。また,こうした自治体の政策パフォーマンスを地域住民は,いかに受け止めているのかを分析する。分析対象は,672市(2001年基準)であり,自治体の政策パフォーマンスとして行政サービスと各政策や制度を設定する。分析では,政策パフォーマンスの規定要因として各自治体の組織規範(政策執行規範•組織運営規範•公共参加規範)を設定し検証を行った。さらに,自治体に対する影響力について地域住民がいかに意識しているかを分析した結果,地域住民は,各市の政策パフォーマンスが自分の日常生活においてあまり,影響力がないと認識していることがわかった。ただ,住民参加政策が進んでいる市ほど,自治体が自分の生活を改善してくれると思う住民が多いことがわかった。
著者
上川 龍之進
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.54-68,195, 2007-02-28 (Released:2009-01-27)
参考文献数
11

本稿は,2005年総選挙以後の小泉政権において,政策決定過程がどのように変化したのかを論じる。第1に,小泉首相が政権発足直後に打ち出したものの,与党や省庁の反対にあって頓挫していた政策が,総選挙以降,小泉のリーダーシップによって次々と決められていったことを示す。第2に,2005年末以降,「官邸主導」による政策決定を可能にしてきた経済財政諮問会議の役割が変質し,自民党•官僚主導の政策決定が復活したという見解に対し,歳出•歳入一体改革の決定過程は依然として「首相主導」であったことを明らかにする。第3に,2006年の通常国会では重要法案が軒並み成立しなかった。これも,会期延長を求める与党の声を無視した「首相主導」の結果であると論証する。総選挙での大勝によって小泉の自民党内での影響力が飛躍的に高まった結果,政策決定過程が先述したように変化したというのが本稿の主張である。
著者
大山 礼子
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.158-168,287, 1997-02-28 (Released:2009-01-22)
参考文献数
22

Direct elections of the Presidency after the constitutional amendment of 1962 had the effects of not only developing bipolarisation between Left and Right, but also changing campaigning styles. Presidential candidates are being forced to mediatise their candidacy in a massive scale.As money becomes more important to the pursuit of election campaign, equality of opportunity declined. Since 1988, France has introduced a set of legal restrictions on campaign funds. Corporate contributions are banned by the 1995 legislation. In 1995 election, campaign expenditure is limited to 90 millions of francs (or 120 millions for the two candidates presenting the second round). Candidates must submit a statement of income and expenditure to the Consutitutional Council, which has a power to examine, correct or reject it.The influence of television has been increased from election to election. The governing body of broadcasting, Conseil supérieur de l'audiovisuel, acts as a watchdog during election time and ensures that all candidates have equal access to television and radio channels.